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第45話 焼き芋大会
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困惑する神主さんの前に男二人を突き出し、私は素っ気なく言った。
「先日お話ししました通り、こいつら好きにこき使ってください。できるだけ重労働だとなお良しです」
「あの、坂本さん。これは」
「さっすが梨代さん、容赦ないわぁ」
「お黙り、ストーカーども!」
篠塚さんと正輝さんが一瞬で口を閉じる。そもそもの事情が分からない神主さんが、私たち三人を順番に見ながら言葉を探していた。
「梨代ちゃん。痴話喧嘩にしちゃ人数おかしくないかい」
「違います。経緯は長くなるので省きますが、人に迷惑かけたお仕置きの奉仕活動です。ついでに真っ当な生き方でも説いてやってください」
「悪ガキにしちゃ薹が立ってないか」
「そうなんですよ。困ったもんでしょう?」
今日は商店街近くの神社で毎年行われる焼き芋大会の日である。何も関係ない神主さんには心底申し訳ないが、丁度良いのでお仕置きが必要な人々を放り込み、私はそれを眺めて焼き芋を楽しむことにした。大人の労働力が増える分には問題ないだろう。
「じゃ、そういうことで」
どういうことだよ、と突っ込まれる前に私は離れた。神主さんにだけは後でやんわりと説明しておこう。
「こちらの皆さんは、お芋に新聞紙を巻いてください。その後濡らしてからアルミホイルを」
説明する人の声が幼児の嬌声にかき消される。私は親子連れに混じって手を動かしながら、子供と地元民の群れに放り込まれて右往左往する篠塚×二を盗み見ていた。
「あっれ、そんなに芋あまった? え、薪と石ももう要らないの? うわぁ、この重量物をまたさっきの場所まで……何でタツ兄の方はピッタリなのさ!」
「最初に神主さんが用意した総数を教えてくれたんだから、箱の数で割れば一箱当たりの本数くらい分かるだろう。必要な分だけ持ってくれば良い話だ」
「涼しい顔して言ってくれるね!」
さっそく揉めているらしい。背中合わせみたいな位置で顔も合わせずに。
「でもって新聞とアルミは足りないし。こっちも多めに持ってきたのに何で……え、風で飛んでったの? 捕まえてよぉ」
隣の子供が悪びれずにケタケタ笑っている。これはどっちが悪いのだろうか。
「ほんと、今日微妙に風あんじゃん。なかなか火も燃えないしさぁ。でもってタツ兄の方はよく燃えてることで!」
「向かい風の位置で火を起こすやつがあるか。風を遮る位置に座れよ。せっかく石が余ってるなら、新聞とアルミの重石にでもすれば良いだろうが」
「戻しちゃう前に言って欲しかったね!」
うん、こんなところでも二人の能力差が感じられる。全体を見る視点の差なのか、最初に段取りを組む計画性の差なのか、細かいところを疎かにしない性格の差なのか。そしてその差をいちいち比べてしまうのは正輝さんの方だ。他人の事情なので口出しはしないが、今さら二人の関係性が見えてきた気もする。
「ま、別に良いけどさ。どうせ俺は芋ですら引き立て役ってワケだ」
一足早く芋を投入する篠塚さんを横目に、まだ火の調整をする正輝さんがボソッと言った。
「何だ、芋ですらって。芋に失礼だろうが」
「分かってるんだよ、タツ兄は優秀だもんな。でもって優秀だから身を引いても格好つくんだろ。わざわざ子会社なんかに入社しても『自分は総帥にならない意思表示だ』とか何とか、周りが勝手に推測して納得してくれるんだから。俺だったら向上心も無いダメ息子ってだけの評価で終わんのに」
「それは嫌味なのか。文句なのか」
「ただの八つ当たりだよ」
どこかから飛んできた新聞紙が正輝さんの背中に貼り付いた。見ていた子供たちが爆笑した。
「評価されたいなら今からでも頑張れよ」
「ははっ、本家の言うことは違うねぇ。どうせウチの一家は負け犬親父のせいで、何やったって一族のスケープゴートなんだよ。ウチの悪口言ってる間は一族が平和にまとまってるんだろ。向上心なんか持つだけ無駄だって子供の頃には悟ってんのさ。それとも何? 俺が全力出して結構な地位まで上り詰めて、親父の執念を継ぐような野心家になればよかった? そんなの内乱起こすだけなのにさ」
「本気さえ出せば、そんな実力が自分にあると思ってるのか。それが驚きだな」
「けっ。やっぱ見下してんじゃん」
ものすごくドロドロしてきた。周囲の奥様方が興味津々で聞き耳を立てている様子なのだが、あれは放っておいて大丈夫だろうか。……放っとこ。ここで割って入るのも何だし。
「お前の実力はともかく。スケープゴートがどうのって部分に関しては、確かにそうだろうな。よく分かってるじゃないか」
「うっわ、認めちゃうんだ」
「俺の見てきた限りで事実だしな。でもって、それを俺が変えようとも思わない。わざわざ動いてやるほど、お前の一家に情は持ってないんだ」
「先日お話ししました通り、こいつら好きにこき使ってください。できるだけ重労働だとなお良しです」
「あの、坂本さん。これは」
「さっすが梨代さん、容赦ないわぁ」
「お黙り、ストーカーども!」
篠塚さんと正輝さんが一瞬で口を閉じる。そもそもの事情が分からない神主さんが、私たち三人を順番に見ながら言葉を探していた。
「梨代ちゃん。痴話喧嘩にしちゃ人数おかしくないかい」
「違います。経緯は長くなるので省きますが、人に迷惑かけたお仕置きの奉仕活動です。ついでに真っ当な生き方でも説いてやってください」
「悪ガキにしちゃ薹が立ってないか」
「そうなんですよ。困ったもんでしょう?」
今日は商店街近くの神社で毎年行われる焼き芋大会の日である。何も関係ない神主さんには心底申し訳ないが、丁度良いのでお仕置きが必要な人々を放り込み、私はそれを眺めて焼き芋を楽しむことにした。大人の労働力が増える分には問題ないだろう。
「じゃ、そういうことで」
どういうことだよ、と突っ込まれる前に私は離れた。神主さんにだけは後でやんわりと説明しておこう。
「こちらの皆さんは、お芋に新聞紙を巻いてください。その後濡らしてからアルミホイルを」
説明する人の声が幼児の嬌声にかき消される。私は親子連れに混じって手を動かしながら、子供と地元民の群れに放り込まれて右往左往する篠塚×二を盗み見ていた。
「あっれ、そんなに芋あまった? え、薪と石ももう要らないの? うわぁ、この重量物をまたさっきの場所まで……何でタツ兄の方はピッタリなのさ!」
「最初に神主さんが用意した総数を教えてくれたんだから、箱の数で割れば一箱当たりの本数くらい分かるだろう。必要な分だけ持ってくれば良い話だ」
「涼しい顔して言ってくれるね!」
さっそく揉めているらしい。背中合わせみたいな位置で顔も合わせずに。
「でもって新聞とアルミは足りないし。こっちも多めに持ってきたのに何で……え、風で飛んでったの? 捕まえてよぉ」
隣の子供が悪びれずにケタケタ笑っている。これはどっちが悪いのだろうか。
「ほんと、今日微妙に風あんじゃん。なかなか火も燃えないしさぁ。でもってタツ兄の方はよく燃えてることで!」
「向かい風の位置で火を起こすやつがあるか。風を遮る位置に座れよ。せっかく石が余ってるなら、新聞とアルミの重石にでもすれば良いだろうが」
「戻しちゃう前に言って欲しかったね!」
うん、こんなところでも二人の能力差が感じられる。全体を見る視点の差なのか、最初に段取りを組む計画性の差なのか、細かいところを疎かにしない性格の差なのか。そしてその差をいちいち比べてしまうのは正輝さんの方だ。他人の事情なので口出しはしないが、今さら二人の関係性が見えてきた気もする。
「ま、別に良いけどさ。どうせ俺は芋ですら引き立て役ってワケだ」
一足早く芋を投入する篠塚さんを横目に、まだ火の調整をする正輝さんがボソッと言った。
「何だ、芋ですらって。芋に失礼だろうが」
「分かってるんだよ、タツ兄は優秀だもんな。でもって優秀だから身を引いても格好つくんだろ。わざわざ子会社なんかに入社しても『自分は総帥にならない意思表示だ』とか何とか、周りが勝手に推測して納得してくれるんだから。俺だったら向上心も無いダメ息子ってだけの評価で終わんのに」
「それは嫌味なのか。文句なのか」
「ただの八つ当たりだよ」
どこかから飛んできた新聞紙が正輝さんの背中に貼り付いた。見ていた子供たちが爆笑した。
「評価されたいなら今からでも頑張れよ」
「ははっ、本家の言うことは違うねぇ。どうせウチの一家は負け犬親父のせいで、何やったって一族のスケープゴートなんだよ。ウチの悪口言ってる間は一族が平和にまとまってるんだろ。向上心なんか持つだけ無駄だって子供の頃には悟ってんのさ。それとも何? 俺が全力出して結構な地位まで上り詰めて、親父の執念を継ぐような野心家になればよかった? そんなの内乱起こすだけなのにさ」
「本気さえ出せば、そんな実力が自分にあると思ってるのか。それが驚きだな」
「けっ。やっぱ見下してんじゃん」
ものすごくドロドロしてきた。周囲の奥様方が興味津々で聞き耳を立てている様子なのだが、あれは放っておいて大丈夫だろうか。……放っとこ。ここで割って入るのも何だし。
「お前の実力はともかく。スケープゴートがどうのって部分に関しては、確かにそうだろうな。よく分かってるじゃないか」
「うっわ、認めちゃうんだ」
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