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「……というわけで皆様、本日をもちまして私は『王太子妃教育修了者』の肩書きを返上し、社交界の第一線から身を引くことになりましたわ。おほほ」
都心にある高級サロンの特別室。
私の呼びかけに集まったのは、有力貴族の令嬢たち……いわゆる、私の「元・取り巻き」の皆様です。
普段は私の顔色を窺ってばかりの彼女たちも、今日ばかりは同情と困惑が混ざった複雑な顔をしています。
「ルビー様、本当によろしいのですか? あんな男爵令嬢に殿下を奪われたままで……」
「奪われた、だなんて人聞きが悪いですわね。私はただ、不良債権を適切なタイミングで損切りしただけですの。皆様も、投資の基本はご存知でしょう?」
私が扇子をパチンと閉じると、令嬢たちは一斉に肩を震わせました。
投資なんて言葉、彼女たちの華やかな脳内には存在しない概念でしょうけれど。
「損切り、とおっしゃいましても……。これからレナード殿下の隣に、あの方が座るのですよ? 私たちのマナー指導や、慈善事業の采配はどうなるのですか?」
「ええ、それが本日の本題ですわ。私が今まで管理していた『令嬢たちのボランティア計画表』および『お茶会回転率向上マニュアル』、さらには『夜会での壁の花撲滅リスト』。これら全ての権利を、今ここでオークションにかけます」
「……はい?」
「タダで差し上げてもよろしいのですが、それでは皆様の成長になりません。私の三日間の有給休暇中の食費くらいには、させていただきましょう。さあ、まずはこの『絶対に失敗しないエスコート誘導術』の巻物から。開始価格は金貨五枚ですわ!」
しん、と静まり返る室内。
しかし、彼女たちは知っています。私の作成する資料が、どれほど完璧で、どれほど社交界での地位を保証するかを。
「……じ、金貨十枚でお願いしますわ!」
「まあ、マリアンヌ様、お目が高い。他には?」
「十五枚! 私、十五枚出すわ!」
「はい、落札! では次。シルヴィア様にマウントを取られた時の『エレガントな言い返し定型文集』。こちらは需要が高そうですね、金貨二十枚から!」
数分後。私の手元のバッグは、ずっしりと重い金貨の袋で膨れ上がっていました。
これぞ、知識の現金化。これぞ、円満な退席というものです。
「ルビー様……。本当に、もうお会いできないのですか? 私たちは、あなたの厳しいご指導がなければ、ただの着飾った人形に戻ってしまいます……っ!」
一人の令嬢が、本気で涙を浮かべて私の袖を掴みました。
厳しい指導(効率化の徹底)を慕ってくれる奇特な方もいるものです。
「泣かないで、皆様。これからは自分の頭で損益を計算するのです。……あ、でも、どうしても困った時は、隣国のヴァレンティーノ王国へ手紙をください。有料でコンサルティングに乗りますわ」
私が最後のアドバイスを残してサロンを出ると、そこには父公爵の馬車が待っていました。
窓から顔を出した父は、私の重そうなバッグを見て、苦笑いを浮かべています。
「……ルビー。お前、最後にお友達から身ぐるみを剥いできたわけじゃないだろうな?」
「失礼な。正当な知的財産の譲渡ですわ。お父様、これで今夜は最高級の熟成肉が食べられますわね」
「ははは。お前のその図太さがあれば、どこへ行っても安心だ。……しかし、王宮の方は大変なことになっているぞ。国王陛下が、レナードの不始末を聞いて卒倒されたそうだ」
「まあ、陛下にはお気の毒ですが。私の知ったことではありませんわ。パスワードを解くか、三万枚払うか、二つに一つですもの」
馬車がゆっくりと動き出しました。
窓の外を流れる王都の景色。この三年、この街のために粉骨砕身してきましたが、未練は一欠片もありません。
「さようなら、無能な王子。こんにちは、私の輝かしいボーナスステージ!」
私は馬車の中で、さっそく隣国の求人票……いえ、カイル殿下からの招待状を広げました。
そこには、私の実務能力を絶賛する言葉と共に、魅力的な「特別手当」の数字が並んでいました。
社交界の頂点から降りる。
