【完結】「婚約破棄ですか?分かりました」おしまい?

えるろって

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クライヴへ断りを入れたあと、アリスはフローレンスの助けも借りてエリックを探す。バラの催しも終わりに差し掛かり、人々が帰路に着き始めている。夜の王宮は徐々に明かりを落としつつある。  
やっとの思いでエリックを発見したのは、大広場からやや外れた警備ライン。彼は騎士仲間と軽く状況確認をしている最中だった。フローレンスが「エリック、アリスが呼んでるわ」と声をかけ、エリックもすぐに気づく。  
アリスの表情が涙の痕を残しているのを見て、エリックは一瞬硬い表情を作るが、仲間たちが空気を読んで離れてくれたため、二人きりの状況が生まれる。

「アリス……大丈夫か? 泣いてるように見える」

「ふぁ……ごめんなさい、これはクライヴさまと話した後で……。でもわたし……決めたんです」

息が詰まるほどの緊張感のなか、アリスは夜風を感じながらエリックの瞳を見つめる。

「あなたを選びました。クライヴさまを断って、わたしはエリックと一緒にいたいです。……寝るのが嫌いなわたしを、ずっと一緒に支えてくれたあなたと、未来を作りたい」

一気に想いを打ち明け、アリスは視線を落として頬を赤らめる。エリックの反応が怖い。彼はただ護衛としていたのかもしれないし、確かに好きと言われたが、今どう受け止めるか分からない。  
エリックは息を呑み、静かに言葉を継ぐ。

「そうか……本当に、俺を……。クライヴを捨てる決断をしてくれたのか」

「捨てるなんて酷い言い方しないでください……大切な方です。でも、わたしにはエリックがいない夜は考えられなかったんです。わたし、寝るのが嫌いな自分を理解してくれたあなたを失うのが怖かった」

アリスは震えながら言う。するとエリックは「すまない……」と低く呟き、アリスの両肩をそっと掴む。夜の闇を背景に、二人のシルエットが交差する。

「俺も……正直、信じられないくらい嬉しい。公爵家の次男なんかじゃなく、ただの騎士見習いである俺を選んでくれるなんて」

「ふぁ……あなたは騎士見習いじゃなくてもわたしの大切な人ですよ。いつも寝るのを嫌がるわたしの夜に付き合ってくれて……本当の意味で『一緒に起きてる』人だったから」

エリックは強く息を吸い、「ありがとう」と囁いて、アリスをそっと抱きしめる。アリスもその腕の中で、込み上げる感情を抑えきれず、肩を震わせる。夜の王宮で抱き合うのは危険かもしれないが、もう二人とも止められない。

「アリス……今後どうするか分からないが、俺は覚悟を決める。王宮での勤務が増えたとしても、政略結婚の話が来ても、お前が俺を必要とするなら拒む。お前の父上にもしっかり話をしてみよう」

「エリック……ありがとう。わたし、あなたとなら夜を乗り越えられます。いつか寝るのを克服しても、それでもあなたと一緒にいたいです」

二人はしばし静寂の中で抱き合う。夜風が吹き抜け、散りかけのバラの花びらが舞っているのが見える。ホールからは音楽がもう聞こえず、人の影もまばらだ。  
ようやく抱擁を解き、アリスは小さく笑みを浮かべる。「父様にはわたしからも話します。あなたを選んだこと、クライヴさまに断ってしまったこと。怒られるかもしれないけど、わたし……後悔しないと思います」

エリックは頷き、「俺も一緒に謝る」と言い、「俺はもう少し仕事があるから先に戻らないと。……終わったら、また連絡する」と付け加える。アリスは「うん……ここで待ってる」と答えたかったが、今夜の催しもそろそろ終わりだから帰路に着くことになるだろう。

「そっか……じゃあ、わたしはフローレンスと一緒に馬車で帰りますね。エリックはいつ戻るんですか?」

「警護が完了したら夜明け前には戻れると思う。無理して待たなくていい。寝ろよ。寝るのが嫌いだろうが、今夜はしっかり休んでくれ」

微妙に照れくさいやり取りが続くが、アリスは「わかった、ありがとう」と素直に頷く。夜に大きな決断を下した後だからこそ、今夜だけはぐっすり眠れるかもしれない。

「じゃあ……お疲れ様です、エリック。また……」

「またな、アリス」

最後に二人は軽く笑い合い、別の方向へ歩き出す。それぞれの役目がまだ残っているから、ここで甘い時間を延々と楽しむわけにはいかない。寝るのが嫌いなアリスも、今日はさすがに限界だろう。  
こうして、エリックとアリスは恋人同士のような関係へ突き進んだ。まだ家の認可や社交界の反応など、課題は山積みだが、とりあえず二人の気持ちは結ばれた形になる。クライヴへの断りは済ませ、エリックを選んだ――大きな一歩だ。

(わたし、エリックを選んだ……本当にいいんだよね。クライヴさま、ごめんなさい。でも、この決断を後悔しない。寝るのが嫌いなわたしを、心の底で理解してくれるのは……やっぱりエリックだから)

アリスは心でそう繰り返し、フローレンスの待つ場所へ急ぐ。遠くで最後の音楽が鳴り止み、人々が解散する足音が響く。王宮の夜は深まり、バラ園のライトも消えていく。アリスの恋はこれから新たな局面を迎えるのだ。
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