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「……アンナ、ついに来たわ。私の身代わり……じゃなくて、真の王妃に相応しい強敵が!」
学園のカフェテリア。私は窓際の席で、優雅に(のつもりで)足を組み、校門から現れたド派手な馬車を指差した。
その馬車から降りてきたのは、縦ロールの金髪を揺らし、取り巻きを扇子で仰がせている公爵令嬢、ベアトリス様だ。
「お嬢様、あれは隣国の公爵家のご令嬢ですね。アレン殿下を狙って編入してくると噂されていた方です」
「最高じゃない! あの高飛車な態度、あの溢れんばかりの独占欲。私とは大違いだわ! 彼女なら、私の代わりに殿下の相手を喜んで引き受けてくれるはずよ!」
私は鼻息を荒くして立ち上がった。
作戦名は「どうぞどうぞ、熨斗(のし)をつけて差し上げます」作戦だ。
「おーほっほっほ! あなたがエヴァンズ伯爵家のロニエさん? 殿下の婚約者の座に居座っているという、厚顔無恥な女とはあなたのことかしら!」
カフェテリアにベアトリス様の高笑いが響き渡る。
周囲の生徒たちが「ひっ、ベアトリス様だわ!」「ロニエ様が危ない!」とざわつき出す。
いいわよ、いいわよ! どんどん言っちゃって!
「……ええ、左様ですわ。私がその、殿下の貴重な時間を奪い続けている不届きなロニエ・エヴァンズですわ」
「あら、自覚はあるようですわね。殿下には、私のような家柄も美貌も完璧な女性が相応しいの。あなたのような……あら? 何ですの、その顔。なぜニヤニヤしていますの?」
ベアトリス様が怪訝そうに眉を寄せた。
いけない、あまりの嬉しさに顔が緩んでしまったわ。
「いえ、あまりにベアトリス様が美しく、気高いので、つい感動してしまいまして。……殿下のことでしたら、どうぞ、遠慮なく奪っていってくださいまし。むしろ今すぐお持ち帰りいただいても一向に構いませんわよ!」
「……は、はぁ!? 奪う? 差し上げる? あなた、正気ですの?」
「ええ、正気ですとも! 殿下はあちらの噴水近くにいらっしゃいますわ。さあ、今がチャンスです! 私が後ろから羽交い締めにしてでも、殿下をあなたに差し出しましょうか!?」
私はベアトリス様の両手を握り、熱烈な視線を送った。
これでもう、私は「婚約者の座を放棄した無責任な女」として確定するはず!
しかし、ベアトリス様の顔は、怒りではなく「恐怖」に染まっていった。
「……な、何ですの、その余裕は。私を挑発しているのね!?」
「えっ? 挑発なんて一ミリも……」
「『どうぞ奪ってみなさい、あなたにそんな実力があればね』……そう言いたいのでしょう!? 私を格下だと決めつけて、あえて譲るふりをして馬鹿にしているんだわ!」
ベアトリス様はガタガタと震えながら、私の手を振り払った。
「な、なんて恐ろしい女……。私のような公爵令嬢を相手に、これほどまでの『王者の余裕』を見せつけるなんて……。私、あなたのような底知れない強敵は初めてですわ!」
「違いますわ、ベアトリス様! 私はただ、お昼寝がしたいだけなんです!」
「嘘を言いなさい! その瞳、すべてを見透かしているようですわ! ……今日のところは引かせていただきます! でも覚えておきなさい、私は諦めませんわよ!」
ベアトリス様は、取り巻きを引き連れて脱兎のごとく逃げ出していった。
……なぜ? 私はただ、道を譲っただけなのに。
そこへ、一部始終を見ていたアレン王子が、まばゆい笑顔で現れた。
「ロニエ! 素晴らしいよ。君はまた、慈愛の心でライバルさえも救おうとしたんだね」
「殿下、どこをどう見たらそう見えますの!?」
「カイル、見たかい? ロニエは、自分を攻撃しに来たベアトリス嬢を、優しく包み込むような笑顔で迎えた。それどころか、僕との関係という一番大切なものを差し出すことで、彼女の孤独な心を癒やそうとしたんだ……!」
「……ええ。お嬢様の『無私無欲』な振る舞いに、ベアトリス嬢は己の小ささを恥じて逃げ帰った。完璧な精神的勝利ですね、お嬢様」
カイルが感銘を受けたように眼鏡を拭く。
「(……嘘でしょう。押し付けようとしただけなのに、なんで精神的勝利になってるのよ……!)」
私はカフェテリアの天井を仰ぎ見た。
新しいライバルが現れるたびに、私の「聖女伝説」に新しい勲章が増えていく。
「ロニエ、君があれほど僕を推してくれたのだから、僕も君に相応しい男にならなきゃね。さあ、今日はベアトリス嬢との一件を祝して、僕の特製手作り弁当を食べよう」
「……それ、絶対砂糖まみれですわよね?」
私は絶望のどん底で、王子の「重すぎる愛」という名の弁当を受け取るしかなかった。
学園のカフェテリア。私は窓際の席で、優雅に(のつもりで)足を組み、校門から現れたド派手な馬車を指差した。
その馬車から降りてきたのは、縦ロールの金髪を揺らし、取り巻きを扇子で仰がせている公爵令嬢、ベアトリス様だ。
「お嬢様、あれは隣国の公爵家のご令嬢ですね。アレン殿下を狙って編入してくると噂されていた方です」
「最高じゃない! あの高飛車な態度、あの溢れんばかりの独占欲。私とは大違いだわ! 彼女なら、私の代わりに殿下の相手を喜んで引き受けてくれるはずよ!」
私は鼻息を荒くして立ち上がった。
作戦名は「どうぞどうぞ、熨斗(のし)をつけて差し上げます」作戦だ。
「おーほっほっほ! あなたがエヴァンズ伯爵家のロニエさん? 殿下の婚約者の座に居座っているという、厚顔無恥な女とはあなたのことかしら!」
カフェテリアにベアトリス様の高笑いが響き渡る。
周囲の生徒たちが「ひっ、ベアトリス様だわ!」「ロニエ様が危ない!」とざわつき出す。
いいわよ、いいわよ! どんどん言っちゃって!
