46 / 46
第46話 ごめんなさい
しおりを挟む
篠塚さんが普通の口調で凄いことを言った気がする。二人とも平然としすぎて、いまいち衝撃が来ないけど。
「でも俺だったら、そんな父親の手から抜け出すために必死で足掻く。ずっとスケープゴートにされてるのは癪だ」
「俺なりの足掻きが梨代さんだったんだけど」
「論外。部外者を巻き込むな」
「最初に巻き込んだのはタツ兄じゃん! ホントずるいわぁ。てかさ、部外者とか言ってるから俺が手を出せちゃったワケっしょ? いつまでも放っといて良いのかなぁ」
篠塚さんが何か言い返そうとしたようだが、言葉を発することなく口は閉じられた。私が眼光鋭く二人を見下ろしていたからだ。
「芋と一緒に焼いてやろうか」
低い声で言ったら、二人分の「すみません」が重なって聞こえた。
その後も二人はブツブツ言い合いながら芋を転がし、芋を配り、芋を食べた。ほくほくの芋を食べている間だけはピタリと静かになった。美味しいは正義というやつだろうか。
「……美味いな」
「焼き芋、沁みるわぁ」
私も久しぶりの焼き芋にかぶりつく。熱くて甘くて、焦げた皮のカケラがちょっぴり苦かった。
「はい片付けでーす。ゴミはこちらの袋。その辺に捨てないでくださいね」
食べ終わったら余韻も何もなく片づけ。スタッフの人がテキパキと段取りを勧めて行くのも、地域イベントあるあるだと思う。
「あーメンド。後片付けって、何で準備よりずっと腰が重く感じるんだろ」
「これ以上楽しみが待ってないからだろう」
いちいち答えてあげる篠塚さんも律義だなぁ。独り言として放っておけば良いのに。
「後始末の大変さが分かっているなら、最初から何事も起こすな。やってくれている誰かのことを考えろ」
「こじつけで説教されても困るんだけど。……やっぱタツ兄も他のやつらと同じかぁ。結局何かしら欠点を指摘する側になりたいだけなんだろ、人を非難するのって快感だもんな。相対的に自分が正しく見えるからさ」
「事実を言っているだけだ。被害妄想だな」
「そうやって小言をぶつけるサンドバッグにされてんのが毎回俺だって分かんない? 親戚一同、誰も聖人君子の生き方なんかしてないはずなのにさぁ。うちの一家に対しては遠慮なく言って良いみたいな風潮おかしいだろって」
どっちも良く口が回ることだ。当分のエネルギーが回ったからだろうか。
結局二人は少しでも近づくたびに何かしらの言い合いをし、その場の作業が終われば中断して次の持ち場に移動し、また顔を合わせれば応酬を再開するという、コマ切れの喧嘩を最後の最後まで続けていた。
「よく働いてくれて助かりましたよ。ご興味があれば、来年もぜひいらしてください。ボランティアですがね」
神主さんがそう言って、芋と一緒にお土産の野菜を渡していた。親戚の家で採れたものだという。
「ただ、手が動いていた以上に口も動いていましたなぁ。そんなに喧嘩ばかりしていては、いずれ神様も見放してしまわれますよ。美味しいものでも一緒に食べてみなさい」
「……すみませんでした。神聖な境内で」
「やっぱ聞かれてたしぃー。タツ兄が説教するから」
「お、ま、え、なぁ!」
「それも神様が聞いてるかもよ」
後ろで聞いていた私が二人の頭を強制的に下げさせた。力づくで。
「大変失礼いたしました。こいつら、しばらく修行でもさせてもらえませんかね」
「禅寺と勘違いしてないかい。うちは神社なんだが」
「やっぱダメですか」
これにて焼き芋大会は終わり。ひたすら罵り合うだけの一日になったかと思いきや、実は悪いことだけでも無かったらしい。帰り際に正輝さんがボソッと言ったのだ。
「来年は勝つ。要は段取りと、あと全体見りゃいいんだろ」
言いたいことを言い返してスッキリした結果、自分の力量に関してだけは反省する気になったのだろうか。別に焼き芋なんて価値も負けも無いのだけれど。
「んで、俺の方が有能だって証明出来たら、今度こそ梨代さんもらっちゃうかもよ」
こちらに寒気のするようなウインクを飛ばし、野菜の重みで千切れそうなビニール袋をぶら提げて帰って行った。
今までで一番可愛げのある姿に見えた。
