24 / 28
24
しおりを挟む
「……はぁ。やっぱり、自分の領地の空気は最高ですわね」
王都での「最終決戦(という名の退職届提出)」を終えたパルメは、領主館のテラスで極上のワインを傾けていた。
夕闇に包まれる広大な畑。そこには、パルメが育て上げた巨大なカボチャたちが、誇らしげに月明かりを反射している。
「お嬢様、本当にお疲れ様でした。これでようやく、名実ともに『自由の身』ですね」
アンナが新しく淹れたハーブティーを置きながら、少しだけ寂しそうに微笑んだ。
「ええ。これからは、誰の目も気にせず、一日中パジャマで過ごして、気が向いた時だけ地球を耕す……。ああ、なんて贅沢な隠居生活かしら!」
パルメが勝利の余韻に浸っていると、テラスの階段からカツカツと足音が響いてきた。
現れたのは、いつも通りの「ピンク色のエプロン」姿ではない。
アステリア王国の正装、白銀の軍服に身を包んだセドリック王子だった。
「……パルメ。少し、時間をもらえるだろうか」
パルメはグラスを置き、首を傾げた。
「あら、セドリック殿下。その格好……さては、我が領地のカブの種を盗んで、ついに母国へ亡命する決心がつきましたのね?」
「違う。……いや、亡命ではないが、国へ戻らねばならないのは事実だ」
セドリックの瞳は、いつになく真剣だった。いつもの「狂信的なファン」の熱っぽさはなく、一国の王子としての静かな決意が宿っている。
「……パルメ。今まで私は、君の側にいたいがために、門番や農作業の手伝いという形で君に近づいてきた」
「ええ。おかげで人件費が大幅に浮きましたわ。感謝していますのよ?」
「君は私の行動を『嫌がらせ』や『産業スパイ』だと言ったね。……だが、それは違うんだ」
セドリックは一歩、パルメに近づいた。
夜風に彼の銀髪が揺れ、その超絶美形な顔立ちが月の光でさらに際立つ。
「パルメ・ド・ラ・メール。私は、君という人間を心から愛している。……隣国の王子としてではなく、一人の男として、君を妻に迎えたい」
「…………はい?」
パルメは、手に持っていたワイングラスを落としそうになった。
(……え? 愛している? 妻に? ……えええっ!?)
パルメの超高性能な脳細胞が、人生最大の「想定外」に直面して火花を散らした。
「ま、待ってください。愛……? 私の、この泥だらけで、性格も可愛げのない、ニート志望の私を、ですの?」
「そうだ。君が泥にまみれて笑う姿も、王宮を『ブラック企業』と断罪する知性も、全てが愛おしい。……君が自由を愛するなら、私の国の王妃として、最大限の自由を保証しよう」
セドリックはパルメの手を優しく取り、その甲に誓いの口づけを落とした。
「私の国には、君が好きなだけお昼寝ができる庭園も、世界最高峰の温泉もある。……君の『ニート道』を、私が国家予算を投じて支えたいんだ」
パルメは、ようやく全ての点と線が繋がるのを感じた。
(……これ、嫌がらせじゃなかったんだわ。本気で……本気で私に求婚していたのね!?)
(あの重すぎるダイヤモンドも、棘だらけのバラも……全部、この男なりの『情愛』の表現だったというの!?)
「セドリック……殿下。貴方……もしかして、私以上に頭がおかしい……いえ、個性的ですのね」
「自覚はあるよ。……パルメ、君でなければ、私は一生、誰かを愛することはなかっただろう」
パルメは、握られた自分の手が熱くなっていることに気づいた。
今まで、リュント王子からは一度も向けられたことのない、純粋で、狂おしいほどの肯定。
「……ずるいですわ。温泉付きのニート生活を国家予算で保証するなんて。そんなの、断れるわけありませんでしょう?」
パルメは顔を赤らめ、そっぽを向いた。
「……ただし! 私のやりたい放題に、一言でも文句を言ったら即座に離婚して、慰謝料として貴方の国の領土を半分いただきますわよ!」
セドリックの顔に、今日一番の輝かしい笑顔が浮かんだ。
「ああ、望むところだ。君が私の国を耕してくれるなら、私はその大地の奴隷になっても構わない」
「……アンナ。この人、やっぱり少し怖いですわ」
「お嬢様。……お似合いですよ、最高に」
アンナの呆れ顔に見守られながら、パルメはついに、自分を丸ごと肯定してくれる「最強の理解者」を、その黄金のスコップの射程圏内に収めたのであった。
パルメの「悪役令嬢」としての物語は、まさかの「超大国への玉の輿(ただし農作業付き)」という、予想外のエンディングへと舵を切った。
王都での「最終決戦(という名の退職届提出)」を終えたパルメは、領主館のテラスで極上のワインを傾けていた。
夕闇に包まれる広大な畑。そこには、パルメが育て上げた巨大なカボチャたちが、誇らしげに月明かりを反射している。
「お嬢様、本当にお疲れ様でした。これでようやく、名実ともに『自由の身』ですね」
アンナが新しく淹れたハーブティーを置きながら、少しだけ寂しそうに微笑んだ。
「ええ。これからは、誰の目も気にせず、一日中パジャマで過ごして、気が向いた時だけ地球を耕す……。ああ、なんて贅沢な隠居生活かしら!」
パルメが勝利の余韻に浸っていると、テラスの階段からカツカツと足音が響いてきた。
現れたのは、いつも通りの「ピンク色のエプロン」姿ではない。
アステリア王国の正装、白銀の軍服に身を包んだセドリック王子だった。
「……パルメ。少し、時間をもらえるだろうか」
パルメはグラスを置き、首を傾げた。
「あら、セドリック殿下。その格好……さては、我が領地のカブの種を盗んで、ついに母国へ亡命する決心がつきましたのね?」
「違う。……いや、亡命ではないが、国へ戻らねばならないのは事実だ」
セドリックの瞳は、いつになく真剣だった。いつもの「狂信的なファン」の熱っぽさはなく、一国の王子としての静かな決意が宿っている。
「……パルメ。今まで私は、君の側にいたいがために、門番や農作業の手伝いという形で君に近づいてきた」
「ええ。おかげで人件費が大幅に浮きましたわ。感謝していますのよ?」
「君は私の行動を『嫌がらせ』や『産業スパイ』だと言ったね。……だが、それは違うんだ」
セドリックは一歩、パルメに近づいた。
夜風に彼の銀髪が揺れ、その超絶美形な顔立ちが月の光でさらに際立つ。
「パルメ・ド・ラ・メール。私は、君という人間を心から愛している。……隣国の王子としてではなく、一人の男として、君を妻に迎えたい」
「…………はい?」
パルメは、手に持っていたワイングラスを落としそうになった。
(……え? 愛している? 妻に? ……えええっ!?)
パルメの超高性能な脳細胞が、人生最大の「想定外」に直面して火花を散らした。
「ま、待ってください。愛……? 私の、この泥だらけで、性格も可愛げのない、ニート志望の私を、ですの?」
「そうだ。君が泥にまみれて笑う姿も、王宮を『ブラック企業』と断罪する知性も、全てが愛おしい。……君が自由を愛するなら、私の国の王妃として、最大限の自由を保証しよう」
セドリックはパルメの手を優しく取り、その甲に誓いの口づけを落とした。
「私の国には、君が好きなだけお昼寝ができる庭園も、世界最高峰の温泉もある。……君の『ニート道』を、私が国家予算を投じて支えたいんだ」
パルメは、ようやく全ての点と線が繋がるのを感じた。
(……これ、嫌がらせじゃなかったんだわ。本気で……本気で私に求婚していたのね!?)
(あの重すぎるダイヤモンドも、棘だらけのバラも……全部、この男なりの『情愛』の表現だったというの!?)
「セドリック……殿下。貴方……もしかして、私以上に頭がおかしい……いえ、個性的ですのね」
「自覚はあるよ。……パルメ、君でなければ、私は一生、誰かを愛することはなかっただろう」
パルメは、握られた自分の手が熱くなっていることに気づいた。
今まで、リュント王子からは一度も向けられたことのない、純粋で、狂おしいほどの肯定。
「……ずるいですわ。温泉付きのニート生活を国家予算で保証するなんて。そんなの、断れるわけありませんでしょう?」
パルメは顔を赤らめ、そっぽを向いた。
「……ただし! 私のやりたい放題に、一言でも文句を言ったら即座に離婚して、慰謝料として貴方の国の領土を半分いただきますわよ!」
セドリックの顔に、今日一番の輝かしい笑顔が浮かんだ。
「ああ、望むところだ。君が私の国を耕してくれるなら、私はその大地の奴隷になっても構わない」
「……アンナ。この人、やっぱり少し怖いですわ」
「お嬢様。……お似合いですよ、最高に」
アンナの呆れ顔に見守られながら、パルメはついに、自分を丸ごと肯定してくれる「最強の理解者」を、その黄金のスコップの射程圏内に収めたのであった。
パルメの「悪役令嬢」としての物語は、まさかの「超大国への玉の輿(ただし農作業付き)」という、予想外のエンディングへと舵を切った。
1
あなたにおすすめの小説
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした
由香
ファンタジー
追放された悪役令嬢が選んだのは復讐ではなく、母として息子を守ること。
無自覚天才に育った息子は、魔法を遊び感覚で扱い、王国を震撼させてしまう。
再び招かれたのは、かつて母を追放した国。
礼儀正しく圧倒する息子と、静かに完全勝利する母。
これは、親子が選ぶ“最も美しいざまぁ”。
幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。
ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。
余命3ヶ月と言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。
特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。
ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。
毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。
診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。
もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。
一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは…
※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いいたします。
他サイトでも同時投稿中です。
婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?
ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」
華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。
目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。
──あら、デジャヴ?
「……なるほど」
婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。
パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。
婚約破棄で、おひとり様になれるはずだったのに!?
パリパリかぷちーの
恋愛
主人公ルシアン・ヴァイオレットは、「悪役令嬢」として振る舞う孤独愛好家の公爵令嬢。念願だった第一王子アランとの婚約破棄を言い渡されると、内心では歓喜し、大都会の喧騒から逃れて森の奥の廃墟同然の別荘へと引きこもる。ルシアンの目的は、誰にも邪魔されない至高の静寂ライフを満喫することだった。
しかし、彼女の理想郷にはすでに先客がいた。それは、無口で無愛想だがハイスペックな謎の男、キース。実は彼は、王国の裏社会を統べる『影の英雄』と呼ばれる辺境伯であり、ルシアンの孤高の姿に心奪われた重度の隠れファンだった。
弟が悪役令嬢に怪我をさせられたのに、こっちが罰金を払うだなんて、そんなおかしな話があるの? このまま泣き寝入りなんてしないから……!
冬吹せいら
恋愛
キリア・モルバレスが、令嬢のセレノー・ブレッザに、顔面をナイフで切り付けられ、傷を負った。
しかし、セレノーは謝るどころか、自分も怪我をしたので、モルバレス家に罰金を科すと言い始める。
話を聞いた、キリアの姉のスズカは、この件を、親友のネイトルに相談した。
スズカとネイトルは、お互いの身分を知らず、会話する仲だったが、この件を聞いたネイトルが、ついに自分の身分を明かすことに。
そこから、話しは急展開を迎える……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる