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第2章 一年二学期
第66話 白金祭④ 屋上で連絡先交換
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サトシは階段を上って屋上出入口まで来た。
(先日、鍵が壊れていると用務の人に言ったのに、まだ直してなかったんだ。白金祭で、いろんな人が出入りしているのに、困ったもんだ)
屋上へ出るドアを開けると、屋上であおむけになって倒れている生徒がいた。
まさか、桜井に何かあったのかと、サトシは倒れている生徒のところまで走った。
サトシが予想した通り、倒れていたのは桜井だった。
いや、正確に言うと寝ていたのは桜井だった。
スマホで音楽を聴いているのか、イヤホンしながら目を閉じ、気持ちよさそうに寝返りをうった。
「やっぱり、ここにいた。こら桜井、起きなさい。ここは立ち入り禁止ですよ」
桜井は眩しそうに薄目を開けてサトシを見た。
イヤホンで音楽を聴いているせいで、怒られていることに気が付いていない。
「んーー? 何か用ですか、サトシ先生」
「何をのんきなことを言っているんですか。ほら、イヤホンを外して………」
相変わらず寝たままで返事する桜井。
しかたなく、サトシは身を屈めて桜井の耳からイヤホンを外そうとした。
すると、その腕は、ガッシリと捕らえられた。
桜井はサトシの腕をつかんでグイっと引き寄せる。
「ばっ……何をする」
サトシの目の前に桜井の顔が急接近した。
「先生、チューしていいよ」
「……大人をからかうんじゃない」
サトシは自分の顔が熱くなるのがわかった。
胸の鼓動も激しくなったのもわかった。
(マズい。このシチュエーションで、なんで俺の方がドキドキしているんだ。普通、生徒がドキドキするんじゃないのか。逆だろ)
顔を真っ赤にしたサトシを面白がるように、桜井は笑った。
「うっそぴょーん!!」
「は?」
「冗談でーす」
「ったく! 大人をからかって遊ぶな!」
「ほら、これだよ。先生」
桜井は片方のイヤホンを外して、サトシに渡した。
サトシはそのイヤホンを自分の耳に入れてみた。
聞こえてきたのは、先日サトシがほろ酔い気分で歌った「イエロー」だった。
「また、先生とデュエットしたいなぁ。この歌詞を訳そうとしたけど、超ムズかったわ」
「この動画をみたこと、あるか?」
「ないかな」
「ずっとボーカルを正面から撮っている映像なんだ。ボーカルの口元を見ていると発音の練習になるぞ」
「へぇー」
「今度見てごらん。とても参考になるから」
サトシはそうアドバイスして、聞こえてくる曲に合わせて
「ユーノーアラビュソー」
と声に出して歌った。
「サトシ先生、ヤバい。今キュンキュンした」
「当たり前だ。桜井にしか見せないんだからな、こんな姿」
「はっはー、もったいのうございます」
桜井はひざまずいて両手で何かを押し頂くような恰好をしてみせた。
その手に、サトシはイヤホンを返した。
「うむ、苦しゅうない。今から先生と一緒に屋上から降りるんだ」
「なんでー。ここは、もっと近こう寄れ、でしょー」
「一関が桜井を探していたぞ。なんでも新聞部の先輩が、あのダンスについてインタビューしたいんだと。ほら、ヒーローインタビューだ。違った。ヒロインか」
「そういうの好きじゃない。余計に降りたくなくなったわ。わたしはダンスのリーダーじゃないんだから」
「でも、あそこまで出来たのは、桜井のおかげだと思うよ」
「そういうの嫌いだってば」
(しょうがない、話題を変えるか)
「なあ桜井、お腹空かないか? 焼きそばでも食べに行こう」
「先生の奢りですか?」
「それはない」
「じゃ、やだ」
「わがまま言うな。今度、焼きそばなんかよりももっと高いものを奢ってやるから」
そう言って、サトシは桜井の頭に手を置いて、髪をぐしゃぐしゃにした。
「あーーーーー! 髪が……ひど―い! ぐちゃぐちゃにして!」
「ほら、いいかげん下へ降りるぞ」
「待って! ちょっと待って、先生。そのスマホは私物ですか?」
「残念、これは学校の備品だ」
「そっか。じゃ、わたしのスマホで先生とのツーショット撮っていいですか?」
「ええ? そんなん……卒業式でもないのに……今日だけだからな」