うるさいのが去ったところで篠塚さんを見たら、向こうはすでに私を見ていたらしく、見事に目を合わせる形となってしまった。どうしよう、視線を掴まれて逸らせない。直視しすぎながらでは話しづらいのに。
「坂本さん。今後のお話ですが」
「はい」
「やはり、俺では駄目ですか」
そんな聞き方を本当にする人がいるとは思わなかった。ものすごく答えづらい聞き方をしてくれる。
「これ以上お近づきにはなれません」
「これから時間をかけて慣れる、お互いの世界を徐々に知ってゆくというのでも、無理ですか」
「ごめんなさい」
「でも俺だったら、そんな父親の手から抜け出すために必死で足掻く。ずっとスケープゴートにされてるのは癪だ」
「俺なりの足掻きが梨代さんだったんだけど」
「論外。部外者を巻き込むな」
「最初に巻き込んだのはタツ兄じゃん! ホントずるいわぁ。てかさ、部外者とか言ってるから俺が手を出せちゃったワケっしょ? いつまでも放っといて良いのかなぁ」
篠塚さんが何か言い返そうとしたようだが、言葉を発することなく口は閉じられた。私が眼光鋭く二人を見下ろしていたからだ。
「芋と一緒に焼いてやろうか」
低い声で言ったら、二人分の「すみません」が重なって聞こえた。
その後も二人はブツブツ言い合いながら芋を転がし、芋を配り、芋を食べた。ほくほくの芋を食べている間だけはピタリと静かになった。美味しいは正義というやつだろうか。
「……美味いな」
「焼き芋、沁みるわぁ」
私も久しぶりの焼き芋にかぶりつく。熱くて甘くて、焦げた皮のカケラがちょっぴり苦かった。
「はい片付けでーす。ゴミはこちらの袋。その辺に捨てないでくださいね」
食べ終わったら余韻も何もなく片づけ。スタッフの人がテキパキと段取りを勧めて行くのも、地域イベントあるあるだと思う。
「あーメンド。後片付けって、何で準備よりずっと腰が重く感じるんだろ」
「これ以上楽しみが待ってないからだろう」
いちいち答えてあげる篠塚さんも律義だなぁ。独り言として放っておけば良いのに。
「後始末の大変さが分かっているなら、最初から何事も起こすな。やってくれている誰かのことを考えろ」
「こじつけで説教されても困るんだけど。……やっぱタツ兄も他のやつらと同じかぁ。結局何かしら欠点を指摘する側になりたいだけなんだろ、人を非難するのって快感だもんな。相対的に自分が正しく見えるからさ」
「事実を言っているだけだ。被害妄想だな」
「そうやって小言をぶつけるサンドバッグにされてんのが毎回俺だって分かんない? 親戚一同、誰も聖人君子の生き方なんかしてないはずなのにさぁ。うちの一家に対しては遠慮なく言って良いみたいな風潮おかしいだろって」
どっちも良く口が回ることだ。当分のエネルギーが回ったからだろうか。
結局二人は少しでも近づくたびに何かしらの言い合いをし、その場の作業が終われば中断して次の持ち場に移動し、また顔を合わせれば応酬を再開するという、コマ切れの喧嘩を最後の最後まで続けていた。
「よく働いてくれて助かりましたよ。ご興味があれば、来年もぜひいらしてください。ボランティアですがね」
神主さんがそう言って、芋と一緒にお土産の野菜を渡していた。親戚の家で採れたものだという。
「ただ、手が動いていた以上に口も動いていましたなぁ。そんなに喧嘩ばかりしていては、いずれ神様も見放してしまわれますよ。美味しいものでも一緒に食べてみなさい」
「……すみませんでした。神聖な境内で」
「やっぱ聞かれてたしぃー。タツ兄が説教するから」
「お、ま、え、なぁ!」
「それも神様が聞いてるかもよ」
後ろで聞いていた私が二人の頭を強制的に下げさせた。力づくで。
「大変失礼いたしました。こいつら、しばらく修行でもさせてもらえませんかね」
「禅寺と勘違いしてないかい。うちは神社なんだが」
「やっぱダメですか」
これにて焼き芋大会は終わり。ひたすら罵り合うだけの一日になったかと思いきや、実は悪いことだけでも無かったらしい。帰り際に正輝さんがボソッと言ったのだ。
「来年は勝つ。要は段取りと、あと全体見りゃいいんだろ」
言いたいことを言い返してスッキリした結果、自分の力量に関してだけは反省する気になったのだろうか。別に焼き芋なんて価値も負けも無いのだけれど。
