革命のエチュード

鳴真 のわか

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ふたりの進路編

47.決戦前夜 ──陽介 ※R18

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「は、……っぁ、んん……よ、っすけぇ…っ!」
「ん…。気持ちいいな、秋人」
「ぅん…っ、きも、ちぃ…っ!」

壁に背を預けて胡座をかいた俺の上に秋人を乗せ、ゆっくり上下させながら快感を追う。
ゆっくりして、絶対にゆっくりして! と主張されてこの体位を選んだけど、正直ちょっと物足りない。だって、これは本来なら秋人が腰を動かすべき体位なのだ。
でも秋人はいつも一回イったらふにゃふにゃになってしまうので(そこが可愛いんだけど)、俺がどうにか頑張るしかない。

「あ……っん、Gib es mir...!(ちょうだい…!)Bitte...!(お願い…!)」

肩にしがみついて耳元で囁いてくる声が甘く掠れている。
ビッ……なに? なんだっけ、「お願い」?
必死でドイツ語の授業を思い出していると、ふと枕元に置いてあるデジタル時計が目に入った。

「あ、ヤバい。日付け変わってる」
「ふぁ…?」
「秋人、もう二十五日になってるよ。俺たちの誕生日」

頬に触れながら顔を見上げると、はっとしたように目を見開いた。涙を滲ませた亜麻色の瞳が瞬く。

「陽介……誕生日おめでとう」
「うん、秋人も。誕生日おめでとう」
「ん……ふふ、Alles Gute zum Geburtstag!(誕生日おめでとう!)まさかこんなふうに誕生日を迎えるなんて思ってなかったな」

照れくさそうに笑いながら頬に触れてきた秋人に唇を塞がれる。
何度か角度を変えて、撫でるように。もちろんそれだけじゃ物足りなくて舌を挿入すると、秋人の口から飲み込みきれなかった吐息が漏れた。

「なぁ、秋人」
「ん…?」
「やっぱり体位変えていい? 背中に爪立ててもいいから」
「あっ…!? や…っちょ、ちょっと…!」

焦る秋人の身体を押し倒し、腰を抱え直して思いきり最奥を突き上げた。
喘ぎ声を漏らす前にと唇を塞ぎ、秋人の弱い場所だけを的確に狙って腰を振る。
なるべく静かにできたはずだ。……なるべく、たぶん。


***


──そんなこんなで。

ギリギリまで学校のピアノに張り付いて練習する日々を送りながら、秋人といっしょに日本の年末年始ってやつをゆっくり堪能する冬休みを過ごすことができた。
年越しそばを見て「テレビで見たことある!」と興奮したり、父さんが張り切って作ったおせち料理を見て「ニッポンのお正月って感じだ!」とほんとに外国人みたいな反応をする秋人を見るのはなかなか楽しい。
いっしょに実家に帰ってきてよかったな、と思う。俺にとってはなんの変哲もない冬休みだけど、こんなに喜んでくれるなんて思ってなかったなぁ。

「いよいよ明日だな、コンクールの本選」
「あぁ。……まぁ、去年よりは仕上げられたとは思うけど」

本選の前日、俺は自分の部屋の電子ピアノの前に座っていた。コンクールの前日はこいつを弾く、というのが俺の中でルーティーン化しているのだ。
そんなことをしたら本番のグランドピアノを弾く時に調子が狂うんじゃないかと言われそうだが、実際そうでもない。だって俺はずっとこのピアノといっしょに戦ってきたんだから。

ちなみに去年は銀賞に終わっている。
去年の今頃は秋人との関係が最悪な時期だった。言い訳するわけじゃないけど、あんなメンタル状態でよくコンクールになんか出ようと思ったよなぁ。

「……なぁ、秋人」
「ん?」
「ありがとう、俺のこと好きになってくれて」

改めて伝えたくなって、真後ろにあるベッドに腰掛ける秋人の方を振り返る。
秋人はきょとんとした顔で俺の言葉を受け止めた。しかしすぐに表情を緩め、ベッドから立ち上がって背後から抱きついてくる。

「俺はずーっと好きだったよ、陽介のこと。一目惚れしたんだから」
「一目惚れ?」
「そう、陽介のピアノに」
「……ピアノかよ」

首に回された腕に触れながら声を低くすると、耳元でくすくすと楽しそうに笑われた。

「うそうそ、冗談だよ。ピアノだけじゃなくて陽介のこともずっと好き。……実の兄弟だって聞かされた時も、学校のトイレで何回も泣かされた時も。ずっと好きだった」
「…っ…!」

首筋に秋人の唇が触れる。
あんなに酷いことをしたのに? 健気にずっと好きでいてくれたのか?