「……ええ、左様ですわ。私がその、殿下の貴重な時間を奪い続けている不届きなロニエ・エヴァンズですわ」
「あら、自覚はあるようですわね。殿下には、私のような家柄も美貌も完璧な女性が相応しいの。あなたのような……あら? 何ですの、その顔。なぜニヤニヤしていますの?」
ベアトリス様が怪訝そうに眉を寄せた。
いけない、あまりの嬉しさに顔が緩んでしまったわ。
「いえ、あまりにベアトリス様が美しく、気高いので、つい感動してしまいまして。……殿下のことでしたら、どうぞ、遠慮なく奪っていってくださいまし。むしろ今すぐお持ち帰りいただいても一向に構いませんわよ!」
「……は、はぁ!? 奪う? 差し上げる? あなた、正気ですの?」
「ええ、正気ですとも! 殿下はあちらの噴水近くにいらっしゃいますわ。さあ、今がチャンスです! 私が後ろから羽交い締めにしてでも、殿下をあなたに差し出しましょうか!?」
私はベアトリス様の両手を握り、熱烈な視線を送った。
これでもう、私は「婚約者の座を放棄した無責任な女」として確定するはず!
しかし、ベアトリス様の顔は、怒りではなく「恐怖」に染まっていった。
「……な、何ですの、その余裕は。私を挑発しているのね!?」
「えっ? 挑発なんて一ミリも……」
「『どうぞ奪ってみなさい、あなたにそんな実力があればね』……そう言いたいのでしょう!? 私を格下だと決めつけて、あえて譲るふりをして馬鹿にしているんだわ!」
ベアトリス様はガタガタと震えながら、私の手を振り払った。
「な、なんて恐ろしい女……。私のような公爵令嬢を相手に、これほどまでの『王者の余裕』を見せつけるなんて……。私、あなたのような底知れない強敵は初めてですわ!」
「違いますわ、ベアトリス様! 私はただ、お昼寝がしたいだけなんです!」
「嘘を言いなさい! その瞳、すべてを見透かしているようですわ! ……今日のところは引かせていただきます! でも覚えておきなさい、私は諦めませんわよ!」
ベアトリス様は、取り巻きを引き連れて脱兎のごとく逃げ出していった。
……なぜ? 私はただ、道を譲っただけなのに。
そこへ、一部始終を見ていたアレン王子が、まばゆい笑顔で現れた。
「ロニエ! 素晴らしいよ。君はまた、慈愛の心でライバルさえも救おうとしたんだね」
「殿下、どこをどう見たらそう見えますの!?」
「カイル、見たかい? ロニエは、自分を攻撃しに来たベアトリス嬢を、優しく包み込むような笑顔で迎えた。それどころか、僕との関係という一番大切なものを差し出すことで、彼女の孤独な心を癒やそうとしたんだ……!」
「……ええ。お嬢様の『無私無欲』な振る舞いに、ベアトリス嬢は己の小ささを恥じて逃げ帰った。完璧な精神的勝利ですね、お嬢様」
カイルが感銘を受けたように眼鏡を拭く。
「(……嘘でしょう。押し付けようとしただけなのに、なんで精神的勝利になってるのよ……!)」
私はカフェテリアの天井を仰ぎ見た。
新しいライバルが現れるたびに、私の「聖女伝説」に新しい勲章が増えていく。
「ロニエ、君があれほど僕を推してくれたのだから、僕も君に相応しい男にならなきゃね。さあ、今日はベアトリス嬢との一件を祝して、僕の特製手作り弁当を食べよう」
「……それ、絶対砂糖まみれですわよね?」
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