【R18】婚約破棄されたいから悪役令嬢になりたい

えるろって

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「さぁ、どうする? これだけの騒ぎを起こしたんだ。もう後には引けないだろう?」

 
王子の声は穏やかだが、そこに潜む圧力をひしひしと感じる。わたしは人垣に囲まれた狭い円の中心で、逃げ道を探すように視線を走らせる。でもそこには騎士団が立ちはだかっていて、すべての出口を遮断しているのがわかった。

 
「これじゃ、逃げられない……。婚約破棄を狙ったはずが、今じゃあたしのほうが罰せられる立場だよ」

 
追いつめられた心境で、わたしは自嘲気味に笑う。目の前の王子が手を伸ばしてきたら、もう逃げる術などないだろう。絶体絶命――それはもしかしたら婚約破棄以前に、投獄かあるいは死罪……大げさだが、そんな結果すらあり得る状況だ。

 
「もうダメだ……これで婚約破棄どころか、本当に捕まるかも。ああ、最悪……こんなはずじゃ……」

 
焦りと絶望感で頭がぐるぐるする。こんなに嫌われたくて行動してきたのに、結局この国の民衆や騎士団にはほとんど歓迎されて、しかも王子に捕まるという最悪の結末が目前に迫っている。

 
「シロエ」

 
王子がわたしの名を呼ぶ。その声は耳にやけに響く。彼は近くまで歩み寄り、一切の抵抗を許さないような気迫を漂わせている。それでも強引に掴んでくるわけではなく、あくまで静かに、ゆっくりと。

 
「こんな場所で話をするのは不本意だ。だけど、今は仕方ない。……もうこれ以上、国民の前で暴れる必要はないだろう?」

 
「そ、そういう問題じゃ……!」

 
「さぁ、僕と来い。詳しい話は城で聞こう」

 
そう言って手を差し出してくる王子。それを見て、周囲の騎士たちも微妙な表情を浮かべながら構えを解いていく。民衆は好奇心に満ちた歓声を上げていたが、なかには「シロエ様が逮捕されるのか!?」「でも王子殿下が優しく迎えに来たぞ……?」なんて呟きも聞こえる。みんなが状況を理解していない。もちろんわたしだって理解が追いついていない。

 
「……嫌だ。わたしは、城になんか行きたくない」

 
「じゃあどうする? ここで捕縛されるか? 今さら“帰りまーす”ってわけにもいかないだろう」

 
王子の言うとおり、選択肢はほぼない。逃げ場もないし、騎士団が許すはずもない。わたしは手のひらに汗がにじむのを感じながら、どうしようもなくなっていた。視線を落として拳を握るが、何一つ妙案が浮かばない。

 
「くそ……。わたしの大悪事計画、完全に失敗か。婚約破棄どころか、普通に罪を問われる可能性大。ああ、最悪……」

 
震える唇を噛んでいると、王子はその手でわたしの肩をそっと引き寄せる。公衆の面前だというのに、まるで恋人でも抱きしめるような仕草で。

 
「やめてよ、こんなの人前で……!」

 
「……早く落ち着いてくれ。恥をかくのは僕も同じだよ。けれど今は、これしか方法がないんだ」

 
わたしを腕の中に抱える王子。騎士団や民衆が見守る中、恥ずかしさと屈辱と恐怖が一気に襲ってくる。逃げたくても逃げられない。まるで身体が硬直しているようだ。

 
「ほら、シロエ。まずはここを離れよう。この場でどうこう言ったって解決しないし、人々も混乱するだけだ」

 
そう言い残して、王子は騎士団に合図を送る。瞬く間に周囲を囲んでいた騎士たちが道を開け、わたしと王子のための導線を作る。わたしは反論できず、そのまま王子に身体を支えられながら歩き始める。民衆の声援や囁きが背後でざわつくが、もう聞きたくない。

 
「……これで終わりなの? 嫌われることもできず、ただ捕まるだけ?」

 
頭の中で繰り返す疑問に、答えはない。わたしはどこか遠くを見つめるように目を伏せながら、王子の意のままに歩かされていく。逃げ道なんて存在しない――そう思い知らされるばかりだ。  
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