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クッキー大作戦
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フローレンスのアドバイスを受けてから数日。アリスは夜な夜な行動を起こすことに決めた。クッキー作りを実行するためだ。
だが、勝手に厨房を使うのはさすがに危険なので、侍女長のミレイや屋敷の料理人とも相談した。その結果、「深夜までは無理だが、夕食の後片付けが終わった遅い時間なら、使用を許可する」ということになった。
「ふぁ……。でも、わたしが本格的に動き出すのはみんなが寝静まってから、ですよね」
アリスがぼんやりとした声で呟くと、エリックが横で眉をひそめる。
「そんな深夜まで起きて何をするんだ? ……クッキー作りって聞いたが、本当にやるのか?」
「はい。フローレンスが『手作りお菓子でクライヴさまをドキッとさせよう』って提案してくれたんです」
エリックは苦い表情で腕を組む。お菓子を渡す相手がクライヴだと聞くと、やはり心中穏やかではない。しかし、アリスがやる気になっている以上、止めるわけにもいかない。
「……で、何で俺を呼んだんだ? 護衛とはいえ、深夜まで台所に付き合うのか?」
「うん、護衛もそうだけど、もしわたしが料理でミスして火事になったら困るし。エリックがいてくれたら安心かなって」
アリスはあっさりとした口調でそう言い、エリックの目をまっすぐ見る。無自覚だが、これだけ素直に頼られるとエリックとしては断りづらい。
「……わかったよ。危なっかしいし、寝落ちするかもしれないしな。仕方ない、付き合ってやる」
「寝落ち……わたし、寝るの嫌いなんですけど」
「そういう問題じゃない。まあいい、とにかく一人は危険だ。俺が付く」
そう言って、エリックは観念したようにため息をつく。アリスは「やった」と小さくガッツポーズをし、さっそく今夜にでも実行しようと計画を立て始めた。
---
そして夜。シャーベット家の廊下は、屋敷の主や使用人たちが眠りについた時間帯になると、明かりが限られ、ひっそりとしている。
アリスは眠たげな瞳のまま、意外にも軽快な足取りで厨房へ向かった。エリックは剣を腰に差すまではしないが、護衛として後ろをついていく。
「アリス、転ぶなよ。足元暗いから」
「はい、エリックこそ眠くないですか?」
「騎士見習いなんだぞ。夜の見回りくらい慣れてる。問題ない」
エリックが少し強がり気味に答えると、アリスは「そっか、頼もしいなあ」と微笑む。その笑顔が暗い廊下の中でもほんのりと輝いて見えるから、エリックはどきりとする。
(……俺はなんでこんなに意識してるんだ。アリスはただクッキーを作りたいだけ。相手がクライヴだというのに、俺は手伝ってる……複雑だな)
そんな心の声を飲み込みながら、エリックは厨房のドアを開ける。そこには事前にミレイが用意してくれた材料と道具が並んでいた。バター、砂糖、卵、小麦粉、チョコチップなど。
アリスは「わあ、意外と揃ってますね」と感心しつつ、エプロンを手に取り、さっと身につける。エリックもエプロン姿になり、実に珍しい光景だ。
「さて、アリス。レシピは?」
「えっと、フローレンスから聞いたメモがここに……。まず、バターを柔らかくして砂糖と混ぜるんでしたっけ。……って、ああ、もうこの時点で難しそう」
アリスは紙切れを読みながらバターの塊を触るが、まだ少し冷たくて硬い。エリックは手早く包丁で刻んでボウルに入れ、アリスに渡す。
「力がいるなら俺がやろうか?」
「大丈夫です。わたし、寝るのは嫌いだけど、料理なら頑張れるかもしれません」
「寝るのが嫌いと料理の関係はよくわからないが……まあいい、混ぜ続けると温まってくるはずだ」
