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第7章 三年一学期
第201話 第一志望は白金女子学園じゃなかった
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サトシが桜井の実家に行くと、長谷川さんはとても機嫌が良かった。
桜井の母も、今日はお店が休みだからと、一家団欒の時を過ごしていた。
「サトシ先生、ビールでいいですか?」
「いいえ、今日は夏期講習のプリントをお持ちしただけですから、すぐに帰りますので」
「あらぁ、そんな……ゆっくりしてくださいな。そうそう、うちの店から持ち出した箒の話もしたいし……」
サトシは、箒の話と聞いてサーっと顔が青ざめた。
長谷川さんが不思議そうな顔していた。
「何だね。箒って」
サトシは慌ててごまかした。
「いやぁ、性能のいい箒があるというので、ちょっとお借りしまして……」
「オホホホホ……、その結果が娘から写真で送られてきましてね」
「え?」
「ほら、サトシ先生の寝顔、どアップ!」
桜井の母は、スマホ画面に、酔いつぶれて寝ているサトシの写真を見せた。
「いつの間に……!!! おい、桜井……さん」
桜井がキッチンから顔を出した。
「呼んだぁ―?」
「い、いつの間に俺が酔いつぶれている写真を撮ったんだ」
「あー! お母さん。バラしちゃダメじゃん。それは我が家の家宝にするんだから」
「家宝?」
そこへ、アキラとアツシがやってきて桜井の手を引っ張った。
「美柑、ワンコの散歩に一緒に行こうぜー!!」
「お姉ちゃんは遠慮するわ」
「えええーーー! 行こうよ。たまにしかワンコと遊ばないんだから、散歩ぐらい付き合ってもいいだろー!」
「嫌よ。わたしは先生と一緒にいるんだから」
「おじさんとは、いつも一緒にいるじゃないか。今日は、僕たちを優先しろよな!」
小学生の弟アキラの言っていることには一理あった。
サトシは、桜井とアキラの時間を作ってあげたいと思った。
「桜井、行ってきなさい。俺はご両親とお話があるから」
「わかったー」
桜井は渋々とワンコの散歩に弟たちと一緒に出掛けた。
サトシは、一杯だけならと長谷川とビールで乾杯した。
長谷川はずっと上機嫌だ。
「指定校推薦で校内選考さえクリアすれば、結婚式の準備に専念できますね、先生」
「お嬢さんは、指定校推薦を受けると言ったんですか?」
「ええ、わかりました、って返事しましたよ」
(その言い方だとしたら、心から納得していないのでは……)
「そうですか。でも、まだ決まったわけではありませんし、指定校の話はまだ他ではしないほうがいいです。長谷川さん」
「はい、そうですね。すみません、つい……」
「そうよ、あなた。喜びすぎよ」
桜井の母は、長谷川をピシャリと叱った。
サトシは、その様子を見て、仲がいいご両親だなと羨ましくなった。
「で、今日の夏期講習ですが、お嬢さんが午後もお休みだったわけは何でしょう」
それは、桜井の母が説明した。
「TEAP試験から帰ってきたら、なんだかやる気を失くしたみたいに座り込んじゃってね。疲れているのかと思って、放っておいたんですけど。やっぱり、夏期講習があったんですね。申し訳ありません」
「いえ、いえ。体調不良でないのなら……、安心しました」
「体調不良なわけがないでしょ。犬の散歩に出かける子が」
「そ、そうですね。ははは」
「あなた、向こうからワインを持ってきてくださる?」
「お母さん、わたしはもう飲みませんから」
長谷川は妻に言われた通りに、ワインを取りに席を外した。
長谷川がリビングのドアを閉めたのを確認すると、桜井の母は真剣な表情でサトシに訴えた。
「長谷川はああして喜んでいますけど、わたしはそうじゃありませんの」
「お母さん?」
「美柑です。あの子って聞き訳がいいでしょ。たぶん、長谷川の気持ちを読んでいるんだと思います」
