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「……勝ったわ、アンナ。今回の学年末試験こそが、私の自由への決定打になるはずよ」
学園の廊下。試験結果が貼り出される掲示板の前で、私は不敵な笑みを浮かべていた。
自信満々の私に対し、アンナは手にした出席簿でパタパタと自分を扇ぎながら、冷ややかな視線を送ってくる。
「お嬢様、その『勝った』という言葉、過去八回すべて負けフラグだった自覚はありますか?」
「失礼ね! 今回は完璧なのよ。王妃になる人間には、高い知性と教養が求められる……。ならば、私が『救いようのないバカ』だと証明されれば、王家も黙っていないはずよ!」
私の作戦はこうだ。
今回の試験、すべての問題に対して「わざと間違った答え」を書く……のではなく、もっと高度な嫌がらせをした。
すべての解答欄を完璧に埋めた上で、「名前を書かない」という禁じ手に出たのだ。
「名前のない答案は、問答無用でゼロ点。つまり赤点よ! 成績優秀な婚約者が、まさかの落第点……。これには殿下も、私の将来性に絶望するに違いないわ!」
「……お嬢様。解答を完璧に書ける時点で、知性は隠せていない気がしますが」
「いいのよ、結果がすべてなんだから! さあ、貼り出されたわよ!」
教師が掲示板に成績上位者の名前を貼り出す。
一番上には当然、アレン殿下の名前。
そして、私の名前を探すが……ない。どこにもない!
「オーホッホッホ! 見なさいアンナ、私の名前が載っていないわ! つまり私は最下位、あるいは失格! 完璧だわ!」
私は狂喜乱舞した。
これでついに「学力不足による婚約解消」への一歩を踏み出したのだ。
そこへ、案の定、アレン王子がカイルを引き連れてやってきた。
「……ロニエ。君の成績表を見たよ」
王子の表情は沈んでいる。よし、ついに呆れたわね!
さあ、言いなさい! 「名前も書けない愚か者とは結婚できない」と!
「殿下、申し訳ありません。私、うっかり名前を書き忘れてしまったみたいで……。こんな失態を演じるなんて、王妃の座には相応しくありませんわよね?」
私はわざとらしく俯いてみせた。
だが、アレン王子が口を開いた瞬間、空気は一変した。
「……なんて、謙虚なんだ、ロニエ……!」
「……は?」
王子は私の手を取り、その瞳に熱い涙を浮かべていた。
「カイルから聞いたよ。名前のない白紙……いや、無記名の答案。そこには、全問正解どころか、現役の学者も驚くような高度な魔法数式がびっしりと書き込まれていたそうじゃないか!」
「……ええ。お嬢様、採点した教師が『名前はないが、この筆跡と内容はロニエ様以外にありえない。しかし、あえて名前を書かないことで、名誉よりも真理を追究する姿勢に感動した』と泣いていましたよ」
カイルが眼鏡をクイッと上げながら、余計な補足を入れる。
「ロニエ。君は、自分の名前という『個』を捨て、純粋な知識そのものを国に捧げようとしたんだね。名声に溺れることなく、ただ黙々と正解を刻む……。それはまさに、影から国を支える賢者の姿だ!」
「違いますわ! 単なるうっかり、あるいは嫌がらせですのよ!」
「照れなくていい! 君のその『無名の天才』を気取る遊び心……。僕は、君がますます誇らしくなったよ。学園長には僕から話しておいた。君のその答案は『殿堂入り』として、学園の資料室に永年保存されることになったからね」
「永年保存!? 名前もないのに!?」
「ああ! 『名もなき聖女の至高の解答』として、後世の生徒たちの目標になるだろう」
周囲の生徒たちからも、どよめきと感嘆の声が上がる。
「さすがロニエ様……。点数という枠組みにすら囚われないなんて」
「名前を書かないことで、逆に存在感を際立たせるなんて、高等なテクニックだわ!」
「私も次から名前書くのやめようかしら……」
「やめなさい! あなたたちは普通に留年するわよ!」
私は思わずツッコミを入れたが、もう遅かった。
私の「赤点作戦」は、王子の超解釈によって「無欲な天才のパフォーマンス」へと昇華されてしまったのだ。
「ロニエ。君の知性に相応しいよう、僕ももっと勉強するよ。今夜は二人で、深夜まで合同勉強会をしよう。もちろん、個室でね」
「嫌ですわ! 私は寝たいんですの!」
「ふふ、またそうやってはぐらかして。君の向上心には勝てないな」
王子は爽やかに笑いながら、私の腰を引き寄せて歩き出した。
私は掲示板の「名もなき一位(実質)」の欄を見つめながら、遠い目をした。
「(……知性がありすぎるのも考えものね。次は……魔法実習。物理的に大爆発でも起こして、学園を半分くらい消し飛ばせば、さすがに追放されるかしら?)」
「お嬢様、物騒な独り言はそれくらいにしてください。また『学園の改修を促す慈愛の爆破』とか言われるのがオチですよ」
アンナの予言が、今回ばかりは現実になりそうで、私は本気で震え上がった。
私の婚約破棄への道は、解答欄を埋めるたびに、なぜか「救国の賢者」としての椅子を磨き上げているようだった。
学園の廊下。試験結果が貼り出される掲示板の前で、私は不敵な笑みを浮かべていた。
自信満々の私に対し、アンナは手にした出席簿でパタパタと自分を扇ぎながら、冷ややかな視線を送ってくる。
「お嬢様、その『勝った』という言葉、過去八回すべて負けフラグだった自覚はありますか?」
「失礼ね! 今回は完璧なのよ。王妃になる人間には、高い知性と教養が求められる……。ならば、私が『救いようのないバカ』だと証明されれば、王家も黙っていないはずよ!」
私の作戦はこうだ。
今回の試験、すべての問題に対して「わざと間違った答え」を書く……のではなく、もっと高度な嫌がらせをした。
すべての解答欄を完璧に埋めた上で、「名前を書かない」という禁じ手に出たのだ。
「名前のない答案は、問答無用でゼロ点。つまり赤点よ! 成績優秀な婚約者が、まさかの落第点……。これには殿下も、私の将来性に絶望するに違いないわ!」
「……お嬢様。解答を完璧に書ける時点で、知性は隠せていない気がしますが」
「いいのよ、結果がすべてなんだから! さあ、貼り出されたわよ!」
教師が掲示板に成績上位者の名前を貼り出す。
一番上には当然、アレン殿下の名前。
そして、私の名前を探すが……ない。どこにもない!
