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ふたりの愛憎編
06.傍観者Aの独白
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世界中のものになーんにも興味がありませんよというような顔をしている男の子だな、と思った。
びっくりするぐらい顔立ちが整っていて、びっくりするぐらい不機嫌そうな表情を保っていて。それなのに彼が弾くピアノは強すぎるぐらいの感情を持っていて、強引に自分の世界へ引っ張っていくみたいな音色だった。
私は一瞬でトリコになってしまった。彼自身にも、彼が弾くピアノにも。
彼はいわゆる「二世」の人で、母親がプロのピアニストだ。ヨーロッパを中心に活動していて、彼もうちに入学してくるまではドイツに住んでいたらしい。
「あぁー! わかった、恋人がいるかってことか!?」
聞いてるんだか聞いてないんだか判断がつかない曖昧な返事を繰り返していた彼のテンションが急に上がった。
彼の名前は月島秋人。一応同じクラスで、一応出席番号順に並ぶと二つ前。
私は彼に愛の告白をした。……ら、めちゃくちゃ丁寧な言い訳を並べてお断りされた。なにか読みながら喋ってるんじゃないかってぐらい定型文じみてて、聞いてる途中で笑いそうになるぐらい。
まぁ、ね。こうなることはわかってたんだよ。
友達と言えるほどの親密度ではないし、そもそも彼と出会ってからまだ日が浅い。私なんかの呼び出しに応じてくれただけ感謝しなきゃいけないぐらいだ。
フラれたあとも彼のことを見ているけれど、告白してくる女の子たちを順調にフりまくっているみたいだった。性格が悪いと言われるかもしれないけど、少しだけ安心した。
「月島、ちょっといい?」
今日も月島くんのことを目で追っていると、よく通る穏やかな声が彼の名前を呼んだ。声の主は身体の半分だけを教室に入れて、月島くんに向かって手招きしている。
彼は……あぁ、そうだ。確か隣のクラスの東城くんだ。
彼もピアノ科の中では有名人で、様々なコンクールで名前を目にしたことがある。月島くんとは寮のルームメイトだとかで、校内でもよくいっしょにいるんだよね。
月島くんは不機嫌そうな顔を崩さずに東城くんのもとへ行ったけど、彼の話を聞いている内に少しずつ表情が緩んでいった。へぇ、男の子の友達とならそういう顔するんだねぇ。
て言うか、いきなり東城くんが月島くんを抱きしめたな…。あの距離感はアリなんだ? どういう会話の流れでそうなるんだろ?
せっかく緩んでいた月島くんの表情がまた固くなったけど、心なしか顔が赤くなっている……ような?
「ねーえ、次って移動教室じゃなかった?」
「え!? そうだっけ!?」
次の選択科目が同じものをとっている友達に背後から促され、慌てて教科書とノートを引っ張り出して椅子から立ち上がった。
うちの学校はエスカレーターで進学することを前提とした特殊なカリキュラムなので、中等部から専門的な教科を学ぶことができる。自分の強みを伸ばすためにいくつかの教科から好きなものを選ぶので、移動教室が多いことが欠点だ。
教室から出る間際、未だにゼロ距離でくっついている月島くんと東城くんの声が聞こえてきてしまった。
「月島、今日は早く帰って来いよ。今朝の続きしような?」
「Verdammt!(くそっ!)調子に乗るな…っ!」
驚くほど感情の乗った月島くんの声が聞こえてきて、思わず足を止めそうになってしまった。
月島くんの背中から腕を回して密着する東城くんはいつものように穏やかに笑っていて、月島くんは顔を赤くして怒っている。いったいなんの話をしてるんだろう?
「ちょっと、早くー! チャイム鳴るよぉー!」
「ごめんごめん! すぐ行くー!」
廊下の向こうで手を振る友達を追いかけるべく、ちょっともったいないなと思いながらも二人の前を通り過ぎていく。
なんだか悔しいから、月島くんが見初める女の子が現れませんように。スキンシップのとり方がバグってるし、東城くんとずーっと仲良くしてますように!