「そうですか」
「あの子、小さなころからずっと、家の為に我慢して育ってきた子なんです。高校だって、アキラを育てるために家から近いと言う理由で選んだんですよ。本心は都立の共学校に行きたかったのに……。それは、わたしにも責任があるのはわかっています」
桜井から、白金女子学園を希望した理由は聞いていた。
弟の世話をするために、家から一番近い距離という理由で選んだと言っていた。
だが、本当は都立の共学校に行きたかったという話は、初耳だった。
「お母さん、そんな……」
「自分の進路を決める大事な決断を、もう家の為に我慢させたくないのです。あの子には、自分の人生を選ぶ権利がありますし。自分が歩みたい人生を選んで、幸せになって欲しい……それが、わたしの母親としての願いです」
「では、それをお母さんの口から桜井に言えば、わかってくれますよ」
「わたしが言ったら、喧嘩になりますでしょ? サトシ先生、お願いします。あの子の本当の気持ちを探って、自分のために道を進むよう、指導してくださいませんか? 先生なら、あの子は素直に自分の気持ちを言うと思うんです」
「わかりました。わたしにできることなら……」
遠くから長谷川が、桜井の母を呼んでいる。
「おーい、ワインはキャンティでいいのかなー!」
「もう、しょうがないわね。先生、ちょっと失礼しますね」
桜井の母は、長谷川のほうへ行った。
サトシは、テーブルにひとりになった。
(お母さんが心配している通り、桜井が家族のために学部を変更しようとしているのなら、工藤の言ったことは当たっていたかも……。きっとモチベーションが下がって午後も欠席したんだろうな)
桜井の母から気持を聞いてとほしいと頼まれたが、桜井のことだから、単刀直入に聞いても本心は言わない可能性が高いとサトシは思った。
(俺でも無理だよ。さて、どうやって自然に言わせようか……)
サトシは、枝豆とビールの前で腕組みして考え込んだ。
家政婦のハマさんは、サトシの真剣な横顔をじっと見ていた。
(サトシ先生、なんて険しい目で枝豆を睨んでるの……。枝豆に親でも殺された?)
桜井の母も、今日はお店が休みだからと、一家団欒の時を過ごしていた。
「サトシ先生、ビールでいいですか?」
「いいえ、今日は夏期講習のプリントをお持ちしただけですから、すぐに帰りますので」
「あらぁ、そんな……ゆっくりしてくださいな。そうそう、うちの店から持ち出した箒の話もしたいし……」
サトシは、箒の話と聞いてサーっと顔が青ざめた。
長谷川さんが不思議そうな顔していた。
「何だね。箒って」
サトシは慌ててごまかした。
「いやぁ、性能のいい箒があるというので、ちょっとお借りしまして……」
「オホホホホ……、その結果が娘から写真で送られてきましてね」
「え?」
「ほら、サトシ先生の寝顔、どアップ!」
桜井の母は、スマホ画面に、酔いつぶれて寝ているサトシの写真を見せた。
「いつの間に……!!! おい、桜井……さん」
桜井がキッチンから顔を出した。
「呼んだぁ―?」
「い、いつの間に俺が酔いつぶれている写真を撮ったんだ」
「あー! お母さん。バラしちゃダメじゃん。それは我が家の家宝にするんだから」
「家宝?」
そこへ、アキラとアツシがやってきて桜井の手を引っ張った。
「美柑、ワンコの散歩に一緒に行こうぜー!!」
「お姉ちゃんは遠慮するわ」
「えええーーー! 行こうよ。たまにしかワンコと遊ばないんだから、散歩ぐらい付き合ってもいいだろー!」
「嫌よ。わたしは先生と一緒にいるんだから」
「おじさんとは、いつも一緒にいるじゃないか。今日は、僕たちを優先しろよな!」
小学生の弟アキラの言っていることには一理あった。
サトシは、桜井とアキラの時間を作ってあげたいと思った。
「桜井、行ってきなさい。俺はご両親とお話があるから」
