サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない

白神ブナ

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第10章 Wedding編

第269話 三年前より可愛くなってゴメン

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「ここで新婦側友人代表して、桃瀬春奈さまからご挨拶をいただきます。桃瀬さんは白金女子学園で三年間新婦の美柑さんとお友達で、また私の弟サトシのかわいい教え子でもあります。私も何度かおしゃべりしたことがありますが、本当にかわいくて、ちょっとお茶目なハルちゃんです。どうぞ」

会場の拍手に迎えられ、桃瀬はマイクスタンドの前に立った。

「えー、みなさま、こんにちは! 本日は、新婦桜井美柑のご友人代表として、この場に立たせていただいております、桃瀬春奈と申します!」

マイクの前に立った桃瀬は、ぱっと花が咲いたような笑顔で会場を明るく染めた。可憐なピンクのドレス姿は、まるで本物のアイドルのようだ。
ざわつく男性陣の視線を軽く受け流しながら、彼女は続けた。

「美柑とは、高校で三年間、同じクラスでした。勉強も、イベントも、進路の悩みも、なーんでも一緒に乗り越えてきた、いちばん近くで彼女の頑張りを見てきた存在だと、自負しております!」

青柳先生は元受け持ちの生徒である桃瀬に声援を送った。

「そうだ! 君が一番仲良しだったぞ!」

「でも……」

と、声を潜めるように言い、桃瀬はイタズラっぽく微笑んだ。

「一番盛り上がる話題といえば、やっぱり、サトシ先生のことでしたよね!」

会場がどっと湧き上がった。
担任だった青柳先生はスルーされた。

「担任の僕じゃないのかー! まあ、そうかとは思ってたけど……」

サトシはちょっと照れくさそうに笑い、桜井はうつむいて肩を震わせていた。

「サトシ先生が黒板の前に立っただけで、“今日の授業は神回かも”ってざわざわして、廊下ですれ違っただけで“今の笑顔見た!?” って、騒いで。……でも、そのうち気づいたんです。みんなが『かっこいい!』って言う中で、サトシ先生の“本当の良さ”を知ってたのは、美柑だったなって」

桃瀬は優しい目で桜井を見た。

「勉強を教えてもらったり、進路の相談にのってもらったりしながら、少しずつ先生との距離を縮めていた美柑は、恋をしただけじゃなくて、ひとつずつ夢を叶えていったんです。誰よりも真面目で、一生懸命で……ほんと、悔しいほどいい女ですよね!」

笑いがまた起こる。桃瀬は一呼吸おいて、少し声を弾ませた。

「でも、今日はそんな新郎新婦に、わたしたちからちょっとサプライズを用意しました。皆さん、覚えてますか? 一年生の白金祭でやったクラスのダンス。あのときのわたしたち、めちゃくちゃ輝いてましたよね!」

桜井が驚いたように目を見開いた。

「そう、今日はね、もう一度あの輝きをみんなに見せつけようと思います! 美柑には、ちょっと“強制参加”でお願いします! 『chu可愛くてゴメン♡』、踊っちゃいます!」

笑いと歓声と拍手の中、桃瀬はくるりと振り返ってポーズをとってみせた。

「だって今日の主役は、世界一かわいい美柑だから! みなさま、お楽しみに!」

「桃瀬春奈様、心に響くスピーチ、ありがとうございました。 お二人の友情の深さを感じることができました。」

レイコ姉さんは、ここで新郎新婦が中座することを告げた。

「まもなく、新郎新婦は、お色直しのため、しばしご離席されます。この後、お二人は、素敵な衣装で再入場されますので、どうぞお楽しみになさってください。」

ウエディングスタッフのサポートを受けながら、サトシと桜井は会場を後にした。

「新郎新婦の中座中に、皆様には、お食事や歓談をゆっくりとお楽しみください。」


しばらく、歓談や食事を楽しんでいると、レイコ姉さんがアナウンスした。

「皆様、大変お待たせいたしました。まもなく、お色直しを終えた新郎新婦が、装いも新たに再登場いたします。どのような姿で現れるのか、楽しみですね!……え、さっきお友達のハルちゃんが予告していたって? まあ、みなさん記憶力いいですね。では、白金祭で伝説になりましたあのダンス。白金女子学園OGによります『chu可愛くてゴメン♡』オープン!!」

暗転した会場に、軽やかなイントロが流れ始めた。
「チュ、可愛くてゴメン♡」——
あの白金祭で爆発的に盛り上がった、あの曲だった。

すると、スポットライトが一箇所に当たり、そこには花のティアラと水色のパステルカラーのドレスに身を包んだ桜井美柑と、高校時代の同級生たちの姿が浮かび上がった!

