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「……アンナ。昨日のベアトリス様の逃走、あれはどう考えても私の勝ちよね?」
学園の中庭、バラが咲き誇る東屋で私はティーカップを置いた。
昨日の「どうぞどうぞ作戦」は失敗したが、彼女が私を「恐ろしい強敵」と認識したのなら、次はもっと露骨に「私はダメな女です」とアピールすればいい。
「お嬢様、お言葉ですが、ベアトリス様は現在、廊下で震えながらお嬢様の出方を伺っているようですよ」
「えっ、まだいるの? しつこいわね……。でも好都合だわ。今日こそ彼女に『王子を押し付ける』ことに成功してみせるわ!」
私が立ち上がると同時に、茂みの陰からベアトリス様が取り巻きを引き連れて姿を現した。
その顔は緊張で強張っており、まるで決闘に臨む騎士のようだ。
「……お、お待ちなさい、ロニエ・エヴァンズ! 昨日の屈辱、忘れてはいませんわ!」
「ベアトリス様! お待ちしておりましたわ! さあ、今日も殿下のお話をしましょう。あの方は本当に手が焼ける方で……今すぐあなたにバトンタッチしたいんですの!」
私は彼女の手をがっしりと掴んだ。
ベアトリス様は「ひっ!」と短い悲鳴を上げて後ずさる。
「……な、何を企んでいるのです!? 私に殿下を譲るなどと、またそんな嘘を……! あなた、本当は私を試しているのでしょう!?」
「試す? いいえ、本気ですわ! 私は毎日お昼寝がしたいだけ! 豪華な晩餐会も、疲れる王妃教育も、全部あなたに差し上げます! 私はただの『ぐうたら女』なんですのよ!」
私は自らの不真面目さをこれでもかと強調し、ベアトリス様を説得した。
「私は最低の婚約者です。だから、完璧なあなたに殿下を任せたい」と。
だが、ベアトリス様の瞳に浮かんだのは、怒りではなく、深い絶望と敬意だった。
「……なんてこと。あなた、そこまで……そこまで徳が高いのですか……っ!」
「徳? いえ、欲の話をしていますのよ。睡眠欲ですわ」
「嘘を仰い! あなたは、公爵家の娘である私に『地位』を譲ることで、貴族同士の無用な争いを避けようとしているのね! 自分の幸福よりも、国の安定を優先する……。それがあなたの言う『お昼寝』の真意だったなんて!」
ベアトリス様はその場に膝をつき、私の手を拝むように握り締めた。
「自分の愛を犠牲にしてまで、私のような愚かな女に道を譲ろうとする……。その高潔な精神、まさに『ノブレス・オブリージュ』の極みですわ! 私は、自分の器の小ささが恥ずかしくてたまりません!」
「……あの、ベアトリス様? 話が斜め上すぎてついていけないのですが」
「もう結構です! 私のような未熟者が、あなたから殿下を奪おうなんて、おこがましいにも程がありましたわ! ロニエ様、私は今日から、あなたのファンになります!」
「ファン!? 嫌よ、味方を増やしてどうするのよ!」
ベアトリス様は「素晴らしいお方だわ……!」と涙を流しながら、清々しい笑顔で去っていった。
……まただ。また「王子を押し付ける」つもりが、熱狂的な支持者を生み出してしまった。
そこへ、いつものように壁を突き破らんばかりの勢いでアレン王子が登場した。
「ロニエ! 素晴らしいよ! ベアトリス嬢が、今まさに『ロニエ様こそ真の王妃です!』と叫びながら学園を走り回っているよ!」
「殿下、彼女を止めてください……。私はただ、彼女にあなたを譲ろうとしただけなんです……」
「ああ、わかっているよ。君はベアトリス嬢の攻撃的な性格を、その圧倒的な慈愛で矯正(きょうせい)してしまったんだね。敵を愛し、敵に道を示す……。君は聖女を通り越して、もはや生ける伝説だ」
王子は感極まった様子で、私を背後から力強く抱きしめた。
その腕の力は、私の「お昼寝生活」への扉を完全にロックしているようだった。
「カイル! ベアトリス嬢を『ロニエ第一親衛隊』の隊長に任命しろ! 彼女なら、ロニエの素晴らしさを国中に広めてくれるはずだ!」
「……御意。お嬢様、これでまた一つ、包囲網が狭まりましたね」
カイルが憐れみの混じった目で、手帳に「親衛隊設立」と書き込んだ。
私は、王子の胸の中で静かに目を閉じた。
「(……嘘でしょう。ライバルさえも味方にするなんて。私、もしかして一生婚約破棄できないんじゃないかしら……?)」
私の「婚約破棄への道」は、誰かを突き放そうとするたびに、なぜか「ロニエ様親衛隊」という名の鉄壁の防衛陣を築き上げてしまうのだった。
