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第1章 一年一学期
第16話 女生徒SIDE:青い車がある家②
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主が不在のサトシの家で、サトシの姉と四人の女生徒はテーブルについていた。
掃除が終わり、夕飯の準備も整い、デザートまで用意され、これから年越しでもするのかというような状態だった。
「まあ、嬉しい! みなさんで、掃除やお料理してくださって、まるで合宿みたいね。お客様に、ここまでさせちゃって、申し訳ないわ」
「いいえ、お姉さんに喜んでいただければ……わたし達は、ねえ、夏梅」
「なぜか、わたしまで一緒にされてしまったわ。桜井さん、本当に勉強するのよね」
桜井は夏梅の質問をきれいにスルーした。
「いつもやっていることだから、台所に立つと体が勝手に動いてしまうんです」
「美柑もハルちゃんも、もう食べようよ、カレー。わたし、力仕事したからお腹すいたよー」
「そうよね、こんな時間まで働いてくれたんですもの。ありがとうね。では、みんなでカレーをいただきましょうか」
こんな時間と聞いて、桜井はハッとした。
急にエプロンを外して、みんなに謝りながら、帰り支度を始めた。
「ごめーん、みんなでカレーを食べて。わたしは、早く家に帰って弟にご飯つくらなきゃ」
「えええー! 残念」
「そっかー、美柑は弟の世話があるもんね」
姉はそれを聞いて驚き、桜井を止めた。
「待って、桜井さん! あなた、家で弟さんが待っているのに、ここで料理してくださったの? わたしったら、お茶も出さないで働かせてしまって、本当にごめんなさい」
「いいの、いいの。ここがサトシ先生の家だってわかっただけでいいんです。それだけで、わたし嬉しいですから」
「そういうわけにはいかないわ」
「そうよ、桜井さん! そういうわけにはいかないわ。あんただけ、ここから抜けようなんて許されると思っているの? 勉強の話はどうなったのよ!」
「夏梅、そういう問題じゃないから。落ち着いて」
「ありがと、ハルちゃん。夏梅を止めてくれて」
サトシの姉は、桜井を止めたかったが、幼い弟さんがお姉さんの帰りを待っていると想像するといたたまれなかった。
自分が弟のサトシに留守番させたことを思い出して、とても他人事には思えなかったのだ。
「ちょっと、待ってて。せめて、カレーを容器に入れるから持って帰ってちょうだい。カレーを弟さんに食べさせてあげて!」
サトシの姉は桜井の弟のために、カレーを分けることを思いついた。
「いいえ、いいです。そんな……容器がカレーで汚れます。カレーの汚れは落とすのが大変なんですよ。あ、お姉さん、そのまま容器にカレーを入れないで――――!」
「遠慮しなくてもいいのよ」
「遠慮じゃなくて、それだと容器にカレーの色が着いて、取れなくなりますから」
「あら、そうなの?」
「こういうのはですね。透明な食品用保存袋に入れて、密閉してから……」
桜井は姉に、カレーの保存の仕方を教えはじめた。
「なるほど、そうなのね」
桜井が、カレーを保存袋に入れようとしたタイミングで、玄関から誰かが入ってきた。
「何やってんだ。お前たち」
サトシだった。
「きゃーーーーー! サトシ先生がお帰りよーーー」
「きゃーーーって、悲鳴をあげたいのはこっちですよ! 自分の家に帰って来ただけなのに、そんなに驚かれても……、驚くのは先生です」
「あ、サトシ! おかえりなさい。生徒さんたちが、ご飯つくったり、お風呂掃除したりてくれたのよ」
「レイコ姉さんが、生徒を家に入れたのか」
「だって、この間、実家で会った子たちだったから、つい……」
「それで? 台所で桜井は何をしているんですか」
「あ、わたしは今、帰るところです」
「サトシ、桜井さんがカレーを作ってくれたのよ。だけど、家で弟さんが待っているからって、帰ろうとしていて……」
「帰るんですか、桜井」
「すみません、もっと早く帰るつもりでしたが……」
「はい、これ。カレーを容器に詰めました。これを持って帰ってね」
「お姉さん……。そのまま詰めないでって、教えたのに……」
桜井はカレーが詰まった容器が入った紙袋を渡された。
「先生も、手を洗って早くこっちに来てよ。一緒にカレー食べようよ」
「先生、お風呂湧いてまーす。ご飯とお風呂、どっち先がいいですかー?」
桃瀬と柚木は、合宿気分でサトシを呼んでいた。
「先生、わたしは桜井さんに無理やり連れ込まれました!」
「夏梅、君まで……」
サトシは、一人で帰ろうとする桜井が心配だった。
「レイコ姉さん、途中まで桜井を送っていくから、先に食べててくれ」
「……サトシ、桜井さんをどうぞよろしくお願いします」
「誤解されるような言い方はやめろ」
家に姉と生徒たちがいると、職場のようにうまく先生モードに切り替えができないサトシだった。
(どっちに合わせればいいんだよ)
とりあえず、サトシは桜井を連れて、自宅を出た。
夕闇せまる町を、サトシと桜井は二人で歩くことになった。
