9 / 28
9
しおりを挟む
「……勝ったわ、アンナ。今回の学年末試験こそが、私の自由への決定打になるはずよ」
学園の廊下。試験結果が貼り出される掲示板の前で、私は不敵な笑みを浮かべていた。
自信満々の私に対し、アンナは手にした出席簿でパタパタと自分を扇ぎながら、冷ややかな視線を送ってくる。
「お嬢様、その『勝った』という言葉、過去八回すべて負けフラグだった自覚はありますか?」
「失礼ね! 今回は完璧なのよ。王妃になる人間には、高い知性と教養が求められる……。ならば、私が『救いようのないバカ』だと証明されれば、王家も黙っていないはずよ!」
私の作戦はこうだ。
今回の試験、すべての問題に対して「わざと間違った答え」を書く……のではなく、もっと高度な嫌がらせをした。
すべての解答欄を完璧に埋めた上で、「名前を書かない」という禁じ手に出たのだ。
「名前のない答案は、問答無用でゼロ点。つまり赤点よ! 成績優秀な婚約者が、まさかの落第点……。これには殿下も、私の将来性に絶望するに違いないわ!」
「……お嬢様。解答を完璧に書ける時点で、知性は隠せていない気がしますが」
「いいのよ、結果がすべてなんだから! さあ、貼り出されたわよ!」
教師が掲示板に成績上位者の名前を貼り出す。
一番上には当然、アレン殿下の名前。
そして、私の名前を探すが……ない。どこにもない!
「オーホッホッホ! 見なさいアンナ、私の名前が載っていないわ! つまり私は最下位、あるいは失格! 完璧だわ!」
私は狂喜乱舞した。
これでついに「学力不足による婚約解消」への一歩を踏み出したのだ。
そこへ、案の定、アレン王子がカイルを引き連れてやってきた。
「……ロニエ。君の成績表を見たよ」
王子の表情は沈んでいる。よし、ついに呆れたわね!
さあ、言いなさい! 「名前も書けない愚か者とは結婚できない」と!
「殿下、申し訳ありません。私、うっかり名前を書き忘れてしまったみたいで……。こんな失態を演じるなんて、王妃の座には相応しくありませんわよね?」
私はわざとらしく俯いてみせた。
だが、アレン王子が口を開いた瞬間、空気は一変した。
「……なんて、謙虚なんだ、ロニエ……!」
「……は?」
王子は私の手を取り、その瞳に熱い涙を浮かべていた。
「カイルから聞いたよ。名前のない白紙……いや、無記名の答案。そこには、全問正解どころか、現役の学者も驚くような高度な魔法数式がびっしりと書き込まれていたそうじゃないか!」
「……ええ。お嬢様、採点した教師が『名前はないが、この筆跡と内容はロニエ様以外にありえない。しかし、あえて名前を書かないことで、名誉よりも真理を追究する姿勢に感動した』と泣いていましたよ」
カイルが眼鏡をクイッと上げながら、余計な補足を入れる。
「ロニエ。君は、自分の名前という『個』を捨て、純粋な知識そのものを国に捧げようとしたんだね。名声に溺れることなく、ただ黙々と正解を刻む……。それはまさに、影から国を支える賢者の姿だ!」
「違いますわ! 単なるうっかり、あるいは嫌がらせですのよ!」
「照れなくていい! 君のその『無名の天才』を気取る遊び心……。僕は、君がますます誇らしくなったよ。学園長には僕から話しておいた。君のその答案は『殿堂入り』として、学園の資料室に永年保存されることになったからね」
「永年保存!? 名前もないのに!?」
「ああ! 『名もなき聖女の至高の解答』として、後世の生徒たちの目標になるだろう」
周囲の生徒たちからも、どよめきと感嘆の声が上がる。
「さすがロニエ様……。点数という枠組みにすら囚われないなんて」
「名前を書かないことで、逆に存在感を際立たせるなんて、高等なテクニックだわ!」
「私も次から名前書くのやめようかしら……」
「やめなさい! あなたたちは普通に留年するわよ!」
私は思わずツッコミを入れたが、もう遅かった。
私の「赤点作戦」は、王子の超解釈によって「無欲な天才のパフォーマンス」へと昇華されてしまったのだ。
