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「……ルビー、昨夜の件だが。我が国の国防費を実質ゼロで増強した君の手腕、改めて畏敬の念を禁じ得ない」
静まり返った深夜の執務室。カイル殿下は、私の隣で書類を整理しながら、ふっと溜息をつきました。
窓の外には、新しく我が国の門番となった(そしてモリモリと深夜食を食べている)アステリア王国の元騎士たちの姿が見えます。
「畏敬だなんて大げさですわ。私はただ、彼らの『生活への不安』という負債を買い取っただけ。……それに殿下、彼らの雇用契約書、もう一度チェックしておいてください。試用期間中はボーナスなし、という項目をねじ込んでおきましたから」
「……君は本当に、隙がないな。その、算盤を弾く指先の動き……実に、美しいと思う」
唐突な言葉に、私のペンが止まりました。
カイル殿下を見ると、彼は真剣な眼差しで、私の右手をじっと見つめていました。
「……指先、ですか? 関節の可動域でもチェックされているのかしら。それとも、私のタイピング速度が速すぎて、魔導端末が壊れるのを心配されています?」
「違う。……私は、君のその、徹底的に合理的で、冷徹で、それでいて自分の守るべきもの(数字)に対して誠実なところが……たまらなく愛おしいと言っているんだ」
……えっ。
脳内のメインプロセッサが、一瞬でオーバーヒートを起こしました。
愛おしい? 愛おしいですって? この私が?
「カ、カイル殿下。それは……過剰な福利厚生の一環かしら? あるいは、次期予算案を通すための、私に対する心理的買収(ワイロ)ですの?」
「いいえ。純粋な『個人投資』の告白だ、ルビー。……私は、君をこの国の財産としてではなく、一人の女として、私の生涯のポートフォリオに加えたい」
カイル殿下は椅子を近づけ、私の逃げ場を塞ぐように両手を机につきました。
顔が近い。近すぎます。彼の銀色の瞳の中に、赤くなって固まっているマヌケな私の顔が映っています。
「君の計算する指先が好きだ。不合理な感情に流されず、真実だけを見極めるその瞳が好きだ。……そして、時折見せる、利益を上げた時の悪魔のような笑みも、全て含めて愛している」
「……あ、悪魔のような笑みって。失礼ですわね、私はいつだって天使のように清らかな商売を……」
「ルビー。誤魔化すな。……君は、私の愛を『非効率な感情の無駄遣い』だと切り捨てるか? それとも、生涯かけて共に資産を築き上げる『共同経営者』として、私の手を取ってくれるか?」
直球。あまりにも直球な速球です。
しかも、告白の内容が「共同経営者」だなんて。
……困りましたわ。これ、私の人生史上、最も「リターンが大きい」提案ですわ。
「……カイル殿下。その『愛』とやらの有効期限と、中途解約時の違約金について、詳しく伺ってもよろしいかしら?」
「有効期限は私の心臓が止まるまで。違約金は……そうだな、私の全財産とこの命でどうだ? これ以上の保証(担保)は、世界中探しても見つからないはずだ」
カイル殿下が、私の指先にそっと唇を寄せました。
騎士の誓いよりも重く、商人の契約よりも確かな熱が、そこから伝わってきます。
「……計算、終了しましたわ」
「ほう。答えを聞こうか」
「……この取引、私の圧倒的勝利ですわ。これほど好条件の『愛』を蹴るほど、私は愚かな投資家ではありませんの。……謹んで、あなたの『終身雇用』の契約を受理いたしますわ」
私が顔を伏せながら答えると、カイル殿下は満足そうに、しかしどこかホッとしたように笑いました。
「契約成立だな。……では、さっそくだがルビー。婚約の印として、君がずっと欲しがっていた『隣国の全商権のデータベース』の閲覧権を差し上げよう。これでもう、君を邪魔する者は誰もいない」
「……っ! 流石は私の旦那様になる方! 私の欲しいものを完璧に把握していらっしゃるわ! 愛していますわ、カイル殿下(の持っている情報資産を)!」
「おい、括弧の中身が本音だな? ……まあいい。君のそういう現金なところが、私にとっては最高の癒やしだ」
私たちは夜が明けるまで、愛の言葉を……ではなく、データベースを元にした「大陸全体の経済支配計画」を熱く語り合いました。
普通の恋人たちには理解できない、数字と欲望にまみれた、けれど誰よりも情熱的な夜。
ルビー・フォン・ベルシュタイン。
