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第4章 二年一学期
第138話 腐女子教員が見つめる先は若手三人組
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桜井の退学か、それともサトシの辞職かと、大事件にまで発展した緊急職員会議が終わって一週間が過ぎた。
あれから教頭は、かつての権力を失いつつあった。
理事会では、教頭の減給10分の1、六か月間という懲戒処分が下された。
それだけではなく、副校長という新しい役職が設定され、そこに五十嵐先生が就任した。
実質、教頭は職員室で雑務をするだけの存在になっていた。
しかし、幸いなことに学校は夏休みで、登校してくる生徒たちが少なく、白金女子学園内で噂になることはなかった。
「サトシ先生、学校説明会の件で相談なんですけど、いいですか?」
青柳先生に話しかけられて、サトシはパソコンの手を止めた。
「はい。何でしょう」
サトシが青柳先生を見ると、髪型が少し変わった気がした。
「サトシ先生、学校説明会では学校の紹介を教師が述べるだけじゃなくて、在校生が活躍している姿や声を直に感じ取ってほしいと思っているんです」
「青柳先生、髪、切りました? それってツーブロックってやつですか?」
「あ、ダメでした? 校則違反なんですか?」
「いいえ。教員に校則違反なんてないですよ。そうじゃなくて、かっこいいなと思いまして」
「え、そんな。やめてくださいよ。ってか、聞いています? 僕の話」
「ここのラインがいいですね」
サトシは青柳先生の側頭部に手を伸ばした。
それを向かいの席から見ていた腐女子教員たちが、ひそひそ話しを始めた。
「ご覧になってます? 赤川先生」
「ええ、見てますとも、緑川先生」
「ちょっと、あの二人はどちらも未婚の男性ですわよ」
「でも、サトシ先生には桜井さんが……」
「あら、それは本当の性的嗜好を隠すためのイミテーションだったのよ。職員室でまたこんな尊いシーンを見られるなんて、ドキドキしません?」
「そうですね。あ、ご覧になって。工藤先生が加わりました。三角関係でしょうか?」
「かつての恋人工藤先生と、新しい恋人青柳先生の間で揺れるサトシ先生ですわね」
「しかも、半そでシャツから、あんなに肌を露出して……いけませんわ」
「こんなシーンが見られて、よかったですわね。これで退勤時間まで、仕事を頑張れそうです」
腐女子教員たちからBL風に見られているとは、思いもよらないサトシは、工藤先生の腕をつかんで引き留めた。
「待ってくれ工藤。青柳先生のアイディアをつぶしたくない。どうすればいいか教えろよ」
「夏休み中はもう間に合わないだろが。白金祭に入学相談コーナーを設けたらどうだろう。
在校生の生き生きとした姿も見られるし、生徒会が校内を案内するツアーを実施するとか」
「工藤、お前って天才? 確かに、長たらしい説明は、学校案内パンフレットに書けばいいしね」
「大学のオープンキャンパスをイメージしただけなんだけど」
青柳先生も工藤先生の意見に共感した。
「なるほどー。それはいいですね、工藤先生。オープンキャンパスといえば、今頃生徒たちは行っているのかな。大学のオープンキャンパス」
「志望校が絞れている子は、行ってるだろうけどね。二年生だと、まだそこまで受験する意識が高くない子もいるからね。これから、オープンキャンパスがきっかけになればいいんじゃないかな?」
そこまで言って、工藤先生はサトシの表情が曇ったことに気が付いた。
「サトシ……何か気になるのなら、直接指導してやれば? 桜井のことだろ、どうせ」
「え、何、その話。ここで言わなくても」
青柳先生も工藤先生に賛同して、サトシの心に火を点けた。
「そうですよ。桜井はやる気はあるのに、夢が見えていないんですよ。オープンキャンパスに一緒に行ってあげたらどうですか?」
「それは保護者の役目でしょう」
「どうせ半分保護者みたいなもんだろ、お前。ここは青柳先生の言う通りに、一緒に行ってやれよ」
「そうですよ。昔と今じゃ、大学受験は変わっています。保護者よりも我々の方が大学受験には詳しいんですから」
サトシは工藤先生と青柳先生に説得されて、だんだんその気になりつつあった。
(夢なんてないと言っていたな、桜井は。今頃は夏休みの課題で泣いているかもしれない)
先生たちが、席に戻ったタイミングで、サトシはトイレに行って桜井にLINEした。
:泣いてる?
