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ふたりの愛憎編
09.主の祈り ──秋人 ※R18
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はじめて本気で好きになった相手は俺のことを世界でいちばん憎んでいたなんて、世界中の人間が知っているだろう悲劇的結末を迎えたロミオとジュリエットすら驚く展開じゃないだろうか。
「んん、っぁ、…っ…!」
背後から抱きしめるようにして覆いかぶさってきて、自分の快感だけを追うような動きで俺のナカを掻き回してくる。俺の身体を固定するためだけに腹に回された腕に縋りながら、ぎゅっと目を閉じて少しずつ高まっていく快感だけに集中した。
相変わらず寮の部屋は同じなのに、わざわざこうして学校のトイレの個室にこもってセックスをするようになったのはいつからだったろう。
個室に入り、ドアの方を向いて陽介のものを受け入れる。そこに甘い愛の言葉なんてものは存在しない。
高等部に進学してもうすぐ一年。俺と陽介の関係は中学時代とは様変わりしてしまっていた。もちろん悪い意味で。
「月島、ちゃんと腰上げて」
「ひっ…!」
耳元で低い声が囁いてきて、思わず後ろを締め付けてしまった。
陽介が呻くような声を出して、乱暴な手つきで俺の腰を掴み直す。最奥に押し付けるような形で腰を入れられ、視界に火花が散った。
「あっ、あっ…! や、っぁ…! よ、っすけ……っ」
「なに? 誘ってきたのはそっちだろ、声ぐらい我慢したら?」
「んん…っ!」
腰にあったはずの手に口を塞がれ、本気で窒息しそうになって涙が滲んだ。
ずっとずっと、酷いことをされている。傍から見たら理解されないことを続けていることは理解している。
それでも俺は陽介のことを嫌いになれなかった。
初対面の時に髪を撫でられて嬉しいと思ったのも、スキンシップという名目の毎日のハグに安心したのも、もしかしたら俺たちが双子だからなのかもしれない。恋愛感情じゃないのかもしれない。
一気に自信をなくしてしまったけど、ただの兄弟相手に性的な触れ合いを求めるなんて感情を持つことなんてあるのだろうか?
「俺のことを嫌いなままでいいからセックスしてほしい。性欲処理に使ってもいいから」
高等部に進学してからしばらく経ったころ、俺は陽介にとんでもない提案をしてしまっていた。それまでの俺たちは、キスをしたことはあれどセックスにまで至っていなかったのである。
キスをして、抱きしめられて、陽介が俺のものを手で愛撫して終わり。それだけだった。
俺の身体の負担を考えてかな、なんて思っていたけどとんでもない。憎んでいる相手となんてセックスできるわけがないのだ。
しかし俺は賭けに出た。身体のもっと奥深くまで差し出せば、陽介ももしかすると……と思ったのである。
「…っは、あー。や…っば、そろそろ……っ」
「あっ…!?」
腰の動きが速くなったと同時に、陽介の右手が俺自身を掴んで愛撫し始めた。
やだ、いやだ。そんなことしてくるから期待してしまうのに。
でも俺の口からはそのクレームが紡がれることなく、情けない喘ぎ声しか出てこない。
「くっ…!」
「…っぁ…! ひ、…っ~!」
最奥に押し付けるようにして陽介が絶頂を迎え、俺もほぼ同時に彼の手の中で達してしまった。
陽介が俺の肩口に額を擦り付けてくる。この一瞬だけは彼が俺に甘えるような仕草を見せてくれて、だからこそ諦められないのだ。
「……抜くぞ」
「…っん、……っぅあ、」
ずるり、と一気に陽介のものが出ていく。
俺の身体を支えてくれていた陽介の手も離れ、脱力するようにその場に膝をついた。腰が抜けてしまったかもしれない。
「…っおい、そんな手の付き方して体重支えるな」
「わっ…!」
かと思えば、陽介が腹に腕を回して身体を持ち上げてくれた。
そんなに変な手の付き方をしてしまっていただろうか? ……じゃ、なくて。
「よ、陽介……っあの」
セックスが終わったあとにこんなふうに触れられるなんてはじめてのことで、胸の高鳴りが抑えられない。
たとえ陽介が心配してくれたのが「俺 」じゃなくて「俺の手」だったとしても嬉しかった。
「……ほら、早く身なり整えて。そろそろ昼休み終わるから」
「ご、ごめん…」
背後で陽介がベルトを締めている音がして、俺も慌てて足首辺りにある下着とズボンを引き上げた。
授業はなるべくサボりたくなかった。もしかしたら母さんに連絡がいってしまうかもしれないし、そんなことで心配させたくない。
「月島、最近ちょっと痩せた?」
「えっ?」
手が震えて上手くベルトを締められないでいると、陽介が背後から手を伸ばしてきた。代わりにベルトを手にして、少し乱暴な手つきで俺の身なりを整えてくれる。
「ベルト、もうちょい外側の穴使ってたろ。腰周りがちょっと細くなった……というか」
「え……と、どうだろ。自分じゃわかんない、かも」
体重なんて健康診断の時に測るぐらいだし、ベルトの穴の位置なんて覚えていない。陽介は把握してたってことだろうか?