学園の中庭、バラが咲き誇る東屋で私はティーカップを置いた。
昨日の「どうぞどうぞ作戦」は失敗したが、彼女が私を「恐ろしい強敵」と認識したのなら、次はもっと露骨に「私はダメな女です」とアピールすればいい。
「お嬢様、お言葉ですが、ベアトリス様は現在、廊下で震えながらお嬢様の出方を伺っているようですよ」
「えっ、まだいるの? しつこいわね……。でも好都合だわ。今日こそ彼女に『王子を押し付ける』ことに成功してみせるわ!」
私が立ち上がると同時に、茂みの陰からベアトリス様が取り巻きを引き連れて姿を現した。
その顔は緊張で強張っており、まるで決闘に臨む騎士のようだ。
「……お、お待ちなさい、ロニエ・エヴァンズ! 昨日の屈辱、忘れてはいませんわ!」
「ベアトリス様! お待ちしておりましたわ! さあ、今日も殿下のお話をしましょう。あの方は本当に手が焼ける方で……今すぐあなたにバトンタッチしたいんですの!」
私は彼女の手をがっしりと掴んだ。
ベアトリス様は「ひっ!」と短い悲鳴を上げて後ずさる。
「……な、何を企んでいるのです!? 私に殿下を譲るなどと、またそんな嘘を……! あなた、本当は私を試しているのでしょう!?」
「試す? いいえ、本気ですわ! 私は毎日お昼寝がしたいだけ! 豪華な晩餐会も、疲れる王妃教育も、全部あなたに差し上げます! 私はただの『ぐうたら女』なんですのよ!」
私は自らの不真面目さをこれでもかと強調し、ベアトリス様を説得した。
「私は最低の婚約者です。だから、完璧なあなたに殿下を任せたい」と。
だが、ベアトリス様の瞳に浮かんだのは、怒りではなく、深い絶望と敬意だった。
「……なんてこと。あなた、そこまで……そこまで徳が高いのですか……っ!」
「徳? いえ、欲の話をしていますのよ。睡眠欲ですわ」
「嘘を仰い! あなたは、公爵家の娘である私に『地位』を譲ることで、貴族同士の無用な争いを避けようとしているのね! 自分の幸福よりも、国の安定を優先する……。それがあなたの言う『お昼寝』の真意だったなんて!」
ベアトリス様はその場に膝をつき、私の手を拝むように握り締めた。
「自分の愛を犠牲にしてまで、私のような愚かな女に道を譲ろうとする……。その高潔な精神、まさに『ノブレス・オブリージュ』の極みですわ! 私は、自分の器の小ささが恥ずかしくてたまりません!」
「……あの、ベアトリス様? 話が斜め上すぎてついていけないのですが」
「もう結構です! 私のような未熟者が、あなたから殿下を奪おうなんて、おこがましいにも程がありましたわ! ロニエ様、私は今日から、あなたのファンになります!」
「ファン!? 嫌よ、味方を増やしてどうするのよ!」
ベアトリス様は「素晴らしいお方だわ……!」と涙を流しながら、清々しい笑顔で去っていった。
……まただ。また「王子を押し付ける」つもりが、熱狂的な支持者を生み出してしまった。
そこへ、いつものように壁を突き破らんばかりの勢いでアレン王子が登場した。
「ロニエ! 素晴らしいよ! ベアトリス嬢が、今まさに『ロニエ様こそ真の王妃です!』と叫びながら学園を走り回っているよ!」
「殿下、彼女を止めてください……。私はただ、彼女にあなたを譲ろうとしただけなんです……」
「ああ、わかっているよ。君はベアトリス嬢の攻撃的な性格を、その圧倒的な慈愛で矯正(きょうせい)してしまったんだね。敵を愛し、敵に道を示す……。君は聖女を通り越して、もはや生ける伝説だ」
王子は感極まった様子で、私を背後から力強く抱きしめた。
その腕の力は、私の「お昼寝生活」への扉を完全にロックしているようだった。
「カイル! ベアトリス嬢を『ロニエ第一親衛隊』の隊長に任命しろ! 彼女なら、ロニエの素晴らしさを国中に広めてくれるはずだ!」
「……御意。お嬢様、これでまた一つ、包囲網が狭まりましたね」
カイルが憐れみの混じった目で、手帳に「親衛隊設立」と書き込んだ。
私は、王子の胸の中で静かに目を閉じた。
「(……嘘でしょう。ライバルさえも味方にするなんて。私、もしかして一生婚約破棄できないんじゃないかしら……?)」
私の「婚約破棄への道」は、誰かを突き放そうとするたびに、なぜか「ロニエ様親衛隊」という名の鉄壁の防衛陣を築き上げてしまうのだった。
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