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「……アンナ。今度こそ、今度こそ終わったわ。人生の、悪い意味での幕引きよ」
王城の巨大な謁見の間。その重厚な扉の前で、私は借りてきた猫のように小さくなっていた。
泥だらけだったドレスは着替えさせられ、今は眩しいほどの純白のドレスに身を包んでいる。
「お嬢様。震えすぎて、頭のティアラがダンスを踊っていますよ。これから国王陛下にお会いするのです、少しは堂っとなさいませ」
「できるわけないでしょ! 家出して、王子を森まで引きずり回したのよ? 普通なら不敬罪で地下牢、良くて国外追放よ! ……あ、国外追放なら、それはそれでアリかしら?」
私の脳内では、すでに「追放先でののんびり自給自足生活」のシミュレーションが始まっていた。
そうよ。国王陛下なら、私の数々の奇行を「王家の恥」として切り捨ててくれるはず。
アレン殿下のポジティブ変換も、さすがに親権者の前では通用しないわ!
「ロニエ、緊張しなくていい。父上も母上も、君に会えるのを心待ちにしていたんだ」
アレン王子が優しく私の背中に手を添える。その余裕の笑みが、今の私には死神の鎌に見える。
扉が左右に開き、広大な空間の奥に二つの玉座が見えた。
現国王ヘンリー陛下と、王妃エルザ様だ。
「エヴァンズ伯爵令嬢、ロニエ。面を上げなさい」
国王陛下の重厚な声が響く。
私は震えながら顔を上げた。
さあ、来なさい! 「不届き者め!」という怒号を、私は全身で受け止める準備ができているわ!
「……素晴らしい。アレンから聞いていた通り、いや、それ以上の輝きだ」
「……はい?」
国王陛下は椅子から身を乗り出し、感銘を受けたように私を凝視していた。
「ロニエよ。お主が『さらなる高みを目指す』と言って森へ修行に出たと聞いた時、余は震えたぞ。王妃という座に甘んじることなく、自らを律し、自然の厳しさに身を置く……。そのストイックさこそ、我が国の国母に相応しい!」
「陛下、違います! 私はただ、殿下の顔を見るのが嫌で逃げ出しただけで……!」
「おお、なんと謙虚な! 自分の功績を『ただの逃亡』と言い換えることで、驕りを捨てようというのか! エルザ、見たか。この若さでこれほどの徳を積んでいるとは」
隣に座る王妃エルザ様も、ハンカチで目元を拭いながら深く頷いた。
「ええ、陛下。それに見てくださいませ。あのアレンが、これほどまでに一人の女性に執着し、自ら森まで追いかけていくなんて……。あんなに活き活きとした息子の顔、初めて見ましたわ。ロニエさん、あなたがあの子を変えてくれたのね」
「変えたというか、追い詰められた結果、あのような性格に……」
「『愛する人を育てるためには、時には突き放す厳しさも必要』。……ロニエさん、あなたの教育方針には感服いたしましたわ。我が国の教育制度、すべてあなたに任せたいくらいです!」
「やめてください! 教育なんて、私は自分を甘やかすことしか考えていませんわ!」
私が叫べば叫ぶほど、国王夫妻の瞳には「なんて奥ゆかしい娘なんだ」という称賛の色が濃くなっていく。
「ロニエ。我が息子は変わり者だが、お主のような稀代の聖女が隣にいてくれれば安心だ。余は決めたぞ。お主たちの結婚式、当初の予定を早めて一ヶ月後に行う!」
「一ヶ月後!? 早すぎますわ! 心の準備も、昼寝のストックも足りませんわ!」
「わっはっは! この様子なら、準備など必要あるまい。アレン、ロニエを大切にするのだぞ。このような宝物、二度と手に入らんからな」
「もちろんです、父上。僕は一生、彼女の『修行』に付き合う覚悟です」
アレン王子が私の肩を抱き、満足げに微笑んだ。
私は、国王陛下の高笑いを聞きながら、その場に崩れ落ちそうになった。
怒られるどころか、国を挙げた大歓迎。
私の「婚約破棄への道」は、ラスボスであるはずの国王夫妻さえも攻略してしまい、逃げ場のない「ハッピーエンド」へと一直線に繋がってしまったのだ。
「お嬢様、お疲れ様です。一ヶ月後の結婚式に向けて、明日から秒単位のスケジュールで花嫁修行が始まりますよ。お昼寝の時間は……そうですね、三年に一度くらいは取れるかもしれません」
アンナが、死の宣告に近いスケジュール表をどこからか取り出し、無表情に告げた。
「(……嘘でしょう。逃げれば逃げるほど、ゴールテープが私の方に飛んでくるじゃないのよ……!)」
王城の壁に飾られた歴代王妃の肖像画たちが、まるで「ようこそ、こちら側へ」と笑っているように見えた。
王城の巨大な謁見の間。その重厚な扉の前で、私は借りてきた猫のように小さくなっていた。
泥だらけだったドレスは着替えさせられ、今は眩しいほどの純白のドレスに身を包んでいる。
「お嬢様。震えすぎて、頭のティアラがダンスを踊っていますよ。これから国王陛下にお会いするのです、少しは堂っとなさいませ」
「できるわけないでしょ! 家出して、王子を森まで引きずり回したのよ? 普通なら不敬罪で地下牢、良くて国外追放よ! ……あ、国外追放なら、それはそれでアリかしら?」
私の脳内では、すでに「追放先でののんびり自給自足生活」のシミュレーションが始まっていた。
そうよ。国王陛下なら、私の数々の奇行を「王家の恥」として切り捨ててくれるはず。
アレン殿下のポジティブ変換も、さすがに親権者の前では通用しないわ!