「……なぁ、もう諦める気になった?」
「は…?」
「俺のこと。俺はたぶん月島のことずっと嫌いなままだよ」
「…っ…」
残酷なことを言われているのはわかる。俺はそこまで鈍くない。
でも陽介の声がなぜか優しい響きに変わったように感じて、自分のシャツの胸元をぎゅっと強く掴んだ。
「月島のことは嫌いだけど、月島のピアノは嫌いじゃないよ」
俺を傷つけたその口で、俺がいちばん大切にしているものを褒められた。思わず声が出そうになって、慌てて唇を噛み締める。
陽介は俺が調子を崩していたことに気付いていたはずだ。結局俺は中学の卒業公演でピアノを弾くことを辞退する羽目にまでなったのだから。
どこからか俺の状態を知ったらしい母さんによってドイツに連れ戻され、高等部に進学する直前まで療養生活のようなものをしていたお陰でなんとか調子を取り戻すことができたけど…。
母さんに言うべきだったんだろうか。全てを話すことはしないにしても、実の兄である陽介がそばにいるってことぐらいは。
「なぁ、月島。一つだけ約束してくれ」
いきなり声を柔らかくした陽介がゆっくりと俺の身体を反転させる。
一瞬だけ目が合った。陽介はなぜか泣きそうな顔をしていて、それに驚く暇もなく強く抱きしめられる。
「どんなに傷付いてもピアノを弾くことはやめるなよ」
俺は自分の胸元をぎゅっと握りしめ、心の中でそっと神に祈った。
あぁ、神よ。俺を傷付けたいと言いながら自分の方が傷付いているこの不器用な男に、どうか手を差し伸べてはくれないだろうか。
「Vater unser im Himmel...(天にまします我らの父よ…)」
祈りの言葉を小さく口に出して、陽介の背中に腕を回した。
陽介はなにも言わなかった。俺が祈ったことも、抱きしめ返したことにも気付いているはずなのに。
「ごめん、もう少しだけ好きでいさせて」
耳元で懺悔すると、ちょうど昼休み終了のチャイムが鳴った。
「んん、っぁ、…っ…!」
背後から抱きしめるようにして覆いかぶさってきて、自分の快感だけを追うような動きで俺のナカを掻き回してくる。俺の身体を固定するためだけに腹に回された腕に縋りながら、ぎゅっと目を閉じて少しずつ高まっていく快感だけに集中した。
相変わらず寮の部屋は同じなのに、わざわざこうして学校のトイレの個室にこもってセックスをするようになったのはいつからだったろう。
個室に入り、ドアの方を向いて陽介のものを受け入れる。そこに甘い愛の言葉なんてものは存在しない。
高等部に進学してもうすぐ一年。俺と陽介の関係は中学時代とは様変わりしてしまっていた。もちろん悪い意味で。
「月島、ちゃんと腰上げて」
「ひっ…!」
耳元で低い声が囁いてきて、思わず後ろを締め付けてしまった。
陽介が呻くような声を出して、乱暴な手つきで俺の腰を掴み直す。最奥に押し付けるような形で腰を入れられ、視界に火花が散った。
「あっ、あっ…! や、っぁ…! よ、っすけ……っ」
「なに? 誘ってきたのはそっちだろ、声ぐらい我慢したら?」
「んん…っ!」
腰にあったはずの手に口を塞がれ、本気で窒息しそうになって涙が滲んだ。
ずっとずっと、酷いことをされている。傍から見たら理解されないことを続けていることは理解している。
それでも俺は陽介のことを嫌いになれなかった。
初対面の時に髪を撫でられて嬉しいと思ったのも、スキンシップという名目の毎日のハグに安心したのも、もしかしたら俺たちが双子だからなのかもしれない。恋愛感情じゃないのかもしれない。
一気に自信をなくしてしまったけど、ただの兄弟相手に性的な触れ合いを求めるなんて感情を持つことなんてあるのだろうか?
