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第44話 お仕置き
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田所、田所……ガラスの靴の三人組だ。ドレスが素敵だった上品なお婆様の。
「嘘でしょ⁉」
「否定できなくてすみません。我が家の母は基本的に穏やかなのですが、時々暴走する癖がありまして。姉も将来の総帥として興味が出てしまったらしくてですね。ああ、田所は母の旧姓です」
そりゃまあ、接客の一環として色々お話はしましたけども。「このお仕事長いの?」「本格的にメイクの勉強されたのねぇ」「思い出の写真館に就職なんて素敵だわぁ」みたいな雑談をしただけのつもりだった。あれが面接だったというのだろうか。
「お母様とお姉様は探偵の訓練でもされたので?」
「あの二人のスキルはもうよく分からないので、深く考えないようにしています」
それが良さそうだ。
「我が家の二人とは別で勝手に調査し、先手を打って出し抜こうとしていたのが正輝のようです」
篠塚家側の話はそれで終わりのようだった。
「なんか壮大な話になりましたね」
「お詫びのしようもありません」
私は私の知らない所で勝手に調べられ、面接され、奪い合われていたらしい。自分が台風の目になる日が来るとは思わなかった。
「とにかく事情は分かりました。それで今はどうなってるんですか。私の何でもない家柄とごく普通の身分、さらに父親のいない家庭環境まで判明して、もっと良い見合い話でも勧められてるところですか?」
「合格が出たようです」
「……は」
「母と姉が揃ってOKを出しまして。それを聞いた父も、頃合いを見て紹介しなさいと」
「何で?」
どこに気に入られる要素があったのか分からない。
「自分で言うのも何ですけど、私と結婚したところでメリットなんてありませんよ。どこぞのご令嬢でもないのに」
「出自はさして関係ないんです。身辺調査するのは篠塚家を乗っ取る目的で送り込まれる者や、単なる財産目当てで寄ってくる者だと困るというくらいの理由でして。……まあ、純粋すぎたり繊細過ぎたりする人というのも、不安要素として反対されることはありますが。あとは就職経験がない人や」
「やっぱり何かしらあるんじゃないですか、判定項目が!」
「それはもう、一般的なお見合いやマッチングと同じではないのでしょうか。具体的な要件や項目を出し、自分の性格や生活に合う人を求めるという意味で」
それを本気で言っているとしたら……いや、本気で言っているのだろう。やっぱり篠塚さんは分かっていない。特別な世界で育ってきた人だから。
「求めるだけなら同じでしょうね。そこに篠塚家という名前が加わることで、どれだけの人や物事が動いたと思いますか。当人たちが話し合って相性を確かめれば良い話じゃ済まなかったでしょう?」
「それは……はい」
「でもって身辺調査をしたということは、調べられたのは私だけじゃなくて、家族や職場についても何かしらの手が及んだということですよね」
「ご迷惑になるようなことは何も!」
身を乗り出すように言ってから、篠塚さんは下を向いて座り直した。
「勝手に素性を探るのは立派なご迷惑ですね。すみません」
「篠塚さんがやらせた訳ではないのは分かってるんです。でもどうしたって周囲の物事は動いてしまう、それが篠塚家と関わるということです。私もようやく理解しました。なので一方的に責めるつもりはありません」
中途半端に関わってしまった私も悪かったのだ。これ以上深入りする前で良かったかもしれない。夢を見てしまう前なら傷も浅いというものだ。
「あ、でも正輝さんの方は普通に責めたいですけど。一族内でも問題行動なんですよね」
「はい。あいつの家は昔から問題行動が多いもので、我が家が中心となってジワジワ潰しにかかって長いのですが、なにせ元は総帥の長男一家ですからね。微妙に手強いんです」
親戚内でつぶし合う生活が日常というのも、それに疑問を抱かなくなっているというのも、さっそく世界観の違いを見せつけられている気がする。この人も大変だなとは思うが、権力とか味方とか……まだるっこしいなぁというのが正直な感想だ。悪い子にはお仕置き、ではダメだろうか。
「じゃあ正輝さんは具体的なお咎めなしですか」
「もちろん正当な抗議は入れます。親戚内にも問題行動を周知の上、あいつの家や会社には経済制裁のうえ本家出禁とし」
「どこの政治家ですか!」
本気でイライラしてきた。裏工作とか根廻とか計略とか、政治的な難しいことなど私には一切分からないが、そんなことをしているから何も変わらないのだということくらい分かる。
「来週、商店街の近くの神社で焼き芋の会が開かれます」
「はい。……え、これからもガイド続行してくれるんですか」
「いいえ、これはお仕置きです。勝手に色々やらかした罰として、神社の手伝いして働きなさい! 正輝さんも連れてくること!」
