婚約破棄!ついでに王子をどん底に突き落とす。

鏡おもち

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「……はぁ。やっぱり、自分の領地の空気は最高ですわね」

王都での「最終決戦(という名の退職届提出)」を終えたパルメは、領主館のテラスで極上のワインを傾けていた。

夕闇に包まれる広大な畑。そこには、パルメが育て上げた巨大なカボチャたちが、誇らしげに月明かりを反射している。

「お嬢様、本当にお疲れ様でした。これでようやく、名実ともに『自由の身』ですね」

アンナが新しく淹れたハーブティーを置きながら、少しだけ寂しそうに微笑んだ。

「ええ。これからは、誰の目も気にせず、一日中パジャマで過ごして、気が向いた時だけ地球を耕す……。ああ、なんて贅沢な隠居生活かしら!」

パルメが勝利の余韻に浸っていると、テラスの階段からカツカツと足音が響いてきた。

現れたのは、いつも通りの「ピンク色のエプロン」姿ではない。

アステリア王国の正装、白銀の軍服に身を包んだセドリック王子だった。

「……パルメ。少し、時間をもらえるだろうか」

パルメはグラスを置き、首を傾げた。

「あら、セドリック殿下。その格好……さては、我が領地のカブの種を盗んで、ついに母国へ亡命する決心がつきましたのね?」

「違う。……いや、亡命ではないが、国へ戻らねばならないのは事実だ」

セドリックの瞳は、いつになく真剣だった。いつもの「狂信的なファン」の熱っぽさはなく、一国の王子としての静かな決意が宿っている。

「……パルメ。今まで私は、君の側にいたいがために、門番や農作業の手伝いという形で君に近づいてきた」

「ええ。おかげで人件費が大幅に浮きましたわ。感謝していますのよ?」

「君は私の行動を『嫌がらせ』や『産業スパイ』だと言ったね。……だが、それは違うんだ」

セドリックは一歩、パルメに近づいた。

夜風に彼の銀髪が揺れ、その超絶美形な顔立ちが月の光でさらに際立つ。

「パルメ・ド・ラ・メール。私は、君という人間を心から愛している。……隣国の王子としてではなく、一人の男として、君を妻に迎えたい」

「…………はい?」

パルメは、手に持っていたワイングラスを落としそうになった。

(……え? 愛している? 妻に? ……えええっ!?)

パルメの超高性能な脳細胞が、人生最大の「想定外」に直面して火花を散らした。

「ま、待ってください。愛……? 私の、この泥だらけで、性格も可愛げのない、ニート志望の私を、ですの?」

「そうだ。君が泥にまみれて笑う姿も、王宮を『ブラック企業』と断罪する知性も、全てが愛おしい。……君が自由を愛するなら、私の国の王妃として、最大限の自由を保証しよう」

セドリックはパルメの手を優しく取り、その甲に誓いの口づけを落とした。

「私の国には、君が好きなだけお昼寝ができる庭園も、世界最高峰の温泉もある。……君の『ニート道』を、私が国家予算を投じて支えたいんだ」

パルメは、ようやく全ての点と線が繋がるのを感じた。

(……これ、嫌がらせじゃなかったんだわ。本気で……本気で私に求婚していたのね!?)

(あの重すぎるダイヤモンドも、棘だらけのバラも……全部、この男なりの『情愛』の表現だったというの!?)

「セドリック……殿下。貴方……もしかして、私以上に頭がおかしい……いえ、個性的ですのね」

「自覚はあるよ。……パルメ、君でなければ、私は一生、誰かを愛することはなかっただろう」

パルメは、握られた自分の手が熱くなっていることに気づいた。

今まで、リュント王子からは一度も向けられたことのない、純粋で、狂おしいほどの肯定。

「……ずるいですわ。温泉付きのニート生活を国家予算で保証するなんて。そんなの、断れるわけありませんでしょう?」

パルメは顔を赤らめ、そっぽを向いた。

「……ただし! 私のやりたい放題に、一言でも文句を言ったら即座に離婚して、慰謝料として貴方の国の領土を半分いただきますわよ!」

セドリックの顔に、今日一番の輝かしい笑顔が浮かんだ。

「ああ、望むところだ。君が私の国を耕してくれるなら、私はその大地の奴隷になっても構わない」

「……アンナ。この人、やっぱり少し怖いですわ」

「お嬢様。……お似合いですよ、最高に」

アンナの呆れ顔に見守られながら、パルメはついに、自分を丸ごと肯定してくれる「最強の理解者」を、その黄金のスコップの射程圏内に収めたのであった。

パルメの「悪役令嬢」としての物語は、まさかの「超大国への玉の輿(ただし農作業付き)」という、予想外のエンディングへと舵を切った。
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