二人は並んで作業を進める。アリスがバターと砂糖を混ぜる係、エリックが卵を割って別の容器でほぐしておく係。粉をこぼさないように注意しながら進めると、意外にもスムーズに生地がまとまり始めた。
「おお……思ったより簡単ですね。こんなにさくさく混ざるなんて」
「バターを細かく切ったのが功を奏したんだろう。ほら、次は卵を少しずつ入れて混ぜるって書いてある」
アリスはエリックのサポートを受けながら慎重に卵を加え、さらにふるった小麦粉を入れてこねる。思ったより手が疲れるが、アリスは「夜更かししてるし眠くない」などと言いながら集中力を発揮している。
「よし、だいぶ生地っぽくなりましたね……」
「粘り気がちょうどいい感じだ。フローレンスのメモ通りなら、このあと冷蔵庫で少し寝かせるんだろ?」
「はい、短時間でいいらしいです」
生地をラップに包み、冷蔵庫へ。待ち時間にアリスとエリックは水を飲んで一息つく。暗い厨房にオレンジ色のランタンを灯しているせいか、なんとも不思議な空間だ。
「にしても、深夜の厨房ってこういう雰囲気なんですね。誰もいないし、静かで……ちょっと楽しいです」
「俺は落ち着かないけどな。あんまり経験ないし」
エリックは戸惑いを隠せない様子だが、アリスが楽しそうなので何も言わない。やがて生地を再び取り出し、クッキーの形に整えていく作業に移る。
「型は……ハートとか、星とか、いろいろありますね。どうしようかな。クライヴさまに渡すんだから、ハートとかだとちょっと恥ずかしいかも……」
「でも、それが狙いなんだろ? フローレンスが言うには『あざとく』がテーマなんだから」
「そ、そうでした……。じゃあ、少しだけハート型も混ぜてみましょう。うう、けっこう勇気いるな……」
アリスは照れながらハート型をくり抜き、他にも花形や丸形を作る。形を整えるたびに、「これ本当に食べられるのかな」と不安にもなるが、エリックは「大丈夫、ちゃんと焼ければ食える」と笑って応援する。
「そういえばエリック、こういうお菓子作り、初めてじゃないんですか?」
「そうだな。子どものころ、遊びでクッキーもどきを作って失敗したことはあるが……本格的なのは初めてだ」
「そうか……わたしも初めて。なんだかちょっと楽しいですね、こういうの」
「……ああ」
アリスの無邪気な笑顔を見ていると、エリックの胸がほんの少しだけ苦しくなる。彼女は今、クライヴへの贈り物を作っているのに、その作業を共有している自分は何なんだろうと思ってしまう。
(俺はただの付き添いか。それでいいんだ。守ってやるのが役目だから)
エリックは自分に言い聞かせながら、アリスがくり抜いたクッキー生地をオーブン皿に並べていく。そして、温度を確認してからオーブンに投入。
「ふぁ……。あとは焼きあがるまで待つだけですね」
「そうだな。時間通りに出さないと焦げるぞ。気をつけろ」
エリックが腕時計(正確には懐中時計)をちらりと見て時間を計る。アリスは「眠いと勘違いされるかもだけど、わたしは寝ませんよ……」などと言いながら、オーブン前の椅子に座った。
「……10分から15分くらいですかね。けっこう短いですね」
「油断してるとあっという間だ。ほら、ぼんやりするなよ」
「はーい……」
アリスは頬杖をつきながら炎のゆらめきを見つめる。その瞳はいつも眠たげだが、今は少しワクワクした光が混じっているようだ。エリックはそんな彼女の横顔に目を奪われながら、「時間、ちゃんと見ろよ」と声をかける。
そして10分が経過。アリスはオーブンを開け、焼け具合を確認する。ほんのりきつね色のクッキーが姿を現し、甘いバターの香りがふわりと漂ってきた。
「わあ……いい匂い! なんとか焦がさずに済みました……すごい、クッキーってこうやってできるんですね」
「当たり前だろ。ほら、天板を取り出すから下がってろ」
エリックが布巾を使って慎重に天板を取り出す。まだ熱いクッキーが並んでいる様子は、素人にしては上出来に見える。アリスは思わず手を合わせて喜ぶ。