私の算盤が、初めて「幸福」という名の莫大な利益を弾き出した瞬間でした。
静まり返った深夜の執務室。カイル殿下は、私の隣で書類を整理しながら、ふっと溜息をつきました。
窓の外には、新しく我が国の門番となった(そしてモリモリと深夜食を食べている)アステリア王国の元騎士たちの姿が見えます。
「畏敬だなんて大げさですわ。私はただ、彼らの『生活への不安』という負債を買い取っただけ。……それに殿下、彼らの雇用契約書、もう一度チェックしておいてください。試用期間中はボーナスなし、という項目をねじ込んでおきましたから」
「……君は本当に、隙がないな。その、算盤を弾く指先の動き……実に、美しいと思う」
唐突な言葉に、私のペンが止まりました。
カイル殿下を見ると、彼は真剣な眼差しで、私の右手をじっと見つめていました。
「……指先、ですか? 関節の可動域でもチェックされているのかしら。それとも、私のタイピング速度が速すぎて、魔導端末が壊れるのを心配されています?」
「違う。……私は、君のその、徹底的に合理的で、冷徹で、それでいて自分の守るべきもの(数字)に対して誠実なところが……たまらなく愛おしいと言っているんだ」
……えっ。
脳内のメインプロセッサが、一瞬でオーバーヒートを起こしました。
愛おしい? 愛おしいですって? この私が?
「カ、カイル殿下。それは……過剰な福利厚生の一環かしら? あるいは、次期予算案を通すための、私に対する心理的買収(ワイロ)ですの?」
「いいえ。純粋な『個人投資』の告白だ、ルビー。……私は、君をこの国の財産としてではなく、一人の女として、私の生涯のポートフォリオに加えたい」
カイル殿下は椅子を近づけ、私の逃げ場を塞ぐように両手を机につきました。
顔が近い。近すぎます。彼の銀色の瞳の中に、赤くなって固まっているマヌケな私の顔が映っています。
「君の計算する指先が好きだ。不合理な感情に流されず、真実だけを見極めるその瞳が好きだ。……そして、時折見せる、利益を上げた時の悪魔のような笑みも、全て含めて愛している」
「……あ、悪魔のような笑みって。失礼ですわね、私はいつだって天使のように清らかな商売を……」
「ルビー。誤魔化すな。……君は、私の愛を『非効率な感情の無駄遣い』だと切り捨てるか? それとも、生涯かけて共に資産を築き上げる『共同経営者』として、私の手を取ってくれるか?」
直球。あまりにも直球な速球です。
しかも、告白の内容が「共同経営者」だなんて。
……困りましたわ。これ、私の人生史上、最も「リターンが大きい」提案ですわ。
「……カイル殿下。その『愛』とやらの有効期限と、中途解約時の違約金について、詳しく伺ってもよろしいかしら?」
「有効期限は私の心臓が止まるまで。違約金は……そうだな、私の全財産とこの命でどうだ? これ以上の保証(担保)は、世界中探しても見つからないはずだ」
カイル殿下が、私の指先にそっと唇を寄せました。
騎士の誓いよりも重く、商人の契約よりも確かな熱が、そこから伝わってきます。
「……計算、終了しましたわ」
「ほう。答えを聞こうか」
「……この取引、私の圧倒的勝利ですわ。これほど好条件の『愛』を蹴るほど、私は愚かな投資家ではありませんの。……謹んで、あなたの『終身雇用』の契約を受理いたしますわ」
私が顔を伏せながら答えると、カイル殿下は満足そうに、しかしどこかホッとしたように笑いました。
「契約成立だな。……では、さっそくだがルビー。婚約の印として、君がずっと欲しがっていた『隣国の全商権のデータベース』の閲覧権を差し上げよう。これでもう、君を邪魔する者は誰もいない」
「……っ! 流石は私の旦那様になる方! 私の欲しいものを完璧に把握していらっしゃるわ! 愛していますわ、カイル殿下(の持っている情報資産を)!」
「おい、括弧の中身が本音だな? ……まあいい。君のそういう現金なところが、私にとっては最高の癒やしだ」
私たちは夜が明けるまで、愛の言葉を……ではなく、データベースを元にした「大陸全体の経済支配計画」を熱く語り合いました。
普通の恋人たちには理解できない、数字と欲望にまみれた、けれど誰よりも情熱的な夜。
ルビー・フォン・ベルシュタイン。
私の算盤が、初めて「幸福」という名の莫大な利益を弾き出した瞬間でした。
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