何度か桜井とLINEのやり取りをした後、サトシは机に戻って高速で仕事を処理し始めた。
「サトシ先生、何かいいことでもありました?」
青柳先生は、いつも鋭い。
「ええ、さっそく桜井と会ってみます」
「よかったっスね。教頭先生がおとなしくなった今ですよ」
「しっ! それは禁句ですよ。青柳先生」
サトシが注意すると、青柳先生は舌を出して肩をすくめた。
それを見たサトシは呆れた。
(いい人なんだが、どこか学生気分が抜けていないんだよな。青柳先生は)
腐女子の赤川先生は、緑川先生をつっついた。
「ほら、やっぱり。新しい恋人の方を取ったんですわ、サトシ先生」
「まぁ、青柳先生ったら、えへへなんて舌出しちゃって!」
「これで、サトシ先生が『こいつぅ』なんて、おでこをつついたら完璧ですわね」
サトシは青柳先生の前髪にゴミが付いていたので取ってやった。
「ちょっと青柳先生、動かないで。ゴミが……」
赤川先生と緑川先生は、それを見て悶絶した。
あれから教頭は、かつての権力を失いつつあった。
理事会では、教頭の減給10分の1、六か月間という懲戒処分が下された。
それだけではなく、副校長という新しい役職が設定され、そこに五十嵐先生が就任した。
実質、教頭は職員室で雑務をするだけの存在になっていた。
しかし、幸いなことに学校は夏休みで、登校してくる生徒たちが少なく、白金女子学園内で噂になることはなかった。
「サトシ先生、学校説明会の件で相談なんですけど、いいですか?」
青柳先生に話しかけられて、サトシはパソコンの手を止めた。
「はい。何でしょう」
サトシが青柳先生を見ると、髪型が少し変わった気がした。
「サトシ先生、学校説明会では学校の紹介を教師が述べるだけじゃなくて、在校生が活躍している姿や声を直に感じ取ってほしいと思っているんです」
「青柳先生、髪、切りました? それってツーブロックってやつですか?」
「あ、ダメでした? 校則違反なんですか?」
「いいえ。教員に校則違反なんてないですよ。そうじゃなくて、かっこいいなと思いまして」
「え、そんな。やめてくださいよ。ってか、聞いています? 僕の話」
「ここのラインがいいですね」
サトシは青柳先生の側頭部に手を伸ばした。
それを向かいの席から見ていた腐女子教員たちが、ひそひそ話しを始めた。
「ご覧になってます? 赤川先生」
「ええ、見てますとも、緑川先生」
「ちょっと、あの二人はどちらも未婚の男性ですわよ」
「でも、サトシ先生には桜井さんが……」
「あら、それは本当の性的嗜好を隠すためのイミテーションだったのよ。職員室でまたこんな尊いシーンを見られるなんて、ドキドキしません?」
「そうですね。あ、ご覧になって。工藤先生が加わりました。三角関係でしょうか?」
「かつての恋人工藤先生と、新しい恋人青柳先生の間で揺れるサトシ先生ですわね」
「しかも、半そでシャツから、あんなに肌を露出して……いけませんわ」
「こんなシーンが見られて、よかったですわね。これで退勤時間まで、仕事を頑張れそうです」
腐女子教員たちからBL風に見られているとは、思いもよらないサトシは、工藤先生の腕をつかんで引き留めた。
「待ってくれ工藤。青柳先生のアイディアをつぶしたくない。どうすればいいか教えろよ」
「夏休み中はもう間に合わないだろが。白金祭に入学相談コーナーを設けたらどうだろう。
在校生の生き生きとした姿も見られるし、生徒会が校内を案内するツアーを実施するとか」
「工藤、お前って天才? 確かに、長たらしい説明は、学校案内パンフレットに書けばいいしね」
「大学のオープンキャンパスをイメージしただけなんだけど」
青柳先生も工藤先生の意見に共感した。
「なるほどー。それはいいですね、工藤先生。オープンキャンパスといえば、今頃生徒たちは行っているのかな。大学のオープンキャンパス」
「志望校が絞れている子は、行ってるだろうけどね。二年生だと、まだそこまで受験する意識が高くない子もいるからね。これから、オープンキャンパスがきっかけになればいいんじゃないかな?」
そこまで言って、工藤先生はサトシの表情が曇ったことに気が付いた。
「サトシ……何か気になるのなら、直接指導してやれば? 桜井のことだろ、どうせ」
「え、何、その話。ここで言わなくても」
青柳先生も工藤先生に賛同して、サトシの心に火を点けた。
「そうですよ。桜井はやる気はあるのに、夢が見えていないんですよ。オープンキャンパスに一緒に行ってあげたらどうですか?」
「それは保護者の役目でしょう」
「どうせ半分保護者みたいなもんだろ、お前。ここは青柳先生の言う通りに、一緒に行ってやれよ」
「そうですよ。昔と今じゃ、大学受験は変わっています。保護者よりも我々の方が大学受験には詳しいんですから」
サトシは工藤先生と青柳先生に説得されて、だんだんその気になりつつあった。
(夢なんてないと言っていたな、桜井は。今頃は夏休みの課題で泣いているかもしれない)
先生たちが、席に戻ったタイミングで、サトシはトイレに行って桜井にLINEした。
:泣いてる?
何度か桜井とLINEのやり取りをした後、サトシは机に戻って高速で仕事を処理し始めた。
「サトシ先生、何かいいことでもありました?」
青柳先生は、いつも鋭い。
「ええ、さっそく桜井と会ってみます」
「よかったっスね。教頭先生がおとなしくなった今ですよ」
「しっ! それは禁句ですよ。青柳先生」
サトシが注意すると、青柳先生は舌を出して肩をすくめた。
それを見たサトシは呆れた。
(いい人なんだが、どこか学生気分が抜けていないんだよな。青柳先生は)
腐女子の赤川先生は、緑川先生をつっついた。
「ほら、やっぱり。新しい恋人の方を取ったんですわ、サトシ先生」
「まぁ、青柳先生ったら、えへへなんて舌出しちゃって!」
「これで、サトシ先生が『こいつぅ』なんて、おでこをつついたら完璧ですわね」
サトシは青柳先生の前髪にゴミが付いていたので取ってやった。
「ちょっと青柳先生、動かないで。ゴミが……」
赤川先生と緑川先生は、それを見て悶絶した。
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