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昼の挙式が終わり、アリスとエリックは一度シャーベット家へ戻って軽く仮眠を取ることにした。寝るのが嫌いな彼女も、さすがに朝早くから動き回って疲労がたまり、エリックが「横になれ」と言うと素直に従う。二人は別々の部屋だが、同じ時間帯に休息できるのはもはや日常の一コマだ。
「ふぁ……あなたが隣にいると寝るのも嫌じゃないなあ、なんて思ってしまいます。結婚したら一緒に暮らすんですよね」
「そうだな……まさか“寝るのが嫌い”なお前が自分から眠ろうとするようになるとは、想像もできなかった」
小さな笑みを交わし、夕方まで小一時間の仮眠を取って体力を回復。夜の披露宴こそ二人の本番――バラとクッキーをテーマにした華やかなパーティーが待ち受けている。
時間になり、アリスは夜のドレスに着替える。昼用とは打って変わってダークブルーを基調に月や星のレースをあしらったゴージャスな装い。エリックもタキシード風の夜仕様スタイルにチェンジし、婚約式のときとは異なる落ち着いた雰囲気を醸し出す。寝るのが嫌いな彼女に合わせて、キャンドルと月光を意識したカップルコーデだ。
シャーベット家の大広間に集まった来客は昼よりも多く、王宮騎士団関係者や貴族仲間が続々と到着する。夜にこそ力を発揮するアリスにとっては本領発揮の時間帯だ。
会場にはバラの花びらが敷き詰められ、クッキーやキャンドルがメインテーブルを飾る。この夜披露宴はあくまで“続き”という位置づけだが、むしろ昼の挙式を見届けられなかった人々がこぞって参加し、実際はこちらが盛り上がっている。
「ふぁ……やっぱり夜っていいですね。昼の緊張が嘘みたいに気が楽です」
アリスはエリックと腕を組んで入場し、笑顔でゲストを迎える。昼間のウェディングドレスとは違うダークブルーの装いが「おお……夜の花嫁か!」と評判で、会場がどよめく。騎士団仲間も「エリック、やるな!」などと茶化しながら祝福してくれる。
「昼はあんなに白いドレスだったのに、夜はこんなに雰囲気変わるんだな。……お前、本当に綺麗だ」
エリックが小声で囁き、アリスは頬を染めて「ありがとう……あなたも素敵です」と返す。周囲の人たちはシャンパン片手に「二部式なんて初めて見た」「寝るのが嫌いな令嬢らしい発想だ」と好意的に盛り上がっている。
中央のテーブルにはアリスが夜に焼いてきた特製クッキーアートが鎮座し、“昼と夜、二人の姿”を描いたアイシングが美しい。フローレンスが司会を務め、「これこそアリス嬢が長年育んできた『夜クッキー文化』の頂点です!」と紹介し、場内から拍手が起こる。
「ふぁ……クッキーまで主役扱いされると、ちょっと恥ずかしいですね」
「何を言う、これが俺たちの始まりだったじゃないか。誇っていいさ」
エリックがそう言って肩を叩き、アリスは照れながら微笑む。寝るのが嫌いな日々の中で培ったクッキー作りが、最終的に結婚披露宴の華となるとは想像もしなかった。
夜も更けてきた頃、会場に一人の客が静かに入ってくる。公爵家の次男、クライヴだ。アリスが見つけるやや頬を強張らせるが、クライヴはにこやかに会釈して拍手を送るだけ。エリックもそれに気づき、少しだけ身構えるが、クライヴは騒ぎを起こす気配などなく、むしろ端のテーブルで静かに見守ってくれている。
「……来てくれたんだ。クライヴさま……」
アリスはエリックに視線で伝えると、エリックは「無理に話さなくていいんじゃないか? 向こうもただ見届けたいだけだろう」と肩をすくめる。アリスは悩んだ末、後で一言だけ挨拶に行く決意をする。
披露宴が最高潮に達した頃、再び二人はダンスフロアへ進む。昼の挙式でも踊ったが、夜はアリスの得意分野ということもあり、キャンドルの照明がロマンチックに二人を照らす。周囲のカップルたちもダンスを始めるが、主役であるアリスとエリックには特別な視線が注がれる。
音楽が穏やかに流れ、二人は夜会婚約の頃を思い出すように視線を絡め合い、ステップを踏む。アリスの心には安堵が満ちていた。昼の式を立派にこなし、今は大好きなエリックと夜を味わっている――まさに自分の望んだ世界だ。
「ふぁ……最高です。昼も夜も……あなたと一緒にいるなら怖くない」
「俺もだ。お前が寝るのを嫌いでも、一緒に朝を迎える幸せを知った今、昼も夜も愛せる気がする」
ぎこちないステップだが、二人には十分すぎるほどの幸せだ。周囲が拍手や声援を送る中、フローレンスが「これにて披露宴はクライマックス!」と盛り上げる。音楽が盛大にクレッシェンドして大広間を満たし、二人は最後のターンで抱擁する形になり、大歓声が巻き起こる。