「ロニエ。君の知性に相応しいよう、僕ももっと勉強するよ。今夜は二人で、深夜まで合同勉強会をしよう。もちろん、個室でね」
「嫌ですわ! 私は寝たいんですの!」
「ふふ、またそうやってはぐらかして。君の向上心には勝てないな」
王子は爽やかに笑いながら、私の腰を引き寄せて歩き出した。
私は掲示板の「名もなき一位(実質)」の欄を見つめながら、遠い目をした。
「(……知性がありすぎるのも考えものね。次は……魔法実習。物理的に大爆発でも起こして、学園を半分くらい消し飛ばせば、さすがに追放されるかしら?)」
「お嬢様、物騒な独り言はそれくらいにしてください。また『学園の改修を促す慈愛の爆破』とか言われるのがオチですよ」
アンナの予言が、今回ばかりは現実になりそうで、私は本気で震え上がった。
私の婚約破棄への道は、解答欄を埋めるたびに、なぜか「救国の賢者」としての椅子を磨き上げているようだった。
学園の廊下。試験結果が貼り出される掲示板の前で、私は不敵な笑みを浮かべていた。
自信満々の私に対し、アンナは手にした出席簿でパタパタと自分を扇ぎながら、冷ややかな視線を送ってくる。
「お嬢様、その『勝った』という言葉、過去八回すべて負けフラグだった自覚はありますか?」
「失礼ね! 今回は完璧なのよ。王妃になる人間には、高い知性と教養が求められる……。ならば、私が『救いようのないバカ』だと証明されれば、王家も黙っていないはずよ!」
私の作戦はこうだ。
今回の試験、すべての問題に対して「わざと間違った答え」を書く……のではなく、もっと高度な嫌がらせをした。
すべての解答欄を完璧に埋めた上で、「名前を書かない」という禁じ手に出たのだ。
「名前のない答案は、問答無用でゼロ点。つまり赤点よ! 成績優秀な婚約者が、まさかの落第点……。これには殿下も、私の将来性に絶望するに違いないわ!」
「……お嬢様。解答を完璧に書ける時点で、知性は隠せていない気がしますが」
「いいのよ、結果がすべてなんだから! さあ、貼り出されたわよ!」
教師が掲示板に成績上位者の名前を貼り出す。
一番上には当然、アレン殿下の名前。
そして、私の名前を探すが……ない。どこにもない!
「オーホッホッホ! 見なさいアンナ、私の名前が載っていないわ! つまり私は最下位、あるいは失格! 完璧だわ!」
私は狂喜乱舞した。
これでついに「学力不足による婚約解消」への一歩を踏み出したのだ。
そこへ、案の定、アレン王子がカイルを引き連れてやってきた。
「……ロニエ。君の成績表を見たよ」
王子の表情は沈んでいる。よし、ついに呆れたわね!
さあ、言いなさい! 「名前も書けない愚か者とは結婚できない」と!
「殿下、申し訳ありません。私、うっかり名前を書き忘れてしまったみたいで……。こんな失態を演じるなんて、王妃の座には相応しくありませんわよね?」
私はわざとらしく俯いてみせた。
だが、アレン王子が口を開いた瞬間、空気は一変した。
「……なんて、謙虚なんだ、ロニエ……!」
「……は?」
王子は私の手を取り、その瞳に熱い涙を浮かべていた。
「カイルから聞いたよ。名前のない白紙……いや、無記名の答案。そこには、全問正解どころか、現役の学者も驚くような高度な魔法数式がびっしりと書き込まれていたそうじゃないか!」
「……ええ。お嬢様、採点した教師が『名前はないが、この筆跡と内容はロニエ様以外にありえない。しかし、あえて名前を書かないことで、名誉よりも真理を追究する姿勢に感動した』と泣いていましたよ」
カイルが眼鏡をクイッと上げながら、余計な補足を入れる。
「ロニエ。君は、自分の名前という『個』を捨て、純粋な知識そのものを国に捧げようとしたんだね。名声に溺れることなく、ただ黙々と正解を刻む……。それはまさに、影から国を支える賢者の姿だ!」
「違いますわ! 単なるうっかり、あるいは嫌がらせですのよ!」
「照れなくていい! 君のその『無名の天才』を気取る遊び心……。僕は、君がますます誇らしくなったよ。学園長には僕から話しておいた。君のその答案は『殿堂入り』として、学園の資料室に永年保存されることになったからね」
「永年保存!? 名前もないのに!?」
「ああ! 『名もなき聖女の至高の解答』として、後世の生徒たちの目標になるだろう」
周囲の生徒たちからも、どよめきと感嘆の声が上がる。
「さすがロニエ様……。点数という枠組みにすら囚われないなんて」
「名前を書かないことで、逆に存在感を際立たせるなんて、高等なテクニックだわ!」
「私も次から名前書くのやめようかしら……」
「やめなさい! あなたたちは普通に留年するわよ!」
私は思わずツッコミを入れたが、もう遅かった。
私の「赤点作戦」は、王子の超解釈によって「無欲な天才のパフォーマンス」へと昇華されてしまったのだ。
「ロニエ。君の知性に相応しいよう、僕ももっと勉強するよ。今夜は二人で、深夜まで合同勉強会をしよう。もちろん、個室でね」
「嫌ですわ! 私は寝たいんですの!」
「ふふ、またそうやってはぐらかして。君の向上心には勝てないな」
王子は爽やかに笑いながら、私の腰を引き寄せて歩き出した。
私は掲示板の「名もなき一位(実質)」の欄を見つめながら、遠い目をした。
「(……知性がありすぎるのも考えものね。次は……魔法実習。物理的に大爆発でも起こして、学園を半分くらい消し飛ばせば、さすがに追放されるかしら?)」
「お嬢様、物騒な独り言はそれくらいにしてください。また『学園の改修を促す慈愛の爆破』とか言われるのがオチですよ」
アンナの予言が、今回ばかりは現実になりそうで、私は本気で震え上がった。
私の婚約破棄への道は、解答欄を埋めるたびに、なぜか「救国の賢者」としての椅子を磨き上げているようだった。
0
あなたにおすすめの小説
これって私の断罪じゃなくて公開プロポーズですか!?
桃瀬ももな
恋愛
「カタリーナ・フォン・シュバルツ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」
卒業パーティーの最中、第一王子アルフォンスから非情な宣告を突きつけられた公爵令嬢カタリーナ。
生まれつきの鋭い目つきと、緊張すると顔が強張る不器用さゆえに「悪役令嬢」として孤立していた彼女は、ついに訪れた「お決まりの断罪劇」に絶望……するかと思いきや。
(……あれ? 殿下、いま小さく「よっしゃあ!」ってガッツポーズしませんでした!?)
処刑された悪役令嬢、二周目は「ぼっち」を卒業して最強チームを作ります!
みかぼう。
恋愛
地方を救おうとして『反逆者』に仕立て上げられ、断頭台で散ったエリアナ・ヴァルドレイン。
彼女の失敗は、有能すぎるがゆえに「独りで背負いすぎたこと」だった。
ループから始まった二周目。
彼女はこれまで周囲との間に引いていた「線」を、踏み越えることを決意した。
「お父様、私に『線を引け』と教えた貴方に、処刑台から見た真実をお話しします」
「殿下、私が貴方の『目』となります。王国に張り巡らされた謀略の糸を、共に断ち切りましょう」
淑女の仮面を脱ぎ捨て、父と王太子を「共闘者」へと変貌させる政争の道。
未来知識という『目』を使い、一歩ずつ確実に、破滅への先手を取っていく。
これは、独りで戦い、独りで死んだ令嬢が、信頼と連帯によって王国の未来を塗り替える――緻密かつ大胆なリベンジ政争劇。
「私を神輿にするのなら、覚悟してくださいませ。……その行き先は、貴方の破滅ですわ」
(※カクヨムにも掲載中です。)
悪役令嬢は婚約破棄の後、氷の騎士に溺愛される〜裏切られた令嬢の逆転劇〜
nacat
恋愛
第一王子から一方的な婚約破棄を告げられ、公衆の面前で嘲笑された“悪役令嬢”クラリス。
だが彼女を冷たく見つめていた王国随一の“氷の騎士”オルフェンが、その手を差し伸べる。
「君が傷つく理由など、どこにもない」
絶望の淵で拾われた心は、いつしか凍てついた騎士を溶かし始めていた。