彼女ができるより百倍マシでしょ!
びっくりするぐらい顔立ちが整っていて、びっくりするぐらい不機嫌そうな表情を保っていて。それなのに彼が弾くピアノは強すぎるぐらいの感情を持っていて、強引に自分の世界へ引っ張っていくみたいな音色だった。
私は一瞬でトリコになってしまった。彼自身にも、彼が弾くピアノにも。
彼はいわゆる「二世」の人で、母親がプロのピアニストだ。ヨーロッパを中心に活動していて、彼もうちに入学してくるまではドイツに住んでいたらしい。
「あぁー! わかった、恋人がいるかってことか!?」
聞いてるんだか聞いてないんだか判断がつかない曖昧な返事を繰り返していた彼のテンションが急に上がった。
彼の名前は月島秋人。一応同じクラスで、一応出席番号順に並ぶと二つ前。
私は彼に愛の告白をした。……ら、めちゃくちゃ丁寧な言い訳を並べてお断りされた。なにか読みながら喋ってるんじゃないかってぐらい定型文じみてて、聞いてる途中で笑いそうになるぐらい。
まぁ、ね。こうなることはわかってたんだよ。
友達と言えるほどの親密度ではないし、そもそも彼と出会ってからまだ日が浅い。私なんかの呼び出しに応じてくれただけ感謝しなきゃいけないぐらいだ。
フラれたあとも彼のことを見ているけれど、告白してくる女の子たちを順調にフりまくっているみたいだった。性格が悪いと言われるかもしれないけど、少しだけ安心した。
「月島、ちょっといい?」
今日も月島くんのことを目で追っていると、よく通る穏やかな声が彼の名前を呼んだ。声の主は身体の半分だけを教室に入れて、月島くんに向かって手招きしている。
彼は……あぁ、そうだ。確か隣のクラスの東城くんだ。
彼もピアノ科の中では有名人で、様々なコンクールで名前を目にしたことがある。月島くんとは寮のルームメイトだとかで、校内でもよくいっしょにいるんだよね。
月島くんは不機嫌そうな顔を崩さずに東城くんのもとへ行ったけど、彼の話を聞いている内に少しずつ表情が緩んでいった。へぇ、男の子の友達とならそういう顔するんだねぇ。
て言うか、いきなり東城くんが月島くんを抱きしめたな…。あの距離感はアリなんだ? どういう会話の流れでそうなるんだろ?
せっかく緩んでいた月島くんの表情がまた固くなったけど、心なしか顔が赤くなっている……ような?
「ねーえ、次って移動教室じゃなかった?」
「え!? そうだっけ!?」
次の選択科目が同じものをとっている友達に背後から促され、慌てて教科書とノートを引っ張り出して椅子から立ち上がった。
うちの学校はエスカレーターで進学することを前提とした特殊なカリキュラムなので、中等部から専門的な教科を学ぶことができる。自分の強みを伸ばすためにいくつかの教科から好きなものを選ぶので、移動教室が多いことが欠点だ。
教室から出る間際、未だにゼロ距離でくっついている月島くんと東城くんの声が聞こえてきてしまった。
「月島、今日は早く帰って来いよ。今朝の続きしような?」
「Verdammt!(くそっ!)調子に乗るな…っ!」
驚くほど感情の乗った月島くんの声が聞こえてきて、思わず足を止めそうになってしまった。
月島くんの背中から腕を回して密着する東城くんはいつものように穏やかに笑っていて、月島くんは顔を赤くして怒っている。いったいなんの話をしてるんだろう?
「ちょっと、早くー! チャイム鳴るよぉー!」
「ごめんごめん! すぐ行くー!」
廊下の向こうで手を振る友達を追いかけるべく、ちょっともったいないなと思いながらも二人の前を通り過ぎていく。
なんだか悔しいから、月島くんが見初める女の子が現れませんように。スキンシップのとり方がバグってるし、東城くんとずーっと仲良くしてますように!
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