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「……よし。これなら、いかなる王子であってもドン引きして逃げ出すはずよ」
学園のサロン。私は椅子に深々と腰掛け、勝利を確信した笑みを浮かべていた。
目の前には、近々開催される「学園ダンスパーティー」の豪華な招待状。
本来なら婚約者であるアレン王子と踊るのが義務だが、私はその義務を全力で踏みにじるつもりだ。
「お嬢様、不敵な笑みを浮かべながら自分の足を凝視するのはやめてください。はたから見ると、フェティシズムの類に見えます」
「失礼ね、アンナ! 今日は視覚でも味覚でもなく、五感の最後の一線……『嗅覚』を攻めるのよ!」
私の作戦はこうだ。
王子が誘いに来た瞬間、私はこう告げる。
『殿下、申し訳ありませんが、私の足は猛烈に臭いのです。靴を脱げば、周囲の草木が枯れ果てるほどに!』と。
「いくら変わり者好きの殿下でも、悪臭を放つ女を抱いて踊りたいとは思わないはずだわ。これでパーティー欠席、そして『不潔な令嬢』として婚約破棄……。完璧だわ!」
「……お嬢様。お嬢様の足は、私が毎朝ローズオイルで磨き上げているので、花の香りがしますが」
「それは黙っていなさい! 嘘も方便よ!」
そこへ、いつものようにキラキラした光を撒き散らしながらアレン王子がやってきた。
手には真っ赤なバラの花束。相変わらず演出が過剰である。
「やあ、ロニエ! 今日も世界で一番美しいね。……おや、招待状を見ているのかい? 来週のダンスパーティー、僕のパートナーは君以外に考えられない」
王子が優雅に膝をつき、私の手を取ろうとする。
私はそれをバシッと払い除け、深刻な顔で立ち上がった。
「殿下! おやめください! 私には、殿下とお踊りする資格などございませんわ!」
「……!? 資格がない? どういうことだい、ロニエ。君は僕の婚約者であり、学園の至宝だ。君以上に相応しい女性など、この世に存在しない」
「いいえ! 私は……私は、とんでもない秘密を抱えているのです!」
私はわざとらしく震える声で、顔を覆った。
さあ、衝撃の告白よ!
「実は私の足……猛烈に、それはもう壊滅的に臭いのですわ! 一度靴を脱げば、近衛騎士団が全滅し、学園の池の魚が浮いてくるほどの劇薬レベルですのよ!」
「…………えっ?」
王子の動きが止まった。
隣に控えていたカイルが、手に持っていた書類をパラパラと落とした。
サロンにいた他の生徒たちも、時が止まったかのように静まり返る。
よし……! ついに引いたわね!
令嬢が自分の足を「臭い」と公言する。これ以上の不名誉があるかしら!
しかし。
数秒の静寂の後、アレン王子の瞳に宿ったのは、軽蔑ではなく「深い感銘」だった。
「…………なんて、誠実なんだ……!」
「……はい?」
王子は再び私の手を取り、今度は力強く握りしめた。
「ロニエ。君は、自分の欠点を……それほどまでに深刻な、国家的危機とも言える欠点を、僕に対して正直に打ち明けてくれたんだね!」
「いえ、欠点というか、今作った嘘なんですけれど」
「隠し事のない関係。君は僕との信頼関係を何よりも大切にし、嘘偽りのない自分を見てほしいと願っている……。その、勇気ある告白に、僕は今、魂が震えるほどの感動を覚えているよ!」
「殿下、話を聞いてくださいまし! 臭いんですのよ!? 物理的に鼻が曲がりますのよ!?」
「気にするな、ロニエ! 臭いなどというものは、生命の力強さの象徴に過ぎない! 君がそれほどまでにエネルギーに満ち溢れている証拠だ。僕は、君の足の臭いさえも愛おしい!」
アレン王子は立ち上がり、周囲に向かって高らかに宣言した。
「皆、聞け! ロニエは自分の弱さを晒すことで、僕たちの絆をさらに深めてくれた! 来週のパーティー、僕は最強の鼻栓を用意してでも、彼女と踊り抜くことを誓おう!」
「鼻栓してまで踊らなくていいですわよ! 誰得ですのよ、そのダンス!」
「カイル! 至急、王宮の調香師を招集しろ。ロニエの『生命の香り』と調和する、最高の香水を開発させるんだ!」
「御意……(お嬢様、もう何をやっても無駄な気がしてきました)」
カイルが虚空を見つめながら返事をする。
周囲の生徒たちも、「さすがロニエ様、コンプレックスさえも愛に変えてしまうなんて……」と、もはやカルト的な称賛を送っている。
「(……嘘でしょう。足が臭いって言って、なんで惚れ直されるのよ……!)」
「お嬢様、お疲れ様です。次は『実は背中に羽が生えている』とか言ってみますか? 天使だと思われて、また崇拝されるでしょうけれど」
アンナが冷たく言い放つ。
私は、もはやツッコミを入れる元気もなく、王子の熱烈な「消臭対策プラン」を聞かされる羽目になった。
私の婚約破棄への道は、靴を脱ぐ間もなく、なぜか「真実の愛の物語」として王国の歴史に刻まれようとしていた。