「わあ……ちゃんとハート型もきれいにできてる! あとは冷まして完成ですね」
「お前、結局ハート型をかなり入れたんじゃないか? だいぶ数が多いぞ」
「えっ、うそ……。あ、ほんとだ。丸や星よりハートが多いかも」
アリスは数を数えてみて苦笑いする。意識しすぎてかえって大量のハートを量産してしまったらしい。これをクライヴに全部渡すには、さすがに恥ずかしい。
「どうしよう……これ全部あげるの? やりすぎかな」
「そんなに数はいらないかもしれないな。ほどほどの量をラッピングして渡せばいいだろう。残りは……俺が食うよ。食えるなら」
「え……エリックが食べるんですか?」
「何か問題あるか? どうせ廃棄するのはもったいないし。俺なら別にいいだろ」
アリスは意外そうに目を瞬かせるが、すぐに「そうですよね。もったいないですし、エリックに食べてもらえるなら嬉しいです。……どうせ寝る前にお菓子は危険とか言われるかもだけど」と笑う。
「じゃあ、そうするか。冷めるまで待って、少しだけ味見して、あとは明日……いや今日か。朝になってからでも包装を考えよう」
アリスはこくりと頷き、並んだクッキーを眺める。甘い香りが広がり、夜の厨房がほんのりと温かく感じられる。
「はあ……眠るのは嫌いだけど、こういう夜更かしなら楽しいかもしれませんね。……エリック、ありがとうございます」
「別に、いいって。俺が勝手に付き合ったんだ」
「ふふ……」
二人はしばし黙ってクッキーの湯気を見つめる。アリスはクライヴに渡す未来を思い描き、エリックは自分が食べることになるハート型クッキーを見つめ、心中複雑な思いを抱いていた。
――やがてクッキーが冷め、試しに一枚ずつ口に運ぶ。サクサクとした食感に、ほどよい甘さ。初めてにしては上出来と言えるだろう。アリスは大満足で拍手をし、エリックも「案外イケるな」と素直に認める。
こうして“夜な夜なクッキー大作戦”はなんとか成功。あとはクライヴに渡すだけ。アリスの手作りクッキーを受け取った彼が、どんな反応を見せるのか――それが次なるステップの鍵になるだろう。
だが、勝手に厨房を使うのはさすがに危険なので、侍女長のミレイや屋敷の料理人とも相談した。その結果、「深夜までは無理だが、夕食の後片付けが終わった遅い時間なら、使用を許可する」ということになった。
「ふぁ……。でも、わたしが本格的に動き出すのはみんなが寝静まってから、ですよね」
アリスがぼんやりとした声で呟くと、エリックが横で眉をひそめる。
「そんな深夜まで起きて何をするんだ? ……クッキー作りって聞いたが、本当にやるのか?」
「はい。フローレンスが『手作りお菓子でクライヴさまをドキッとさせよう』って提案してくれたんです」
エリックは苦い表情で腕を組む。お菓子を渡す相手がクライヴだと聞くと、やはり心中穏やかではない。しかし、アリスがやる気になっている以上、止めるわけにもいかない。
「……で、何で俺を呼んだんだ? 護衛とはいえ、深夜まで台所に付き合うのか?」
「うん、護衛もそうだけど、もしわたしが料理でミスして火事になったら困るし。エリックがいてくれたら安心かなって」
アリスはあっさりとした口調でそう言い、エリックの目をまっすぐ見る。無自覚だが、これだけ素直に頼られるとエリックとしては断りづらい。
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「寝落ち……わたし、寝るの嫌いなんですけど」
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そう言って、エリックは観念したようにため息をつく。アリスは「やった」と小さくガッツポーズをし、さっそく今夜にでも実行しようと計画を立て始めた。
