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再会の気まずさと大胆発言
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夜会も終盤に差しかかったころ、主催である王宮関係者が軽くスピーチを行い、ダンスタイムが始まった。貴族たちはそろってパートナーを探し、華麗なダンスで会場はますます熱気を帯びる。
その流れに乗り切れない者もいる。アリスは壁際でそっと息をついていた。フローレンスは早速ほかの令嬢友達と連れ立って、ダンスフロアの中心へ向かってしまったし、エリックも騎士としての任務であちこち巡回している。アリスはぽつんと取り残された形だ。
「……踊るのは、別に嫌いじゃないけど。眠そうに見えると、相手が困るかな」
そんなことをつぶやいていると、不意に視界の端にクライヴの姿が映った。クライヴもどうやらダンスを断っているらしく、一人でテーブル付近に立っている。彼の周りにはもう人だかりはない。
目が合いそうになると、クライヴは少しだけ視線をそらす。アリスは「ふむ」と思い、意を決したように彼のもとへ歩み寄った。
「クライヴさま。こんばんは、改めて」
「……ああ」
ぎこちなく挨拶を交わす二人。すでに婚約破棄を宣言した身と、破棄を受けた身だ。普通なら非常に気まずい場面だろう。しかしアリスは相変わらず淡々とした口調だ。
「忙しそうだったので、あまり話しかけないほうがいいかなって思ってました。……でも、ちょっと気になって」
「何を気にしたんだ?」
クライヴはやや険のある声で尋ねる。それでもアリスは臆する様子もなく首をかしげた。
「……眠れていますか?」
「は……?」
思わぬ質問にクライヴが面食らう。アリスはさらに続けた。
「なんだか、クライヴさま、ずっと落ち着かない顔をしてらしたので。ちゃんとお休みになられてるのかな、と」
「……なにを、そんなこと」
「わたし、寝るのは嫌いですけど、クライヴさまは……どうなんでしょう。最近はちゃんと休めてます?」
クライヴはその言葉に少し黙り込む。婚約破棄まで持ち込んだ背景には、公爵家の名誉や周囲の期待、そしてアリスのやる気のなさへの不安など、彼なりの悩みがあった。精神的に疲れていたのは事実。だが今それをアリスに指摘されると、なんだか妙な敗北感を覚える。
「……余計なお世話だ。君にそんなことを心配される筋合いはない」
「そうですか。それなら、よかったです。やっぱりクライヴさまはちゃんと眠れてますね」
「ん……?」
クライヴは彼女が何を言いたいのか掴めず、困惑の表情を浮かべる。アリスはほんの少しだけいたずらっぽく微笑んだ。
「わたし、別に寝不足でもなんでもないですけど……もしクライヴさまが眠れないときは言ってくださいね。お供しますよ?」
「お、おとも!?……どうして、そんなことを?」
「んー……と。クライヴさまのこと、わたし嫌いじゃないので。こう見えて」
さらりとした一言。だがクライヴには予想外だったようで、思わず目を見開いた。婚約を破棄すると言ってきたのは自分。それを受け入れたのはアリス。それなのに、彼女はまだ自分に悪感情を抱いていないという。
「嫌いじゃない……のに、なぜ婚約を……」
「ふぁ……クライヴさまがそうしたいなら、それでいいと思いました。わたしはイヤだと言っても仕方ないでしょう?」
「それは……まあ、そうかもしれないが……」
クライヴは言いづらそうに口ごもる。自分の理想の花嫁像や、公爵家のプレッシャー。どれもアリスが悪いわけではない。けれど彼女の“眠そう”な態度に苛立ってしまったのも事実だ。
「ただ、クライヴさま、わたしの顔を見るたび、なんだか苦しそうだったんです。だから婚約破棄されたら、少しは楽になるかな、って」
「……っ」
その言葉にクライヴは息をのむ。確かにアリスと過ごすとき、自分が理想を押し付けようとするあまり、どこか追い詰められていた気がする。それをアリスは察していたのかもしれない。
二人の静かな視線の応酬。周囲のダンスや華やかな笑い声が遠くに感じられる。アリスは最後に小さく微笑んでから、ぽつりと呟いた。
「ゆっくりお休みになられてくださいね、クライヴさま。……わたしは寝るのはあまり好きじゃないけど、寝たいときは寝たほうがいいと思います」
そう言い残すと、アリスはくるりと背を向けて歩き去った。クライヴはただ、その小さな後ろ姿を見送るしかできない。ダンスホールのきらびやかな装飾が、その姿を飲み込んでいく。
「……なんなんだ、あの子は……」
クライヴは手にしたグラスを見つめながら、自嘲するように笑う。婚約破棄を告げておいて、今さら揺らぐなんて都合が良すぎる。だが、アリスのあの瞳を思い出すと、心の奥で何かが引っかかるのだ。
アリスは言った。「嫌いじゃない」と。「少しは楽になると思った」と。どこまでもマイペースに見える彼女が、意外にもクライヴを気遣っていたことがわかり、彼の胸には妙に重い感情が宿る。