それは私にとって、負けではなく、より高いステージへの「戦略的移動」に過ぎないのです。
都心にある高級サロンの特別室。
私の呼びかけに集まったのは、有力貴族の令嬢たち……いわゆる、私の「元・取り巻き」の皆様です。
普段は私の顔色を窺ってばかりの彼女たちも、今日ばかりは同情と困惑が混ざった複雑な顔をしています。
「ルビー様、本当によろしいのですか? あんな男爵令嬢に殿下を奪われたままで……」
「奪われた、だなんて人聞きが悪いですわね。私はただ、不良債権を適切なタイミングで損切りしただけですの。皆様も、投資の基本はご存知でしょう?」
私が扇子をパチンと閉じると、令嬢たちは一斉に肩を震わせました。
投資なんて言葉、彼女たちの華やかな脳内には存在しない概念でしょうけれど。
「損切り、とおっしゃいましても……。これからレナード殿下の隣に、あの方が座るのですよ? 私たちのマナー指導や、慈善事業の采配はどうなるのですか?」
「ええ、それが本日の本題ですわ。私が今まで管理していた『令嬢たちのボランティア計画表』および『お茶会回転率向上マニュアル』、さらには『夜会での壁の花撲滅リスト』。これら全ての権利を、今ここでオークションにかけます」
「……はい?」
「タダで差し上げてもよろしいのですが、それでは皆様の成長になりません。私の三日間の有給休暇中の食費くらいには、させていただきましょう。さあ、まずはこの『絶対に失敗しないエスコート誘導術』の巻物から。開始価格は金貨五枚ですわ!」
しん、と静まり返る室内。
しかし、彼女たちは知っています。私の作成する資料が、どれほど完璧で、どれほど社交界での地位を保証するかを。
「……じ、金貨十枚でお願いしますわ!」
「まあ、マリアンヌ様、お目が高い。他には?」
「十五枚! 私、十五枚出すわ!」
「はい、落札! では次。シルヴィア様にマウントを取られた時の『エレガントな言い返し定型文集』。こちらは需要が高そうですね、金貨二十枚から!」
数分後。私の手元のバッグは、ずっしりと重い金貨の袋で膨れ上がっていました。
これぞ、知識の現金化。これぞ、円満な退席というものです。
「ルビー様……。本当に、もうお会いできないのですか? 私たちは、あなたの厳しいご指導がなければ、ただの着飾った人形に戻ってしまいます……っ!」
一人の令嬢が、本気で涙を浮かべて私の袖を掴みました。
厳しい指導(効率化の徹底)を慕ってくれる奇特な方もいるものです。
「泣かないで、皆様。これからは自分の頭で損益を計算するのです。……あ、でも、どうしても困った時は、隣国のヴァレンティーノ王国へ手紙をください。有料でコンサルティングに乗りますわ」
私が最後のアドバイスを残してサロンを出ると、そこには父公爵の馬車が待っていました。
窓から顔を出した父は、私の重そうなバッグを見て、苦笑いを浮かべています。
「……ルビー。お前、最後にお友達から身ぐるみを剥いできたわけじゃないだろうな?」
「失礼な。正当な知的財産の譲渡ですわ。お父様、これで今夜は最高級の熟成肉が食べられますわね」
「ははは。お前のその図太さがあれば、どこへ行っても安心だ。……しかし、王宮の方は大変なことになっているぞ。国王陛下が、レナードの不始末を聞いて卒倒されたそうだ」
「まあ、陛下にはお気の毒ですが。私の知ったことではありませんわ。パスワードを解くか、三万枚払うか、二つに一つですもの」
馬車がゆっくりと動き出しました。
窓の外を流れる王都の景色。この三年、この街のために粉骨砕身してきましたが、未練は一欠片もありません。
「さようなら、無能な王子。こんにちは、私の輝かしいボーナスステージ!」
私は馬車の中で、さっそく隣国の求人票……いえ、カイル殿下からの招待状を広げました。
そこには、私の実務能力を絶賛する言葉と共に、魅力的な「特別手当」の数字が並んでいました。
社交界の頂点から降りる。
それは私にとって、負けではなく、より高いステージへの「戦略的移動」に過ぎないのです。
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