それだけ言い捨てて、私はドカドカと足音を立てながら店を後にしたのだった。
「嘘でしょ⁉」
「否定できなくてすみません。我が家の母は基本的に穏やかなのですが、時々暴走する癖がありまして。姉も将来の総帥として興味が出てしまったらしくてですね。ああ、田所は母の旧姓です」
そりゃまあ、接客の一環として色々お話はしましたけども。「このお仕事長いの?」「本格的にメイクの勉強されたのねぇ」「思い出の写真館に就職なんて素敵だわぁ」みたいな雑談をしただけのつもりだった。あれが面接だったというのだろうか。
「お母様とお姉様は探偵の訓練でもされたので?」
「あの二人のスキルはもうよく分からないので、深く考えないようにしています」
それが良さそうだ。
「我が家の二人とは別で勝手に調査し、先手を打って出し抜こうとしていたのが正輝のようです」
篠塚家側の話はそれで終わりのようだった。
「なんか壮大な話になりましたね」
「お詫びのしようもありません」
私は私の知らない所で勝手に調べられ、面接され、奪い合われていたらしい。自分が台風の目になる日が来るとは思わなかった。
「とにかく事情は分かりました。それで今はどうなってるんですか。私の何でもない家柄とごく普通の身分、さらに父親のいない家庭環境まで判明して、もっと良い見合い話でも勧められてるところですか?」
「合格が出たようです」
「……は」
「母と姉が揃ってOKを出しまして。それを聞いた父も、頃合いを見て紹介しなさいと」
「何で?」
どこに気に入られる要素があったのか分からない。
「自分で言うのも何ですけど、私と結婚したところでメリットなんてありませんよ。どこぞのご令嬢でもないのに」
「出自はさして関係ないんです。身辺調査するのは篠塚家を乗っ取る目的で送り込まれる者や、単なる財産目当てで寄ってくる者だと困るというくらいの理由でして。……まあ、純粋すぎたり繊細過ぎたりする人というのも、不安要素として反対されることはありますが。あとは就職経験がない人や」
「やっぱり何かしらあるんじゃないですか、判定項目が!」
「それはもう、一般的なお見合いやマッチングと同じではないのでしょうか。具体的な要件や項目を出し、自分の性格や生活に合う人を求めるという意味で」
それを本気で言っているとしたら……いや、本気で言っているのだろう。やっぱり篠塚さんは分かっていない。特別な世界で育ってきた人だから。
「求めるだけなら同じでしょうね。そこに篠塚家という名前が加わることで、どれだけの人や物事が動いたと思いますか。当人たちが話し合って相性を確かめれば良い話じゃ済まなかったでしょう?」
「それは……はい」
「でもって身辺調査をしたということは、調べられたのは私だけじゃなくて、家族や職場についても何かしらの手が及んだということですよね」
「ご迷惑になるようなことは何も!」
身を乗り出すように言ってから、篠塚さんは下を向いて座り直した。
「勝手に素性を探るのは立派なご迷惑ですね。すみません」
「篠塚さんがやらせた訳ではないのは分かってるんです。でもどうしたって周囲の物事は動いてしまう、それが篠塚家と関わるということです。私もようやく理解しました。なので一方的に責めるつもりはありません」
中途半端に関わってしまった私も悪かったのだ。これ以上深入りする前で良かったかもしれない。夢を見てしまう前なら傷も浅いというものだ。
「あ、でも正輝さんの方は普通に責めたいですけど。一族内でも問題行動なんですよね」
「はい。あいつの家は昔から問題行動が多いもので、我が家が中心となってジワジワ潰しにかかって長いのですが、なにせ元は総帥の長男一家ですからね。微妙に手強いんです」
親戚内でつぶし合う生活が日常というのも、それに疑問を抱かなくなっているというのも、さっそく世界観の違いを見せつけられている気がする。この人も大変だなとは思うが、権力とか味方とか……まだるっこしいなぁというのが正直な感想だ。悪い子にはお仕置き、ではダメだろうか。
「じゃあ正輝さんは具体的なお咎めなしですか」
「もちろん正当な抗議は入れます。親戚内にも問題行動を周知の上、あいつの家や会社には経済制裁のうえ本家出禁とし」
「どこの政治家ですか!」
本気でイライラしてきた。裏工作とか根廻とか計略とか、政治的な難しいことなど私には一切分からないが、そんなことをしているから何も変わらないのだということくらい分かる。
「来週、商店街の近くの神社で焼き芋の会が開かれます」
「はい。……え、これからもガイド続行してくれるんですか」
「いいえ、これはお仕置きです。勝手に色々やらかした罰として、神社の手伝いして働きなさい! 正輝さんも連れてくること!」
それだけ言い捨てて、私はドカドカと足音を立てながら店を後にしたのだった。
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