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「パルメ・ド・ラ・メール公爵令嬢、入城!」
王宮の広間に、高らかな宣言が響き渡った。
重厚な扉が開かれた瞬間、会場にいた全ての貴族たちが息を呑み、壁際へと飛び退いた。
そこに現れたのは、かつての「悪役令嬢」の面影を残しつつも、圧倒的な「強者」のオーラを纏ったパルメだった。
腰には黄金のスコップを佩(は)き、背後には隣国の王子と、野菜の山を積んだ台車を引く屈強な領民たち。
「……あら、皆さん。そんなに震えて、まるで幽霊でも見たような顔ですわね?」
パルメは不敵な笑みを浮かべ、扇を優雅に広げた。
(ふふふ……。びびっているわね。私の『決戦用ドレス』の威圧感に圧倒されているんだわ!)
実際、貴族たちが恐れているのはドレスではなく、彼女の腰で不気味に発光している「地形を変えるスコップ」なのだが。
広間の中央。そこには、数ヶ月前とは比較にならないほどやつれ、目の下に深いクマを作ったリュント王子が立っていた。
「……パルメ。ようやく来たか」
リュントの声は震えていた。彼は、目の前の光景を「パルメが自分への愛ゆえに、武力を持って奪い返しに来た」と脳内で変換していた。
パルメはリュントの前に立つと、おもむろに懐から「小さな耳栓」を取り出した。
「アンナ、これをつけておいてちょうだい。これから始まる『断罪(という名の説教)』、長くなりそうですもの。騒音対策は基本ですわ」
「お嬢様……。それは、相手の言葉を一切聞かないという宣戦布告に他なりませんよ?」
「いいのよ。どうせブラック企業の社長(国王)や上司(王子)の話なんて、精神衛生上良くないもの」
パルメは器用に耳栓を装着した。これにより、周囲の音は完璧にシャットアウトされた。
彼女に見えるのは、口をパクパクと動かしているリュントの姿だけである。
「パルメ! 私は……私は間違っていた! ミリアのような小娘に惑わされ、君という真の宝を手放してしまったことを、毎日後悔していたんだ!」
リュントは、会場全体に響き渡る声で絶叫した。
「今ここで宣言する! ミリアとの婚約は無効だ! パルメ・ド・ラ・メールこそが、私の、そしてこのアステリア王国の唯一無二の王妃だ!」
会場から、どよめきが沸き起こる。
「……なんですって!?」「王子が、自ら断罪を撤回した!?」「パルメ令嬢、なんて恐ろしい女だ。王子の心を完全に支配している……!」
しかし、当のパルメは耳栓のおかげで、リュントの感動的な(?)告白を一切聞いていなかった。
(……あら、リュント殿下、顔を真っ赤にして何か叫んでいるわね。きっと、『貴様のような泥臭い女は、今すぐ国外追放だ!』とか、そんな罵声を浴びせているに違いないわ)
パルメは、リュントの必死な形相を見て、「よし、今がカウンターのチャンスだわ!」と確信した。
「リュント殿下! もう、そのあたりになさって!」
パルメは一歩前に出て、黄金のスコップを床にドンと突き立てた。
「貴方が何を言おうと、私の決意は変わりませんわ! 私は、あの領地で手に入れた『自由』と『温泉』を、絶対に手放しはしません!」
「パ、パルメ……。自由と温泉……? そうか、君は私との生活を、それほどまでに……」
リュントは「パルメは自分との愛を、温泉のように熱いものだと言っている」と激しく勘違いし、涙を流した。
「分かった! 君が望むなら、王宮の中に巨大な温泉を作ろう! そして二人で、永遠の自由を……!」
「お黙りなさい! この『赤い悪魔』を食らっても、同じことが言えるかしら!?」
パルメは台車から特製の激辛ソースの瓶を掴み取ると、リュントの目の前でこれ見よがしに突き出した。
「いいですか! これが私の答えです! これを受け取るか、それとも私のスコップでこの王宮ごと耕されるか、選びなさい!」
パルメとしては「この超激辛ソースを食べて、私への関心を無くしなさい(物理的に悶絶して)」という意味だった。
しかし、周囲の貴族たちは、その燃えるような赤い瓶を見て叫んだ。
「……あ、あれが噂の『赤い悪魔』! 食べた者を虜にするという、禁断の経済兵器!」
「パルメ様は、王家に『流通の全権を渡せ』と要求しているのだわ! なんて大胆な、事実上の王位簒奪だわ!」
リュントは、パルメが差し出したソースの瓶を、宝物のように両手で受け取った。
「……ああ、パルメ。君の愛は、こんなにも刺激的で……熱いのだな。分かった、私はこの『試練』を受け入れよう!」
リュントは、躊躇なくソースの瓶の蓋を開け、ラッパ飲みをした。
一秒後。
「ぎゃあああああああああああああああッ!? 熱い! 喉が! 内臓が燃える! だが……だが美味い……! 愛しているぞ、パルメェェェー!」
リュントは口から火を吹きそうな勢いでのたうち回りながら、それでもパルメの名を呼び続けた。
パルメは、耳栓を少しずらしてアンナに尋ねた。
「……ねえアンナ。殿下、なんだかすごく苦しそうにのたうち回りながら、私の名前を連呼しているんだけど。これ、呪いの儀式かしら?」
「お嬢様。……あれ、多分『求婚』の一種だと思います。ただし、世界で一番狂ったタイプの」
パルメは、再び耳栓を深く押し込み、深く、深いため息をついた。
「やっぱり王宮は、私にはレベルが高すぎるわ。……さあ、次は国王陛下にこの『巨大なカブ』を叩きつけて、円満退職を確定させましょう!」
「お嬢様、それはもう退職じゃなくてクーデターです」
パルメの「再会の断罪台」は、王子の変態的な覚醒と、周囲の戦慄を伴って、さらなる混沌へと突き進むのであった。
王宮の広間に、高らかな宣言が響き渡った。
重厚な扉が開かれた瞬間、会場にいた全ての貴族たちが息を呑み、壁際へと飛び退いた。
そこに現れたのは、かつての「悪役令嬢」の面影を残しつつも、圧倒的な「強者」のオーラを纏ったパルメだった。
腰には黄金のスコップを佩(は)き、背後には隣国の王子と、野菜の山を積んだ台車を引く屈強な領民たち。
「……あら、皆さん。そんなに震えて、まるで幽霊でも見たような顔ですわね?」
パルメは不敵な笑みを浮かべ、扇を優雅に広げた。
(ふふふ……。びびっているわね。私の『決戦用ドレス』の威圧感に圧倒されているんだわ!)