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アリスは眠たげな瞳のまま、意外にも軽快な足取りで厨房へ向かった。エリックは剣を腰に差すまではしないが、護衛として後ろをついていく。
「アリス、転ぶなよ。足元暗いから」
「はい、エリックこそ眠くないですか?」
「騎士見習いなんだぞ。夜の見回りくらい慣れてる。問題ない」
エリックが少し強がり気味に答えると、アリスは「そっか、頼もしいなあ」と微笑む。その笑顔が暗い廊下の中でもほんのりと輝いて見えるから、エリックはどきりとする。
(……俺はなんでこんなに意識してるんだ。アリスはただクッキーを作りたいだけ。相手がクライヴだというのに、俺は手伝ってる……複雑だな)
そんな心の声を飲み込みながら、エリックは厨房のドアを開ける。そこには事前にミレイが用意してくれた材料と道具が並んでいた。バター、砂糖、卵、小麦粉、チョコチップなど。
アリスは「わあ、意外と揃ってますね」と感心しつつ、エプロンを手に取り、さっと身につける。エリックもエプロン姿になり、実に珍しい光景だ。
「さて、アリス。レシピは?」
「えっと、フローレンスから聞いたメモがここに……。まず、バターを柔らかくして砂糖と混ぜるんでしたっけ。……って、ああ、もうこの時点で難しそう」
アリスは紙切れを読みながらバターの塊を触るが、まだ少し冷たくて硬い。エリックは手早く包丁で刻んでボウルに入れ、アリスに渡す。
「力がいるなら俺がやろうか?」
「大丈夫です。わたし、寝るのは嫌いだけど、料理なら頑張れるかもしれません」
「寝るのが嫌いと料理の関係はよくわからないが……まあいい、混ぜ続けると温まってくるはずだ」
二人は並んで作業を進める。アリスがバターと砂糖を混ぜる係、エリックが卵を割って別の容器でほぐしておく係。粉をこぼさないように注意しながら進めると、意外にもスムーズに生地がまとまり始めた。
「おお……思ったより簡単ですね。こんなにさくさく混ざるなんて」
「バターを細かく切ったのが功を奏したんだろう。ほら、次は卵を少しずつ入れて混ぜるって書いてある」
アリスはエリックのサポートを受けながら慎重に卵を加え、さらにふるった小麦粉を入れてこねる。思ったより手が疲れるが、アリスは「夜更かししてるし眠くない」などと言いながら集中力を発揮している。
「よし、だいぶ生地っぽくなりましたね……」
「粘り気がちょうどいい感じだ。フローレンスのメモ通りなら、このあと冷蔵庫で少し寝かせるんだろ?」
「はい、短時間でいいらしいです」
生地をラップに包み、冷蔵庫へ。待ち時間にアリスとエリックは水を飲んで一息つく。暗い厨房にオレンジ色のランタンを灯しているせいか、なんとも不思議な空間だ。
「にしても、深夜の厨房ってこういう雰囲気なんですね。誰もいないし、静かで……ちょっと楽しいです」
「俺は落ち着かないけどな。あんまり経験ないし」
エリックは戸惑いを隠せない様子だが、アリスが楽しそうなので何も言わない。やがて生地を再び取り出し、クッキーの形に整えていく作業に移る。
「型は……ハートとか、星とか、いろいろありますね。どうしようかな。クライヴさまに渡すんだから、ハートとかだとちょっと恥ずかしいかも……」
「でも、それが狙いなんだろ? フローレンスが言うには『あざとく』がテーマなんだから」
「そ、そうでした……。じゃあ、少しだけハート型も混ぜてみましょう。うう、けっこう勇気いるな……」
アリスは照れながらハート型をくり抜き、他にも花形や丸形を作る。形を整えるたびに、「これ本当に食べられるのかな」と不安にもなるが、エリックは「大丈夫、ちゃんと焼ければ食える」と笑って応援する。
「そういえばエリック、こういうお菓子作り、初めてじゃないんですか?」
「そうだな。子どものころ、遊びでクッキーもどきを作って失敗したことはあるが……本格的なのは初めてだ」