「やった。先生の方が、腕が長いから、先生がスマホ持ってください」
桜井からスマホを渡され、サトシは桜井と自撮りした。
桜井は、可愛らしいポーズをしたのに、サトシときたら仏頂面だった。
「げっ! 先生、写真写り悪すぎ」
「先生もこれはショックだ。これでも若い頃はモテていたんだぞ。俺もおじさんになったなぁ」
桜井は手で半分のハートを形作って、サトシにもう片方を作るように促した。
「ほらほら、ハート作ろ」
二人の手でハートの形をつくって、再度自撮り。
「片手でスマホ、片手でハートは難しいな。ちょっと桜井、もっとこの腕の中に入ってくれ」
「先生、スマイルよ」
サトシの胸に桜井が入ることでやっと、二人のハートショットは決まった。
「やったー。成功、成功。よく撮れてるよ、先生」
「どれどれ……、おおお、桜井お前可愛いな。その写真、あとで先生の携帯に送ってくれ」
「わたし、先生の連絡先、知りませんけど」
「あ、そうか。生徒に教えてはいけないことになっているんだよな。よし、先生がこのスマホで自分に送ろう。貸しなさい」
サトシは桜井の携帯を使って、自分のメール宛に送った」
「よし、これでオッケー」
「先生? 今ので先生のメルアドがわたしにバレましたけど」
「えっ?」
サトシは自分宛てに画像送信できたと、どや顔したところを、桜井によって見事に粉砕された。
「それに先生の携帯は、わたしを迷惑メールと認識して、せっかくの画像が表示されないかもしれないね」
「え、ど、どうすれば?」
「チャットがいいですよ。後でわたしとLINE交換しましょ。とりあえず、今この携帯から先生が自分の携帯に電話して、ワン切りしてください」
「わかった……」
動揺しながらサトシは桜井の指示に従い、自分の携帯に電話した。
「やたっ、これで、先生の電話番号ゲットだぜー」
「桜井、お前、巧妙に聞き出したな!」
「大丈夫です。悪用厳禁。わかってますって」
サトシは焦った。
だが、桜井になら連絡先を知られてもいいかなとも思った。
そして、死ぬほどのプレッシャーからやっと解放された桜井の笑い声は、サトシにとっても癒しだった。
屋上から階段を降りながら、ときどきサトシの方を振り向く桜井の笑顔。
それは、サトシのハートにどストライクに刺さった。
(可愛い……)
(先日、鍵が壊れていると用務の人に言ったのに、まだ直してなかったんだ。白金祭で、いろんな人が出入りしているのに、困ったもんだ)
屋上へ出るドアを開けると、屋上であおむけになって倒れている生徒がいた。
まさか、桜井に何かあったのかと、サトシは倒れている生徒のところまで走った。
サトシが予想した通り、倒れていたのは桜井だった。
いや、正確に言うと寝ていたのは桜井だった。
スマホで音楽を聴いているのか、イヤホンしながら目を閉じ、気持ちよさそうに寝返りをうった。
「やっぱり、ここにいた。こら桜井、起きなさい。ここは立ち入り禁止ですよ」
桜井は眩しそうに薄目を開けてサトシを見た。
イヤホンで音楽を聴いているせいで、怒られていることに気が付いていない。
「んーー? 何か用ですか、サトシ先生」
「何をのんきなことを言っているんですか。ほら、イヤホンを外して………」
相変わらず寝たままで返事する桜井。
しかたなく、サトシは身を屈めて桜井の耳からイヤホンを外そうとした。
すると、その腕は、ガッシリと捕らえられた。
桜井はサトシの腕をつかんでグイっと引き寄せる。
「ばっ……何をする」
サトシの目の前に桜井の顔が急接近した。
「先生、チューしていいよ」
「……大人をからかうんじゃない」
サトシは自分の顔が熱くなるのがわかった。
胸の鼓動も激しくなったのもわかった。
(マズい。このシチュエーションで、なんで俺の方がドキドキしているんだ。普通、生徒がドキドキするんじゃないのか。逆だろ)
顔を真っ赤にしたサトシを面白がるように、桜井は笑った。
「うっそぴょーん!!」
「は?」
「冗談でーす」
「ったく! 大人をからかって遊ぶな!」
「ほら、これだよ。先生」
桜井は片方のイヤホンを外して、サトシに渡した。
サトシはそのイヤホンを自分の耳に入れてみた。
聞こえてきたのは、先日サトシがほろ酔い気分で歌った「イエロー」だった。
「また、先生とデュエットしたいなぁ。この歌詞を訳そうとしたけど、超ムズかったわ」
「この動画をみたこと、あるか?」
「ないかな」
「ずっとボーカルを正面から撮っている映像なんだ。ボーカルの口元を見ていると発音の練習になるぞ」
「へぇー」
「今度見てごらん。とても参考になるから」
サトシはそうアドバイスして、聞こえてくる曲に合わせて
「ユーノーアラビュソー」
と声に出して歌った。
「サトシ先生、ヤバい。今キュンキュンした」
「当たり前だ。桜井にしか見せないんだからな、こんな姿」
「はっはー、もったいのうございます」
桜井はひざまずいて両手で何かを押し頂くような恰好をしてみせた。
その手に、サトシはイヤホンを返した。
「うむ、苦しゅうない。今から先生と一緒に屋上から降りるんだ」
「なんでー。ここは、もっと近こう寄れ、でしょー」
「一関が桜井を探していたぞ。なんでも新聞部の先輩が、あのダンスについてインタビューしたいんだと。ほら、ヒーローインタビューだ。違った。ヒロインか」
「そういうの好きじゃない。余計に降りたくなくなったわ。わたしはダンスのリーダーじゃないんだから」
「でも、あそこまで出来たのは、桜井のおかげだと思うよ」
「そういうの嫌いだってば」
(しょうがない、話題を変えるか)
「なあ桜井、お腹空かないか? 焼きそばでも食べに行こう」
「先生の奢りですか?」
「それはない」
「じゃ、やだ」
「わがまま言うな。今度、焼きそばなんかよりももっと高いものを奢ってやるから」
そう言って、サトシは桜井の頭に手を置いて、髪をぐしゃぐしゃにした。
「あーーーーー! 髪が……ひど―い! ぐちゃぐちゃにして!」
「ほら、いいかげん下へ降りるぞ」
「待って! ちょっと待って、先生。そのスマホは私物ですか?」
「残念、これは学校の備品だ」
「そっか。じゃ、わたしのスマホで先生とのツーショット撮っていいですか?」
「ええ? そんなん……卒業式でもないのに……今日だけだからな」
「やった。先生の方が、腕が長いから、先生がスマホ持ってください」
桜井からスマホを渡され、サトシは桜井と自撮りした。
桜井は、可愛らしいポーズをしたのに、サトシときたら仏頂面だった。
「げっ! 先生、写真写り悪すぎ」
「先生もこれはショックだ。これでも若い頃はモテていたんだぞ。俺もおじさんになったなぁ」
桜井は手で半分のハートを形作って、サトシにもう片方を作るように促した。
「ほらほら、ハート作ろ」
二人の手でハートの形をつくって、再度自撮り。
「片手でスマホ、片手でハートは難しいな。ちょっと桜井、もっとこの腕の中に入ってくれ」
「先生、スマイルよ」
サトシの胸に桜井が入ることでやっと、二人のハートショットは決まった。
「やったー。成功、成功。よく撮れてるよ、先生」
「どれどれ……、おおお、桜井お前可愛いな。その写真、あとで先生の携帯に送ってくれ」
「わたし、先生の連絡先、知りませんけど」
「あ、そうか。生徒に教えてはいけないことになっているんだよな。よし、先生がこのスマホで自分に送ろう。貸しなさい」
サトシは桜井の携帯を使って、自分のメール宛に送った」
「よし、これでオッケー」
「先生? 今ので先生のメルアドがわたしにバレましたけど」
「えっ?」
サトシは自分宛てに画像送信できたと、どや顔したところを、桜井によって見事に粉砕された。
「それに先生の携帯は、わたしを迷惑メールと認識して、せっかくの画像が表示されないかもしれないね」
「え、ど、どうすれば?」
「チャットがいいですよ。後でわたしとLINE交換しましょ。とりあえず、今この携帯から先生が自分の携帯に電話して、ワン切りしてください」
「わかった……」
動揺しながらサトシは桜井の指示に従い、自分の携帯に電話した。
「やたっ、これで、先生の電話番号ゲットだぜー」
「桜井、お前、巧妙に聞き出したな!」
「大丈夫です。悪用厳禁。わかってますって」
サトシは焦った。
だが、桜井になら連絡先を知られてもいいかなとも思った。
そして、死ぬほどのプレッシャーからやっと解放された桜井の笑い声は、サトシにとっても癒しだった。
屋上から階段を降りながら、ときどきサトシの方を振り向く桜井の笑顔。
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