傍から見ると、まるで先生に寄り道が見つかって補導された生徒と、生徒指導の先生のように見えていただろう。
半分、正解だが。
掃除が終わり、夕飯の準備も整い、デザートまで用意され、これから年越しでもするのかというような状態だった。
「まあ、嬉しい! みなさんで、掃除やお料理してくださって、まるで合宿みたいね。お客様に、ここまでさせちゃって、申し訳ないわ」
「いいえ、お姉さんに喜んでいただければ……わたし達は、ねえ、夏梅」
「なぜか、わたしまで一緒にされてしまったわ。桜井さん、本当に勉強するのよね」
桜井は夏梅の質問をきれいにスルーした。
「いつもやっていることだから、台所に立つと体が勝手に動いてしまうんです」
「美柑もハルちゃんも、もう食べようよ、カレー。わたし、力仕事したからお腹すいたよー」
「そうよね、こんな時間まで働いてくれたんですもの。ありがとうね。では、みんなでカレーをいただきましょうか」
こんな時間と聞いて、桜井はハッとした。
急にエプロンを外して、みんなに謝りながら、帰り支度を始めた。
「ごめーん、みんなでカレーを食べて。わたしは、早く家に帰って弟にご飯つくらなきゃ」
「えええー! 残念」
「そっかー、美柑は弟の世話があるもんね」
姉はそれを聞いて驚き、桜井を止めた。
「待って、桜井さん! あなた、家で弟さんが待っているのに、ここで料理してくださったの? わたしったら、お茶も出さないで働かせてしまって、本当にごめんなさい」
「いいの、いいの。ここがサトシ先生の家だってわかっただけでいいんです。それだけで、わたし嬉しいですから」
「そういうわけにはいかないわ」
「そうよ、桜井さん! そういうわけにはいかないわ。あんただけ、ここから抜けようなんて許されると思っているの? 勉強の話はどうなったのよ!」
「夏梅、そういう問題じゃないから。落ち着いて」
「ありがと、ハルちゃん。夏梅を止めてくれて」
サトシの姉は、桜井を止めたかったが、幼い弟さんがお姉さんの帰りを待っていると想像するといたたまれなかった。
自分が弟のサトシに留守番させたことを思い出して、とても他人事には思えなかったのだ。
「ちょっと、待ってて。せめて、カレーを容器に入れるから持って帰ってちょうだい。カレーを弟さんに食べさせてあげて!」
サトシの姉は桜井の弟のために、カレーを分けることを思いついた。
「いいえ、いいです。そんな……容器がカレーで汚れます。カレーの汚れは落とすのが大変なんですよ。あ、お姉さん、そのまま容器にカレーを入れないで――――!」
「遠慮しなくてもいいのよ」
「遠慮じゃなくて、それだと容器にカレーの色が着いて、取れなくなりますから」
「あら、そうなの?」
「こういうのはですね。透明な食品用保存袋に入れて、密閉してから……」
桜井は姉に、カレーの保存の仕方を教えはじめた。
「なるほど、そうなのね」
桜井が、カレーを保存袋に入れようとしたタイミングで、玄関から誰かが入ってきた。
「何やってんだ。お前たち」
サトシだった。
「きゃーーーーー! サトシ先生がお帰りよーーー」
「きゃーーーって、悲鳴をあげたいのはこっちですよ! 自分の家に帰って来ただけなのに、そんなに驚かれても……、驚くのは先生です」
「あ、サトシ! おかえりなさい。生徒さんたちが、ご飯つくったり、お風呂掃除したりてくれたのよ」
「レイコ姉さんが、生徒を家に入れたのか」
「だって、この間、実家で会った子たちだったから、つい……」
「それで? 台所で桜井は何をしているんですか」
「あ、わたしは今、帰るところです」
「サトシ、桜井さんがカレーを作ってくれたのよ。だけど、家で弟さんが待っているからって、帰ろうとしていて……」
「帰るんですか、桜井」
「すみません、もっと早く帰るつもりでしたが……」
「はい、これ。カレーを容器に詰めました。これを持って帰ってね」
「お姉さん……。そのまま詰めないでって、教えたのに……」
桜井はカレーが詰まった容器が入った紙袋を渡された。
「先生も、手を洗って早くこっちに来てよ。一緒にカレー食べようよ」
「先生、お風呂湧いてまーす。ご飯とお風呂、どっち先がいいですかー?」
桃瀬と柚木は、合宿気分でサトシを呼んでいた。
「先生、わたしは桜井さんに無理やり連れ込まれました!」
「夏梅、君まで……」
サトシは、一人で帰ろうとする桜井が心配だった。
「レイコ姉さん、途中まで桜井を送っていくから、先に食べててくれ」
「……サトシ、桜井さんをどうぞよろしくお願いします」
「誤解されるような言い方はやめろ」
家に姉と生徒たちがいると、職場のようにうまく先生モードに切り替えができないサトシだった。
(どっちに合わせればいいんだよ)
とりあえず、サトシは桜井を連れて、自宅を出た。
夕闇せまる町を、サトシと桜井は二人で歩くことになった。
傍から見ると、まるで先生に寄り道が見つかって補導された生徒と、生徒指導の先生のように見えていただろう。
半分、正解だが。
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