華やかな社交界の裏で繰り広げられる復讐と癒やし、そして溺愛の物語。
運命に弄ばれた令嬢が、真実の愛と共に見返す――ざまぁと幸福の逆転劇。
悪役令嬢のはずですが、年上王子が幼い頃から私を甘やかす気でいました
ria_alphapolis
恋愛
私は、悪役令嬢なのかもしれない。
王子の婚約者としては少し我儘で、周囲からは気が強いと思われている――
そんな自分に気づいた日から、私は“断罪される未来”を恐れるようになった。
婚約者である年上の王子は、今日も変わらず優しい。
けれどその優しさが、義務なのか、同情なのか、私にはわからない。
距離を取ろうとする私と、何も言わずに見守る王子。
両思いなのに、想いはすれ違っていく。
けれど彼は知っている。
五歳下の婚約者が「我儘だ」と言われていた幼い頃から、
そのすべてが可愛くて仕方なかったことを。
――我儘でいい。
そう決めたのは、ずっと昔のことだった。
悪役令嬢だと勘違いしている少女と、
溺愛を隠し続ける年上王子の、すれ違い恋愛ファンタジー。
※溺愛保証/王子視点あり/幼少期エピソードあり
悪役令嬢を断罪したくせに、今さら溺愛とか都合が良すぎますわ!
nacat
恋愛
侯爵令嬢リディアは、無実の罪で婚約者の王太子に断罪された。
冷笑を浮かべ、すべてを捨てて国外へ去った彼女が、数年後、驚くべき姿で帰ってくる。
誰もが羨む天才魔導師として──。
今さら後悔する王太子、ざまぁを噛みしめる貴族令嬢たち。
そして、リディアをひそかに守ってきた公爵の青年が、ようやく想いを告げる時が来た。
これは、不当な断罪を受けた少女が、自分の誇りと愛を取り戻す溺愛系ロマンス。
すべての「裏切られた少女」たちに捧ぐ、痛快で甘く切ない逆転劇。
気付けば名も知らぬ悪役令嬢に憑依して、見知らぬヒロインに手をあげていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
私が憑依した身体の持ちは不幸のどん底に置かれた悪役令嬢でした
ある日、妹の部屋で見つけた不思議な指輪。その指輪をはめた途端、私は見知らぬ少女の前に立っていた。目の前には赤く腫れた頬で涙ぐみ、こちらをじっと見つめる可憐な美少女。そして何故か右手の平が痛む私。もしかして・・今私、この少女を引っ叩いたの?!そして何故か頭の中で響き渡る謎の声の人物と心と体を共存することになってしまう。憑依した身体の持ち主はいじめられっ娘の上に悪役令嬢のポジションに置かれている。見るに見かねた私は彼女を幸せにする為、そして自分の快適な生活を手に入れる為に自ら身体を張って奮闘する事にした―。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
婚約破棄された令嬢ですが、今さら愛されたって遅いですわ。~冷徹宰相殿下の溺愛が止まりません~
nacat
恋愛
王立学院の卒業式で、婚約者の王太子に「悪女」と断罪された公爵令嬢リリアナ。
全ての罪を着せられ、婚約を破棄された彼女は、冷徹と名高い宰相殿下のもとへ嫁ぐことになった。
「政略結婚ですから、愛など必要ございませんわ」そう言い放ったリリアナ。
だが宰相殿下は、彼女を宝物のように扱い、誰よりも深く愛し始める――。
やがて明らかになる“陰謀”と、“真実の愛”。
すべてを失った令嬢が、愛と誇りをもって世界を見返す、痛快ざまぁ&溺愛ロマンス!
『お前の顔は見飽きた!』内心ガッツポーズで辺境へ
夏乃みのり
恋愛
「リーナ・フォン・アトラス! 貴様との婚約を破棄する!」
華やかな王宮の夜会で、第一王子ジュリアンに突きつけられた非情な宣告。冤罪を被せられ、冷酷な悪役令嬢として追放を言い渡されたリーナだったが、彼女の内心は……「やったーーー! これでやっとトレーニングに専念できるわ!」と歓喜に震えていた!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる