革命のエチュード

鳴真 のわか

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真実のドイツ編

22.傍観者Cの独白

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私の隣の席にとんでもない美少年がいる。
うちの学校は国内最高峰の音楽学校と言われていて、いわゆる「二世」も多い。彼もそのうちの一人だ。
お母さんが有名なピアニストで、彼自身はクォーター? になるのかな。亜麻色の髪と日本人離れした白い肌が本当に綺麗で、マスカラしてるわけじゃないだろうにまつ毛なんかバッサバサ。こっちは毎日必死でマスカラ塗りたくってるっていうのにね。
辞書で「美少年」と調べたらフルネームで名前が書いてありそうな男の子、それが彼である。中等部のころぐらいまでは結構無愛想で、誰も寄せ付けない空気を纏っていたんだけど…。
彼は変わった。彼の中でなにが起きたのか、たまたま隣の席に座るだけの私には知りようがないのだけれど。
二年の夏休みが明けた今日このごろ、更に表情が柔らかくなったような気がするのである。

「──で、聞いてる?」
「ひゃっ、ひゃいっ!!」

危ない、危ない。顔を凝視しすぎてて月島くんの話を全然聞いてなかった。
隣の席の美少年は月島秋人くんという名前である。今日はいっしょに日直だったからこうして放課後に二人で教室に残っているのだ。
妙な声を上げた私をどう思ったのか、月島くんは眉を寄せてじっと顔を見つめてきた。はじめて見る新種の動物にでも遭遇した時のような…。

「つっ、月島くん…」
「うん?」
「あの……あんまりじっと見ないで。顔が綺麗すぎてドキドキしてしまうので…」

顔の前にてのひらを翳すと、一瞬だけきょとんとした顔をしてから思いきり破顔した。

「ふはっ、なんだそれ。リップサービスか?」
「違いますけど!?」
「へぇ、それはどうも。ほら、あとココだけだよ」

机の上に広げていた学級日誌の上を、月島くんの人差し指がトンッと叩く。将来有望で、きっとプロのピアニストになる人の指だ。
前まではこんなに柔らかく笑う人じゃなかったよね。本当になにがあったんだろう。
再びシャーペンを動かし始めた私を見て、月島くんがふと窓の向こうに視線をやる。
オレンジの夕日が差し込んできていて、月島くんを照らしていた。本当に絵になるな……卒業したら別世界の住人になってしまうんだろうなぁ。

「秋人、いる?」

真面目に日誌を埋めるふりをしながら月島くんの様子を伺っていると、教室の前の方のドアからこの空気を打ち破る声が聞こえてきた。

「陽介…?」
「まだ帰ってこないからどうしたのかと思って……っと、失礼」
「は…っ! い、いえっ!」
 
私の存在に気付いてご丁寧に会釈しながら教室に入ってきたのは、隣のクラスの東城陽介くん。彼もまた月島くんのように将来を約束されたピアニストの卵だ。確か月島くんと寮の部屋がいっしょだとかで、校内でもよくいっしょにいるのを見かける。
東城くんも綺麗な顔してるんだよなぁ。月島くんとはまた違う、そう、和服が似合いそうなタイプのイケメンっていうか?
月島くんが赤だとしたら東城くんは白、そんな感じ。
二人共ピアノが上手いのに顔まで整ってるなんてどういうことなんでしょうね? 天は二物を与えず、って言葉は嘘か?

「なんだ、日直だったんだ。なにかあったのかと思った」
「なにがあるって言うんだよ…」
「えぇーと、誘拐されたり? 女の子の告白列がとんでもないことになってたり?」
「……Dummkopf.(バカ)」

月島くんがなにか、日本語ではない呟きを低い声でこぼした。
確か月島くんってうちに入学する前はドイツにいたんだっけ…? もしかしたら英語じゃないのかもしれないな。

「あのぉ、月島くん? もうすぐ書き終わるし、先に帰ってくれてもいいよ?」

二人のなんとも言えない空気に耐えられなくて、小さく右手を上げて提案してみた。 甘いと言うか、もどかしいと言うか、なんだか妙な空気なのだ。
すると月島くんが不思議そうな顔をして首を傾げた。亜麻色の髪が彼の頬を撫でる。

「なんで…? いいよ、俺が職員室に持って行くって話してたんだし。女の子なんだから暗くなる前に帰った方がいいよ、自宅生だろ?」
「ぐぅっ…!」

しれっとジェントルマンなんだよな、月島くん~!
やっぱ外国の血が入ってるから!? 見習えよ日本男子たち!
身悶えていると、私と月島くんのやりとりを見守っていた東城くんが机の上の日誌を覗き込んだ。

「なんだ、もう書けてるじゃん。俺たちが持って行っとくよ、えぇと…」
「いえっ! 申し訳ないので!」
 
おそらく東城くんが日誌に書かれた私の名前を確認してくれようとしたのより先に、素早く閉じて頭上に掲げた。

「月島くんは東城くんと仲良くいっしょにお部屋に帰って! ぜひ! なんだかそうした方がいい気がするから!」

恋のフラグを立てるなんて滅相もない!
卒業するまでそっと見守らせてもらえればじゅうぶんです!
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