サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない

白神ブナ

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第10章 Wedding編

第260話 受付係は白金祭の延長線上?

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 結婚式当日、受付開始30分前。

新郎側受付の青柳先生先生(独身・婚活中)は、鏡を見てネクタイを整えながら、こっそり気合いを入れていた。

(よし……今日こそは運命の出会いを掴む。結婚式ってのは、“恋の起爆装置”なんだよ。知らんけど)

隣では、同じく受付係の工藤先生が涼しい顔でチェックリストを確認していた。

「……青柳先生、なんでそんな気合い入ってんですかぁ?」



青柳先生は目をキラキラさせながら答えた。

「工藤先生が教えてくれたじゃないですか。結婚式の受付ってのは、出会いの場だって。新婦側には綺麗な若い女性とか来るだろ? そこで俺、さりげなく“運命の受付越しの出会い”を……」

「まあな。確かに新婦側の受付は同級生ってパターンが多いからな。一般的には出会いの場だよ」

「何、その一般的って……」

そのとき、若い女性の話し声が受付コーナーに近づいてきた。

やって来たのは、夏梅と一ノ瀬だ。
二か月前まで着ていた制服姿ではなく、きれいにお化粧をして、おしゃれなワンピース姿の二人は、ずっと大人っぽく見えた……。

青柳先生は、若い女性の声がした方に、満面の笑みで振り返った。

「はじめまして。新郎側の受付係の……」

夏梅はきちっとお辞儀をした。

「こんにちは! お久しぶりです、青柳先生。白金女子学園でお世話になりました、夏梅です」

一ノ瀬もお辞儀をして微笑みを返した。

「三年のとき、数学担当でしたよね。C組の一ノ瀬です。お久しぶりです」

青柳先生は凍り付いた。

「………」



「工藤先生。今日はよろしくお願いします。結婚式の受付なんて初めてなので……」

「よろしく、ご指導お願いします!」

「ああ、こんにちは。久しぶりだね。なんだか急に大人っぽくなって、今日の君たちは綺麗だよ」

「まあ、工藤先生ったら、お上手」

工藤先生は、夏梅と一ノ瀬に挨拶すると、青柳先生に小声で言った。

「な、間違いじゃないだろ? 新婦の同級生だって。 一般的には出会いの場だが、新婦が二か月前に卒業したばかりで、その同級生といえば……」

青柳先生は頭を抱え、心の中で叫んだ。

(いやああああああああああ!!)


