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ラスボス対決編
26.決戦までの話 ──秋人
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ドイツから日本に帰ってきて三日後。
陽介が父さんに連絡をとってくれることになった。
「──もしもし、父さん?」
陽介の声はいつもより少しぶっきらぼうに聞こえる。
寮の部屋、陽介のベッドの上。俺は隣に座って陽介のことを見守ることにした。
「うん、久し振り。……あぁ、行ってきたよ。母さんに全部聞いてきた。向こうで父さんが送った写真も見せてもらったよ」
床に視線を落としたまま、空いた左手が俺の手を握ってくる。
握られた手に力をこめた。頑張れ、陽介。
「それで、さ。父さん、ずっと秋人に会いたがってただろ? だから今度、っ! うるさ! うるせーってば!」
耳に押し付けていたスマホが離れ、一瞬だけ電話の向こうから声が聞こえた。
「うん、うん。そうだよ、秋人も会いたがってる。あと一週間で夏休みが終わるから、できればそれまでに…」
どんな人なんだろう、俺の「お父さん」。
写真で見た若いころの顔は本当に陽介とそっくりだった。声はどうなんだろう、歳はいくつ? いろんな話が聞けたらいいな。
「……終わったよ、お待たせ」
いつもの声に戻った陽介が、通話を終わらせたスマホを放り投げて大きなため息をついた。
なぜかものすごく疲れている。親と電話するのにこんなにエネルギーが必要なことってあるんだろうか?
「明後日なら会えるってさ。場所は任せるって言われたから、この近くにあるファミレスでもいいかな?」
「うん、大丈夫」
明後日かぁ。なんか緊張してきたな。
いよいよ会えるんだ。俺の父さんで、陽介とずっといっしょに生きてきた人に。
「……ん」
「ん?」
すると、いきなり俺に向かって両腕を広げてきた陽介がじっとこっちを見つめてきた。
全く意図がわからない。でも陽介は真剣な顔をしている。
「え……な、なに?」
「ご褒美くれ」
「は?」
「父さんにちゃんと連絡できたご褒美。キスでもハグでもいい、秋人からなにかがほしい。秋人が大丈夫だって思う範囲で」
遂には目を閉じてしまった。あくまで俺が動くのを待っているというスタンスを示しているらしい。
ドイツから帰国したあと、陽介はよくこんなふうに俺を試すようになった。いっしょに「大丈夫」のラインを探ってくれているらしいが、結果的に俺が積極的に動くことになってしまっていて恥ずかしいったらない。
「……え、えらいぞ~?」
陽介の肩口に顔を埋めるようにして凭れかかって背中に腕を回す。
心臓の音がうるさい。これは自分のものなのか、それとも。
「腕は、回しても…?」
おそるおそる、消え入りそうな小さな声で尋ねられる。
「いいよ。優しく、な」
「優しく……」
震える声で確認するように呟きながら、本当に優しく腕が回ってきた。
まるで宝物を抱きしめているようだ。陽介のショパンの音色に抱きしめられているような、そんな気持ちにさせられる。
「大丈夫? 怖くないか?」
「大丈夫だよ。ごめんな、いっぱい我慢させて」
「……秋人がそんなこと気にしなくてもいい」
小さく息を吐いて、おそるおそる首筋に唇を寄せてきた。
思わず身体を固くすると、慌てて身体を起こして顔を覗き込んでくる。
「だっ、大丈夫…? 悪い、勝手なことして」
「…っぅ、……うぅ~、もう…っ!」
泣きそうになって、でもそんな顔を見られたくなくて胸に顔を埋めて強く抱き締めた。
俺の気持ち、伝わってないかもしれない。いや、伝わるわけがない。
いっぱい触ってほしいって思ってるのに。気持ちいいこともしたいって思ってるのに。
「秋人、大丈夫。大丈夫だから。焦らなくてもいい。……ごめんな、俺のせいで苦しめて」
「謝るな…。なんかムカつくから」
「……それは聞けない。一生謝るよ、俺は」
一生? それは本当に嫌だな。
ゆっくり顔を上げると、本気で心配そうな顔をした陽介と目が合う。いたたまれなくて、その頬に両手を添えて触れるだけのキスを落とした。
「……Ich liebe dich, Mein süßer Liebhabe.(愛してるよ、俺の可愛い恋人。)」
ドイツでもらった大事な愛の言葉を口にする。
あまり得意ではないけど、できるだけ言葉を尽くしていこう。思うように触れ合えないならそうするしかない。
「うん、えぇと……Ich liebe dich, ……Mein süßer Liebhabe?」
「ふふっ、なんか陽介のドイツ語って可愛いな」
「かわ…?」
子どもが喋ってるみたいだ。なんだろう、舌の使い方の問題か?
もう一度唇を重ね、今度は少し長めに触れ合わせた。軽く吸い付いてから口を離し、額を擦り合わせて甘える。
「いまのままでもいいけど、ちゃんと教えてあげるな。少しずつでいいから」
「……お願いします、先生」
「あと筆記の方も。陽介、英語は得意だろ?」
されるがままになっていた陽介がゆっくり目を開ける。
見つけたばかりの亜麻色がチラッと見えて気分が良くなった。母さんは、父さんはこのことを知っているのだろうか?
「得意なつもりではあるし、学校の成績もいいけど…。秋人に対して『得意だよ』って言えるほどじゃないかな」
「えぇ? なんだそれ」
「だって秋人、英語もドイツ語も完璧じゃんか。敵わないよ」
大丈夫か? と問うように両頬に手を添えながら見上げてくる。
黙って頷きながら目を合わせ、すぐに瞼を下ろした。するとすぐに唇にあたたかいものが触れ、身体の内側からじんわりと幸せがあふれてくる。
「ん、……よぅ、すけ…」
「ごめん……やだ? もうやめる?」
「……ううん。もっとして、舌絡めるやつ」
半開きになった唇にこっちから吸い付き、思いきって舌を入れてみた。
キスの時の舌の絡め方も、身体の委ね方も、なにもかも陽介から教わった。教わるだけじゃなくてちゃんと返していきたい。
「……っ仰向けに、させてもいい? ここに」
「…っ…!」
キスの角度を変える瞬間、熱い吐息と共に尋ねられる。
陽介の左手が俺の背後、ベッドのシーツを撫でたのがわかった。
「うん……いいよ、大丈夫」
首に腕を回した瞬間、優しい力で身体が後ろに倒された。
たくさんキスをして、好きだよってたくさん言って名前を呼んでくれた。俺も負けないぐらいたくさん口にして、知りうる限りのドイツ語の愛の言葉を陽介に教えた。
──俺たちはその日、ちゃんとした恋人になってはじめて陽介のベッドで二人で眠った。
ただ抱き合って眠っただけだったけど、幸せだった。
陽介が父さんに連絡をとってくれることになった。
「──もしもし、父さん?」
陽介の声はいつもより少しぶっきらぼうに聞こえる。
寮の部屋、陽介のベッドの上。俺は隣に座って陽介のことを見守ることにした。
「うん、久し振り。……あぁ、行ってきたよ。母さんに全部聞いてきた。向こうで父さんが送った写真も見せてもらったよ」
床に視線を落としたまま、空いた左手が俺の手を握ってくる。
握られた手に力をこめた。頑張れ、陽介。
「それで、さ。父さん、ずっと秋人に会いたがってただろ? だから今度、っ! うるさ! うるせーってば!」
耳に押し付けていたスマホが離れ、一瞬だけ電話の向こうから声が聞こえた。
「うん、うん。そうだよ、秋人も会いたがってる。あと一週間で夏休みが終わるから、できればそれまでに…」
どんな人なんだろう、俺の「お父さん」。
写真で見た若いころの顔は本当に陽介とそっくりだった。声はどうなんだろう、歳はいくつ? いろんな話が聞けたらいいな。
「……終わったよ、お待たせ」
いつもの声に戻った陽介が、通話を終わらせたスマホを放り投げて大きなため息をついた。
なぜかものすごく疲れている。親と電話するのにこんなにエネルギーが必要なことってあるんだろうか?
「明後日なら会えるってさ。場所は任せるって言われたから、この近くにあるファミレスでもいいかな?」
「うん、大丈夫」
明後日かぁ。なんか緊張してきたな。
いよいよ会えるんだ。俺の父さんで、陽介とずっといっしょに生きてきた人に。
「……ん」
「ん?」
すると、いきなり俺に向かって両腕を広げてきた陽介がじっとこっちを見つめてきた。
全く意図がわからない。でも陽介は真剣な顔をしている。
「え……な、なに?」
「ご褒美くれ」
「は?」
「父さんにちゃんと連絡できたご褒美。キスでもハグでもいい、秋人からなにかがほしい。秋人が大丈夫だって思う範囲で」
遂には目を閉じてしまった。あくまで俺が動くのを待っているというスタンスを示しているらしい。
ドイツから帰国したあと、陽介はよくこんなふうに俺を試すようになった。いっしょに「大丈夫」のラインを探ってくれているらしいが、結果的に俺が積極的に動くことになってしまっていて恥ずかしいったらない。
「……え、えらいぞ~?」
陽介の肩口に顔を埋めるようにして凭れかかって背中に腕を回す。
心臓の音がうるさい。これは自分のものなのか、それとも。
「腕は、回しても…?」
おそるおそる、消え入りそうな小さな声で尋ねられる。
「いいよ。優しく、な」
「優しく……」
震える声で確認するように呟きながら、本当に優しく腕が回ってきた。
まるで宝物を抱きしめているようだ。陽介のショパンの音色に抱きしめられているような、そんな気持ちにさせられる。
「大丈夫? 怖くないか?」
「大丈夫だよ。ごめんな、いっぱい我慢させて」
「……秋人がそんなこと気にしなくてもいい」
小さく息を吐いて、おそるおそる首筋に唇を寄せてきた。
思わず身体を固くすると、慌てて身体を起こして顔を覗き込んでくる。
「だっ、大丈夫…? 悪い、勝手なことして」
「…っぅ、……うぅ~、もう…っ!」
泣きそうになって、でもそんな顔を見られたくなくて胸に顔を埋めて強く抱き締めた。
俺の気持ち、伝わってないかもしれない。いや、伝わるわけがない。
いっぱい触ってほしいって思ってるのに。気持ちいいこともしたいって思ってるのに。
「秋人、大丈夫。大丈夫だから。焦らなくてもいい。……ごめんな、俺のせいで苦しめて」
「謝るな…。なんかムカつくから」
「……それは聞けない。一生謝るよ、俺は」
一生? それは本当に嫌だな。
ゆっくり顔を上げると、本気で心配そうな顔をした陽介と目が合う。いたたまれなくて、その頬に両手を添えて触れるだけのキスを落とした。
「……Ich liebe dich, Mein süßer Liebhabe.(愛してるよ、俺の可愛い恋人。)」
ドイツでもらった大事な愛の言葉を口にする。
あまり得意ではないけど、できるだけ言葉を尽くしていこう。思うように触れ合えないならそうするしかない。
「うん、えぇと……Ich liebe dich, ……Mein süßer Liebhabe?」
「ふふっ、なんか陽介のドイツ語って可愛いな」
「かわ…?」
子どもが喋ってるみたいだ。なんだろう、舌の使い方の問題か?
もう一度唇を重ね、今度は少し長めに触れ合わせた。軽く吸い付いてから口を離し、額を擦り合わせて甘える。
「いまのままでもいいけど、ちゃんと教えてあげるな。少しずつでいいから」
「……お願いします、先生」
「あと筆記の方も。陽介、英語は得意だろ?」
されるがままになっていた陽介がゆっくり目を開ける。
見つけたばかりの亜麻色がチラッと見えて気分が良くなった。母さんは、父さんはこのことを知っているのだろうか?
「得意なつもりではあるし、学校の成績もいいけど…。秋人に対して『得意だよ』って言えるほどじゃないかな」
「えぇ? なんだそれ」
「だって秋人、英語もドイツ語も完璧じゃんか。敵わないよ」
大丈夫か? と問うように両頬に手を添えながら見上げてくる。
黙って頷きながら目を合わせ、すぐに瞼を下ろした。するとすぐに唇にあたたかいものが触れ、身体の内側からじんわりと幸せがあふれてくる。
「ん、……よぅ、すけ…」
「ごめん……やだ? もうやめる?」
「……ううん。もっとして、舌絡めるやつ」
半開きになった唇にこっちから吸い付き、思いきって舌を入れてみた。
キスの時の舌の絡め方も、身体の委ね方も、なにもかも陽介から教わった。教わるだけじゃなくてちゃんと返していきたい。
「……っ仰向けに、させてもいい? ここに」
「…っ…!」
キスの角度を変える瞬間、熱い吐息と共に尋ねられる。
陽介の左手が俺の背後、ベッドのシーツを撫でたのがわかった。
「うん……いいよ、大丈夫」
首に腕を回した瞬間、優しい力で身体が後ろに倒された。
たくさんキスをして、好きだよってたくさん言って名前を呼んでくれた。俺も負けないぐらいたくさん口にして、知りうる限りのドイツ語の愛の言葉を陽介に教えた。
──俺たちはその日、ちゃんとした恋人になってはじめて陽介のベッドで二人で眠った。
ただ抱き合って眠っただけだったけど、幸せだった。
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