【完結】「婚約破棄ですか?分かりました」おしまい?

えるろって

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 そして、待ちに待った“夜の婚約式”当日がやってきた。シャーベット家の大広間はバラの装飾とキャンドルの灯りで満ち、美しい衣装を纏った招待客が次々と到着している。寝るのが嫌いなアリスにとっては“自分らしい夜”を最大限に活かした舞台だ。

「ふぁ……わたし、こんなに大勢の前で婚約を発表するなんて夢みたい。クライヴとの夜会では緊張したけど、今回はエリックだから大丈夫……」

アリスは深呼吸を繰り返しながら、控え室で侍女に身支度を手伝ってもらう。薄いブルーのドレスには金と銀の繊細なレースがあしらわれ、昼間の華やかさと夜の神秘を両立するデザイン。フローレンスや使用人が総力を挙げて仕上げた逸品だ。  
そこへエリックが姿を見せ、扉の外から「アリス、準備はいいか?」と声をかける。侍女が「少々お待ちを」と応対し、中へ案内する形となる。アリスはエリックの姿に目を奪われる。騎士としての正装に、シャーベット家から貸し出された装飾が加わり、威厳と品を感じさせる。

「ふぁ……エリック、すごく似合ってますね。いつもより……王子様みたい」

「やめてくれ、そんな大げさな。お前こそ綺麗だよ、ブルーがほんと似合ってる……」

二人は見つめ合い、控え室の空気が甘くなる。侍女が「主役のお二人、そろそろ大広間へ」と促し、慌てて支度を整える。これまで寝るのが嫌いな彼女が夜の舞台を何度も踏んだが、今回は初めて「自分の夜会」らしい。気合いが入る。

---

大広間の扉が開く。招待客が見守る中、アリスとエリックは腕を組んで入場する。夜会仕様の照明がバラの花々を照らし、二人の衣装が優雅に映える。会場に一斉に注目が集まり、ささやかな拍手と囁き声が広がる。  
フローレンスが司会を務め、「皆さま、お集まりいただきありがとうございます。本日は、シャーベット家のアリス嬢と、ハリス家のエリック様の婚約式を祝い、夜をともに過ごしたいと思います」と流暢に宣言する。  
アリスは胸の鼓動が高まりつつ、微笑みを浮かべて会場を見回す。ハリス夫人や騎士仲間、シャーベット家関係者、フローレンスや友人たちが祝福の視線を送ってくれている。中にはクライヴの姿もあった――彼がわずかに遠巻きで笑みを向けているのに気づき、アリスは胸が痛むが、微かに会釈して応える。

「ふぁ……あなたも来てくれたんですね、クライヴさま……」

心中でそう呟き、エリックに目をやると、彼もクライヴに気づいて軽く礼をしている。過去のいきさつを考えれば気まずさもあるが、今夜は二人の門出を静かに認めるという姿勢のようだ。

---

フローレンスが合図を送り、中央に設置されたテーブルへ二人が進む。そこには大きなクッキーの塊が置かれ、“夜空と二人”というモチーフがアイシングされている。まさにアリスとエリックが作り上げてきた世界を象徴する一品だ。  
フローレンスが音楽を合わせて紹介する。「これはアリス嬢が夜に焼いてきたクッキー文化を集大成したもの! 寝るのが嫌いな夜をエリック様とともに過ごす姿をイメージしているそうです!」と声を張り上げると、会場が「おお……」と湧き立つ。  
アリスは恥ずかしくて「ふぁ……」と小さな声を漏らすが、エリックが「誇っていい」と言うので、勇気を振り絞ってクッキーに手を添える。

「ここでわたし、改めて皆さんにお伝えします。わたしはエリック・ハリスン様との婚約を決めました。幼少期のトラウマで夜が怖かったわたしを、ずっと守ってくれた人です。……寝るのが嫌いでも、もう怖くありません。これから一緒に昼も夜も歩みたいと思います」

拍手が起こり、一部の貴族が目を見開いて驚く姿もあるが、全体としては好意的な空気だ。クライヴが遠くで微笑んで拍手をしているのに気づき、アリスは少し涙ぐむ。ディーンの姿はない。  
続いてエリックが言葉を発する。「俺は騎士見習いとして未熟ですが、アリス・シャーベット嬢を生涯かけて護り、彼女の眠りも夜も昼も守っていく所存です。……伯爵家の皆様、どうかよろしくお願いします」

再び温かな拍手が広がり、アリスはエリックの腕を軽く抱く。寝るのが嫌いなロリ令嬢が、騎士とともに夜を越える――その物語を支える人々がここに集っているのを感じて胸がいっぱいになる。  
フローレンスが「さあ、夜会はこれからです。二人のダンスやクッキーの振る舞いなど、思う存分楽しんでいってください!」と宣言し、ささやかな音楽が流れ始める。アリスとエリックは笑みを交わし、先頭で軽やかなステップを踏む。かつて夜のダンスで不安定だった二人も、今は堂々と姿を見せられる。

---

ダンスが終わると、バラの香りが漂う中でクッキーや飲み物が配られる。アリスは各テーブルを回り、祝辞を受けたり、質問に答えたりしながら、夜会の主役として忙しく動く。寝るのが嫌いとはいえ、今日だけは夜を満喫できている不思議さを感じる。  
何人かが「公爵家とのご縁は?」「護衛騎士との婚約なんて珍しい」と鋭い質問を投げかけるが、アリスは笑顔で「わたしはエリックと夜をともにしてきたので、これが自然な結論です」と返し、意外とすんなり理解される。過去のクライヴやディーンとの騒動が意外にドラマチックに語られ、同情票もあるらしい。

(ふぁ……こんなに夜会がスムーズにいくなんて、今までで初めてかも。クライヴさまに悪いけど、やっぱりわたし、エリックが好きだな)

アリスは心の中でつぶやきつつ、エリックが遠くで騎士仲間や貴族たちに挨拶しているのを見て微笑む。寝るのが嫌いな夜が幸福な時間に変わる――その象徴として、この婚約夜会は大成功を収めそうだ。  
そうして夜が更けていく。アリスは披露されたクッキーを味わいながら、エリックとともに踊り、何度も祝福の言葉を受ける。いつか自分が堂々と“伯爵家の娘として護衛騎士を婚約者に選ぶ”なんて言える日が来るとは想像もしなかった。  
寝るのが嫌いな設定が生み出した夜会は、ここに完結する――眠らずに夜を楽しめたアリスは、エリックとの未来に向けてさらなる安らぎを手に入れるだろう。クライヴもディーンもいない、静かで温かい夜が二人を包む。  
アリスは夜会の最後に、ふと月明かりを見上げ、「これからわたしは昼も夜も怖くない」と心で呟く。エリックは隣にいて、その手を握ってくれる。寝るのが嫌いな少女が、夜の祝福を受けて新しい朝へ進んでいく――これが二人の物語の、ひとまずの結末だった。
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