「……ほんとに、ありがとな。俺のこと見捨てないでいてくれて」
「ううん、俺の方こそ。だってほら……中学に入る直前のコンクールの舞台裏で俺が声を掛けた時? あの時の俺さぁ、すごく態度悪かっただろ?」
「え? あぁ…。でも、あの時の秋人はいつもあんな感じだっただろ?」

普段はヨーロッパにいて、たまに日本にやって来てコンクールで優勝を掻っ攫っていく帰国子女。
いつもつまらなそうな顔をしていて、口を開けばぶっきらぼうで。話し方もなんかこう……起伏がない? いや、全体的に硬い…? と言うか。

『おまえ、東城陽介?』
『他人の出番まで把握してるのかよ』

不愉快そうに眉間に皺が寄ってて、声のトーンもいまより低くて……ん?

「なぁ、秋人」
「ん?」
「日本に来たころさ、日本語が訛ってたっていう可能性はないか?」
「は?」

素っ頓狂な声を上げた秋人が顔を上げた気配がする。
慌てて身体を離した秋人は、俺の顔を覗き込むように上半身を折って焦ったような顔をしていた。

「なっ、ないない! だって俺、向こうにいたころも母さんとは日本語で話してたし…! そりゃあ筆記は絶望的で陽介に迷惑かけちゃったけど、話す分にはなにも問題なかっただろ!?」
「いやー。なんて言うかさ、あからさまにカタコトとかではなかったんだけど…。秋人、ドイツ語を話す時ってちょっと声のトーンが下がってるだろ?」

秋人が目を白黒させている。混乱してるな、これは。
しかし、小さな声で一言二言ぐらいドイツ語で呟いてから大きく頷いてみせた。

「……下がってるな」
「だろ? その時の声のトーンとか、ドイツ語の硬さ? みたいなのが、日本語を話してる時にも出てたんじゃないか? これを訛りって言っていいのかはわからないけど」
「んー。……あぁー、そうかぁ。そう……なのかも……」

それこそ低い声で唸りながら、項垂れるようにして俺の肩口に頭を預けてきた。

「俺さぁ、ずっとわかんなかったんだよ。なんで態度悪いとか顔が怖いとか言われるのかなーって。ドイツにいる時はそんなこと言われたことなかったから。でもあの時期はドイツ語を日本語訳するって感覚で話してた気がするから、それでちょっと違和感があったのかも」
「そんな器用なことしてたのか…」

もしかして眉間に皺が寄ってたのはそのせいか?
不愉快そうって言うか、難しいことしてたからあんな顔してたのか?

「あ、もしかして俺のことをフルネームで呼び捨てにして呼び止めたのもそのせい? てっきり喧嘩売られたのかと思ってたんだけど」
「……や、陽介は……」
「ん?」

一気に謎が解けたような気がして続けて問うと、秋人が明らかに動揺した。
後ろを振り返りながら頬に触れて顔を上げさせると、ほんのり顔を赤くして眉を寄せている。……どういう顔だよ、それは。

「陽介に話しかけた時は……ちょっと緊張、してて」
「は?」
「一年前にあの『革命』を弾いた東城陽介だーって思ったら、なんかこう……興奮? しちゃって。上手く日本語が出てこなくなったと言うか。とりあえず名前呼んで足を止めなきゃって思ったと言うか…」

なんだ、秋人って本当に俺のことをずっと見ててくれたのか。
寮に入るずっと前から。俺が秋人のことを陥れようとわざと優しくする前から。

「まぁでも、気に食わなかったっていう気持ちを持ってたってことも否定しない…。結構ムカついてたから」
「ふはっ、正直だな」

ヨーロッパで英才教育を受けてきた音楽エリートの弟を負かした、って俺は喜んでたから秋人としては当然そう思っていただろう。しかも秋人はまだ俺の存在を認識してなかったわけだし。

「でも喧嘩売ったつもりはないんだよ、ほんとに! 日本人は挨拶の時にハグとかキスとかしないから距離感がよくわかんなかったけど…。俺、興奮すると顔が怖くなるってよく言われてたからそのせいもあるのかも」
「怖くなるぅ? ……あぁ、あれか。子猫ちゃんの顔」
「Kätzchen!?(子猫!?)」
「あ、それ。いまのも。瞳孔が開くやつ!」

俺のことをほしいって思ってる時の顔だ。猫が獲物を見つけた時みたいな、いまでは大好きな表情の一つ。
秋人は顔が整いすぎてるからなぁ、余計に怖く見えるのもわからないでもない。

「よ、よくわかんないけど…。陽介、怖くない?」
「全然。可愛いよ、秋人」
「……ん、Danke.(ありがとう。)」

威圧感すら感じていた秋人のドイツ語が甘く響く。
もしかしてこれは俺のせいで変わったのかな、なんて思いながら触れるだけのキスを送った。
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