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「待ってくれ、ユーリ! 行かないでくれ!」
王宮の正門を出ようとするユーリとゼノスの前に、一人の男が転がるようにして飛び出してきました。
王太子の正装は見る影もなく汚れ、髪は振り乱れ、目は血走っています。ヴィルフリートです。
「あら、殿下。まだ何か御用でしょうか? これ以上ここに留まると、私の服に『未練という名のカビ』が移ってしまいそうですわ」
ユーリは冷ややかにヴィルフリートを見下ろしました。
「……頼む! 私が悪かった! カトレアの甘い言葉に惑わされ、君という真の至宝を見誤ってしまったんだ!」
ドサッ、という鈍い音と共に、ヴィルフリートはその場に両膝をつき、額を地面に擦り付けました。
王太子による、公衆の面前での「土下座」です。周囲で見守る兵士や野次馬から、驚愕のどよめきが上がりました。
「ユーリ、君が必要なんだ! 君がいなければ、この国の花は二度と咲かない! 私の心も、枯れ果ててしまう……! 頼む、婚約破棄は撤回だ! もう一度、私の隣に戻ってきてくれ!」
必死の形相で叫ぶヴィルフリート。しかし、ユーリは感銘を受けるどころか、困ったように眉をひそめました。
「……ゼノス様。この光景、何かに似ていると思いませんか?」
「……そうだな。栄養を与えすぎて根腐れを起こし、自重を支えられなくなったヒマワリの成れの果て、といったところか」
ゼノスが腕を組み、冷徹な分析を口にしました。
「そう、それですわ! 殿下、あなたのその姿……。一度完全に枯死(こし)した株が、無理やり水分を吸ってシャキッとしようとしているように見えますけれど、残念ながら細胞レベルで手遅れですのよ」
「……て、手遅れ? そんなはずはない! 私は王太子だぞ! 最高の魔導師に治療させれば……!」
「いいですか、殿下。よく聞いてくださいね」
ユーリはヴィルフリートの前にしゃがみ込み、諭すように指を一本立てました。
「植物の植え替えには、守らなければならない鉄則があります。それは『根を傷つけないこと』、そして『一度抜いた株を、元の乾いた穴に戻さないこと』です」
「……それがどうしたというんだ」
「あなたは、自分の手で私をこの土地(王都)から引き抜きました。しかも、ただ抜くだけでなく、根をズタズタにして放り出したのです。……普通なら、そこで私は枯れて終わるはずでした」
ユーリは、隣に立つゼノスを見上げ、優しく微笑みました。
「けれど、幸運なことに私は、もっと豊かで、もっと情熱に溢れた『辺境』という大地に巡り会えました。そこで私は、ゼノス様という最高の支柱に支えられ、今、かつてないほど美しく、力強く根を張っているのです」
「…………」
「一度別の土地で元気に育ち始めた花を、また元の枯れた穴……つまり、あなたの隣に戻そうなんて。それは園芸家として、最も残酷で身勝手なエピソードですわ」
ユーリの言葉は、剣で突かれるよりも鋭くヴィルフリートの胸を貫きました。
「それに、殿下。あなたのその『土下座』ですが……。角度が甘いですわね。腰の曲げ方が不自然で、大地のエネルギーを全く吸収できていません。そんなフォームでは、反省の誠意(栄養)が私まで届きませんわよ?」
「……そ、そんなところまでダメ出しされるのか……っ!?」
ヴィルフリートは絶望に打ちひしがれ、さらに深く頭を下げましたが、もはやユーリの心は一ミリも動きませんでした。
「殿下。植え替えた花は、元の場所には戻りません。……せいぜい、今残っている雑草(カトレア様)の始末でもして、自分の庭のゴミ拾いからやり直すことですわね」
「……行くぞ、ユーリ。ゴミに構っていると、お前の綺麗な手が汚れる」
ゼノスがユーリの肩を抱き、優しくエスコートしました。
「ええ、ゼノス様。……さあ、帰りましょう。私たちの『茨の楽園』へ!」
二人は、地面に這いつくばったまま動けないヴィルフリートを完全に無視して、悠然と馬車に乗り込みました。
走り出した馬車の窓から、ユーリは最後のアドバイスを投げかけました。
「殿下! その場所は日当たりが良すぎますから、熱中症に気をつけてくださいね! あ、でも、そのまま干からびて『良質な煮干し』にでもなれば、少しは畑の肥料の役には立つかもしれませんわよ! おーほっほっほ!」
王都に響き渡る、ユーリの高笑い。