「ロニエ、緊張しなくていい。父上も母上も、君に会えるのを心待ちにしていたんだ」
アレン王子が優しく私の背中に手を添える。その余裕の笑みが、今の私には死神の鎌に見える。
扉が左右に開き、広大な空間の奥に二つの玉座が見えた。
現国王ヘンリー陛下と、王妃エルザ様だ。
「エヴァンズ伯爵令嬢、ロニエ。面を上げなさい」
国王陛下の重厚な声が響く。
私は震えながら顔を上げた。
さあ、来なさい! 「不届き者め!」という怒号を、私は全身で受け止める準備ができているわ!
「……素晴らしい。アレンから聞いていた通り、いや、それ以上の輝きだ」
「……はい?」
国王陛下は椅子から身を乗り出し、感銘を受けたように私を凝視していた。
「ロニエよ。お主が『さらなる高みを目指す』と言って森へ修行に出たと聞いた時、余は震えたぞ。王妃という座に甘んじることなく、自らを律し、自然の厳しさに身を置く……。そのストイックさこそ、我が国の国母に相応しい!」
「陛下、違います! 私はただ、殿下の顔を見るのが嫌で逃げ出しただけで……!」
「おお、なんと謙虚な! 自分の功績を『ただの逃亡』と言い換えることで、驕りを捨てようというのか! エルザ、見たか。この若さでこれほどの徳を積んでいるとは」
隣に座る王妃エルザ様も、ハンカチで目元を拭いながら深く頷いた。
「ええ、陛下。それに見てくださいませ。あのアレンが、これほどまでに一人の女性に執着し、自ら森まで追いかけていくなんて……。あんなに活き活きとした息子の顔、初めて見ましたわ。ロニエさん、あなたがあの子を変えてくれたのね」
「変えたというか、追い詰められた結果、あのような性格に……」
「『愛する人を育てるためには、時には突き放す厳しさも必要』。……ロニエさん、あなたの教育方針には感服いたしましたわ。我が国の教育制度、すべてあなたに任せたいくらいです!」
「やめてください! 教育なんて、私は自分を甘やかすことしか考えていませんわ!」
私が叫べば叫ぶほど、国王夫妻の瞳には「なんて奥ゆかしい娘なんだ」という称賛の色が濃くなっていく。
「ロニエ。我が息子は変わり者だが、お主のような稀代の聖女が隣にいてくれれば安心だ。余は決めたぞ。お主たちの結婚式、当初の予定を早めて一ヶ月後に行う!」
「一ヶ月後!? 早すぎますわ! 心の準備も、昼寝のストックも足りませんわ!」
「わっはっは! この様子なら、準備など必要あるまい。アレン、ロニエを大切にするのだぞ。このような宝物、二度と手に入らんからな」
「もちろんです、父上。僕は一生、彼女の『修行』に付き合う覚悟です」
アレン王子が私の肩を抱き、満足げに微笑んだ。
私は、国王陛下の高笑いを聞きながら、その場に崩れ落ちそうになった。
怒られるどころか、国を挙げた大歓迎。
私の「婚約破棄への道」は、ラスボスであるはずの国王夫妻さえも攻略してしまい、逃げ場のない「ハッピーエンド」へと一直線に繋がってしまったのだ。
「お嬢様、お疲れ様です。一ヶ月後の結婚式に向けて、明日から秒単位のスケジュールで花嫁修行が始まりますよ。お昼寝の時間は……そうですね、三年に一度くらいは取れるかもしれません」
アンナが、死の宣告に近いスケジュール表をどこからか取り出し、無表情に告げた。
「(……嘘でしょう。逃げれば逃げるほど、ゴールテープが私の方に飛んでくるじゃないのよ……!)」
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