革命のエチュード

鳴真 のわか

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ふたりの愛憎編

05.侵食 ──秋人 ※R18

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胸焼けしそうな甘さが心地よくなる日がくるなんて思わなかった。

「月島、もうちょっと脚開ける?」
「…っう、……っ」
「うん、そう。上手だね」

あぁ、今日も負けてしまった。今夜こそ好きなピアニストが出したアルバムを聞こうと思ってたのに。
風呂上がりに次のコンクールで弾く曲の譜読みをしていると、一足遅れて風呂に行っていた東城が帰ってきた。しばらくは最近の授業の話やコンクールの話をしていたはずが、気付いたらベッドに押し倒されていて…。

「大丈夫、身体の力抜いて。月島が気持ちいいところしか触らないから」

夏休みが明けた九月。休み中はドイツに戻っていたけど、日本に帰国して早々に俺はまた東城の底なしの甘さに酔わされる日々に戻っていた。
日本の夏が思っていたよりも暑くて、九月に入っても真夏のような暑さが続いているせいもあるのかもしれない。

「…っんぁ…! や……っと、じょ…っ!」

下半身はなにも身に付けていない状態で、東城の右手が俺のいちばん敏感な場所を愛撫する。反射的に手を払おうとして、ギリギリのところで動きを止めた。
恥ずかしくて堪らないけど、将来有望なこの男の手に怪我をさせてしまってはいけない。頭の片隅にその気持ちがずっとあって、脚を開けと言われたら開いてしまうし腰を上げろと言われたら上げてしまうのだ。
鍵盤に触れる指もペダルを踏む足も優しい東城は、俺に触れる時はもっと優しく触れているように思った。

「ふ、……っぁ、……っ~! Das ist beschämend…!(恥ずかしい…!)」
「んん? なんて?」

情けない声を抑えるように東城の肩口に顔を埋める。
恥ずかしい、恥ずかしい、でも気持ちいい。身体が甘く痺れて頭はぼんやりして、東城の右手一つでこんなふうに追い詰められている自分が信じられなかった。

「月島は……ここが好きだよな」
「…っぁ!?」

根元から先端までを強く扱かれ、人差し指と中指をカリに引っ掛けるようにして擦ってくる。
ここ? どこ? なにが!?
竿の部分も同時に扱かれ、視界がチカチカッと点滅する。すると一気に絶頂まで上りつめてしまい、東城の背中を掴んでいた手に力を入れてあっさり吐精した。

「…っは、…っぁ…は……っ」
「ふふっ、可愛いな」
「んむ」

まだ頭がクラクラしていたけど、東城が無理やり身体を引き剥がして唇を塞いできた。
舌と舌を絡められるやつ、すごく気持ちいい。もっとしてほしい。
自分からも舌を絡めてみたらやっぱり気持ち良くて、目を閉じてその快感に浸った。

「ん…。月島って手だけじゃなくて舌も器用なんだな、飲み込みが早い」

最後にちゅっと舌先に吸い付いてからキスを止めた東城は、汚れていない左手の親指で俺の唇をなぞった。
東城は誰かとキスしたことあるのかな? 俺は全部はじめてで、最初はキスの時にどうやって呼吸するかもわからなかったけど…。

「…っき、気持ちいい? 東城も……ちゃんと」

小さな声で尋ねると、なにかを見定めるように目を細めた。ピアノの鍵盤に向けられる真剣なまなざしに似ているようで、少し違うようにも見える。
なにか変なことを言ってしまったかなと息を詰めていると、僅かに口角が上がって触れるだけのキスをくれた。

「もちろん。嬉しいよ、月島がどんどんキス上手くなっていくの」
「そ、そっか…」
「ごめん、不安になった? 大丈夫だよ、俺は絶対に月島のこと裏切らないから」
「うん…」

優しく抱き寄せられて、東城の胸元に額を擦り付ける。
言葉を尽くしてくれている、と思う。俺が少しでも揺らぐと、それを口にする前にフォローを入れてくれる。
優しいな、東城は。母さんは仕事で忙しい人だからこうしてゆっくり向き合う時間もなくて、俺は家族愛すらよく理解してないけど……「愛される」ってこんな気持ちになるんだな。

「……東城、好き。大好き。……Ich liebe dich.(愛してる。)」
「うん、ありがとう」

張り詰めていた心がほぐれていって、どんどん東城に依存していってしまう自分がいる。
それが少し怖くて、でも心地よさの方が勝っていたので無視をした。


***


「月島くん、なにか心境の変化でもありましたか?」
「……はい?」

次のコンクールの課題曲になっているベートーヴェンを弾き終えて一息つくと、初老の男性教師が柔らかな声で質問を投げかけてきた。

「べつに……いつも通り弾いたつもりだったんですけど」

課題曲とは言っても、いままでに何度も弾いたことのある"ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 作品57"、『熱情』だ。俺の得意な曲の一つである。
いつも通り感情をこめて弾いたつもりだったけど、なにか変わったところがあったのだろうか?

「そう? ピアノの音が変わったような気がしたんだけれどね」
「変わった…?」
「あぁ、大丈夫だよ。決して悪いことではないから。少し柔らかくなったと言うか……うん、そうだね。感情表現にトゲがなくなったと言うべきかな」

柔らかくて甘ったるいショパンを弾く男の顔を思い出す。
心境の変化、と言うか。最近変わったことと言えばそれだけしか心当たりがなくて、でもどう説明すればいいのかわからなかった。それだけでピアノの演奏に影響が出るもんなのか?
言葉に迷っていると、ニコニコと見守っていた教師が更に目尻の皺を増やして顎の先を指で撫でた。

「なるほど、恋でも知ってしまったかな?」
「……っ!」
「月島くんにとっていい変化だと思うよ。表情も明るくなったしね」

最後に改めて演奏の総評を受けてその日のレッスンを終えた。
俺の身体の中に東城の甘さが染み込んでいって、いつか溢れてしまうんじゃないだろうか。溢れたあとはどうなるんだろうか。
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