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「……これで、パーティーの欠席は確定ね。流石の殿下も、公衆の面前で悪臭源を抱きかかえて踊る度胸はないはずだわ」
翌日の放課後。私は図書室のテラスで、優雅にハーブティーを楽しんでいた。
私の心は、昨日放った「足が壊滅的に臭い」という爆弾発言の余韻で満たされている。
「お嬢様、その満足げな顔、少し控えていただけますか。学園中にお嬢様の『生命の香り』の噂が広まり、一部の好事家の間では伝説になりつつありますよ」
「アンナ、好事家なんて放っておきなさい。殿下が愛想を尽かしてくれれば、私の勝ちよ」
そこへ、大地を揺らすような蹄の音……ではなく、数十人の足音が聞こえてきた。
見れば、アレン王子が、白衣を着た集団を引き連れてこちらへ行進してくるではないか。
「やあ、ロニエ! 昨夜は一睡もできなくてね。君の悩みを解決するために、我が国の最高峰を結集させたよ!」
「……殿下、その白い服の方々は、一体どちら様ですの?」
「王宮調香師ギルド、および王立皮膚科医師団だ。君の『力強い足の香り』を抑え、かつ君の健康を維持するためのプロジェクトチームを立ち上げた!」
アレン王子はパチンと指を鳴らした。
すると、医師団の一人が仰々しく金色の箱を差し出してきた。
「お嬢様、こちらが国宝級の香木と、千年に一度しか咲かない幻の花から抽出した『究極の足用消臭香水』でございます。これ一滴で、ドラゴンの一撃すら中和できると言われております」
「……そんなもの、足に塗るのが怖いですわよ!」
「遠慮しないでくれ、ロニエ。君が悩んでいるなら、僕は国力を挙げてそれを打破する。さあ、靴を脱いで。僕が直々に塗ってあげよう」
王子はテラスの床に、何の迷いもなく膝をついた。
王位継承権第一位の男が、令嬢の足元に跪き、靴を脱がせようとしている。
周囲にいた生徒たちが「おおお……!」と地鳴りのような感銘の声を上げた。
「殿下! おやめください! 王子のすることではありませんわ!」
「いいや、愛する人の悩みは僕の悩みだ。たとえそこに、騎士団を壊滅させる悪臭が潜んでいようとも、僕は怯まない!」
「……あの、お嬢様。これ以上拒むと、本当に脱がされて私のローズオイルの香りがバレますよ。そうなれば『嘘つき令嬢』として別の意味で断罪されますが」
アンナが耳元で冷たく囁く。
私は青ざめた。靴を脱げば、私の足が実は花の香りであることがバレる。
かと言って、このまま塗りたくられるのも、それはそれで意味がわからない。
「……わ、わかりましたわ! 自分で塗りますから、その怪しげな液体を置いて、皆さん今すぐ立ち去ってくださいまし!」
「おお、自分で……。君はどこまで自立した、強い女性なんだ! 自分の弱点に自ら立ち向かうその姿勢、惚れ直したよ!」
王子は香水の小瓶を私に手渡すと、満足げに立ち上がった。
「ロニエ。パーティー当日は、僕が君専用の『特製脱臭機能付きドレス』も発注しておいた。君がどれほど発臭しても、周囲にはバラの香りに変換されて届く仕組みだ。安心して僕の胸に飛び込んできてくれ」
「脱臭機能付きドレスなんて、そんなハイテクなもの着たくありませんわ!」
「ふふ、謙遜しなくていい。君の美しさに、少しの香りのスパイス……。僕は楽しみで仕方ないよ」
王子は爽やかに手を振り、白衣の軍団を連れて去っていった。
私は手元に残された、無駄に豪華な香水の小瓶を見つめて絶望した。
「(……嘘でしょう。足が臭いっていう設定を守るために、私はパーティーの間中、脱臭装置を背負って踊るの?)」
「お嬢様、おめでとうございます。これで当日、お嬢様がどれほど無愛想に振る舞っても、『脱臭装置の重みに耐える健気な令嬢』として拍手喝采を浴びることでしょう」
アンナの予言は、もはや私にとっての呪いでしかなかった。
私の婚約破棄への道は、香水の香りが広がるたびに、なぜか「王子の献身的な愛を一身に受ける悲劇のヒロイン」としての地位を盤石にしていくのだった。