「わかったー」
桜井は渋々とワンコの散歩に弟たちと一緒に出掛けた。
サトシは、一杯だけならと長谷川とビールで乾杯した。
長谷川はずっと上機嫌だ。
「指定校推薦で校内選考さえクリアすれば、結婚式の準備に専念できますね、先生」
「お嬢さんは、指定校推薦を受けると言ったんですか?」
「ええ、わかりました、って返事しましたよ」
(その言い方だとしたら、心から納得していないのでは……)
「そうですか。でも、まだ決まったわけではありませんし、指定校の話はまだ他ではしないほうがいいです。長谷川さん」
「はい、そうですね。すみません、つい……」
「そうよ、あなた。喜びすぎよ」
桜井の母は、長谷川をピシャリと叱った。
サトシは、その様子を見て、仲がいいご両親だなと羨ましくなった。
「で、今日の夏期講習ですが、お嬢さんが午後もお休みだったわけは何でしょう」
それは、桜井の母が説明した。
「TEAP試験から帰ってきたら、なんだかやる気を失くしたみたいに座り込んじゃってね。疲れているのかと思って、放っておいたんですけど。やっぱり、夏期講習があったんですね。申し訳ありません」
「いえ、いえ。体調不良でないのなら……、安心しました」
「体調不良なわけがないでしょ。犬の散歩に出かける子が」
「そ、そうですね。ははは」
「あなた、向こうからワインを持ってきてくださる?」
「お母さん、わたしはもう飲みませんから」
長谷川は妻に言われた通りに、ワインを取りに席を外した。
長谷川がリビングのドアを閉めたのを確認すると、桜井の母は真剣な表情でサトシに訴えた。
「長谷川はああして喜んでいますけど、わたしはそうじゃありませんの」
「お母さん?」
「美柑です。あの子って聞き訳がいいでしょ。たぶん、長谷川の気持ちを読んでいるんだと思います」
「そうですか」
「あの子、小さなころからずっと、家の為に我慢して育ってきた子なんです。高校だって、アキラを育てるために家から近いと言う理由で選んだんですよ。本心は都立の共学校に行きたかったのに……。それは、わたしにも責任があるのはわかっています」
桜井から、白金女子学園を希望した理由は聞いていた。
弟の世話をするために、家から一番近い距離という理由で選んだと言っていた。
だが、本当は都立の共学校に行きたかったという話は、初耳だった。
「お母さん、そんな……」
「自分の進路を決める大事な決断を、もう家の為に我慢させたくないのです。あの子には、自分の人生を選ぶ権利がありますし。自分が歩みたい人生を選んで、幸せになって欲しい……それが、わたしの母親としての願いです」
「では、それをお母さんの口から桜井に言えば、わかってくれますよ」
「わたしが言ったら、喧嘩になりますでしょ? サトシ先生、お願いします。あの子の本当の気持ちを探って、自分のために道を進むよう、指導してくださいませんか? 先生なら、あの子は素直に自分の気持ちを言うと思うんです」
「わかりました。わたしにできることなら……」
遠くから長谷川が、桜井の母を呼んでいる。
「おーい、ワインはキャンティでいいのかなー!」
「もう、しょうがないわね。先生、ちょっと失礼しますね」
桜井の母は、長谷川のほうへ行った。
サトシは、テーブルにひとりになった。
(お母さんが心配している通り、桜井が家族のために学部を変更しようとしているのなら、工藤の言ったことは当たっていたかも……。きっとモチベーションが下がって午後も欠席したんだろうな)
桜井の母から気持を聞いてとほしいと頼まれたが、桜井のことだから、単刀直入に聞いても本心は言わない可能性が高いとサトシは思った。
(俺でも無理だよ。さて、どうやって自然に言わせようか……)
サトシは、枝豆とビールの前で腕組みして考え込んだ。
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