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「……ええい、控えよ! パルメ・ド・ラ・メール! 一体、王宮を何だと思っているのだ!」
壇上の玉座から、ついに国王陛下が立ち上がった。
その声は怒りに震えているようにも、あるいはあまりの事態の混沌ぶりに理性が限界を迎えているようにも聞こえた。
パルメは、耳栓をパチンと外すと、黄金のスコップを杖代わりにして堂々と国王の前に進み出た。
「陛下、ちょうど良いところにお出ましいただきましたわ。私、今日という今日こそ、皆様に申し上げたいことがありましたの」
パルメは深呼吸を一つし、会場全体を見渡した。
「皆様! 私は、あのアステリア王子の元婚約者として過ごした数年間……。あえて言わせてもらいますわ。あの生活は、まさに『地獄のブラック企業』そのものでしたのよ!」
「ぶ、ぶらっく……きぎょう?」
国王が首を傾げる。パルメは構わず、指を一本立ててまくし立てた。
「まず、勤務時間ですわ! 朝五時の礼法指導に始まり、深夜の外交文書整理、さらには王子のわがままに付き合う二十四時間体制のコールセンター状態! それなのに、残業代は一銭も出ず、福利厚生は『王妃になれるという空手形』のみ!」
パルメの声が広間に響き渡る。貴族たちは、その「ブラック」という聞き慣れない言葉の響きに、得体の知れない恐怖を感じていた。
「さらに、上司であるリュント殿下のパワハラ、モラハラの数々! 私が必死に作成した予算案を『読みにくい』という理由で突き返し、自分はミリアさんとピクニック三昧! これ、労働基準監督署……いえ、神殿に訴えたら一発でアウトですわよ!」
「パ、パルメ……。私は、君を鍛えるために……」
のたうち回っていたリュントが弱々しく手を伸ばすが、パルメはその手をヒョイと避けた。
「陛下! 私はあの日、婚約破棄を言い渡された時、心の中で快哉を叫びましたわ。ついに『円満退職』の時が来たのだと! 自由の翼を手に入れ、私は領地という名のパラダイスで、ようやく人間らしい生活を取り戻しました!」
パルメは、台車から「コーティングされた巨大なカブ」を両手で持ち上げ、国王の足元にドスンと置いた。
「見てください、この瑞々しいカブを! これが、ストレスから解放された人間が、土と対話して生み出した『真の成果』ですわ! 陛下、これを受け取ってください。これが私の、正式な『辞表』ですわ!」
会場は、割れんばかりの静寂に包まれた。
国王は、足元の巨大なカブと、誇らしげに胸を張るパルメを交互に見た。
「……パルメよ。つまり、お前は……。我が王室の教育を『苦行』と断じ、このカブを持って『自由』を宣言しに来たというのか?」
「その通りですわ! もう二度と、私をあの息苦しいオフィス……じゃなくて、王宮に呼び戻そうなんて思わないでくださいませ! 私は、自分の領地で、自分だけの『ホワイト企業』を建国するんですの!」
パルメの演説が終わると同時、なぜか会場のあちこちから、すすり泣くような声が聞こえ始めた。
「……そうだ。私も、パルメ様のように自由になりたい……」
「毎日、夜会に出るのが当たり前だと思っていたけれど、それは心のブラック労働だったのだわ……」
パルメの「ブラック企業告発」は、過酷な社交界に疲れ果てていた令嬢や貴族たちの心に、革命の火を灯してしまったのである。
国王は、カブを凝視しながら、ぽつりと呟いた。
「……美味そうだな、このカブ」
「陛下!? そこですか!?」
アンナが思わずツッコミを入れたが、国王は止まらなかった。
「パルメ……。お前の言い分は分かった。我が王室が、お前に甘えすぎていたことも認めよう。……だが、これほどの野菜を作れる人材を、ただのニートにしておくのは、国家の損失だと思わないか?」
「思いませんわ! 損失上等! 私は私のために、カブを育てるんですの!」
パルメの断固たる拒絶に、国王はついに決断を下した。
その鋭い眼光は、パルメではなく、背後で激辛ソースに悶絶し続けている無能な息子、リュントに向けられた。
「……リュント。お前、一体何をやっていたのだ」
「ひ、陛下……。あ、熱い……喉が……」
「黙れ! お前の無能のせいで、我が国は最強の『農業の女神』を失ったのだぞ!」
国王の怒りが、ついに火を噴いた。
パルメの「ブラック企業告発」という名の演説は、意図せずして王室の権力構造を根底から揺るがす、歴史的な一歩となったのである。
壇上の玉座から、ついに国王陛下が立ち上がった。
その声は怒りに震えているようにも、あるいはあまりの事態の混沌ぶりに理性が限界を迎えているようにも聞こえた。
パルメは、耳栓をパチンと外すと、黄金のスコップを杖代わりにして堂々と国王の前に進み出た。
「陛下、ちょうど良いところにお出ましいただきましたわ。私、今日という今日こそ、皆様に申し上げたいことがありましたの」
パルメは深呼吸を一つし、会場全体を見渡した。
「皆様! 私は、あのアステリア王子の元婚約者として過ごした数年間……。あえて言わせてもらいますわ。あの生活は、まさに『地獄のブラック企業』そのものでしたのよ!」
「ぶ、ぶらっく……きぎょう?」
国王が首を傾げる。パルメは構わず、指を一本立ててまくし立てた。
「まず、勤務時間ですわ! 朝五時の礼法指導に始まり、深夜の外交文書整理、さらには王子のわがままに付き合う二十四時間体制のコールセンター状態! それなのに、残業代は一銭も出ず、福利厚生は『王妃になれるという空手形』のみ!」
パルメの声が広間に響き渡る。貴族たちは、その「ブラック」という聞き慣れない言葉の響きに、得体の知れない恐怖を感じていた。
「さらに、上司であるリュント殿下のパワハラ、モラハラの数々! 私が必死に作成した予算案を『読みにくい』という理由で突き返し、自分はミリアさんとピクニック三昧! これ、労働基準監督署……いえ、神殿に訴えたら一発でアウトですわよ!」
「パ、パルメ……。私は、君を鍛えるために……」
のたうち回っていたリュントが弱々しく手を伸ばすが、パルメはその手をヒョイと避けた。
「陛下! 私はあの日、婚約破棄を言い渡された時、心の中で快哉を叫びましたわ。ついに『円満退職』の時が来たのだと! 自由の翼を手に入れ、私は領地という名のパラダイスで、ようやく人間らしい生活を取り戻しました!」
パルメは、台車から「コーティングされた巨大なカブ」を両手で持ち上げ、国王の足元にドスンと置いた。
「見てください、この瑞々しいカブを! これが、ストレスから解放された人間が、土と対話して生み出した『真の成果』ですわ! 陛下、これを受け取ってください。これが私の、正式な『辞表』ですわ!」
会場は、割れんばかりの静寂に包まれた。
国王は、足元の巨大なカブと、誇らしげに胸を張るパルメを交互に見た。
「……パルメよ。つまり、お前は……。我が王室の教育を『苦行』と断じ、このカブを持って『自由』を宣言しに来たというのか?」
「その通りですわ! もう二度と、私をあの息苦しいオフィス……じゃなくて、王宮に呼び戻そうなんて思わないでくださいませ! 私は、自分の領地で、自分だけの『ホワイト企業』を建国するんですの!」
パルメの演説が終わると同時、なぜか会場のあちこちから、すすり泣くような声が聞こえ始めた。
「……そうだ。私も、パルメ様のように自由になりたい……」
「毎日、夜会に出るのが当たり前だと思っていたけれど、それは心のブラック労働だったのだわ……」
パルメの「ブラック企業告発」は、過酷な社交界に疲れ果てていた令嬢や貴族たちの心に、革命の火を灯してしまったのである。
国王は、カブを凝視しながら、ぽつりと呟いた。
「……美味そうだな、このカブ」
「陛下!? そこですか!?」
アンナが思わずツッコミを入れたが、国王は止まらなかった。
「パルメ……。お前の言い分は分かった。我が王室が、お前に甘えすぎていたことも認めよう。……だが、これほどの野菜を作れる人材を、ただのニートにしておくのは、国家の損失だと思わないか?」
「思いませんわ! 損失上等! 私は私のために、カブを育てるんですの!」
パルメの断固たる拒絶に、国王はついに決断を下した。
その鋭い眼光は、パルメではなく、背後で激辛ソースに悶絶し続けている無能な息子、リュントに向けられた。
「……リュント。お前、一体何をやっていたのだ」
「ひ、陛下……。あ、熱い……喉が……」
「黙れ! お前の無能のせいで、我が国は最強の『農業の女神』を失ったのだぞ!」
国王の怒りが、ついに火を噴いた。
パルメの「ブラック企業告発」という名の演説は、意図せずして王室の権力構造を根底から揺るがす、歴史的な一歩となったのである。
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