翌日の放課後。私は図書室のテラスで、優雅にハーブティーを楽しんでいた。
私の心は、昨日放った「足が壊滅的に臭い」という爆弾発言の余韻で満たされている。
「お嬢様、その満足げな顔、少し控えていただけますか。学園中にお嬢様の『生命の香り』の噂が広まり、一部の好事家の間では伝説になりつつありますよ」
「アンナ、好事家なんて放っておきなさい。殿下が愛想を尽かしてくれれば、私の勝ちよ」
そこへ、大地を揺らすような蹄の音……ではなく、数十人の足音が聞こえてきた。
見れば、アレン王子が、白衣を着た集団を引き連れてこちらへ行進してくるではないか。
「やあ、ロニエ! 昨夜は一睡もできなくてね。君の悩みを解決するために、我が国の最高峰を結集させたよ!」
「……殿下、その白い服の方々は、一体どちら様ですの?」
「王宮調香師ギルド、および王立皮膚科医師団だ。君の『力強い足の香り』を抑え、かつ君の健康を維持するためのプロジェクトチームを立ち上げた!」
アレン王子はパチンと指を鳴らした。
すると、医師団の一人が仰々しく金色の箱を差し出してきた。
「お嬢様、こちらが国宝級の香木と、千年に一度しか咲かない幻の花から抽出した『究極の足用消臭香水』でございます。これ一滴で、ドラゴンの一撃すら中和できると言われております」
「……そんなもの、足に塗るのが怖いですわよ!」
「遠慮しないでくれ、ロニエ。君が悩んでいるなら、僕は国力を挙げてそれを打破する。さあ、靴を脱いで。僕が直々に塗ってあげよう」
王子はテラスの床に、何の迷いもなく膝をついた。
王位継承権第一位の男が、令嬢の足元に跪き、靴を脱がせようとしている。
周囲にいた生徒たちが「おおお……!」と地鳴りのような感銘の声を上げた。
「殿下! おやめください! 王子のすることではありませんわ!」
「いいや、愛する人の悩みは僕の悩みだ。たとえそこに、騎士団を壊滅させる悪臭が潜んでいようとも、僕は怯まない!」
「……あの、お嬢様。これ以上拒むと、本当に脱がされて私のローズオイルの香りがバレますよ。そうなれば『嘘つき令嬢』として別の意味で断罪されますが」
アンナが耳元で冷たく囁く。
私は青ざめた。靴を脱げば、私の足が実は花の香りであることがバレる。
かと言って、このまま塗りたくられるのも、それはそれで意味がわからない。
「……わ、わかりましたわ! 自分で塗りますから、その怪しげな液体を置いて、皆さん今すぐ立ち去ってくださいまし!」
「おお、自分で……。君はどこまで自立した、強い女性なんだ! 自分の弱点に自ら立ち向かうその姿勢、惚れ直したよ!」
王子は香水の小瓶を私に手渡すと、満足げに立ち上がった。
「ロニエ。パーティー当日は、僕が君専用の『特製脱臭機能付きドレス』も発注しておいた。君がどれほど発臭しても、周囲にはバラの香りに変換されて届く仕組みだ。安心して僕の胸に飛び込んできてくれ」
「脱臭機能付きドレスなんて、そんなハイテクなもの着たくありませんわ!」
「ふふ、謙遜しなくていい。君の美しさに、少しの香りのスパイス……。僕は楽しみで仕方ないよ」
王子は爽やかに手を振り、白衣の軍団を連れて去っていった。
私は手元に残された、無駄に豪華な香水の小瓶を見つめて絶望した。
「(……嘘でしょう。足が臭いっていう設定を守るために、私はパーティーの間中、脱臭装置を背負って踊るの?)」
「お嬢様、おめでとうございます。これで当日、お嬢様がどれほど無愛想に振る舞っても、『脱臭装置の重みに耐える健気な令嬢』として拍手喝采を浴びることでしょう」
アンナの予言は、もはや私にとっての呪いでしかなかった。
私の婚約破棄への道は、香水の香りが広がるたびに、なぜか「王子の献身的な愛を一身に受ける悲劇のヒロイン」としての地位を盤石にしていくのだった。
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