「そうか……わたしも初めて。なんだかちょっと楽しいですね、こういうの」
「……ああ」
アリスの無邪気な笑顔を見ていると、エリックの胸がほんの少しだけ苦しくなる。彼女は今、クライヴへの贈り物を作っているのに、その作業を共有している自分は何なんだろうと思ってしまう。
(俺はただの付き添いか。それでいいんだ。守ってやるのが役目だから)
エリックは自分に言い聞かせながら、アリスがくり抜いたクッキー生地をオーブン皿に並べていく。そして、温度を確認してからオーブンに投入。
「ふぁ……。あとは焼きあがるまで待つだけですね」
「そうだな。時間通りに出さないと焦げるぞ。気をつけろ」
エリックが腕時計(正確には懐中時計)をちらりと見て時間を計る。アリスは「眠いと勘違いされるかもだけど、わたしは寝ませんよ……」などと言いながら、オーブン前の椅子に座った。
「……10分から15分くらいですかね。けっこう短いですね」
「油断してるとあっという間だ。ほら、ぼんやりするなよ」
「はーい……」
アリスは頬杖をつきながら炎のゆらめきを見つめる。その瞳はいつも眠たげだが、今は少しワクワクした光が混じっているようだ。エリックはそんな彼女の横顔に目を奪われながら、「時間、ちゃんと見ろよ」と声をかける。
そして10分が経過。アリスはオーブンを開け、焼け具合を確認する。ほんのりきつね色のクッキーが姿を現し、甘いバターの香りがふわりと漂ってきた。
「わあ……いい匂い! なんとか焦がさずに済みました……すごい、クッキーってこうやってできるんですね」
「当たり前だろ。ほら、天板を取り出すから下がってろ」
エリックが布巾を使って慎重に天板を取り出す。まだ熱いクッキーが並んでいる様子は、素人にしては上出来に見える。アリスは思わず手を合わせて喜ぶ。
「わあ……ちゃんとハート型もきれいにできてる! あとは冷まして完成ですね」
「お前、結局ハート型をかなり入れたんじゃないか? だいぶ数が多いぞ」
「えっ、うそ……。あ、ほんとだ。丸や星よりハートが多いかも」
アリスは数を数えてみて苦笑いする。意識しすぎてかえって大量のハートを量産してしまったらしい。これをクライヴに全部渡すには、さすがに恥ずかしい。
「どうしよう……これ全部あげるの? やりすぎかな」
「そんなに数はいらないかもしれないな。ほどほどの量をラッピングして渡せばいいだろう。残りは……俺が食うよ。食えるなら」
「え……エリックが食べるんですか?」
「何か問題あるか? どうせ廃棄するのはもったいないし。俺なら別にいいだろ」
アリスは意外そうに目を瞬かせるが、すぐに「そうですよね。もったいないですし、エリックに食べてもらえるなら嬉しいです。……どうせ寝る前にお菓子は危険とか言われるかもだけど」と笑う。
「じゃあ、そうするか。冷めるまで待って、少しだけ味見して、あとは明日……いや今日か。朝になってからでも包装を考えよう」
アリスはこくりと頷き、並んだクッキーを眺める。甘い香りが広がり、夜の厨房がほんのりと温かく感じられる。
「はあ……眠るのは嫌いだけど、こういう夜更かしなら楽しいかもしれませんね。……エリック、ありがとうございます」
「別に、いいって。俺が勝手に付き合ったんだ」
「ふふ……」
二人はしばし黙ってクッキーの湯気を見つめる。アリスはクライヴに渡す未来を思い描き、エリックは自分が食べることになるハート型クッキーを見つめ、心中複雑な思いを抱いていた。
――やがてクッキーが冷め、試しに一枚ずつ口に運ぶ。サクサクとした食感に、ほどよい甘さ。初めてにしては上出来と言えるだろう。アリスは大満足で拍手をし、エリックも「案外イケるな」と素直に認める。
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