アリスは恥ずかしさと嬉しさで顔を赤くしながら、エリックの腕の中で「ありがとう、エリック……寝るの嫌いだったわたしを、ここまで連れてきてくれて」と口を動かす。エリックは低く小さく、「俺もお前に感謝してる」と返す。音楽にかき消されるほどの囁きだが、二人の胸には深く刻まれている。
「ふぁ……あなたが隣にいると寝るのも嫌じゃないなあ、なんて思ってしまいます。結婚したら一緒に暮らすんですよね」
「そうだな……まさか“寝るのが嫌い”なお前が自分から眠ろうとするようになるとは、想像もできなかった」
小さな笑みを交わし、夕方まで小一時間の仮眠を取って体力を回復。夜の披露宴こそ二人の本番――バラとクッキーをテーマにした華やかなパーティーが待ち受けている。
時間になり、アリスは夜のドレスに着替える。昼用とは打って変わってダークブルーを基調に月や星のレースをあしらったゴージャスな装い。エリックもタキシード風の夜仕様スタイルにチェンジし、婚約式のときとは異なる落ち着いた雰囲気を醸し出す。寝るのが嫌いな彼女に合わせて、キャンドルと月光を意識したカップルコーデだ。
シャーベット家の大広間に集まった来客は昼よりも多く、王宮騎士団関係者や貴族仲間が続々と到着する。夜にこそ力を発揮するアリスにとっては本領発揮の時間帯だ。
会場にはバラの花びらが敷き詰められ、クッキーやキャンドルがメインテーブルを飾る。この夜披露宴はあくまで“続き”という位置づけだが、むしろ昼の挙式を見届けられなかった人々がこぞって参加し、実際はこちらが盛り上がっている。
「ふぁ……やっぱり夜っていいですね。昼の緊張が嘘みたいに気が楽です」
アリスはエリックと腕を組んで入場し、笑顔でゲストを迎える。昼間のウェディングドレスとは違うダークブルーの装いが「おお……夜の花嫁か!」と評判で、会場がどよめく。騎士団仲間も「エリック、やるな!」などと茶化しながら祝福してくれる。
「昼はあんなに白いドレスだったのに、夜はこんなに雰囲気変わるんだな。……お前、本当に綺麗だ」
エリックが小声で囁き、アリスは頬を染めて「ありがとう……あなたも素敵です」と返す。周囲の人たちはシャンパン片手に「二部式なんて初めて見た」「寝るのが嫌いな令嬢らしい発想だ」と好意的に盛り上がっている。
中央のテーブルにはアリスが夜に焼いてきた特製クッキーアートが鎮座し、“昼と夜、二人の姿”を描いたアイシングが美しい。フローレンスが司会を務め、「これこそアリス嬢が長年育んできた『夜クッキー文化』の頂点です!」と紹介し、場内から拍手が起こる。
「ふぁ……クッキーまで主役扱いされると、ちょっと恥ずかしいですね」
「何を言う、これが俺たちの始まりだったじゃないか。誇っていいさ」
エリックがそう言って肩を叩き、アリスは照れながら微笑む。寝るのが嫌いな日々の中で培ったクッキー作りが、最終的に結婚披露宴の華となるとは想像もしなかった。
夜も更けてきた頃、会場に一人の客が静かに入ってくる。公爵家の次男、クライヴだ。アリスが見つけるやや頬を強張らせるが、クライヴはにこやかに会釈して拍手を送るだけ。エリックもそれに気づき、少しだけ身構えるが、クライヴは騒ぎを起こす気配などなく、むしろ端のテーブルで静かに見守ってくれている。
「……来てくれたんだ。クライヴさま……」
アリスはエリックに視線で伝えると、エリックは「無理に話さなくていいんじゃないか? 向こうもただ見届けたいだけだろう」と肩をすくめる。アリスは悩んだ末、後で一言だけ挨拶に行く決意をする。
披露宴が最高潮に達した頃、再び二人はダンスフロアへ進む。昼の挙式でも踊ったが、夜はアリスの得意分野ということもあり、キャンドルの照明がロマンチックに二人を照らす。周囲のカップルたちもダンスを始めるが、主役であるアリスとエリックには特別な視線が注がれる。
音楽が穏やかに流れ、二人は夜会婚約の頃を思い出すように視線を絡め合い、ステップを踏む。アリスの心には安堵が満ちていた。昼の式を立派にこなし、今は大好きなエリックと夜を味わっている――まさに自分の望んだ世界だ。
「ふぁ……最高です。昼も夜も……あなたと一緒にいるなら怖くない」
「俺もだ。お前が寝るのを嫌いでも、一緒に朝を迎える幸せを知った今、昼も夜も愛せる気がする」
ぎこちないステップだが、二人には十分すぎるほどの幸せだ。周囲が拍手や声援を送る中、フローレンスが「これにて披露宴はクライマックス!」と盛り上げる。音楽が盛大にクレッシェンドして大広間を満たし、二人は最後のターンで抱擁する形になり、大歓声が巻き起こる。
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