【完結】「婚約破棄ですか?分かりました」おしまい?

えるろって

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昼下がり。シャーベット家の客間では、アリスがふわりとしたティータイムを過ごしていた。程よい気温のせいか、いつもの“眠そう”な表情がさらにとろけて見える。  
そこへ派手な足音が聞こえたと思ったら、ドアが開き、フローレンス・ローベルが姿を現す。

「アリス、こんにちは! おじゃましまーす」

「フローレンス、いらっしゃい。ゆっくりしてってください」

アリスは手元のローズティーを置き、フローレンスを招き入れる。フローレンスは外の情報に通じているので、最近の噂話について何か知っていそうだ。

「ねえ、アリス。最近すごい噂になってるわよ。『クライヴさまとアリスが再婚約を進めてる』って」

「やっぱり、そんな話が出てるんですか……」

アリスは苦笑しつつ、フローレンスが椅子に腰を下ろすのを見守る。フローレンスは両手を広げて「そりゃもう、社交界はそれで持ちきり」と言わんばかりの様子だ。

「でも実際どうなの? 夜会のあと、手作りクッキーまで渡したんでしょう? クライヴさま、めちゃくちゃ嬉しそうにしてたって噂を聞いたわ」

「ええ、喜んでくれました。……でも、再婚約の話なんて、全然してませんよ。クライヴさまも『焦らない』って言ってるし、わたしもすぐに結婚とか考えられないし」

アリスは正直に答えるが、フローレンスは唇を尖らせて首をかしげる。

「そっか。……でも、クライヴさまはああ見えて、結構本気なんじゃない? アリスとあまり騒がれたくないからこそ、『時間をかけたい』って言ってるのかもしれないし」

「うーん、そうなんでしょうか。わたし、最近は夜にクッキー作りにハマってて、あんまり大きなこと考えられなくて」

「相変わらずマイペースねえ。……まあ、そこがアリスの魅力なんだけど」

フローレンスは苦笑しつつ、持参したカップをテーブルに置く。自分用に侍女が用意してくれた紅茶を注ぎながら、ウインク混じりに「あざと話」を続ける。

「でも、あなたがその調子だと、周りが放っておかないわ。ディーン子爵とかがまた動き出してるって、噂を聞いたの」

「ディーンさま……そういえば、以前わたしを断ったのに再び迫ってくるとか……。エリックも言ってました」

「そうそう。『再婚約なんて許せない』って息巻いてるらしいわよ。アリスが勝手にクライヴさまと復縁に向かってると決めつけてるんでしょうね」

フローレンスは肩をすくめる。ディーンは一度はアリスに玉砕されたが、諦めが悪い。むしろ、「そう簡単に引き下がるものか」と逆に燃えている可能性が高い。  
アリスはハアと大きなため息をつく。

「面倒ですね……。ディーンさま、わたしとの再婚約とか言い出しそう……」

「ほんとにね。ああいう積極的な人は怖いわよ。……そうだ、アリス、いっそ正式に『クライヴさまとの復縁は未定です』って公表しちゃえば? そしたら変な期待も牽制できるじゃない」

「えー、でもわたし自身も、クライヴさまとのことがどうなるかよくわからないし……。『未定』と言ったら、『じゃあ狙える!』ってさらに群がってきそうじゃないですか」

フローレンスは「うーん、それもそうね」と唸る。アリスの曖昧な立場こそが周囲の人を刺激しているわけだが、アリスが断固たる決意を示せないのも仕方ない。

「それに、わたしはまだ寝るのが嫌いだし……。結婚して寝起きを共にするとか、想像できないんですよね」

「またその話? ……まあ、そういうのは結婚してから徐々に慣れていくものよ。とにかくアリスはあんまり深く考えすぎないで、変なアプローチが来たらエリックに追い払ってもらえばいいわ。実際、それが一番確実かも」

「エリックかあ……。いつも迷惑かけちゃってるし、申し訳ないなあ」

アリスは苦笑する。フローレンスは「護衛騎士としては嬉しいお仕事よ」と笑うが、エリックの胸中はどうなのか、本人にしかわからない。  
ふと、フローレンスは何か思いついたように瞳を輝かせる。

「そういえば、近々大きめの舞踏会が王都で開かれるって知ってる? 今度は王宮主催で、貴族たちも多数招かれるとか。招待状はもう届いてるんじゃない?」

「えっ……わたし、まだ見てないかも。手紙の整理中で埋もれてる可能性がありますね」

「あはは、また山の中に混じってるのかも。そこにディーン子爵やクライヴさまも来るだろうし、アリスがどう動くかで再婚約の噂がさらに加速するかもしれないわよ」

「うう……また人前で注目されるんですか。わたし、寝るの嫌いだけど、人前でのパフォーマンスも苦手かも……」

アリスはげんなりした表情を浮かべるが、フローレンスは「そこを乗り切るのがあんたの強さよ」と励ます。  
結局、噂を完全に消し去る術はない。だからこそ、アリスは自分なりに動くしかない。クライヴとどうしたいのか、どこまでお互いの気持ちを確認するのか――ぼんやりしていられない時期が近づいている。

「ま、私は見守らせてもらうわ。面白い展開になるといいけど。……あざといテクニックならいつでも教えてあげるから、活用してね」

「ありがとう、フローレンス。あなたのアイデア、わたしにはちょっと高度すぎる気もしますけど」

アリスが苦笑いしながら礼を言うと、フローレンスは悪戯っぽくウインクしてカップの紅茶を飲み干す。

「それにしてもディーン子爵、どんな逆襲をしてくるのかしらね。強引にシャーベット家を訪ねてくる可能性もあるわよ」

「それは……困るなあ。断りきるのも大変だし」

「エリックが斬ってくれるわよ、きっと。あ、でも騎士見習いだからまだ斬るのはまずいか」

フローレンスは冗談めかして笑うが、実際、ディーン子爵が激昂して強行策に出る可能性は否定できない。アリスがついうっかり隙を見せたら、強引に“プロポーズ”を迫られることもあり得るだろう。

「うう……。わたし、クライヴさまとのことを考えるだけで精一杯なのに、どうして周りがこんなに大騒ぎになるんでしょう」

「人気者だから仕方ないわね、ロリ令嬢は得だわ」

「得……ですかね?」

アリスは腑に落ちないまま首をひねる。それが彼女の天然たる所以なのだが、ディーンやほかの求婚者からすれば、まさに「無防備な小動物」にしか見えないのかもしれない。

---

フローレンスが帰った後も、アリスは客間でぼんやりと今後のことを考え続けた。ディーンの動き、再婚約の噂、そして近々予定される王宮舞踏会。どれもアリスにとっては荷が重い。  
結局、確固たる方針は見いだせないまま、時間だけが過ぎていく。夜が来れば、またクッキー作りなどして夜更かしをするのか、それともたまには早めにベッドに入るのか。

(でも、わたし……寝るの嫌いだし。こういう不安で眠れないなら、いっそ起きてたほうがいいか)

そう結論づけるあたり、アリスらしさと言えるだろう。だが、その夜更かしの間に、ディーンが何か企んでいるとは誰も知らない。  
激しい嵐の予感が日増しに高まる中、アリスはまだマイペースな日常を送ろうとしていた。
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