サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない

白神ブナ

文字の大きさ
67 / 273
第2章 一年二学期

第66話 白金祭④ 屋上で連絡先交換

しおりを挟む
 サトシは階段を上って屋上出入口まで来た。

(先日、鍵が壊れていると用務の人に言ったのに、まだ直してなかったんだ。白金祭で、いろんな人が出入りしているのに、困ったもんだ)

屋上へ出るドアを開けると、屋上であおむけになって倒れている生徒がいた。
まさか、桜井に何かあったのかと、サトシは倒れている生徒のところまで走った。

サトシが予想した通り、倒れていたのは桜井だった。
いや、正確に言うとのは桜井だった。
スマホで音楽を聴いているのか、イヤホンしながら目を閉じ、気持ちよさそうに寝返りをうった。

「やっぱり、ここにいた。こら桜井、起きなさい。ここは立ち入り禁止ですよ」

桜井は眩しそうに薄目を開けてサトシを見た。
イヤホンで音楽を聴いているせいで、怒られていることに気が付いていない。

「んーー? 何か用ですか、サトシ先生」

「何をのんきなことを言っているんですか。ほら、イヤホンを外して………」

相変わらず寝たままで返事する桜井。
しかたなく、サトシは身を屈めて桜井の耳からイヤホンを外そうとした。
すると、その腕は、ガッシリと捕らえられた。
桜井はサトシの腕をつかんでグイっと引き寄せる。

「ばっ……何をする」

サトシの目の前に桜井の顔が急接近した。

「先生、チューしていいよ」

「……大人をからかうんじゃない」

サトシは自分の顔が熱くなるのがわかった。
胸の鼓動も激しくなったのもわかった。

(マズい。このシチュエーションで、なんで俺の方がドキドキしているんだ。普通、生徒がドキドキするんじゃないのか。逆だろ)

顔を真っ赤にしたサトシを面白がるように、桜井は笑った。

「うっそぴょーん!!」

「は?」

「冗談でーす」

「ったく! 大人をからかって遊ぶな!」

「ほら、これだよ。先生」

桜井は片方のイヤホンを外して、サトシに渡した。
サトシはそのイヤホンを自分の耳に入れてみた。
聞こえてきたのは、先日サトシがほろ酔い気分で歌った「イエロー」だった。

「また、先生とデュエットしたいなぁ。この歌詞を訳そうとしたけど、超ムズかったわ」

「この動画をみたこと、あるか?」

「ないかな」

「ずっとボーカルを正面から撮っている映像なんだ。ボーカルの口元を見ていると発音の練習になるぞ」

「へぇー」

「今度見てごらん。とても参考になるから」

サトシはそうアドバイスして、聞こえてくる曲に合わせて

「ユーノーアラビュソー」

と声に出して歌った。

「サトシ先生、ヤバい。今キュンキュンした」

「当たり前だ。桜井にしか見せないんだからな、こんな姿」

「はっはー、もったいのうございます」

桜井はひざまずいて両手で何かを押し頂くような恰好をしてみせた。
その手に、サトシはイヤホンを返した。

「うむ、苦しゅうない。今から先生と一緒に屋上から降りるんだ」

「なんでー。ここは、もっと近こう寄れ、でしょー」

「一関が桜井を探していたぞ。なんでも新聞部の先輩が、あのダンスについてインタビューしたいんだと。ほら、ヒーローインタビューだ。違った。ヒロインか」

「そういうの好きじゃない。余計に降りたくなくなったわ。わたしはダンスのリーダーじゃないんだから」

「でも、あそこまで出来たのは、桜井のおかげだと思うよ」

「そういうの嫌いだってば」

(しょうがない、話題を変えるか)

「なあ桜井、お腹空かないか? 焼きそばでも食べに行こう」

「先生の奢りですか?」

「それはない」

「じゃ、やだ」

「わがまま言うな。今度、焼きそばなんかよりももっと高いものを奢ってやるから」

そう言って、サトシは桜井の頭に手を置いて、髪をぐしゃぐしゃにした。

「あーーーーー! 髪が……ひど―い! ぐちゃぐちゃにして!」

「ほら、いいかげん下へ降りるぞ」

「待って! ちょっと待って、先生。そのスマホは私物ですか?」

「残念、これは学校の備品だ」

「そっか。じゃ、わたしのスマホで先生とのツーショット撮っていいですか?」

「ええ? そんなん……卒業式でもないのに……今日だけだからな」

「やった。先生の方が、腕が長いから、先生がスマホ持ってください」

桜井からスマホを渡され、サトシは桜井と自撮りした。
桜井は、可愛らしいポーズをしたのに、サトシときたら仏頂面だった。

「げっ! 先生、写真写り悪すぎ」

「先生もこれはショックだ。これでも若い頃はモテていたんだぞ。俺もおじさんになったなぁ」

桜井は手で半分のハートを形作って、サトシにもう片方を作るように促した。

「ほらほら、ハート作ろ」

二人の手でハートの形をつくって、再度自撮り。

「片手でスマホ、片手でハートは難しいな。ちょっと桜井、もっとこの腕の中に入ってくれ」

「先生、スマイルよ」

サトシの胸に桜井が入ることでやっと、二人のハートショットは決まった。




「やったー。成功、成功。よく撮れてるよ、先生」

「どれどれ……、おおお、桜井お前可愛いな。その写真、あとで先生の携帯に送ってくれ」

「わたし、先生の連絡先、知りませんけど」

「あ、そうか。生徒に教えてはいけないことになっているんだよな。よし、先生がこのスマホで自分に送ろう。貸しなさい」

サトシは桜井の携帯を使って、自分のメール宛に送った」

「よし、これでオッケー」

「先生? 今ので先生のメルアドがわたしにバレましたけど」

「えっ?」

サトシは自分宛てに画像送信できたと、どや顔したところを、桜井によって見事に粉砕された。

「それに先生の携帯は、わたしを迷惑メールと認識して、せっかくの画像が表示されないかもしれないね」

「え、ど、どうすれば?」

「チャットがいいですよ。後でわたしとLINE交換しましょ。とりあえず、今この携帯から先生が自分の携帯に電話して、ワン切りしてください」

「わかった……」

動揺しながらサトシは桜井の指示に従い、自分の携帯に電話した。

「やたっ、これで、先生の電話番号ゲットだぜー」

「桜井、お前、巧妙に聞き出したな!」

「大丈夫です。悪用厳禁。わかってますって」

サトシは焦った。
だが、桜井になら連絡先を知られてもいいかなとも思った。
そして、死ぬほどのプレッシャーからやっと解放された桜井の笑い声は、サトシにとっても癒しだった。

屋上から階段を降りながら、ときどきサトシの方を振り向く桜井の笑顔。
それは、サトシのハートにどストライクに刺さった。

(可愛い……)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...