「俺のことを嫌いなままでいいからセックスしてほしい。性欲処理に使ってもいいから」
高等部に進学してからしばらく経ったころ、俺は陽介にとんでもない提案をしてしまっていた。それまでの俺たちは、キスをしたことはあれどセックスにまで至っていなかったのである。
キスをして、抱きしめられて、陽介が俺のものを手で愛撫して終わり。それだけだった。
俺の身体の負担を考えてかな、なんて思っていたけどとんでもない。憎んでいる相手となんてセックスできるわけがないのだ。
しかし俺は賭けに出た。身体のもっと奥深くまで差し出せば、陽介ももしかすると……と思ったのである。
「…っは、あー。や…っば、そろそろ……っ」
「あっ…!?」
腰の動きが速くなったと同時に、陽介の右手が俺自身を掴んで愛撫し始めた。
やだ、いやだ。そんなことしてくるから期待してしまうのに。
でも俺の口からはそのクレームが紡がれることなく、情けない喘ぎ声しか出てこない。
「くっ…!」
「…っぁ…! ひ、…っ~!」
最奥に押し付けるようにして陽介が絶頂を迎え、俺もほぼ同時に彼の手の中で達してしまった。
陽介が俺の肩口に額を擦り付けてくる。この一瞬だけは彼が俺に甘えるような仕草を見せてくれて、だからこそ諦められないのだ。
「……抜くぞ」
「…っん、……っぅあ、」
ずるり、と一気に陽介のものが出ていく。
俺の身体を支えてくれていた陽介の手も離れ、脱力するようにその場に膝をついた。腰が抜けてしまったかもしれない。
「…っおい、そんな手の付き方して体重支えるな」
「わっ…!」
かと思えば、陽介が腹に腕を回して身体を持ち上げてくれた。
そんなに変な手の付き方をしてしまっていただろうか? ……じゃ、なくて。
「よ、陽介……っあの」
セックスが終わったあとにこんなふうに触れられるなんてはじめてのことで、胸の高鳴りが抑えられない。
たとえ陽介が心配してくれたのが「俺 」じゃなくて「俺の手」だったとしても嬉しかった。
「……ほら、早く身なり整えて。そろそろ昼休み終わるから」
「ご、ごめん…」
背後で陽介がベルトを締めている音がして、俺も慌てて足首辺りにある下着とズボンを引き上げた。
授業はなるべくサボりたくなかった。もしかしたら母さんに連絡がいってしまうかもしれないし、そんなことで心配させたくない。
「月島、最近ちょっと痩せた?」
「えっ?」
手が震えて上手くベルトを締められないでいると、陽介が背後から手を伸ばしてきた。代わりにベルトを手にして、少し乱暴な手つきで俺の身なりを整えてくれる。
「ベルト、もうちょい外側の穴使ってたろ。腰周りがちょっと細くなった……というか」
「え……と、どうだろ。自分じゃわかんない、かも」
体重なんて健康診断の時に測るぐらいだし、ベルトの穴の位置なんて覚えていない。陽介は把握してたってことだろうか?
「……なぁ、もう諦める気になった?」
「は…?」
「俺のこと。俺はたぶん月島のことずっと嫌いなままだよ」
「…っ…」
残酷なことを言われているのはわかる。俺はそこまで鈍くない。
でも陽介の声がなぜか優しい響きに変わったように感じて、自分のシャツの胸元をぎゅっと強く掴んだ。
「月島のことは嫌いだけど、月島のピアノは嫌いじゃないよ」
俺を傷つけたその口で、俺がいちばん大切にしているものを褒められた。思わず声が出そうになって、慌てて唇を噛み締める。
陽介は俺が調子を崩していたことに気付いていたはずだ。結局俺は中学の卒業公演でピアノを弾くことを辞退する羽目にまでなったのだから。
どこからか俺の状態を知ったらしい母さんによってドイツに連れ戻され、高等部に進学する直前まで療養生活のようなものをしていたお陰でなんとか調子を取り戻すことができたけど…。
母さんに言うべきだったんだろうか。全てを話すことはしないにしても、実の兄である陽介がそばにいるってことぐらいは。
「なぁ、月島。一つだけ約束してくれ」
いきなり声を柔らかくした陽介がゆっくりと俺の身体を反転させる。
一瞬だけ目が合った。陽介はなぜか泣きそうな顔をしていて、それに驚く暇もなく強く抱きしめられる。
「どんなに傷付いてもピアノを弾くことはやめるなよ」
俺は自分の胸元をぎゅっと握りしめ、心の中でそっと神に祈った。
あぁ、神よ。俺を傷付けたいと言いながら自分の方が傷付いているこの不器用な男に、どうか手を差し伸べてはくれないだろうか。
「Vater unser im Himmel...(天にまします我らの父よ…)」
祈りの言葉を小さく口に出して、陽介の背中に腕を回した。
陽介はなにも言わなかった。俺が祈ったことも、抱きしめ返したことにも気付いているはずなのに。
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耳元で懺悔すると、ちょうど昼休み終了のチャイムが鳴った。
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