【完結】「婚約破棄ですか?分かりました」おしまい?

えるろって

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数日後に迫る“公爵家訪問”に向けて、シャーベット家では細やかな準備が進んでいた。とはいえ、正式な儀式ではなく「気軽な見学」の体裁なので、大げさな車列や贈答品は不要だ。アリス自身も「ちょっと遊びに行く」程度の雰囲気で行けるよう、服装や侍女の人数を最小限に抑えたいと考えていた。

「お嬢様、こちらのドレスはどうでしょうか? 先日の舞踏会よりは落ち着いたデザインですが」

侍女がいくつかの候補を挙げ、アリスはペールブルーやクリーム色のふんわりしたドレスを見比べる。舞踏会ほど派手ではなく、それでいて貴族らしい品も保ちたいところ。

「そうですね……寝るの嫌いだからこそ、あんまり重たいドレスは避けたいんです。でもラフすぎても、公爵家への礼を失するかもしれないし……」

「では、このあたりのシンプルなドレスにレースを少し加えてみては? 軽くて動きやすいはずです」

アリスは「それがいいかも」と微笑み、色合いを吟味する。大好きな淡い色味を主体にすれば、自分らしさを保ちつつ公爵家に行けそうだ。  
その場に現れたエリックが、やや遠巻きにその様子を見ていた。アリスは気づき、「エリック、ちょっとだけ意見を聞いてもいいですか?」と呼びかける。

「え、俺? ドレスのことなんてわからんぞ」

「いいんです、男の人から見てどうなのか聞きたいんですよ」

アリスは照れ隠しに口を尖らせ、二つのドレスを手に取る。

「こっちのブルー系と、こっちのクリーム系、どっちがいいと思います?」

エリックは真面目な顔でドレスを見比べる。男の目線からすると大差ないようにも思えるが、微妙な色味やレースの配置が違うらしく、アリスはこだわっている。

「うーん……ブルーの方が、お前の髪の色に映える気がする。クリームは優しい雰囲気で可愛いかもしれんが、青が入ってるとお前の瞳も引き立つかな」

「なるほど……。でもクリーム色も捨てがたいんですよね。ああ、どうしよう。寝るのが嫌いだけどこれで悩んで眠れなくなりそう……」

アリスが大げさに嘆くと、エリックは苦笑しながら「好きに決めろよ」と答える。結局、アリスは侍女の意見も踏まえ、ブルー系を採用することにしたようだ。

「ふぁ……エリック、ありがとう。参考になりました。わたし、ブルーにしますね」

「おう……。それにしても、随分楽しそうだな。クライヴの屋敷へ行くのが待ち遠しいのか?」

エリックの問いに、アリスは頬を染めてうつむく。

「た、楽しそうに見えます? でも、確かにちょっとワクワクしてます。寝るの嫌いだし、外泊は……いや、外泊じゃないですね、ただの見学。わたし、公爵家ってどんな感じなのか全然知らないから」

「そりゃ大きい屋敷だろうけど、生活の中身までは分からないな。クライヴも“気軽に”って言うなら、案内くらいはしっかりしてくれるんじゃないか」

「はい……そう思うんです。わたし、クライヴさまに聞きたいことがいっぱいあって、彼が公爵家でどんなふうに暮らしているのか、寝るの嫌いな人をどう思うかとか……」

アリスは言葉が止まらなくなり、エリックは少し複雑そうに耳を傾ける。彼女がクライヴへの興味を募らせているのは明白だ。  
しかしエリックは、そういう“恋愛対象”として見ることに苦しさを感じながらも、いつものように護衛モードを貫く。

「アリス……俺は同行しなくていいのか?」

「え? エリックは来てくれますよね? 父様も心配してますし、わたしだってエリックがいないと落ち着かないし」

「……そっか。クライヴはどう思うかな。俺がいたら邪魔とか言われそうだ」

アリスはクスクス笑い、「そんなこと言わせませんよ」と断言する。寝るのが嫌いな彼女にとって、安心して起きていられる存在の一人がエリックなのだ。

「わたし、公爵家に行ってもエリックを連れて行きます。フローレンスも誘おうかな……いや、どうだろう。フローレンスは噂を広めちゃいそうで怖いし」

「まあ、フローレンスはおしゃべりだからな。クライヴにも考えがあるだろうし、まずはクライヴに相談してみたらいいんじゃないか?」

「そうします。何にしても、エリックが来てくれるなら心強いです。寝るの嫌いでも何かあったらすぐ行動できますし」

アリスは安堵の笑顔を見せる。エリックは微妙な気分を抱えながらも、「ああ、任せとけ」と短く返事をする。  
それから数分後、ドレスが正式に決まり、アリスは改めて公爵家訪問への準備を続ける。必要以上に荷物を持っていかないように注意しつつ、初めて見る公爵家の内部に思いを馳せる。

---

夕方ごろ、グラントが帰宅し、アリスから公爵家訪問の件を聞かされる。父としては多少の心配があるものの、クライヴが「気軽な訪問」と言っていることが決め手となり、許可を与えた。

「クライヴ殿も、ずいぶん変わったな……。以前はアリスの眠たげな様子に苛立っていたが、今や積極的に招いてくれるとは」

グラントは感慨深げに呟く。アリスは「そうですね……わたしも驚いてます」と頷き、顔をほんのり赤らめる。  
翌日、シャーベット家から公爵家への返事が届けられ、「三日後の午後」に訪問することが正式に決まる。クライヴは王宮での用事を調整し、ギルバート公爵嫡男もその日は時間を空けるらしい。

「ふぁ……いつものわたしだったら、こういう行事の前に夜更かししてしまうところだけど、今回は体力を温存しようかな。寝るのは嫌いだけど、本当に疲れちゃいますし」

アリスは自室で一人、そう呟きながら鏡の前に立つ。そこで自分の金髪ツインテールをほどき、ブラシで丁寧にとかす。舞踏会の翌日から考えると、彼女はかなり変化しているようにも思えた。

(寝るのが嫌い……でも、もしクライヴさまがわたしを受け入れてくれるなら、少しずつ寝ることも嫌じゃなくなるのかな……?)

そんなふうに夢想しながら、アリスはゆっくりとまぶたを閉じる。ディーンの騒動が一応落ち着き、クライヴとの距離を縮める準備が進み、エリックも変わらずそばで支えてくれる。今は嵐の前の静けさのようにも感じられるが、アリスはあえてそれを意識せず“自分のペース”を保ち続ける。  
次のステップは三日後。公爵家の屋敷で、どんな会話が待っているのか。眠たげロリ令嬢が、寝るのを嫌う理由を少しでも克服できるのか――周囲の期待も高まるなか、アリスはほんの少しだけわくわくしていた。
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