実際、貴族たちが恐れているのはドレスではなく、彼女の腰で不気味に発光している「地形を変えるスコップ」なのだが。
広間の中央。そこには、数ヶ月前とは比較にならないほどやつれ、目の下に深いクマを作ったリュント王子が立っていた。
「……パルメ。ようやく来たか」
リュントの声は震えていた。彼は、目の前の光景を「パルメが自分への愛ゆえに、武力を持って奪い返しに来た」と脳内で変換していた。
パルメはリュントの前に立つと、おもむろに懐から「小さな耳栓」を取り出した。
「アンナ、これをつけておいてちょうだい。これから始まる『断罪(という名の説教)』、長くなりそうですもの。騒音対策は基本ですわ」
「お嬢様……。それは、相手の言葉を一切聞かないという宣戦布告に他なりませんよ?」
「いいのよ。どうせブラック企業の社長(国王)や上司(王子)の話なんて、精神衛生上良くないもの」
パルメは器用に耳栓を装着した。これにより、周囲の音は完璧にシャットアウトされた。
彼女に見えるのは、口をパクパクと動かしているリュントの姿だけである。
「パルメ! 私は……私は間違っていた! ミリアのような小娘に惑わされ、君という真の宝を手放してしまったことを、毎日後悔していたんだ!」
リュントは、会場全体に響き渡る声で絶叫した。
「今ここで宣言する! ミリアとの婚約は無効だ! パルメ・ド・ラ・メールこそが、私の、そしてこのアステリア王国の唯一無二の王妃だ!」
会場から、どよめきが沸き起こる。
「……なんですって!?」「王子が、自ら断罪を撤回した!?」「パルメ令嬢、なんて恐ろしい女だ。王子の心を完全に支配している……!」
しかし、当のパルメは耳栓のおかげで、リュントの感動的な(?)告白を一切聞いていなかった。
(……あら、リュント殿下、顔を真っ赤にして何か叫んでいるわね。きっと、『貴様のような泥臭い女は、今すぐ国外追放だ!』とか、そんな罵声を浴びせているに違いないわ)
パルメは、リュントの必死な形相を見て、「よし、今がカウンターのチャンスだわ!」と確信した。
「リュント殿下! もう、そのあたりになさって!」
パルメは一歩前に出て、黄金のスコップを床にドンと突き立てた。
「貴方が何を言おうと、私の決意は変わりませんわ! 私は、あの領地で手に入れた『自由』と『温泉』を、絶対に手放しはしません!」
「パ、パルメ……。自由と温泉……? そうか、君は私との生活を、それほどまでに……」
リュントは「パルメは自分との愛を、温泉のように熱いものだと言っている」と激しく勘違いし、涙を流した。
「分かった! 君が望むなら、王宮の中に巨大な温泉を作ろう! そして二人で、永遠の自由を……!」
「お黙りなさい! この『赤い悪魔』を食らっても、同じことが言えるかしら!?」
パルメは台車から特製の激辛ソースの瓶を掴み取ると、リュントの目の前でこれ見よがしに突き出した。
「いいですか! これが私の答えです! これを受け取るか、それとも私のスコップでこの王宮ごと耕されるか、選びなさい!」
パルメとしては「この超激辛ソースを食べて、私への関心を無くしなさい(物理的に悶絶して)」という意味だった。
しかし、周囲の貴族たちは、その燃えるような赤い瓶を見て叫んだ。
「……あ、あれが噂の『赤い悪魔』! 食べた者を虜にするという、禁断の経済兵器!」
「パルメ様は、王家に『流通の全権を渡せ』と要求しているのだわ! なんて大胆な、事実上の王位簒奪だわ!」
リュントは、パルメが差し出したソースの瓶を、宝物のように両手で受け取った。
「……ああ、パルメ。君の愛は、こんなにも刺激的で……熱いのだな。分かった、私はこの『試練』を受け入れよう!」
リュントは、躊躇なくソースの瓶の蓋を開け、ラッパ飲みをした。
一秒後。
「ぎゃあああああああああああああああッ!? 熱い! 喉が! 内臓が燃える! だが……だが美味い……! 愛しているぞ、パルメェェェー!」
リュントは口から火を吹きそうな勢いでのたうち回りながら、それでもパルメの名を呼び続けた。
パルメは、耳栓を少しずらしてアンナに尋ねた。
「……ねえアンナ。殿下、なんだかすごく苦しそうにのたうち回りながら、私の名前を連呼しているんだけど。これ、呪いの儀式かしら?」
「お嬢様。……あれ、多分『求婚』の一種だと思います。ただし、世界で一番狂ったタイプの」
パルメは、再び耳栓を深く押し込み、深く、深いため息をついた。
「やっぱり王宮は、私にはレベルが高すぎるわ。……さあ、次は国王陛下にこの『巨大なカブ』を叩きつけて、円満退職を確定させましょう!」
「お嬢様、それはもう退職じゃなくてクーデターです」
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