学園のサロン。私は椅子に深々と腰掛け、勝利を確信した笑みを浮かべていた。
目の前には、近々開催される「学園ダンスパーティー」の豪華な招待状。
本来なら婚約者であるアレン王子と踊るのが義務だが、私はその義務を全力で踏みにじるつもりだ。
「お嬢様、不敵な笑みを浮かべながら自分の足を凝視するのはやめてください。はたから見ると、フェティシズムの類に見えます」
「失礼ね、アンナ! 今日は視覚でも味覚でもなく、五感の最後の一線……『嗅覚』を攻めるのよ!」
私の作戦はこうだ。
王子が誘いに来た瞬間、私はこう告げる。
『殿下、申し訳ありませんが、私の足は猛烈に臭いのです。靴を脱げば、周囲の草木が枯れ果てるほどに!』と。
「いくら変わり者好きの殿下でも、悪臭を放つ女を抱いて踊りたいとは思わないはずだわ。これでパーティー欠席、そして『不潔な令嬢』として婚約破棄……。完璧だわ!」
「……お嬢様。お嬢様の足は、私が毎朝ローズオイルで磨き上げているので、花の香りがしますが」
「それは黙っていなさい! 嘘も方便よ!」
そこへ、いつものようにキラキラした光を撒き散らしながらアレン王子がやってきた。
手には真っ赤なバラの花束。相変わらず演出が過剰である。
「やあ、ロニエ! 今日も世界で一番美しいね。……おや、招待状を見ているのかい? 来週のダンスパーティー、僕のパートナーは君以外に考えられない」
王子が優雅に膝をつき、私の手を取ろうとする。
私はそれをバシッと払い除け、深刻な顔で立ち上がった。
「殿下! おやめください! 私には、殿下とお踊りする資格などございませんわ!」
「……!? 資格がない? どういうことだい、ロニエ。君は僕の婚約者であり、学園の至宝だ。君以上に相応しい女性など、この世に存在しない」
「いいえ! 私は……私は、とんでもない秘密を抱えているのです!」
私はわざとらしく震える声で、顔を覆った。
さあ、衝撃の告白よ!
「実は私の足……猛烈に、それはもう壊滅的に臭いのですわ! 一度靴を脱げば、近衛騎士団が全滅し、学園の池の魚が浮いてくるほどの劇薬レベルですのよ!」
「…………えっ?」
王子の動きが止まった。
隣に控えていたカイルが、手に持っていた書類をパラパラと落とした。
サロンにいた他の生徒たちも、時が止まったかのように静まり返る。
よし……! ついに引いたわね!
令嬢が自分の足を「臭い」と公言する。これ以上の不名誉があるかしら!
しかし。
数秒の静寂の後、アレン王子の瞳に宿ったのは、軽蔑ではなく「深い感銘」だった。
「…………なんて、誠実なんだ……!」
「……はい?」
王子は再び私の手を取り、今度は力強く握りしめた。
「ロニエ。君は、自分の欠点を……それほどまでに深刻な、国家的危機とも言える欠点を、僕に対して正直に打ち明けてくれたんだね!」
「いえ、欠点というか、今作った嘘なんですけれど」
「隠し事のない関係。君は僕との信頼関係を何よりも大切にし、嘘偽りのない自分を見てほしいと願っている……。その、勇気ある告白に、僕は今、魂が震えるほどの感動を覚えているよ!」
「殿下、話を聞いてくださいまし! 臭いんですのよ!? 物理的に鼻が曲がりますのよ!?」
「気にするな、ロニエ! 臭いなどというものは、生命の力強さの象徴に過ぎない! 君がそれほどまでにエネルギーに満ち溢れている証拠だ。僕は、君の足の臭いさえも愛おしい!」
アレン王子は立ち上がり、周囲に向かって高らかに宣言した。
「皆、聞け! ロニエは自分の弱さを晒すことで、僕たちの絆をさらに深めてくれた! 来週のパーティー、僕は最強の鼻栓を用意してでも、彼女と踊り抜くことを誓おう!」
「鼻栓してまで踊らなくていいですわよ! 誰得ですのよ、そのダンス!」
「カイル! 至急、王宮の調香師を招集しろ。ロニエの『生命の香り』と調和する、最高の香水を開発させるんだ!」
「御意……(お嬢様、もう何をやっても無駄な気がしてきました)」
カイルが虚空を見つめながら返事をする。
周囲の生徒たちも、「さすがロニエ様、コンプレックスさえも愛に変えてしまうなんて……」と、もはやカルト的な称賛を送っている。
「(……嘘でしょう。足が臭いって言って、なんで惚れ直されるのよ……!)」
「お嬢様、お疲れ様です。次は『実は背中に羽が生えている』とか言ってみますか? 天使だと思われて、また崇拝されるでしょうけれど」
アンナが冷たく言い放つ。
私は、もはやツッコミを入れる元気もなく、王子の熱烈な「消臭対策プラン」を聞かされる羽目になった。
私の婚約破棄への道は、靴を脱ぐ間もなく、なぜか「真実の愛の物語」として王国の歴史に刻まれようとしていた。
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