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王宮の大広間は、異様な緊張感に包まれていた。
「……ふん、戻ってきたか。ミント・エーデルワイス。今日こそ、貴様の化けの皮を剥いでやる」
カイル王子は、玉座の隣で不敵な笑みを浮かべていた。隣には、清楚な白いドレスを纏ったフロラが、不安げな表情を装いながらも、その瞳には勝利を確信した光を宿している。
二人が用意したのは、歓迎の宴という名の「公開処刑」だ。辺境でのミントの傍若無人な振る舞いを告発し、今度こそ完全に彼女を社会的に抹殺するための舞台である。
重厚な扉がゆっくりと開かれた。
「……まあ。こんなにたくさんの方が、私の最新の輝きを拝むために集まってくださったのね」
現れたミントは、辺境で磨き上げた「真珠肌」を惜しみなく披露する、大胆なカッティングのドレスを身に纏っていた。温泉の成分と自分への愛で内側から発光する彼女の姿に、会場中の貴族たちが思わず息を呑む。
「ようこそ、皆様! 世界一美しい私の、世界一華麗な独演会へ! さあ、瞬きするのも忘れて、この完璧な造形を脳裏に焼き付けなさい!」
ミントはカイルたちの陰謀など露ほども疑わず、堂々とレッドカーペットを歩んだ。
「……ミント! 貴様、自分の立場が分かっているのか! 貴様が辺境で領民を脅し、温泉を独占し、挙句の果てにはポエムを強要したという訴えが届いているのだぞ!」
カイルが立ち上がり、声を荒らげた。しかし、ミントは優雅に首を傾げただけだった。
「あら、カイルさん。相変わらず声のトーンが美しくないわね。……でも、嬉しいわ。私のポエムオーディションの話、もう王都まで届いていたのね? 貴方も応募したいのかしら? 残念だけど、今の貴方の語彙力では、私の睫毛の長さを称えるのすら難しいわよ」
「ふざけるな! これは罪状認否の場だ!」
「罪状? ……ああ、分かったわ。あまりの美しさゆえに、見る者の心を乱してしまった罪ね。それは認めざるを得ないわ。でも、それは私に非があるのではなく、見る側の修行が足りないだけではなくて?」
ミントの「最強の自意識」という壁の前に、カイルの言葉が次々と弾き飛ばされていく。
そこへ、フロラが涙を浮かべて一歩前へ出た。
「……ミント様。もうおやめください。皆様、貴女の傲慢さに怯えていらっしゃいますわ。私……貴女がそんなに自分を偽って、虚勢を張っているのを見るのが辛いですの」
「偽る? 虚勢? フロラさん、貴方、お疲れのようね。その目の下のクマを見てごらんなさい。私の輝きを直視しすぎて、目が焼けてしまったのかしら?」
ミントは手鏡を取り出し、フロラの顔の前に突き出した。
「見て。今の貴方の顔。嫉妬でキメが荒れて、せっかくの白い肌が台無しだわ。私なら耐えられない。自分の顔をそんな状態にしておくなんて、自分への裏切りよ」
「な、なんですって……っ!」
「皆様、注目してちょうだい!」
ミントは会場全体を見渡し、高らかに宣言した。
「この晩餐会、実は私が企画した『美の講習会』なんですの。カイルさんとフロラさんは、あえて『醜い感情』を演じることで、私の美しさを引き立てる素晴らしい背景役を買って出てくださったのよ。なんて献身的なのかしら!」
「違う! 誰が背景だ! 衛兵、この女を――」
カイルが叫ぼうとしたその時。会場の貴族たちの中から、一人の令嬢が声を上げた。
「……あの、ミント様! その、温泉の成分で作ったという石鹸……私、どうしても欲しくて!」
「私のも! ミント様のその、内側から光るような肌になりたいんですの!」
一人が声を上げると、堰を切ったように令嬢たちがミントの周りに集まり始めた。彼女たちは、辺境から届く「ミント様がさらに美しくなった」という噂に、密かに憧れを抱いていたのだ。
断罪の場は、一瞬にしてミントを囲む「美容相談会」へと変貌した。
「ええ、ええ。落ち着きなさい、子羊たち。美しさは一日にして成らずよ。でも、私の側(背景)にいれば、少しはその輝きをお裾分けしてあげられるわ。ジルコン、サンプルの配布を始めなさい!」
「……はっ。ただちに」
傍らで控えていたジルコンが、用意していた美容液の小瓶を配り始める。
カイルとフロラは、自分たちの用意した「断罪の舞台」が、ミントのプロモーション会場として利用されるのを、ただ呆然と眺めることしかできなかった。
「……ジルコン、見て。みんな、私の美しさに圧倒されて、言葉を失っているわ。やっぱり王都は、私という太陽を待っていたのね」
ミントは鏡の中の自分に微笑みかけ、勝利を確信した。
