革命のエチュード

鳴真 のわか

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ふたりの進路編

45.ホームパーティー ──陽介

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父さんに連れられてリビングに向かうと、テーブルの上には既に豪勢な料理とホールケーキが用意されていた。このケーキはたぶんいつもの店のやつだな。
グランドピアノを買ってくれなかった父さんだけど、昔から誕生日パーティーは派手にやってくれていたのだ。そういうところは……まぁ、嫌いじゃなかったんだよな。
二十四日の夜にパーティーを始めて、二十五日になった瞬間に「誕生日おめでとう」と言われて母さんから送られてきた秋人の写真を見せられる。それが毎年の流れだったのだ。
最近はコンクールの兼ね合いで夜更かしができなくなってしまっていたから、二十四日の夜にクリスマスと誕生日を兼ねたパーティーをして早めに寝ることが増えていたけど。

「さぁ、座ってくれ! 今日は朝から仕込んだ特製ディナーだぞ!」

ケーキの上には『Happy Birthday Yosuke & Akito』と書かれたチョコプレートが輝いている。そしてなぜか父さんと母さんらしきマジパン人形まで乗っていた。……俺たちの誕生日だよな?
他のご馳走は唐揚げにハンバーグにエビフライ……子どもの誕生日会みたいなラインナップだ。これもいつも通りのメニューたちである。
なにを隠そう、小学生のころの俺が好きだったメニューたちだ。美味いから食うけどな。

「Wunderbar...!(すごい…!)俺、こんなふうに家で誕生日パーティーしてもらうのってはじめてかも」
「え?」

隣に座った秋人が目を輝かせてケーキたちを見ている。
少し意外だった。秋人はあんなに母さんに愛されてるように見えたのに?

「あ、っと…。ほら、母さんはピアニストだから。違う日にケーキ食べたりとかはしてたけど、クリスマスなんてだいたい仕事が入ってるからさ」

仕方ないよと笑う秋人に、胸がズキッと痛む。
秋人はなにもかもに恵まれていたと思っていた。それなのに、俺がこうして父さんとやけにデカいケーキを食べていた時にいつも一人で過ごしてたっていうのか…?
去年の今頃はまだ秋人との関係が冷えきっていた。秋人は去年の年末年始もいつものようにドイツに帰国していたから、きっと一人で過ごしていたに違いないのだ。

「……来年からは絶対いっしょに過ごそう」
「え?」
「クリスマス……と言うか、誕生日。父さん、いいよな?」

話を振ると、父さんは何度も頷いてから秋人の頭を撫でた。

「もちろんだ! この家も秋人のホームなんだからな、いつでも帰ってきていいんだぞ」
「二人共……いいの?」

せっかくのクリスマスで誕生日なのだ。俺たちは恋人同士でもあるんだし、二人っきりで過ごすという選択肢だってある。
でも、俺たちには家族として過ごしてきた時間が圧倒的に足りない。

「いいに決まってるだろ。家族なんだからさ」
「……っ、Danke!(ありがとう!)」

焦らなくてもいい。俺は家族としても、そして恋人としても秋人と幸せになってやるって決めたんだから。
嬉しそうに笑った秋人を見て、この決断は間違っていなかったのだと少しほっとする。

「よーし! それじゃあ、ハッピーバースデーを歌おう! 秋人、準備はいいか?」
「えっ、俺!?」
「……悪い、付き合ってやって」

父さんは意気揚々とロウソクに火をつけている。
これもまたいつもの恒例行事なのだ。ケーキを囲んで、二人で大きな声でハッピーバースデーを歌う。
今年は秋人とデュエットすることに決めたらしい。

「ハッピバースデー、トゥーユー♪」

全てのロウソクに火がつけられ、父さんの野太い歌声で歌が始まった。戸惑うような顔をした秋人は、しかしすぐにそこに美しいハモりを付けるように声を重ねる。
月島秋人、歌まで上手いのか。ほんとに期待を裏切らないなぁ。

「さぁ、元気よく吹き消せ!」

歌が終わると、父さんが満足そうな顔をしてケーキを指差した。

「……二人で?」
「当たり前だろ! せーのっ!」

俺と秋人は顔を見合わせ、苦笑いしながら「ふーっ」と息を吹きかけた。
十七本のロウソクの火が消え、父さんがパチパチと拍手をする。

「俺とエマの最高傑作たちも遂に十七歳かぁ」

父さんが豪快に笑いながらケーキを切り分ける。

「いやぁ、めでたい! 最高の夜だな。まさかまたこうして息子たちの誕生日とクリスマスを祝えるなんてなぁ」
「そうだね、父さん。料理も美味しいよ」

秋人は心底嬉しそうで、そんな顔をされると本当に誘ってよかったなと思う。
父さんもまた終始ご機嫌で、シャンパンを飲みながら俺たちの幼少期のエピソードを語り続けた。もちろん必然的に途中からは俺の話ばかりになる。
穴があったら入りたいぐらい恥ずかしい話ばかりだったけど、秋人が身を乗り出して聞いているから止めるに止められなかった。

「生まれたばかりの二人は本当に天使のようだったよ…! 勿論いまも天使だけどな?」
「ふふっ、父さんだって若いころもカッコよかったんでしょ?」
「おっ、わかるか秋人! そうなんだよ、モテすぎて困ったもんだ。俺が二人の歳ぐらいの時はなぁ…」

平和だ。去年まではこの家でこんなに笑い声が響くなんて想像もしなかったのに。
電子ピアノの傷を見るたびに胸が痛んだあの部屋も、父さんの過剰なテンションも、秋人がいるだけですべてが幸せな風景に変わっていくみたいだ。


***


「さて、そろそろお開きにしようか。明日は二人で学校にピアノを弾きに行くんだろう?」

父さんが一人で飲んでいたシャンパンのボトルが空になったころ、パーティーの終了が告げられた。
順番に風呂に入り、秋人を連れて再び俺の部屋に戻る。客間もあるにはあるんだけど…。
ちなみに父さんは俺たち二人に揃いの万年筆をくれた。ご丁寧に名前まで入れてある、なかなか高価そうなものだ。「美しい文字を書け」ということらしい。

「ごめんな、騒がしくて」
「ううん、楽しかったよ」

俺たちは当然のように一つのベッドに潜り込んだ。シングルベッドだけど、寮の部屋でもいつもこうして寝ているから違和感はない。
ただ、家のベッドで秋人を抱きしめて眠っているというこの状況にそわそわしてしまうのは否定できないけれど。

「なんか不思議だったよ。俺、つい最近まで父親は死んだって聞かされてたからさ」

俺の胸に顔を埋める秋人が、囁くような声で口を開く。

「その父親と……父さんと、双子のお兄ちゃんの陽介と? こうして誕生日パーティーしてるなんて…。なんか変な感じ」
「……お兄ちゃんって呼ばれるの結構いいな」
「なにそれ、そこに反応する?」

くすくすと笑う秋人の髪を撫で、前髪を掻き上げて額にそっと唇を押し当てる。
秋人が顔を上げた。ベッドサイドで淡く光る間接照明だけが亜麻色の瞳を照らしている。

「なぁ、陽介」
「ん?」
「この部屋、壁薄い……かな」
「……え?」

秋人が俺の部屋着の裾にそっと右手を入れてくる。脇腹に直接触れた指先は少し冷たくて、思わず身体が震えてしまった。
小悪魔みたいな、いや、悪戯を思いついた子猫のような顔をした秋人がゆっくりと顔を近付けてくる。

「キスしてもいい?」
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