革命のエチュード

鳴真 のわか

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合同家族会議編

41.愛のカタチ ──陽介

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「もう暗いし帰りは寮まで送るよ」

デレッデレな顔をした父さん(見ていられない)から強引に誘導され、俺と秋人は寮まで送ってもらうことにした。
料理の味はほとんど覚えていない。衝撃の事実があまりにもたくさん降り掛かってきて、味わう暇なんてなかったのだ。
でも行きの車内よりは少しだけ呼吸がしやすいような気がする。

「あー。そう言えば、陽介」
「……なに」

助手席の母さんと楽しそうに話していた父さんが、まるで天気の話でもするかのような声音で俺の名前を呼んだ。
そう、俺は忘れていたのだ。前回のファミレスでの別れ際、この男にとんでもない爆弾を落とされていたということに。

「おまえと秋人、結局のところ兄弟としての一線は越えてしまってるってことでいいんだよな?」
「…っ…!」

息を飲むタイミングが秋人とシンクロしてしまった。
反射的に秋人の手を掴もうとしたが、いまはマズいと思い慌てて踏みとどまる。

「な、…っにを……急に……」
「言ったよな? 目を覚ましとけって。あれから少しは二人で考えたのか?」
「ちょっと、あなた…っ!」
「エマは口を挟むな。大事な話だから」

おそらくフォローしてくれようとした母さんを強めに制しながら、バックミラー越しに刺すような視線を投げてくる。
これに関しては父さんの方が絶対的に正しい。だって、禁忌を重ねすぎているのはどう考えても俺たちの方だ。

「……考えるわけないだろ。俺と秋人はもう一生離れないから」
「よ、陽介…っ」

秋人が俺の手を掴んでくる。縋るように名前を呼ばれたけど、父さんから視線を外したら負けだと思っていまだけは無視させてもらうことにする。
掴まれた手を恋人繋ぎの形に変えて指に力を入れながら父さんの返事を待っていると、大きくため息をついた。

「……よし、俺は言った。ちゃんと注意したからな!」
「は?」

真剣な顔を作っていた父さんが一気に表情を崩す。キツく絡んでいた秋人の指先からもふっと力が抜けた。
ちゃんと注意したからな? ……って、なに?

「親としての責務は果たしただろ、これで! あとは勝手にやってくれていいぞ。末永くお幸せに!」
「ちょっ……ちょっと待て、なんだよそれ!?」
「は? なにが?」

なんと言うか、話の緩急が雑すぎる。父さんの言葉を借りれば「美しくない」。
しかし父さんは本当に言いたいことを全て言い終えたような顔をしていて…。

「も、もっとあの……なんかないのかよ? 兄弟なのにーとか、男同士なのにーとか…」

言われたいわけでもないが、言われても仕方ないことだとは思っている。
父さんも母さんも方向性は違うにしても芸術家肌の人間だから寛容なのかもしれないけど、こんなにあっさりと認められると気持ち悪いというか…。

「いやぁ、だって俺がなにか言う権利なんてないだろ? そりゃあ一応結婚までしたことあるけど、子どもが三歳の時に離婚してるんだぞ? そんな人間が他人の恋愛に対して偉そうにモノ言えないっつーかさぁ」
「私まで刺すのやめてくれない…?」
「いてっ」

母さんが父さんの肩を叩いた。結構いい音したな、おい。

「親として言うべきことは言った。だったらあとは個人的な意見を言うだけだろ? 末永くお幸せに、俺からはそれだけだよ」
「……偏見、とか……ないのかよ。秋人はこんなに可愛いけど一応男なんだぞ?」
「陽介っ!!」
「いっ…!」

いったん脱力していたはずの指先に力が入り、ものすごい力で手を握りしめられた。
慌てて視線をやると、秋人が顔を赤くして目尻を釣り上げている。怒った顔も可愛いな……じゃなくて。

「アッハッハ! 言ってくれるなぁ、おい! 大丈夫、それは『恋は盲目』ってヤツだ。秋人はどっからどう見てもカッコいい王子様にしか見えないよ」

自分の息子のことを王子様呼ばわりするのもおかしいけど、よく考えたら秋人は俺にとって弟でもあるわけで…。弟をこれだけ褒めちぎってるってことは、父さんに対してなにも言う権利がないんじゃないだろうか。
待てよ、秋人を可愛いって思う度に俺はブラコンを拗らせてるってことになるのか?
……大丈夫だよな? 別問題だよな? なんかブラコンって言われると微妙な気持ちになるんだよな。

しばらく一人で笑っていた父さんだったが、わざとらしく咳払いをして話の流れを取り戻す。

「おまえたちは美しいよ。なんてったって美しい俺と美しいエマが作り出した最高傑作だからな! 世のお嬢様方には悲しい思いをさせるかもしれないけど、お互いに愛し合ってるなら仕方ない。美しい者たちが愛を囁き合う……最高に美しいじゃないか! それに水を差すなんてナンセンスだ! そうだよな、エマ?」
「……はじめてあなたと意見が合った気がするわ」
「えぇっ!?」

変な家族でよかった、なんて安心する日がくるなんて思ってもいなかった。気持ち悪いって言われても仕方ないと思ってたのに、こうして肯定してくれて…。
秋人の写真が送られてくる度に憎しみを募らせていた過去の自分がいまの状況を見たらびっくりするだろうな。

「まぁ、そういうわけだから…。俺は応援してるよ、おまえたちのこと」
「……どうも」
「もちろん私もね!」

二人同時にバックミラー越しに微笑まれて、なんだか恥ずかしくて視線をそらした。
そう言えば父さんは俺がピアノをやること自体は応援してくれてたっけな。ママもピアニストなんだぞ、って嬉しそうに話してくれてたっけ。
頑なにグランドピアノは買ってくれなかった……のは、今日の食事会で謎が解けたわけだけど……。

(もう少しだけなら歩み寄ってやってもいいかもな)

絡められたままの手に力を入れると、秋人が肩に頭をのせるようにして凭れかかってきた。
反射的に距離をとろうとしたけど、この空間はもう「大丈夫」なのだと気付いて肩の力を抜く。抵抗しない俺に気付いて、秋人が本当に嬉しそうな顔をして笑った。

波乱のスタートを切ったかに思われた家族会議は、俺たちが家族としても恋人としても予想外に大きな一歩を踏み出せたキッカケとなったのである。
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