いいえ、ただ私は婚約破棄されたいだけなんです!

鏡おもち

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「……ちょっと、アンナ! 修行の聖地って、こんなに遠かったかしら!? もう足が棒のようだわ!」


深い森の入り口。私は大きなトランクを引きずりながら、すでに息も絶え絶えになっていた。
自由を求めて家出したはずなのに、開始数時間で「やっぱり家の離れが一番だわ」と後悔し始めている。


「お嬢様、まだ学園の敷地を出てから一キロも進んでいませんよ。そんな体力で修行など、笑止千万です」


「うるさいわね! 私は精神的な自由を求めているのよ。肉体的な労働は専門外だわ!」


私は大きな木の根元に腰を下ろし、トランクからおやつのクッキーを取り出した。
もぐもぐと食べながら、静寂に包まれた森を楽しむ。
これよ。この静けさ。これこそが私の求めていた……。


ズゥゥゥゥン……!!


「……え? 何、この地響き」


遠くから、無数の蹄の音と、鎧が擦れ合う金属音が聞こえてくる。
まさか、森の主(ポチ)が怒って暴れているのかしら?


「お嬢様、空を見てください。王家の紋章が入った信号弾が打ち上がっていますよ」


「……は?」


見上げれば、青空に真っ赤なバラの形をした煙が広がっている。
さらに、森の入り口の方から、聞き慣れた――そして今一番聞きたくない――声が響き渡った。


『ロニエーーー! どこだい!? 僕も今、修行の準備を整えて駆けつけたよーーー!』


「げっ、天敵一号……!!」


私はクッキーを喉に詰まらせそうになりながら立ち上がった。
茂みの向こうから現れたのは、白馬に跨り、眩い白銀の甲冑を纏ったアレン王子。
その後ろには、武装した近衛騎士団が整列し、さらには「ロニエ様親衛隊」の旗を掲げたベアトリス様たちの姿まである。


「……お、お嬢様。これ、逃避行というよりは、大軍勢による凱旋パレードに見えますね」


「冗談じゃないわよ! なんで追いかけてくるのよ! 探さないでって書いたじゃない!」


アレン王子は馬を降りるなり、私の元へ全力で駆け寄ってきた。
そして、私の手を握りしめ、目を潤ませて叫んだのだ。


「ロニエ! 君の決意、しかと受け止めた! 独りで孤独に耐え、僕に相応しい王妃になろうとするその健気な姿勢……。だが、僕を頼ってくれ! 修行も、苦難も、すべて僕と分かち合おう!」


「殿下、違います! 私はただ、あなたから離れてゴロゴロしたいだけなんです!」


「ふっ、わかっているさ。『隣にいると甘えてしまうから、あえて突き放してほしい』という高度な愛の鞭(むち)だろう? だが、僕も修行することにした。今日からこの森を『第二王宮』とし、僕も君と共に野宿を敢行する!」


王子が右手を上げると、騎士たちが一斉に豪華なテントを設営し始めた。
絨毯が敷かれ、シャンデリアが吊るされ、さらには移動式の厨房まで運び込まれる。


「……殿下、それはもはや『キャンプ』ですらありませんわ。ただの豪華な引っ越しですわよ!」


「君が選んだ聖地だ、最高のおもてなしをしなければね。さあ、ロニエ。一緒にこの森で、新しい伝説を作ろうじゃないか!」


「ロニエ様ー! 私もお供いたしますわ!」
「聖女様の修行風景、しっかり目に焼き付けさせていただきます!」


リリアさんやベアトリス様までもが、ピクニック気分でバスケットを広げ始めた。


私は、設営された豪華なソファに座らされ、遠くの空を仰ぎ見た。


「(……嘘でしょう。家出したのに、学園より豪華な環境で、さらに大勢に囲まれるなんて……)」


「お嬢様、残念でしたね。どうやらお嬢様が逃げれば逃げるほど、王国の中心地がお嬢様の方へ移動してくるシステムのようです」


アンナが、騎士から差し出された最高級の紅茶を啜りながら、無慈悲に告げた。


私の婚約破棄への道は、逃亡を企てるたびに、なぜか「王国の聖地巡礼」へと様変わりしてしまうのだった。
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