革命のエチュード

鳴真 のわか

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真実のドイツ編

21.少しずつ ──秋人

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「俺と秋人、付き合ってるんだ。恋人なんだ、兄弟だけど」
「陽介っ!」

なんで言っちゃうんだ、と思ってしまった。
母さんに背を向ける形で陽介に抱きしめられているせいで、二人の表情がわからない。なにを考えているのかがわからない。
だからと言って母さんの方を向くのも怖くてじっとしていると、陽介がなだめるように背中を撫でてきた。

「できれば母さんにだけは祝福してほしい」

なんて些細な願いなんだと思った。
お願い事なんて大袈裟なぐらい規模が大きくてもいいものだと思う。世界一幸せになります、なんて言っても怒る奴なんていないだろうから。
それなのに陽介は、俺の好きな人は。母親にだけ祝福されたいと、本当に小さな願い事を切実な声で口にする。

「……母さん、俺からもお願い」

陽介の胸を軽く押し、母さんと向かい合うように体勢を整える。
母さんの瞳は驚きに染まっていた。俺と同じ亜麻色が可哀想なほど揺れている。

「俺は陽介を愛してる。ずっと一緒にいたいって思ってるんだ。……駄目かな?」
「秋人…… Warum?」

どうして、と呟くように口にされて胸が痛んだ。たぶんいまのニュアンスは陽介にも伝わってしまっただろう。
しかし母さんは、ぐっと唇を噛み締めてから笑顔を見せてくれた。

「そう……そうなの。二人はいま幸せなのね?」
「はいっ!」

陽介が食い気味に返事をした。母さんはそれにもまた小さく笑い、ゆっくりと俺たちのもとへ歩み寄ってきてくれる。
両腕を広げて待機され、陽介と一瞬だけアイコンタクトを交わしてからその胸に飛び込んだ。

「いままで本当にごめんね、陽介…。秋人もごめんね、ずっと隠してしまっていて。そしてありがとう、私の愛する息子たち。幸せになってくれてありがとう……こんなに誇らしいことはないわ!」

髪を撫でるようにして二人まとめて抱きしめられる。こんな歳になって兄弟揃って母親に抱きしめられるなんて少し恥ずかしかったけど、いままでの分を取り返すように強く抱きしめてくれる母さんになにも言えるはずがなかった。
恋人としてはもちろん、兄弟としての大きな一歩を踏み出せた気がした。

「お母さんね、今夜は少し出かけなくちゃいけない用事があって…。朝には戻れるんだけど」

やっと解放されて、なんだか心と身体がホカホカになった気がした。ポカポカって言った方がいいのだろうか。とにかく、あったかい。
それとは打って変わって申し訳なさそうな顔をした母さんは、ふと思いついたというような顔で両手をぽんっと合わせた。

「秋人、明日からの予定はなにか決めてる?」
「え? いや、具体的な話は特に…。観光しようかなとは話してたけど」

な? と陽介にも同意を求める。
すると、悪戯っぽく笑った母さんが俺と陽介の手をとって握手の形をとらせた。

「わかったわ、お母さんに任せて。明日はゆっくり休んでから近所を散策してきなさい。明後日は空けておいてね!」

絶対よ、と念を押しながら母さんは本当に出掛けていってしまった。どうやら無理やり時間を作ってくれていたらしい。
明後日は三人で遠出をしようということだろうか…?

「えぇ、っと…。……お疲れ様?」
「うん……疲れた」

母さんに握らされた手はそのままに、陽介が首筋に擦り寄ってくる。
重たい話を聞かされて、しかも陽介はピアノまで弾いたのだ。ずっと緊張していただろうし、今日は早めに眠った方がいいかもしれないな。

「そう言えば陽介、時差ボケは大丈夫か? 海外はじめてなんだよな?」
「え? あー、いまのところ…? 今夜ちゃんと眠れるかはわからないけど」
「そっか…。無理しなくていいからな」

陽介の腰に腕を回しながら、髪に顔を埋めて密着する。
いろいろあったな、本当に。日本に帰ったら父さんにも会わなきゃいけないし、これで全て解決ってわけじゃないけどさ。
しばらく無言で互いの体温を感じていると、陽介の空いた手が腰に触れてきた。

「…っと、シャワー浴びようか。疲れただろ? 今日は早くベッドに入ろう」
「ん…? うん…?」

危ない、危ない。このままくっついてたら朝になってしまいそうだ。
身体を離すついでに陽介の手首を掴み直し、家の中を軽く案内してからシャワーを浴びることにした。お客さん、ではないけど陽介に先を譲って俺は荷物の整理をして待つことにする。

「……よかったな、本当に」

陽介がカミングアウトまで始めた時はどうなることかと思ったけど、母さんが受け入れてくれて本当によかった。
父さんにも話せばわかってもらえるかな? わかってくれるといいな。
陽介は「母さんにだけは」なんて言っていたけど、俺は父さんにも祝福してもらいたいな…。

「秋人、シャワーありがとう」
「あ、おかえり。じゃあ俺もさっさと浴びようかな」
「うん…。なぁ、秋人」
「なに?」

立ち上がったところで腕をとられた。
眉をひそめた陽介が、困ったような泣きそうななんとも言えない顔をこっちに向けてくる。

「もしかして……なんだけど。俺に触られるの、まだ怖いか?」
「……え」

ドキッと、した。
底の見えない黒い瞳が覗き込んでくる。陽介の目の色はピアノの黒鍵みたいで綺麗で大好きだけど、いまはそれに見られると落ち着かない気持ちになった。

「な、なに言って…? さっきからずっと触ってるじゃん」
「いや、そうなんだけどさ。挨拶程度のスキンシップなら大丈夫、とか。自分から触る分には大丈夫とか? その辺にライン引いてるだろ」
「…っ…!」

こっちからのスキンシップを増やしたのが裏目に出てしまったってこと、か。
小さく息を吐いてから陽介と目を合わせる。身体全体が心臓になってしまったみたいに鼓動の音が大きく感じた。

「ほんとにごめん。あの、ちょっとだけ……ちょっとだけ、まだ…」

ラインを引いてる、のはそうなんだろう。でもそのラインが引かれた場所は自分でもよくわかっていない。
陽介はもう酷いことも痛いこともしない。頭ではわかってるんだけど、身体の方は反射的に陽介を拒絶してしまうことがあった。

「……どこまで?」
「え?」
「どこまでだったら怖くない? ハグは平気?」
「ん……、平気」

いつもより優しく抱き寄せられ、俺も背中に腕を回して応えてみた。
これは大丈夫だ。挨拶でだってハグはするし。

「えっと…。俺のこと、好き……ではある……?」
「うん、好き。好きだよ、陽介」

ごめんな、と唇だけを動かして肩口に額を押し付ける。
俺だって陽介に触りたい、触ってほしい。恋人としての触れ合いをしたい。だけど……。

「いいよ、焦らなくても。あんな酷いことしたんだ、こうして抱きしめさせてくれるだけでも贅沢だからさ」
「……やめろよ、そういうこと言うの」
「ん?」
「俺は早く陽介としたいよ、セックス」
「…っ!」

陽介の身体が大きく震えた。
ズルいかな、こういうこと言うの。変な煽り方をしてしまっただろうか。

「ゆっくり……ゆっくり、しよう。俺は待てるから」
「ん…。なぁ、陽介」

顔を上げて唇を寄せる。慌てて目を閉じた陽介がなんだか可愛くて、ちゅっと触れるだけのキスを送った。

「……Ich liebe dich.(愛してる)ありがとう、陽介」
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