それは、身勝手な元婚約者への、最高に華やかな「ざまぁ」のフィナーレでした。
王宮の正門を出ようとするユーリとゼノスの前に、一人の男が転がるようにして飛び出してきました。
王太子の正装は見る影もなく汚れ、髪は振り乱れ、目は血走っています。ヴィルフリートです。
「あら、殿下。まだ何か御用でしょうか? これ以上ここに留まると、私の服に『未練という名のカビ』が移ってしまいそうですわ」
ユーリは冷ややかにヴィルフリートを見下ろしました。
「……頼む! 私が悪かった! カトレアの甘い言葉に惑わされ、君という真の至宝を見誤ってしまったんだ!」
ドサッ、という鈍い音と共に、ヴィルフリートはその場に両膝をつき、額を地面に擦り付けました。
王太子による、公衆の面前での「土下座」です。周囲で見守る兵士や野次馬から、驚愕のどよめきが上がりました。
「ユーリ、君が必要なんだ! 君がいなければ、この国の花は二度と咲かない! 私の心も、枯れ果ててしまう……! 頼む、婚約破棄は撤回だ! もう一度、私の隣に戻ってきてくれ!」
必死の形相で叫ぶヴィルフリート。しかし、ユーリは感銘を受けるどころか、困ったように眉をひそめました。
「……ゼノス様。この光景、何かに似ていると思いませんか?」
「……そうだな。栄養を与えすぎて根腐れを起こし、自重を支えられなくなったヒマワリの成れの果て、といったところか」
ゼノスが腕を組み、冷徹な分析を口にしました。
「そう、それですわ! 殿下、あなたのその姿……。一度完全に枯死(こし)した株が、無理やり水分を吸ってシャキッとしようとしているように見えますけれど、残念ながら細胞レベルで手遅れですのよ」
「……て、手遅れ? そんなはずはない! 私は王太子だぞ! 最高の魔導師に治療させれば……!」
「いいですか、殿下。よく聞いてくださいね」
ユーリはヴィルフリートの前にしゃがみ込み、諭すように指を一本立てました。
「植物の植え替えには、守らなければならない鉄則があります。それは『根を傷つけないこと』、そして『一度抜いた株を、元の乾いた穴に戻さないこと』です」
「……それがどうしたというんだ」
「あなたは、自分の手で私をこの土地(王都)から引き抜きました。しかも、ただ抜くだけでなく、根をズタズタにして放り出したのです。……普通なら、そこで私は枯れて終わるはずでした」
ユーリは、隣に立つゼノスを見上げ、優しく微笑みました。
「けれど、幸運なことに私は、もっと豊かで、もっと情熱に溢れた『辺境』という大地に巡り会えました。そこで私は、ゼノス様という最高の支柱に支えられ、今、かつてないほど美しく、力強く根を張っているのです」
「…………」
「一度別の土地で元気に育ち始めた花を、また元の枯れた穴……つまり、あなたの隣に戻そうなんて。それは園芸家として、最も残酷で身勝手なエピソードですわ」
ユーリの言葉は、剣で突かれるよりも鋭くヴィルフリートの胸を貫きました。
「それに、殿下。あなたのその『土下座』ですが……。角度が甘いですわね。腰の曲げ方が不自然で、大地のエネルギーを全く吸収できていません。そんなフォームでは、反省の誠意(栄養)が私まで届きませんわよ?」
「……そ、そんなところまでダメ出しされるのか……っ!?」
ヴィルフリートは絶望に打ちひしがれ、さらに深く頭を下げましたが、もはやユーリの心は一ミリも動きませんでした。
「殿下。植え替えた花は、元の場所には戻りません。……せいぜい、今残っている雑草(カトレア様)の始末でもして、自分の庭のゴミ拾いからやり直すことですわね」
「……行くぞ、ユーリ。ゴミに構っていると、お前の綺麗な手が汚れる」
ゼノスがユーリの肩を抱き、優しくエスコートしました。
「ええ、ゼノス様。……さあ、帰りましょう。私たちの『茨の楽園』へ!」
二人は、地面に這いつくばったまま動けないヴィルフリートを完全に無視して、悠然と馬車に乗り込みました。
走り出した馬車の窓から、ユーリは最後のアドバイスを投げかけました。
「殿下! その場所は日当たりが良すぎますから、熱中症に気をつけてくださいね! あ、でも、そのまま干からびて『良質な煮干し』にでもなれば、少しは畑の肥料の役には立つかもしれませんわよ! おーほっほっほ!」
王都に響き渡る、ユーリの高笑い。
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