「わぁぁああーっ!!」



会場から歓声が上がった。

音楽に合わせて、ダンスを始める女の子たち。
振り付けは完璧。
くるくるとターンする桜井の笑顔は、三年前とまったく変わらず、むしろ今のほうがずっと綺麗だった。

会場の後ろでは、サトシの母が、カメラを持ったまま、口をぽかんと開けていた。

「あなた、あの子が教え子だった……桜井さんよね?」

すると、反対側の席にいた桜井の母がニヤリと笑った。

「ええ……かわいいわねぇ、もう、ほんとに……!」

笑顔と笑い声が広がる中、サトシの父がふと眉をひそめた。

「……なあ、サトシはどこに行ったんだ? 一緒に再入場じゃないのか?」

「えっ、あら、ほんとだわ、うちの子がいない!」

ざわつくテーブル席。
メロディは、白金祭では寸劇にしていた曲の部分になった。
そのときだった。

会場スタッフの男性が、ひょいとステージ脇に現れた。
黒のエプロンに、白いシャツ姿。トレーを持って登場し、スタッフの仕草でさりげなく舞台中央に歩み寄った。

その様子を見ていた桜井の弟たち、アキラとアツシが叫んだ。

「あれ、サトシ先生じゃねっ?!!」



一瞬、会場が静まり返った。
そして次の瞬間……

サトシが、トレーを放り投げ、ターン!
おもむろに音楽に合わせて、完璧なリズムでステップを踏み始めた。

「うそでしょ……!」
「え!? なにこの展開!!」
「サプライズ・フラッシュ・モブってやつ?」

歓声が爆発する中、先生の父は吹き出し、母は手で口元を覆いながら涙ぐんだ。

「うちの子が……、あんなダンス踊れたの?」

サトシのソロパートが終わると、徐々に桜井たちのダンスと合流した。
ステージ上の桜井は、打ち合わせ通りとはいえ、かっこいいサトシに胸がキュンとした。
そして、踊る仲間たちに混じりながら、ただ一人、サトシに向かって熱い視線を送った。

サトシはステージ中央で決めポーズをとると、そのまま桜井の元へ進み出た。
そして、最後のサビのパート。
女子たちが一斉に両手を振り上げる中、サトシは桜井の前で片膝をつき、そっと手を差し伸べた。

「……行こうか、お姫様。」

桜井がその手を取ると、サトシは軽々と彼女をお姫様抱っこし、くるりと一回転しフィニッシュ。
会場は拍手と歓声とシャッター音に包まれた。



ふたりの結婚式、最大のサプライズと共に、まるで映画のクライマックスのような余興だった。

「白金女子学園OGの皆さん、そして新郎新婦による、白金祭の再現でした。素晴らしいパフォーマンスをありがとうございました! 会場全体が温かい拍手に包まれましたね。あーーー! サトシ、美柑ちゃんをまだ降ろさないで! そのままのポーズでキープして―!」

(え、このまま……お姫様抱っこしてろってか!)

「カメラをお持ちの方は、ぜひ素敵な瞬間を写真に収めてください! 後で、新郎新婦と一緒に見返すのが楽しみですね! そうよ、サトシ、写真撮る皆さんのためにもうちょっとがんばって、お姫さま抱っこ続けてくれる? 新婦を落したらだめよ。ほら、がんばれ、がんばれ……」

サトシは、レイコ姉さんに言われて、桜井をお姫さま抱っこし続け、腕の筋肉がプルプルとしてきた。
それでも、顔はクールな顔で決めていた。

(う、腕が……、しかし、これも幸せな修行と思えば……なんのこれしき)
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