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第10章 Wedding編
第261話 控室のサトシと父、そして…
しおりを挟む結婚式の直前、サトシは佐藤家側の控室にいた。
サトシの母は、完璧なメイクとドレスの着付けの為に、ホテル内の美容室でまだ準備中だ。
「母さん、こんな時間まで何やってんだ」
サトシは少しイラつきながら、緊張気味だった。
「サトシ、落ち着きなさい」
「落ち着いてますよ!」
「顔が恐い……」
「父親譲りなもんで、こんな顔なんですよ」
父は、フッと笑うとサトシの前に立ち、蝶ネクタイを直してやった。
「……曲がってるぞ」
「……サンキュ」
蝶ネクタイを直してくれる父の手は、かすかに震えていた。
「言っておくが、サトシ。お前の顔は母さん似だ。性格は……わし譲りかもしれんが……」
「よかったです。両親のいいとこどりで……」
父は満足げに笑った。
父の笑った顔なんて、見たことが無かったサトシは、それだけで少し安心した。
「式までまだ時間がある。肩がこるから上着だけでも脱いでゆっくりしとけ」
「うん。そうします」
サトシは、タキシードの上着を椅子に掛けた。
父もソファに座り直して、しみじみと話し始めた。
「まさか、お前が先に結婚するとはな……。レイコだよ、あいつは大丈夫か? 今だ嫁に行く気配がないんだが……」
「今日の結婚式で司会をお願いしています。意外と結婚式って出会いの場かもしれませんよ」
「何?」
「フン、本当はレイコ姉さんを嫁に行かせたくないくせに」
「そんなことはない。いつまでも家に居られても困る」
サトシは思った。
(ああ、これ、絶対に嫁に行かせたくないときに言う言葉、あるあるだ)
「お前が美柑ちゃんと話しているのを見てると、わしと母さんと付き合い始めた頃を思い出すよ」
「へえ……桜井は、付き合い始めから積極的な女の子だったけど」
「それはうちも同じだ」
サトシと父はで小さく笑った。
他愛もない話しをしながら、父は足元に置いてあった紙袋からゴソゴソと何かを出し始めた。
「これ、うちの冷蔵庫にずっと置いてあったやつだ」
「え、何?」
父が差し出したのは一本のワインだった。
「お前が成人したときに買って、ずっと開ける機会を待ってたんだ。今日、お前が一人前の男になった証だ」
「父さん、まさかそれを……。披露宴で出さないでくださいよ。持ち込み料金とられるんだから」
「一緒に式後に飲もうと思ってな……持ち込み料金はどうせわしが払うんだ。問題ない」
サトシは、「あああ」と小さい声を漏らした。
「そういえばな、美柑ちゃんのお父さん……つまり、長谷川だがな、今じゃ部下だけど…昔からよく言ってたんだ」
「何を言ってたんです?」
「社長の息子さんは、頼もしい男になるって」
「そんなの……社交辞令ですよ」
「素直に喜べ。長谷川はわしにお世辞は言わん男だ」
「へえ……、そんなこと、言ってたんですか」
「そうだよ。わしはな、お前が教師になったとき、本当は誇りに思っていたんだ」
「今さらよく言うよ。あれだけ公立高校の教師なんてとバカにしていたくせに……」
父は、ふと目をそらした。
「ま、母さんには内緒だがな……」
サトシは、初めて父に認められた気がしたし、父と共通の秘密を持ったことも嬉しかった。
(父さんは、気持ちを表現するのが不器用なだけ……かもしれない……)
そして、父はぶっきらぼうに言った。
「大事にしろよ」
「……ああ」
「泣かせたら、わしが許さん」
そのあと、父とサトシの間に少しの沈黙の時間が流れた。
「ま、そんな心配、いらんか」
父は、ソファから立ち上がって、窓の外を眺めていた。
「……父さん」
「……ん?」
(これって、まさか親父とハグするタイミング? いや、男同士で恥ずかしい……)
サトシは一瞬、ハグするか迷ったが、やめた。
代わりに右手を、父に差し出した。
すると、その手を父はガッチリと握ってくれた。
父の手の温かさに、サトシは不意に泣きそうになってしまった。
そのとき、ホテルの係が控室のサトシに声をかけた。
「花嫁さまのご準備が整いました。廊下でお待ちください」
サトシは緊張を噛みしめながら、深呼吸した。
(……いよいよか)
サトシは廊下に出ると、行きかう人たちの流れを見ながら、待っていた。
すると、背中をぽん、と軽く叩かれる感触がした。
(ん?)
サトシがゆっくり振り返ると──
そこには、まるで夢のような純白のウエディングドレス姿の桜井が笑顔で立っていた。
サトシは、息をのんだ。
そして、目を見開いて、ことばを失った。
桜井は微笑みながら、小声で言った。
「なんか……ちょっとだけ見てほしかったんだけど、照れちゃうね」
サトシは、ようやく口を開いた。
「おおおお……似合いすぎて、反則だ」
「そんな反則ある?」
と、桜井が笑った。
サトシはがそっと手を取り、「行こうか」と声をかけた。
ところが、桜井は戸惑った。
「あの……」
「どうした? そんな顔して、心配するな。俺が付いているから大丈夫だよ」
「先生、上着……着ていませんけど……」
「あっ、そうだった! さっき、脱いだんだ。忘れてた! ごめん、ちょっと待ってて!」
サトシは、慌てて控室に戻った。
そんなサトシを見て、桜井は思った。
(ちょっとドレス見せに寄っただけなのに……大丈夫?)
後ろで待っていたプロのカメラマンは、にこやかにGoodサインを出していた。
(そうだった。サプライズシーンから撮るようにお願いしてたんだった。先生にわたしがサプライズしちゃったじゃない……)
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