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「……リュント、貴様。今のパルメの話を聞いていたか?」
国王陛下の声は、静かだが地響きのような威圧感を孕んでいた。
噴水に突っ込んだミリアが騎士たちに引きずり出され、広間が異様な静寂に包まれる中、リュント王子は震える足で立ち上がった。
「は、はい、父上。しかし、あいつの話はデタラメです! 私はあいつに、公爵令嬢としての『教育』を……」
「教育だと? 昼夜を問わず働かせ、あまつさえ予算案を突き返すなど……それは教育ではなく、ただの『搾取』ではないか!」
国王は、パルメが置いていった巨大なカブを愛おしそうに撫でながら、息子を睨みつけた。
「いいか、リュント。パルメがいなくなってから、我が国の物価はどうなった? 王宮の食事はどうなった? 貴様が『無能』と呼んだ彼女が一人で回していた業務を、今は十人の役人がかりで、それでも終わらせられずにいるのだぞ!」
「それは……あいつが何か卑怯な魔法でも仕掛けていたからで……」
「魔法ではない、有能さだ! 貴様は、ダイヤモンドを石ころだと言ってドブに捨て、代わりにただの泥団子(ミリア)を拾い上げたのだ!」
国王の怒号が飛び、リュントはビクッと肩を揺らした。
そこへ、隣国の王子セドリックが優雅に一歩前へ出た。
「アステリア国王陛下。もし、そちらの不肖の息子君がパルメを必要としないのであれば、喜んで我が国へお迎えいたしましょう。もちろん、彼女には『最高経営責任者(CEO)』兼『大地の守護神』として、全権を委譲するつもりです」
「セドリック殿下!? 貴国までパルメを狙っているのか!」
「狙っている? 失礼な。私はすでに彼女の『一番の僕』として、内諾を得ているつもりですよ」
「いつ内諾しましたのよ。貴方はただの『不法侵入気味な門番』でしょう?」
パルメのツッコミをスルーし、セドリックは国王に冷徹な笑みを向けた。
「陛下。パルメをこれ以上侮辱し、労働環境を改善しないのであれば……我がアステリア王国は、全力で彼女を『ヘッドハンティング』いたします」
国王の顔が真っ青になった。
(パルメを他国に奪われる……!? そんなことになれば、我が国の農業と経済は完全に崩壊する!)
国王は意を決したように、腰の剣を抜き放ち、その柄でリュントの肩を叩いた。
「リュント・フォン・アステリア! 今この時をもって、貴様の第一継承権を剥奪する!」
「えっ……? 父上、何を……」
「貴様のような『人材を見る目のない男』に、この国の未来を任せるわけにはいかん! 貴様は明日から平民に落とし、パルメの領地で『期間工』として働くがいい!」
「き、期間工……!? この私が、あんな泥だらけの場所で働くというのですか!」
「そうだ。パルメが味わった『現場の苦労』を、その身で学んでこい! 拒否すれば、即座に国外追放だ!」
リュントは絶望のあまり、その場に崩れ落ちた。
「あら、陛下。うちの領地は今、人手不足ではありませんわよ? 特に、そんな口先だけの無能な社員は、カカシの代わりにもなりませんわ」
パルメが扇で口元を隠し、冷たく言い放つ。
「まあ、どうしてもというのであれば、肥料の攪拌作業から始めてもらってもよろしくてよ? もちろん、時給は最低ランクからですけれど」
「パ、パルメ……。君は、私をそんな汚い作業に……」
「あら、私が毎日楽しそうにやっている作業を『汚い』なんて。やっぱり殿下とは、価値観が合いませんわね。おーほっほっほ!」
パルメの高笑いが、断罪の終わった広間に響き渡る。
国王は、満足そうに頷くと、パルメに向き直った。
「パルメよ。これでもう、お前を縛るブラックな上司はいない。どうだ、王宮に戻り、我が国の『最高農業顧問』として……」
「お断りしますわ。私は、自分の領地で、パジャマのままお昼寝ができる生活を勝ち取ったのです。これ以上の出世なんて、私の『ニート道』に反しますもの」
パルメは黄金のスコップを軽やかに担ぎ、出口へと向かって歩き出した。
「さあアンナ、帰りましょう! 今夜は王宮からくすねて……いえ、頂いた最高級のワインで、私の『完全退職』を祝うパーティーですわよ!」
「お嬢様、最後までやりたい放題ですね……。陛下、それでは失礼いたしますわ」
アンナが深々と頭を下げ、パルメの後を追う。
セドリックもまた、「待ってくれパルメ! 私もワインの栓抜きとして同行しよう!」と叫びながら追いかけていった。
残されたのは、廃嫡された元王子と、噴水で気を失ったままの元ヒロイン、そしてパルメが残した巨大なカブを呆然と見つめる国王と貴族たちだけだった。
パルメの「ブラック企業からの大脱出」は、こうして王国の歴史を塗り替える形で見事に達成されたのである。
国王陛下の声は、静かだが地響きのような威圧感を孕んでいた。
噴水に突っ込んだミリアが騎士たちに引きずり出され、広間が異様な静寂に包まれる中、リュント王子は震える足で立ち上がった。
「は、はい、父上。しかし、あいつの話はデタラメです! 私はあいつに、公爵令嬢としての『教育』を……」
「教育だと? 昼夜を問わず働かせ、あまつさえ予算案を突き返すなど……それは教育ではなく、ただの『搾取』ではないか!」
国王は、パルメが置いていった巨大なカブを愛おしそうに撫でながら、息子を睨みつけた。
「いいか、リュント。パルメがいなくなってから、我が国の物価はどうなった? 王宮の食事はどうなった? 貴様が『無能』と呼んだ彼女が一人で回していた業務を、今は十人の役人がかりで、それでも終わらせられずにいるのだぞ!」
「それは……あいつが何か卑怯な魔法でも仕掛けていたからで……」
「魔法ではない、有能さだ! 貴様は、ダイヤモンドを石ころだと言ってドブに捨て、代わりにただの泥団子(ミリア)を拾い上げたのだ!」
国王の怒号が飛び、リュントはビクッと肩を揺らした。
そこへ、隣国の王子セドリックが優雅に一歩前へ出た。
「アステリア国王陛下。もし、そちらの不肖の息子君がパルメを必要としないのであれば、喜んで我が国へお迎えいたしましょう。もちろん、彼女には『最高経営責任者(CEO)』兼『大地の守護神』として、全権を委譲するつもりです」
「セドリック殿下!? 貴国までパルメを狙っているのか!」
「狙っている? 失礼な。私はすでに彼女の『一番の僕』として、内諾を得ているつもりですよ」
「いつ内諾しましたのよ。貴方はただの『不法侵入気味な門番』でしょう?」
パルメのツッコミをスルーし、セドリックは国王に冷徹な笑みを向けた。
「陛下。パルメをこれ以上侮辱し、労働環境を改善しないのであれば……我がアステリア王国は、全力で彼女を『ヘッドハンティング』いたします」
国王の顔が真っ青になった。
(パルメを他国に奪われる……!? そんなことになれば、我が国の農業と経済は完全に崩壊する!)
国王は意を決したように、腰の剣を抜き放ち、その柄でリュントの肩を叩いた。
「リュント・フォン・アステリア! 今この時をもって、貴様の第一継承権を剥奪する!」
「えっ……? 父上、何を……」
「貴様のような『人材を見る目のない男』に、この国の未来を任せるわけにはいかん! 貴様は明日から平民に落とし、パルメの領地で『期間工』として働くがいい!」
「き、期間工……!? この私が、あんな泥だらけの場所で働くというのですか!」
「そうだ。パルメが味わった『現場の苦労』を、その身で学んでこい! 拒否すれば、即座に国外追放だ!」
リュントは絶望のあまり、その場に崩れ落ちた。
「あら、陛下。うちの領地は今、人手不足ではありませんわよ? 特に、そんな口先だけの無能な社員は、カカシの代わりにもなりませんわ」
パルメが扇で口元を隠し、冷たく言い放つ。
「まあ、どうしてもというのであれば、肥料の攪拌作業から始めてもらってもよろしくてよ? もちろん、時給は最低ランクからですけれど」
「パ、パルメ……。君は、私をそんな汚い作業に……」
「あら、私が毎日楽しそうにやっている作業を『汚い』なんて。やっぱり殿下とは、価値観が合いませんわね。おーほっほっほ!」
パルメの高笑いが、断罪の終わった広間に響き渡る。
国王は、満足そうに頷くと、パルメに向き直った。
「パルメよ。これでもう、お前を縛るブラックな上司はいない。どうだ、王宮に戻り、我が国の『最高農業顧問』として……」
「お断りしますわ。私は、自分の領地で、パジャマのままお昼寝ができる生活を勝ち取ったのです。これ以上の出世なんて、私の『ニート道』に反しますもの」
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「さあアンナ、帰りましょう! 今夜は王宮からくすねて……いえ、頂いた最高級のワインで、私の『完全退職』を祝うパーティーですわよ!」
「お嬢様、最後までやりたい放題ですね……。陛下、それでは失礼いたしますわ」
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セドリックもまた、「待ってくれパルメ! 私もワインの栓抜きとして同行しよう!」と叫びながら追いかけていった。
残されたのは、廃嫡された元王子と、噴水で気を失ったままの元ヒロイン、そしてパルメが残した巨大なカブを呆然と見つめる国王と貴族たちだけだった。
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