彼女にとって、敵意も陰謀も、すべては自らを輝かせるためのライティングに過ぎないのだった。
「……ふん、戻ってきたか。ミント・エーデルワイス。今日こそ、貴様の化けの皮を剥いでやる」
カイル王子は、玉座の隣で不敵な笑みを浮かべていた。隣には、清楚な白いドレスを纏ったフロラが、不安げな表情を装いながらも、その瞳には勝利を確信した光を宿している。
二人が用意したのは、歓迎の宴という名の「公開処刑」だ。辺境でのミントの傍若無人な振る舞いを告発し、今度こそ完全に彼女を社会的に抹殺するための舞台である。
重厚な扉がゆっくりと開かれた。
「……まあ。こんなにたくさんの方が、私の最新の輝きを拝むために集まってくださったのね」
現れたミントは、辺境で磨き上げた「真珠肌」を惜しみなく披露する、大胆なカッティングのドレスを身に纏っていた。温泉の成分と自分への愛で内側から発光する彼女の姿に、会場中の貴族たちが思わず息を呑む。
「ようこそ、皆様! 世界一美しい私の、世界一華麗な独演会へ! さあ、瞬きするのも忘れて、この完璧な造形を脳裏に焼き付けなさい!」
ミントはカイルたちの陰謀など露ほども疑わず、堂々とレッドカーペットを歩んだ。
「……ミント! 貴様、自分の立場が分かっているのか! 貴様が辺境で領民を脅し、温泉を独占し、挙句の果てにはポエムを強要したという訴えが届いているのだぞ!」
カイルが立ち上がり、声を荒らげた。しかし、ミントは優雅に首を傾げただけだった。
「あら、カイルさん。相変わらず声のトーンが美しくないわね。……でも、嬉しいわ。私のポエムオーディションの話、もう王都まで届いていたのね? 貴方も応募したいのかしら? 残念だけど、今の貴方の語彙力では、私の睫毛の長さを称えるのすら難しいわよ」
「ふざけるな! これは罪状認否の場だ!」
「罪状? ……ああ、分かったわ。あまりの美しさゆえに、見る者の心を乱してしまった罪ね。それは認めざるを得ないわ。でも、それは私に非があるのではなく、見る側の修行が足りないだけではなくて?」
ミントの「最強の自意識」という壁の前に、カイルの言葉が次々と弾き飛ばされていく。
そこへ、フロラが涙を浮かべて一歩前へ出た。
「……ミント様。もうおやめください。皆様、貴女の傲慢さに怯えていらっしゃいますわ。私……貴女がそんなに自分を偽って、虚勢を張っているのを見るのが辛いですの」
「偽る? 虚勢? フロラさん、貴方、お疲れのようね。その目の下のクマを見てごらんなさい。私の輝きを直視しすぎて、目が焼けてしまったのかしら?」
ミントは手鏡を取り出し、フロラの顔の前に突き出した。
「見て。今の貴方の顔。嫉妬でキメが荒れて、せっかくの白い肌が台無しだわ。私なら耐えられない。自分の顔をそんな状態にしておくなんて、自分への裏切りよ」
「な、なんですって……っ!」
「皆様、注目してちょうだい!」
ミントは会場全体を見渡し、高らかに宣言した。
「この晩餐会、実は私が企画した『美の講習会』なんですの。カイルさんとフロラさんは、あえて『醜い感情』を演じることで、私の美しさを引き立てる素晴らしい背景役を買って出てくださったのよ。なんて献身的なのかしら!」
「違う! 誰が背景だ! 衛兵、この女を――」
カイルが叫ぼうとしたその時。会場の貴族たちの中から、一人の令嬢が声を上げた。
「……あの、ミント様! その、温泉の成分で作ったという石鹸……私、どうしても欲しくて!」
「私のも! ミント様のその、内側から光るような肌になりたいんですの!」
一人が声を上げると、堰を切ったように令嬢たちがミントの周りに集まり始めた。彼女たちは、辺境から届く「ミント様がさらに美しくなった」という噂に、密かに憧れを抱いていたのだ。
断罪の場は、一瞬にしてミントを囲む「美容相談会」へと変貌した。
「ええ、ええ。落ち着きなさい、子羊たち。美しさは一日にして成らずよ。でも、私の側(背景)にいれば、少しはその輝きをお裾分けしてあげられるわ。ジルコン、サンプルの配布を始めなさい!」
「……はっ。ただちに」
傍らで控えていたジルコンが、用意していた美容液の小瓶を配り始める。
カイルとフロラは、自分たちの用意した「断罪の舞台」が、ミントのプロモーション会場として利用されるのを、ただ呆然と眺めることしかできなかった。
「……ジルコン、見て。みんな、私の美しさに圧倒されて、言葉を失っているわ。やっぱり王都は、私という太陽を待っていたのね」
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