「んで、俺の方が有能だって証明出来たら、今度こそ梨代さんもらっちゃうかもよ」
こちらに寒気のするようなウインクを飛ばし、野菜の重みで千切れそうなビニール袋をぶら提げて帰って行った。
今までで一番可愛げのある姿に見えた。
うるさいのが去ったところで篠塚さんを見たら、向こうはすでに私を見ていたらしく、見事に目を合わせる形となってしまった。どうしよう、視線を掴まれて逸らせない。直視しすぎながらでは話しづらいのに。
「坂本さん。今後のお話ですが」
「はい」
「やはり、俺では駄目ですか」
そんな聞き方を本当にする人がいるとは思わなかった。ものすごく答えづらい聞き方をしてくれる。
「これ以上お近づきにはなれません」
「これから時間をかけて慣れる、お互いの世界を徐々に知ってゆくというのでも、無理ですか」
「ごめんなさい」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
清貧秘書はガラスの靴をぶん投げる
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「お前、頬を叩いた詫びに婚約者になれ」
上司で社長の彪夏と秘書の清子はお似合いのふたりだと社内でも評判。
御曹司でイケメンの彪夏は女子の憧れの的。
清子はどこぞのご令嬢と噂され、男女問わず視線を集めていた。
……しかし。
清子には誰もが知らない、秘密があったのです――。
それは。
大家族のド貧乏!
上は高校生、下は生まれたばかりの五人弟妹。
おっとりして頼りにならない義母。
そして父は常に行方不明。
そんな家族を支えるべく、奮闘している清子ですが。
とうとう、彪夏に貧乏がバレたまではよかったけれど。
子持ちと間違われてついひっぱたいてしまい、償いに婚約者のフリをする羽目に。
しかも貧乏バラすと言われたら断れない。
どうなる、清子!?
河守清子
かわもりさやこ 25歳
LCCチェリーエアライン 社長付秘書
清楚なお嬢様風な見た目
会社でもそんな感じで振る舞っている
努力家で頑張り屋
自分がしっかりしないといけないと常に気を張っている
甘えベタ
×
御子神彪夏
みこがみひゅうが 33歳
LCCチェリーエアライン 社長
日本二大航空会社桜花航空社長の息子
軽くパーマをかけた掻き上げビジネスショート
黒メタルツーポイント眼鏡
細身のイケメン
物腰が柔らかく好青年
実際は俺様
気に入った人間はとにかくかまい倒す
清子はいつまで、貧乏を隠し通せるのか!?
※河守家※
父 祥平 放浪の画家。ほぼ家にいない
母 真由 のんびり屋
長男 健太(高一・16歳)服作りが趣味
次男 巧(高一・15歳)弁護士になるのが目標
三男 真(小五・10歳)サッカー少年
四男 望(保育園年中・5歳)飛行機大好き
次女 美妃(保育園児・五ヶ月)未知数
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
煙草屋さんと小説家
男鹿七海
キャラ文芸
※プラトニックな関係のBL要素を含む日常ものです。
商店街の片隅にある小さな煙草屋を営む霧弥。日々の暮らしは静かで穏やかだが、幼馴染であり売れっ子作家の龍二が店を訪れるたびに、心の奥はざわめく。幼馴染としてでも、客としてでもない――その存在は、言葉にできないほど特別だ。
ある日、龍二の周囲に仕事仲間の女性が現れ、霧弥は初めて嫉妬を自覚する。自分の感情を否定しようとしても、触れた手の温もりや視線の距離が、心を正直にさせる。日常の中で少しずつ近づく二人の距離は、言葉ではなく、ささやかな仕草や沈黙に宿る。
そして夜――霧弥の小さな煙草屋で、龍二は初めて自分の想いを口にし、霧弥は返事として告白する。互いの手の温もりと目の奥の真剣さが、これまで言葉にできなかった気持ちを伝える瞬間。静かな日常の向こうに、確かな愛が芽吹く。
小さな煙草屋に灯る、柔らかく温かな恋の物語。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる