69 / 273
第2章 一年二学期
第68話 ゆとり世代の青柳先生②
しおりを挟む
一年A組のダンス動画は、校長室で鑑賞されることになった。
教頭は動画投稿に関して、猛反対してきた。
「まあ! このように堂々と制服を校則違反している動画なんて不謹慎です。こんな生徒が白金女子学園にいると言っているようなものじゃないですかっ!」
教頭に反対されることは、想定内だ。
サトシは動画をアップする有意義さを訴えた。
「教頭先生。古式ゆかしい伝統も大切ですが、今の時代、受験生を集めるにはSNSは有効な手段です。若者に刺さる動画をあげ、注目してもらうこと。これは営業上の作戦です」
「サトシ先生! 自分の受け持ちの生徒たちだからって、ダンスを贔屓しすぎじゃないですか? 他の生徒たちの活躍はどうなんです」
「それは、学校のホームページ上に、このように写真を掲載します」
「他の展示物やフードコーナーの動画はどうなんです?」
「撮影しましたが、一般客が映ってしまうと顔にモザイクをかけなければ、投稿できませんから」
教頭が変化球を投げても、みごとに打ち返してくるサトシに、教頭はいらだった。
「では……、教務の五十嵐先生は、どう思いますか?」
「教頭先生の意見はもっともだと思います。けれども、サトシ先生の言うのも納得できます。どういうやり方が、一番白金女子学園らしいのでしょうかね」
「それは、うちの校訓である、“女性の自立と知性・理性・品格”の理念を表現したものです。でなければ、認めるわけにいきません!」
すると、五十嵐先生は最終判断を校長に委ねた。
「校長先生はどのように思いますか?」
校長は、じっと考えながらサトシ先生の企画書を眺めていたが、机の引き出しからハンコを取り出してポンと判を押した。
―採用
「非常にいいですね。許可します」
校長の出した答えに教頭は慌てた。
「いいんですか? 校長先生。この学校の理念は……」
「教頭先生、この画面の生徒たちの表情を見たかね? 実に楽しそうじゃないですか。歓声をあげて応援している生徒も、拍手を送り続ける生徒もじつに青春だ。わたしは、白金女子学園の生徒たちが輝いている姿をアピールすること、それが一番だと思います。そうじゃないかな?」
校長は優しく微笑んで、サトシに企画書を返した。
「ありがとうございます。校長先生。この動画編集は青柳先生がやってくれました」
「ほう、彼にそんな才能があったのか。……長年働いてくれている先生も、若手の先生も、この学校のことを思って行動してくれていることに変わりはありません。これからは、若手の意見をどんどん聞いて取り入れていくことも、必要ですね」
「ありがとうございます!」
サトシは、校長の声を早く青柳先生に伝えたかった。
次の朝、出勤してくると、職員室は大騒ぎになっていた。
「どうかしたんですか? みなさん」
「あ、サトシ先生、大変ですよ」
古松川先生と大山先生が、サトシの側に駆け寄って来た。
「青柳先生が、出勤してきたと思ったら、突然休職届を出して帰ってしまったんです」
「なんだって?!」
「サトシ先生は青柳先生とうまくやっていたから、何か悩みでも聞いていたのでは」
「ああ、少しだけ……」
「とにかく、青柳先生を引き留めてください、サトシ先生」
サトシは先生方に頼まれて、青柳先生に電話をすることになった。
連絡先を探している間も、教頭の咆哮が聞こえてくる。
「二学年の大事な時期にどういうことですか! 五十嵐先生は青柳先生をしっかり指導してなかったんですか!」
工藤のクラスを代打で受け持っていた五十嵐先生は、副担任だった青柳先生の責任を問われた。
電話がつながった。
「青柳先生、大丈夫ですか? サトシです。何か病気にでもなったんですか?」
―「いえ、別に」
「初めて副担任になって、疲れたんですよね。少し休んだらまた……」
―「あんな環境、やってられません! 面倒な事はみんな若手に押し付けて、副担任でも大変なのに、とても担任なんかできませんよ。サトシ先生みたいになんでも器用になんか、僕には無理です。もう辞めます」
ブツッ
電話は一方的に切られた。
もう少し悩みを聞き出せていたら、もう一日早く動画を校長に見せていたら……。
青柳先生をここまで追い込んでしまった責任が自分にもある気がして、サトシは後悔した。
悔しかった。
その日は一日、何をしても身が入らなかった。
桜井は、サトシがいつもと違う様子であることに気がついた。
生徒の間でも、青柳先生は辞めたのではないかという噂は広まっていた。
桜井は購買部で自分が食べる用にパンを買って、作ってきたお弁当はサトシに渡そうと職員室を訪ねた。
「サトシ先生、これでも食べて元気出してください」
「桜井、どうしたんですか? 急に」
「わたしには言えない事情があると思うんですけどぉ、先生が沈んでるとわたしもつまんない。そんなことより、お弁当のおかずにね、あれ! あの卵焼き入っているからっ」
「桜井……」
「動画を公開したら、また青柳先生に連絡してみたらいいんじゃないですか? よくわかんないけど」
「ああ、ありがとう」
桜井の気遣いには感謝した。
だが、過去につぶれた経験があるサトシは、自分なら青柳先生の一番の理解者になれたかもしれないのにと、後悔の念がぬぐえない。
そんなサトシを勇気づけようと、桜井は何の裏付けもなく、「大丈夫だよ」と言う。
「絶対、あの動画をバズらせてやりましょうよ。きっと青柳先生は喜ぶと思うけどなぁ」
そう言いながら、桜井はお弁当の包みを解いて、お弁当箱の蓋をあけてみせた。
すると、サトシの大好きな卵焼きが五切れも入っていた。
「うわっ、まるで卵焼き弁当じゃないか」
職員室の他の教員も、思わず桜井が持ってきたお弁当に注目した。
注目されると、桜井は小さく「すみません」と言ってサトシから離れた。
それから、満面の笑みでピースサインをすると、職員室から出て行った。
(なんだ、あいつ。なんで、俺がして欲しいことが、いつもわかるんだよ)
教頭は動画投稿に関して、猛反対してきた。
「まあ! このように堂々と制服を校則違反している動画なんて不謹慎です。こんな生徒が白金女子学園にいると言っているようなものじゃないですかっ!」
教頭に反対されることは、想定内だ。
サトシは動画をアップする有意義さを訴えた。
「教頭先生。古式ゆかしい伝統も大切ですが、今の時代、受験生を集めるにはSNSは有効な手段です。若者に刺さる動画をあげ、注目してもらうこと。これは営業上の作戦です」
「サトシ先生! 自分の受け持ちの生徒たちだからって、ダンスを贔屓しすぎじゃないですか? 他の生徒たちの活躍はどうなんです」
「それは、学校のホームページ上に、このように写真を掲載します」
「他の展示物やフードコーナーの動画はどうなんです?」
「撮影しましたが、一般客が映ってしまうと顔にモザイクをかけなければ、投稿できませんから」
教頭が変化球を投げても、みごとに打ち返してくるサトシに、教頭はいらだった。
「では……、教務の五十嵐先生は、どう思いますか?」
「教頭先生の意見はもっともだと思います。けれども、サトシ先生の言うのも納得できます。どういうやり方が、一番白金女子学園らしいのでしょうかね」
「それは、うちの校訓である、“女性の自立と知性・理性・品格”の理念を表現したものです。でなければ、認めるわけにいきません!」
すると、五十嵐先生は最終判断を校長に委ねた。
「校長先生はどのように思いますか?」
校長は、じっと考えながらサトシ先生の企画書を眺めていたが、机の引き出しからハンコを取り出してポンと判を押した。
―採用
「非常にいいですね。許可します」
校長の出した答えに教頭は慌てた。
「いいんですか? 校長先生。この学校の理念は……」
「教頭先生、この画面の生徒たちの表情を見たかね? 実に楽しそうじゃないですか。歓声をあげて応援している生徒も、拍手を送り続ける生徒もじつに青春だ。わたしは、白金女子学園の生徒たちが輝いている姿をアピールすること、それが一番だと思います。そうじゃないかな?」
校長は優しく微笑んで、サトシに企画書を返した。
「ありがとうございます。校長先生。この動画編集は青柳先生がやってくれました」
「ほう、彼にそんな才能があったのか。……長年働いてくれている先生も、若手の先生も、この学校のことを思って行動してくれていることに変わりはありません。これからは、若手の意見をどんどん聞いて取り入れていくことも、必要ですね」
「ありがとうございます!」
サトシは、校長の声を早く青柳先生に伝えたかった。
次の朝、出勤してくると、職員室は大騒ぎになっていた。
「どうかしたんですか? みなさん」
「あ、サトシ先生、大変ですよ」
古松川先生と大山先生が、サトシの側に駆け寄って来た。
「青柳先生が、出勤してきたと思ったら、突然休職届を出して帰ってしまったんです」
「なんだって?!」
「サトシ先生は青柳先生とうまくやっていたから、何か悩みでも聞いていたのでは」
「ああ、少しだけ……」
「とにかく、青柳先生を引き留めてください、サトシ先生」
サトシは先生方に頼まれて、青柳先生に電話をすることになった。
連絡先を探している間も、教頭の咆哮が聞こえてくる。
「二学年の大事な時期にどういうことですか! 五十嵐先生は青柳先生をしっかり指導してなかったんですか!」
工藤のクラスを代打で受け持っていた五十嵐先生は、副担任だった青柳先生の責任を問われた。
電話がつながった。
「青柳先生、大丈夫ですか? サトシです。何か病気にでもなったんですか?」
―「いえ、別に」
「初めて副担任になって、疲れたんですよね。少し休んだらまた……」
―「あんな環境、やってられません! 面倒な事はみんな若手に押し付けて、副担任でも大変なのに、とても担任なんかできませんよ。サトシ先生みたいになんでも器用になんか、僕には無理です。もう辞めます」
ブツッ
電話は一方的に切られた。
もう少し悩みを聞き出せていたら、もう一日早く動画を校長に見せていたら……。
青柳先生をここまで追い込んでしまった責任が自分にもある気がして、サトシは後悔した。
悔しかった。
その日は一日、何をしても身が入らなかった。
桜井は、サトシがいつもと違う様子であることに気がついた。
生徒の間でも、青柳先生は辞めたのではないかという噂は広まっていた。
桜井は購買部で自分が食べる用にパンを買って、作ってきたお弁当はサトシに渡そうと職員室を訪ねた。
「サトシ先生、これでも食べて元気出してください」
「桜井、どうしたんですか? 急に」
「わたしには言えない事情があると思うんですけどぉ、先生が沈んでるとわたしもつまんない。そんなことより、お弁当のおかずにね、あれ! あの卵焼き入っているからっ」
「桜井……」
「動画を公開したら、また青柳先生に連絡してみたらいいんじゃないですか? よくわかんないけど」
「ああ、ありがとう」
桜井の気遣いには感謝した。
だが、過去につぶれた経験があるサトシは、自分なら青柳先生の一番の理解者になれたかもしれないのにと、後悔の念がぬぐえない。
そんなサトシを勇気づけようと、桜井は何の裏付けもなく、「大丈夫だよ」と言う。
「絶対、あの動画をバズらせてやりましょうよ。きっと青柳先生は喜ぶと思うけどなぁ」
そう言いながら、桜井はお弁当の包みを解いて、お弁当箱の蓋をあけてみせた。
すると、サトシの大好きな卵焼きが五切れも入っていた。
「うわっ、まるで卵焼き弁当じゃないか」
職員室の他の教員も、思わず桜井が持ってきたお弁当に注目した。
注目されると、桜井は小さく「すみません」と言ってサトシから離れた。
それから、満面の笑みでピースサインをすると、職員室から出て行った。
(なんだ、あいつ。なんで、俺がして欲しいことが、いつもわかるんだよ)
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる