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「……何だ、貴様は! ここは第一王子の執務室だぞ! アポなしで入ってくるとは無礼千万な!」
王宮の、埃が積もり始めた執務室。
レナード殿下の怒鳴り声に対し、黒いスーツを隙なく着こなした眼鏡の男は、表情一つ変えずに一礼しました。
「失礼いたしました。私はベルシュタイン公爵令嬢ルビー様の法的代理人を務めております、弁護士のグリムと申します。本日は『債権回収』の最終通告に参りました」
「だいりにん……? 弁護士だと!? ルビーの奴、ついに私を裁判にかけるつもりか!」
「いいえ。裁判などは時間の無駄ですので。すでに公爵家および隣国の法務局を通じまして、殿下の『私有財産』に対する差し押さえ令状が発付されております。……おい、入れ」
グリムが合図をすると、屈強な男たちが数人、赤い札を持って部屋になだれ込んできました。
彼らは迷うことなく、室内の豪華な調度品に次々と赤い札を貼り付けていきます。
「な、何をする! その金の置物は、私の成人の儀の記念品だぞ!」
「時価で金貨三百枚。ルビー様への未払い残業代の一部として充当させていただきます。あ、そちらの特注の羽ペンセットもですね。……あと、そこの壁にかかっている、やけに美化された殿下の肖像画は……」
グリムは肖像画をじっと見つめ、小さくため息をつきました。
「……市場価値ゼロ、むしろ廃棄費用がかかりそうですね。却下です。剥がして床に置いておきなさい」
「き、貴様ぁぁ! 王子を、王子を侮辱するのか!」
そこへ、着古したドレス(新しいものが買えないため)を着たシルヴィアが、涙目で飛び込んできました。
「レナード様ぁ! 大変ですわ! 私の部屋に知らない男たちが来て、私の宝石箱に赤い紙を貼っていったのです! 『これはルビー様の私金で決済されたものです』なんて失礼なことを言って……!」
「……シルヴィア様。それは失礼ではなく、単なる事実の摘示です。あなたが現在身につけているそのネックレスも、購入履歴を確認したところ、ルビー様の個人口座から引き落とされておりました。……はい、没収です」
グリムが指を鳴らすと、部下の一人がシルヴィアの首元から鮮やかにネックレスを回収しました。
「ひっ……! あ、私の愛の証が……!」
「愛の証を他人の財布で決済するのは、この国の刑法では『詐欺罪』に近いグレーゾーンですが、今回はルビー様の慈悲により、現物の返還のみで済ませて差し上げます。……感謝してください」
レナードは、真っ赤な顔をしてグリムの胸ぐらを掴もうとしましたが、グリムは紙一枚でそれを遮りました。
「おやめください。私に触れると、追加で『公務執行妨害』および『精神的苦痛に対する賠償金』が発生し、殿下のベッドまで差し押さえることになりますよ?」
「……う、ぐ……っ。ルビーは……ルビーはどこまで私を苦しめれば気が済むんだ! あんなに尽くしてやったのに!」
「『尽くした』。……ふむ、その語彙の定義について、後ほど辞書を差し上げましょう。ルビー様からはこう伝言を預かっております。『数字に感情はありません。あなたが払うべきものを払えば、私はあなたの存在すら忘れて差し上げます』……と」
グリムは淡々と業務を遂行し、最後に「差し押さえ物件目録」をレナードの机に叩きつけました。
「なお、王宮全体の維持費、および清掃ギルドへの未払い金についても、本日中に精算されない場合、次は王宮の『玄関の扉』を差し押さえます。王宮が吹きさらしになりますが、よろしいですね?」
「待て! 待ってくれ! 金なら……金ならなんとかする! だから扉だけは……!」
「期限は本日の日没までです。……では、失礼いたします。シルヴィア様、そのピアスもルビー様の経費ですので、置いていってくださいね」
グリムたちが嵐のように去った後、執務室には赤い札が貼られたガラクタと、呆然と立ち尽くすおバカなカップルだけが残されました。
一方、隣国のカフェでは。
「……あら、セバス。グリムから連絡が入ったわ。レナード殿下が、泣きながら予備の金庫を探し始めたそうですわよ」
「それは重畳。お嬢様、差し押さえた品々はどうなさるおつもりで?」
「オークションにかけて、全額を隣国の恵まれない子供たちのための奨学金にするわ。……無能な王子の贅沢品が、未来の有能な人材に化けるなんて、これ以上の投資効率はありませんもの」
ルビーは優雅にスコーンを頬張り、窓の外に広がる、活気に満ちた隣国の景色を眺めて微笑みました。
彼女の「復讐」は、常に合理的で、そして何より「利益」を生む形で行われるのです。
王宮の、埃が積もり始めた執務室。
レナード殿下の怒鳴り声に対し、黒いスーツを隙なく着こなした眼鏡の男は、表情一つ変えずに一礼しました。
「失礼いたしました。私はベルシュタイン公爵令嬢ルビー様の法的代理人を務めております、弁護士のグリムと申します。本日は『債権回収』の最終通告に参りました」
「だいりにん……? 弁護士だと!? ルビーの奴、ついに私を裁判にかけるつもりか!」
「いいえ。裁判などは時間の無駄ですので。すでに公爵家および隣国の法務局を通じまして、殿下の『私有財産』に対する差し押さえ令状が発付されております。……おい、入れ」
グリムが合図をすると、屈強な男たちが数人、赤い札を持って部屋になだれ込んできました。
彼らは迷うことなく、室内の豪華な調度品に次々と赤い札を貼り付けていきます。
「な、何をする! その金の置物は、私の成人の儀の記念品だぞ!」
「時価で金貨三百枚。ルビー様への未払い残業代の一部として充当させていただきます。あ、そちらの特注の羽ペンセットもですね。……あと、そこの壁にかかっている、やけに美化された殿下の肖像画は……」
グリムは肖像画をじっと見つめ、小さくため息をつきました。
「……市場価値ゼロ、むしろ廃棄費用がかかりそうですね。却下です。剥がして床に置いておきなさい」
「き、貴様ぁぁ! 王子を、王子を侮辱するのか!」
そこへ、着古したドレス(新しいものが買えないため)を着たシルヴィアが、涙目で飛び込んできました。
「レナード様ぁ! 大変ですわ! 私の部屋に知らない男たちが来て、私の宝石箱に赤い紙を貼っていったのです! 『これはルビー様の私金で決済されたものです』なんて失礼なことを言って……!」
「……シルヴィア様。それは失礼ではなく、単なる事実の摘示です。あなたが現在身につけているそのネックレスも、購入履歴を確認したところ、ルビー様の個人口座から引き落とされておりました。……はい、没収です」
グリムが指を鳴らすと、部下の一人がシルヴィアの首元から鮮やかにネックレスを回収しました。
「ひっ……! あ、私の愛の証が……!」
「愛の証を他人の財布で決済するのは、この国の刑法では『詐欺罪』に近いグレーゾーンですが、今回はルビー様の慈悲により、現物の返還のみで済ませて差し上げます。……感謝してください」
レナードは、真っ赤な顔をしてグリムの胸ぐらを掴もうとしましたが、グリムは紙一枚でそれを遮りました。
「おやめください。私に触れると、追加で『公務執行妨害』および『精神的苦痛に対する賠償金』が発生し、殿下のベッドまで差し押さえることになりますよ?」
「……う、ぐ……っ。ルビーは……ルビーはどこまで私を苦しめれば気が済むんだ! あんなに尽くしてやったのに!」
「『尽くした』。……ふむ、その語彙の定義について、後ほど辞書を差し上げましょう。ルビー様からはこう伝言を預かっております。『数字に感情はありません。あなたが払うべきものを払えば、私はあなたの存在すら忘れて差し上げます』……と」
グリムは淡々と業務を遂行し、最後に「差し押さえ物件目録」をレナードの机に叩きつけました。
「なお、王宮全体の維持費、および清掃ギルドへの未払い金についても、本日中に精算されない場合、次は王宮の『玄関の扉』を差し押さえます。王宮が吹きさらしになりますが、よろしいですね?」
「待て! 待ってくれ! 金なら……金ならなんとかする! だから扉だけは……!」
「期限は本日の日没までです。……では、失礼いたします。シルヴィア様、そのピアスもルビー様の経費ですので、置いていってくださいね」
グリムたちが嵐のように去った後、執務室には赤い札が貼られたガラクタと、呆然と立ち尽くすおバカなカップルだけが残されました。
一方、隣国のカフェでは。
「……あら、セバス。グリムから連絡が入ったわ。レナード殿下が、泣きながら予備の金庫を探し始めたそうですわよ」
「それは重畳。お嬢様、差し押さえた品々はどうなさるおつもりで?」
「オークションにかけて、全額を隣国の恵まれない子供たちのための奨学金にするわ。……無能な王子の贅沢品が、未来の有能な人材に化けるなんて、これ以上の投資効率はありませんもの」
ルビーは優雅にスコーンを頬張り、窓の外に広がる、活気に満ちた隣国の景色を眺めて微笑みました。
彼女の「復讐」は、常に合理的で、そして何より「利益」を生む形で行われるのです。
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