悪役令嬢として婚約破棄されましたが、異議はありません。

鏡おもち

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「……ルビー、これを見てくれ。我が国唯一の、そして最大の『がん細胞』だ」

 ヴァレンティーノ国王、つまりカイル殿下のお父様が、重々しく一冊の真っ赤な(文字通り赤字だらけの)報告書を差し出しました。
 謁見の間というより、もはや経営会議の場と化したその部屋で、国王陛下は深い溜息をつきました。

「『ドクロ岩の領地』。……名前からして不吉ですわね。陛下、この領地の主な産業は何ですの?」

「何もない。あるのは荒れ果てた大地と、やる気のない領民、そして先代の領主が積み上げた、天を突くような借金だけだ。我が国の会計士たちは、ここを『呪われた地』と呼び、誰も近づこうとしない」

「呪い、ですか。陛下、幽霊が税金をむしり取っていくとでも?」

「いや……あまりの赤字額に、見た者がショックで寝込むという意味だ」

 私は、エルザに命じて報告書を即座にスキャン……ではなく、速読させました。
 数分後、エルザは無表情のまま、「……吐き気がします」と短く一言添えて、私に要約を手渡しました。

「なるほど。利息だけで毎年、金貨五百枚。収入は……えっ、ゼロ? 領民は自給自足で、納税という概念すら忘れているようですわね。これは『呪い』ではなく、単なる『管理放棄』ですわ」

「ルビー、どうだ? ここを三ヶ月で黒字化できれば、私は君を『王家の至宝』として正式に遇することを約束しよう。だが、失敗すれば……」

「失敗すれば?」

「カイルとの結婚式の予算を、一割削らせてもらう」

「……なんですって?」

 私の瞳に、かつてないほどの鋭い光が宿りました。
 結婚式の予算を削る? 私の、一生に一度の、最高に効率的で豪華なセレモニーの予算を!?

「陛下……。その挑戦、謹んでお受けいたしますわ。三ヶ月後、そのドクロ岩を『金塊の山』に変えてみせましょう。……カイル殿下、さっそく軍の輸送車を一台貸してくださる?」

 傍観していたカイル殿下が、面白そうに肩をすくめました。

「構わないが、何をするつもりだ? あそこには兵士を送り込んでも、皆やる気を失って帰ってくるぞ」

「武器なんて持っていきませんわ。持っていくのは、大量の『算盤』と『最新の肥料』、そして……私の『愛の鞭(徹底した再教育)』ですわ!」

 数日後。私はドクロ岩の領地に降り立ちました。
 出迎えたのは、鼻提灯を出して昼寝をしている門番と、ボロボロの服を着て座り込んでいる領民たち。

「……セバス。聞こえるかしら? この、怠惰のシンフォニーが」

「はい、お嬢様。これほどまでに経済活動が停止している空間は、もはや真空と同義でございますな」

 私は馬車の上に立ち、拡声魔法を使って、村中に響き渡る声で叫びました。

「全員、整列なさい! 今この瞬間から、あなたたちの『自由という名の怠慢』は終了です! これから三時間以内に、この村の全世帯の資産状況を申告しなさい。……できなかった家は、今日の夕食から『抜き』ですわよ!」

「な、なんだこの女は……!? ここは呪われた土地だぞ、放っておいてくれ!」

「呪い? そんな非科学的な言葉で逃げるのは許しませんわ。あなたたちが今座っているその『ドクロ岩』、よく見なさいな。これ、実は希少な魔導石の含有率が高い特殊な鉱石ですわよ? 座っているだけでお尻から宝物を排出しているようなものですわ!」

 領民たちが一斉に、自分たちが座っていた岩を見つめました。
 そう、彼らはただ、自分たちの足元に眠る「資産」の価値を知らなかっただけなのです。

「エルザ! 採掘計画の策定を! セバス! 彼らの生活習慣を矯正するためのタイムスケジュール表を配布しなさい! ……さあ、あなたたち。働いて稼いで、美味しい肉を食べるのと、ここで石に座って飢え死にするの、どちらの方が『期待値』が高いか、私が教えてあげますわ!」

 ルビー・フォン・ベルシュタインの「スパルタ再建」が幕を開けました。
 領民たちはまだ知りませんでした。
 目の前の悪役令嬢が、自分たちの骨の髄まで利益を絞り出す代わりに、この地を世界一豊かな場所に変えてしまうことを。

 特命:赤字再建。
 それはルビーにとって、自らの価値を隣国の王族に証明するための、最高にスリリングな「試験」に過ぎませんでした。
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