「オーホッホッホ! 見なさいアンナ、私の名前が載っていないわ! つまり私は最下位、あるいは失格! 完璧だわ!」
私は狂喜乱舞した。
これでついに「学力不足による婚約解消」への一歩を踏み出したのだ。
そこへ、案の定、アレン王子がカイルを引き連れてやってきた。
「……ロニエ。君の成績表を見たよ」
王子の表情は沈んでいる。よし、ついに呆れたわね!
さあ、言いなさい! 「名前も書けない愚か者とは結婚できない」と!
「殿下、申し訳ありません。私、うっかり名前を書き忘れてしまったみたいで……。こんな失態を演じるなんて、王妃の座には相応しくありませんわよね?」
私はわざとらしく俯いてみせた。
だが、アレン王子が口を開いた瞬間、空気は一変した。
「……なんて、謙虚なんだ、ロニエ……!」
「……は?」
王子は私の手を取り、その瞳に熱い涙を浮かべていた。
「カイルから聞いたよ。名前のない白紙……いや、無記名の答案。そこには、全問正解どころか、現役の学者も驚くような高度な魔法数式がびっしりと書き込まれていたそうじゃないか!」
「……ええ。お嬢様、採点した教師が『名前はないが、この筆跡と内容はロニエ様以外にありえない。しかし、あえて名前を書かないことで、名誉よりも真理を追究する姿勢に感動した』と泣いていましたよ」
カイルが眼鏡をクイッと上げながら、余計な補足を入れる。
「ロニエ。君は、自分の名前という『個』を捨て、純粋な知識そのものを国に捧げようとしたんだね。名声に溺れることなく、ただ黙々と正解を刻む……。それはまさに、影から国を支える賢者の姿だ!」
「違いますわ! 単なるうっかり、あるいは嫌がらせですのよ!」
「照れなくていい! 君のその『無名の天才』を気取る遊び心……。僕は、君がますます誇らしくなったよ。学園長には僕から話しておいた。君のその答案は『殿堂入り』として、学園の資料室に永年保存されることになったからね」
「永年保存!? 名前もないのに!?」
「ああ! 『名もなき聖女の至高の解答』として、後世の生徒たちの目標になるだろう」
周囲の生徒たちからも、どよめきと感嘆の声が上がる。
「さすがロニエ様……。点数という枠組みにすら囚われないなんて」
「名前を書かないことで、逆に存在感を際立たせるなんて、高等なテクニックだわ!」
「私も次から名前書くのやめようかしら……」
「やめなさい! あなたたちは普通に留年するわよ!」
私は思わずツッコミを入れたが、もう遅かった。
私の「赤点作戦」は、王子の超解釈によって「無欲な天才のパフォーマンス」へと昇華されてしまったのだ。
「ロニエ。君の知性に相応しいよう、僕ももっと勉強するよ。今夜は二人で、深夜まで合同勉強会をしよう。もちろん、個室でね」
「嫌ですわ! 私は寝たいんですの!」
「ふふ、またそうやってはぐらかして。君の向上心には勝てないな」
王子は爽やかに笑いながら、私の腰を引き寄せて歩き出した。
私は掲示板の「名もなき一位(実質)」の欄を見つめながら、遠い目をした。
「(……知性がありすぎるのも考えものね。次は……魔法実習。物理的に大爆発でも起こして、学園を半分くらい消し飛ばせば、さすがに追放されるかしら?)」
「お嬢様、物騒な独り言はそれくらいにしてください。また『学園の改修を促す慈愛の爆破』とか言われるのがオチですよ」
アンナの予言が、今回ばかりは現実になりそうで、私は本気で震え上がった。
私の婚約破棄への道は、解答欄を埋めるたびに、なぜか「救国の賢者」としての椅子を磨き上げているようだった。
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