革命のエチュード

鳴真 のわか

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合同家族会議編

40.続・傍観者Bの独白

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珍しい顔を見ることもあるものだ、と思った。

「……月島秋人」

近所にある本屋では心もとないと思い、なんとなく少し遠い方の本屋へ足を運んだその日。小学生の時まで同じピアノ教室に通っていた神童がそこにいた。
特になにかを探しているわけでもなさそうで、ぼんやりと棚を眺めている。国内最高峰とされる音楽学校の制服を身に纏う彼は、どこかの国の王子様のように見えた。
亜麻色の髪と白い肌、整った顔立ち。記憶にあるままの姿で成長した出で立ちでそこに存在していたのである。
まぁでも、俺が声を掛けたところで向こうは覚えてないだろうしな。ここはスルーするべきだろう。

「秋人! 悪い、待たせたな」

踵を返そうとすると、少し息を切らしたような声が月島の名前を呼んだ。
そばの棚に隠れて様子を見ると、なんとびっくり。かつて俺の身近にいたもう一人の天才、東城陽介のご登場である。彼もまた同じ制服を着ていた。
同い年である二人はコンクールがある度に一位と二位を取り合っていて、バチバチなライバル関係だった。いや、きっといまもそうに違いない。
顔も綺麗でピアノも上手いというチートな二人組は、今日は放課後に仲良くお出かけ中っことなのだろうか。
はー、二人が並ぶとマジで壮観だな。最後に見たのが中学の時のどっかのコンクールだったけど、背も伸びてますますイケメンに磨きがかかってるって言うか。
相変わらず東城はニコニコしながらなにかを話しかけていて、月島は少しだけ見上げた先にあるその顔をじっと見つめている。月島は相変わらず表情がわかりにくいなぁ。
ま、俺には関係ないけどな。仲良きことは美しきかな、ってやつか。

(……って、あれ? あいつらってそんなに仲良かったっけ?)

小学校までピアノ教室がいっしょだった月島と、小学校が同じだった東城。
直接二人が接点を持ったのは、中等部から入学したらしい音楽学校がはじめてだったはずだ。コンクールで顔を合わせても月島が物凄い顔をして睨みつけているのを見たことがある程度で…。

「秋人、聞いてる? ずっと俺ばっかり喋ってるの恥ずかしいんだけど…」

ぼんやりと聞き流していた東城の声が急に甘くなって、驚いて聴覚を研ぎ澄ませた。
そう言えば、あのころは下の名前で呼んでもいなかった……よな?

「ふふっ、ごめん。陽介が一生懸命喋ってるのが可愛くて。いつまで喋れるのかなぁと思って様子見しちゃった」
「かわっ…!?」

月島が笑った!? 東城が赤面した!?
なにがなんだかわからない。なにが起こってるんだ!?

「やめろって、そういうの…。待たせたから怒ってるかと思ったじゃんか」
「全然待ってないよ、大丈夫。それに、陽介はちょうど待ち合わせ時間に来ただろ?」
「そりゃそうだけどさ…」

不満そうな顔をする東城を見て、月島が更に楽しそうに笑っている。
え? なに? まさか人違い? 別人か?
いやいやいや、あんな美形の二人組がこの世にもう一組いるなんて有り得ないだろ! 世界のバグだろ!

「それじゃあお詫びして。日本人はギリガタイって聞いた! ちょうどこの先にクレープ屋さんがあるの見たからそこでいいよ」
「ふはっ、なんだよそれ。急に外国人みたいなこと言うじゃん」

最終的にはどちらの声も甘ったるくなり、俺の鼓膜を溶かしてしまうんじゃないかと思った。イケメンじゃなくて美女の囁きに鼓膜を溶かされてーよ、俺は。
叶わぬ戯れ言を心の中で呟きながら、本屋から出ていく二人をそっと見守る。後ろ姿までイケメンに見えるな……マジでズルい。
本屋を出る瞬間に月島が東城の腰に腕を回したのが見えた気がしたが、これはさすがに幻覚だろう。いや、幻覚だと言ってくれ!

「……牛丼食べて帰ろ」

自分で望んだわけじゃないのに過剰な甘味を摂取させられた気がして、俺の脳みそと胃袋が早急に塩気を求めているような気がした。
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