 しばらくしてから。
工藤先生たちが受付の手順を確認していると、控室から突然サトシがタキシード姿で現れた。

「工藤!ごめん。ゲスト用の名札、ひとつ足りないかも。桜井のいとこが急に出席するって……」

突然のサトシ登場に、夏梅と一ノ瀬はうっとりとした。

「サトシ先生、かっこいいです!」

「どこの国の王子さま?!」

「おや、夏梅と一ノ瀬か。綺麗になったなぁ」

一ノ瀬はかつての担任であるサトシにうっとりしながらも、しっかりと注意した。

「ちょっと待って、サトシ先生。それ、花婿がする仕事じゃないわ。ほらほら、花婿は、式の直前は“神々しく光を放って”ないといけないのよ!」

工藤先生もうなずいた。

「そうそう、もう花嫁が見たら鼻血出すくらいカッコよくいないとな」

サトシは苦笑した。

「……俺、なんだかこの受付に来ると……テンションが白金祭になる気がするんだけど」

青柳先生は、ぼそぼそとつぶやいた。

「同級生……確かに同級生だ。それに職場の同僚……。サトシ先生、当たってますよ。これは白金祭です」

「青柳先生? あの……、大丈夫ですか?」

サトシは不安になった。

「サトシ、こっちは心配しなくていいから。ばっちりだよ。俺に任せろ」

「ああ、工藤。じゃ、頼んだよ」


 やがて、招待客たちが続々と到着した。

「本日はおめでとうございます」

招待客がお祝いの言葉を述べると、工藤先生は新郎新婦に代わって出席に対する感謝を伝えた。

「本日はお忙しいなか、ご出席いただきましてありがとうございます」

招待客からご祝儀が差し出されると、工藤先生は両手で受け取りお礼を伝えた。

「ありがとうございます。お預かりいたします」

そして、芳名帳への記帳を手で記入する位置を示して案内した。

「こちらにご記入をお願いいたします」

工藤先生は、記帳してもらっている間に出席者リストにチェックを入れていた。
次に青柳先生が、

「こちらが本日の席次表です。挙式開始の15分前になりましたら係の者が案内いたしますので、もうしばらく控え室でお待ちください。向かって右側が新郎側の控え室です」

その流れを夏梅と一ノ瀬は見て、しっかりとやり方を頭に叩き込んだ。

「夏梅、先生たちの受付見た?」

「見た。さすがだわ」

「でさ、どっちが記帳とご祝儀お預かりする?」

「わたし、白金祭で受付と食券預かりやったから、記帳とご祝儀預かりやりたい」

「オッケー。夏梅は責任感強いから、頼れるわ。じゃ、わたし案内役ね」

「一ノ瀬さん、説明をお願いね。あなたの笑顔なら好感度抜群よ」



 数分後には、新婦側の受付も板についてきた。
そのうち、青柳先生は妙にそわそわして招待客をチェックし始めた。

(まだだ……まだ終わってない……。せめて新婦側の友達で、未婚で、美人で、俺のこと知らない子は……!)

それに気づいた一ノ瀬が、わざとらしく聞こえるようにつぶやいた。

「ねえ、青柳先生って“今日は出会い目的で来ました”って顔してるよねー」

「ホントだわ。あとで美柑にチクっておこうか」

青柳先生は青ざめた。

「ごめん、それだけはやめて。ほんとに。今後の教員人生に関わるから」



受付チームの連携は抜群で、滞りなく受付は進んだ。
受付が少し落ち着き始めた頃、夏梅がふと口にした。

「でも、こういう場で運命の人と出会う人って、ほんとにいるらしいわよ、一ノ瀬さん」

「マジで? わたしもワンチャンありってこと?」

青柳先生は反射的に食いついてきた。

「ほんとに!? どこ!? どのテーブルの人だった!?」

工藤先生があきれ顔で言った。

「青柳先生、前のめりですよ。そういうところがダメなんですよ」

青柳先生は、はっとした。

「……僕、今日、仕事しに来たんだったわ」


すると、ウエディングスタッフから声がかかった。

「ご親族、ご友人の皆様。挙式に参列される皆様、お車の用が出来ました。挙式会場まで移動をお願いいたします」

工藤先生は、預かったご祝儀を専用のカバンにしまって厳重に締めた。

「さて、受付前半はここまでかな。挙式会場に移動するぞ」

一ノ瀬がそわそわしながら、工藤先生に相談した。

「工藤先生、わたしたち美柑からブーケトスに参加してって言われてるんですけど……」

「うん、参加してきていいよ。披露宴前の受付後半はそんなに多くないし、こっちは俺らで引き受けるから。なあ、青柳先生」

「はい、いいですよ。せっかくの機会だからブーケトスに参加しなさい」

「うわー、ありがとうございます! 後半の受付は桜田ミレイさんがしてくれることになってるんですけど、彼女ひとりじゃ不安で……」

「桜田はブーケトスに参加しないのか。あ、そうか。桜田は来月結婚するのか……」

青柳先生の心の声はこうだ。

(受付後半も教え子か……もう……新婦側受付との出会いは消えた。教え子とはさすがに……)

青柳先生の心の声が聞こえたのか、工藤先生はつぶやいた。

「でも、その教え子と教結婚するのがサトシなんだけど」

「はっ? 聞こえた?!」

「なんとなく……」

そんな恩師のやりとりを聞いて、一ノ瀬が吹き出すと夏梅も苦笑いした。
まるで、職員室か教室の延長戦のような、ノリと笑いに包まれた受付だった
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