遠くでは、フローレンスがダンスパートナーを見つけて楽しんでいる。エリックは警戒態勢を解かず、アリスの姿を探している。そんな中、クライヴは一人、取り残されたように立ち尽くす。
「楽……になったはずなのにな」
名門公爵家の次男として、誇りと責任を背負っているクライヴ。だが彼が本当の意味で心から楽になる日など、果たしてくるのだろうか。アリスの存在は、ますます彼の胸中を複雑にしていくばかりだった。
その流れに乗り切れない者もいる。アリスは壁際でそっと息をついていた。フローレンスは早速ほかの令嬢友達と連れ立って、ダンスフロアの中心へ向かってしまったし、エリックも騎士としての任務であちこち巡回している。アリスはぽつんと取り残された形だ。
「……踊るのは、別に嫌いじゃないけど。眠そうに見えると、相手が困るかな」
そんなことをつぶやいていると、不意に視界の端にクライヴの姿が映った。クライヴもどうやらダンスを断っているらしく、一人でテーブル付近に立っている。彼の周りにはもう人だかりはない。
目が合いそうになると、クライヴは少しだけ視線をそらす。アリスは「ふむ」と思い、意を決したように彼のもとへ歩み寄った。
「クライヴさま。こんばんは、改めて」
「……ああ」
ぎこちなく挨拶を交わす二人。すでに婚約破棄を宣言した身と、破棄を受けた身だ。普通なら非常に気まずい場面だろう。しかしアリスは相変わらず淡々とした口調だ。
「忙しそうだったので、あまり話しかけないほうがいいかなって思ってました。……でも、ちょっと気になって」
「何を気にしたんだ?」
クライヴはやや険のある声で尋ねる。それでもアリスは臆する様子もなく首をかしげた。
「……眠れていますか?」
「は……?」
思わぬ質問にクライヴが面食らう。アリスはさらに続けた。
「なんだか、クライヴさま、ずっと落ち着かない顔をしてらしたので。ちゃんとお休みになられてるのかな、と」
「……なにを、そんなこと」
「わたし、寝るのは嫌いですけど、クライヴさまは……どうなんでしょう。最近はちゃんと休めてます?」
クライヴはその言葉に少し黙り込む。婚約破棄まで持ち込んだ背景には、公爵家の名誉や周囲の期待、そしてアリスのやる気のなさへの不安など、彼なりの悩みがあった。精神的に疲れていたのは事実。だが今それをアリスに指摘されると、なんだか妙な敗北感を覚える。
「……余計なお世話だ。君にそんなことを心配される筋合いはない」
「そうですか。それなら、よかったです。やっぱりクライヴさまはちゃんと眠れてますね」
「ん……?」
クライヴは彼女が何を言いたいのか掴めず、困惑の表情を浮かべる。アリスはほんの少しだけいたずらっぽく微笑んだ。
「わたし、別に寝不足でもなんでもないですけど……もしクライヴさまが眠れないときは言ってくださいね。お供しますよ?」
「お、おとも!?……どうして、そんなことを?」
「んー……と。クライヴさまのこと、わたし嫌いじゃないので。こう見えて」
さらりとした一言。だがクライヴには予想外だったようで、思わず目を見開いた。婚約を破棄すると言ってきたのは自分。それを受け入れたのはアリス。それなのに、彼女はまだ自分に悪感情を抱いていないという。
「嫌いじゃない……のに、なぜ婚約を……」
「ふぁ……クライヴさまがそうしたいなら、それでいいと思いました。わたしはイヤだと言っても仕方ないでしょう?」
「それは……まあ、そうかもしれないが……」
クライヴは言いづらそうに口ごもる。自分の理想の花嫁像や、公爵家のプレッシャー。どれもアリスが悪いわけではない。けれど彼女の“眠そう”な態度に苛立ってしまったのも事実だ。
「ただ、クライヴさま、わたしの顔を見るたび、なんだか苦しそうだったんです。だから婚約破棄されたら、少しは楽になるかな、って」
「……っ」
その言葉にクライヴは息をのむ。確かにアリスと過ごすとき、自分が理想を押し付けようとするあまり、どこか追い詰められていた気がする。それをアリスは察していたのかもしれない。
二人の静かな視線の応酬。周囲のダンスや華やかな笑い声が遠くに感じられる。アリスは最後に小さく微笑んでから、ぽつりと呟いた。
「ゆっくりお休みになられてくださいね、クライヴさま。……わたしは寝るのはあまり好きじゃないけど、寝たいときは寝たほうがいいと思います」
そう言い残すと、アリスはくるりと背を向けて歩き去った。クライヴはただ、その小さな後ろ姿を見送るしかできない。ダンスホールのきらびやかな装飾が、その姿を飲み込んでいく。
「……なんなんだ、あの子は……」
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遠くでは、フローレンスがダンスパートナーを見つけて楽しんでいる。エリックは警戒態勢を解かず、アリスの姿を探している。そんな中、クライヴは一人、取り残されたように立ち尽くす。
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