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「……ルビー! 頼む、この通りだ! 国を、我がアステリア王国を救ってくれ!」
ヴァレンティーノ王宮の最高レベル会議室。
かつては第一王子としてふんぞり返っていたレナードが、今は床に額を擦り付け、見事な土下座を披露していました。
その横では、なぜか雑巾を持ったままのシルヴィアも、ついでとばかりに頭を下げています。
「あら、レナード殿下。そんなところで床の強度を頭蓋骨で測定してどうなさったの? あ、シルヴィア様はそのまま掃除を続けてくださって結構ですよ。そこ、少し汚れていますわ」
私は、カイル殿下の手を借りてゆったりと上座に座りました。
手元には、アステリア王国の全資産……もとい、全負債をまとめた最終報告書があります。
「……話し合い、でしたわね。殿下、まず大前提を確認しましょう。今のあなたの国に、国家としての『価値』は残っていますの? 算出して差し上げましたけれど、負債額が資産額を三百パーセント上回っていますわ」
「わ、わかっている! だから、お前のその恐ろしい計算能力で、帳尻を合わせてほしいんだ! お前なら、数字をこねくり回して『黒字』に見せかけることくらい、造作もないだろう!」
「失礼ね。私は粉飾決算(偽造)などいたしません。私は『事実』を最適化するだけです。……殿下、私があなたの国を救うメリットを、投資家的な視点で述べていただけますかしら?」
レナードは顔を上げ、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら叫びました。
「メ、メリット……!? 私という、高貴な王子の血筋が残ることだ! あと、お前への感謝の気持ちだ!」
「……セバス。今の言葉、我が国の通貨に換算したらいくらになるかしら?」
「左様でございますな。……市場での取引価格は零点零一セント未満。ゴミ箱に捨てる際の手数料の方が高くつきますな」
カイル殿下が、私の肩に手を置き、冷徹な笑みをレナードに向けました。
「レナード。我が婚約者の時間を、そんなガラクタのような理由で奪うな。……ルビー、私から提案していいか?」
「ええ、カイル殿下。あなたの冷酷な……いえ、合理的な提案をどうぞ」
「アステリア王国の『救済買収(M&A)』だ。王室を廃止し、国土を我が国の『特別経済特区』として併合する。レナード、君は王族の地位を放棄し、一介の事務員として、ルビーが作った『地獄の研修プログラム』を死ぬまで受けてもらう」
「お、王族を……廃止!? そんな、建国以来の歴史が……っ!」
「歴史ではパンは買えませんわよ、殿下。……それとも、今すぐ城の外で待機している怒れる国民三万人の前に、生身で放り出される方がよろしいかしら? 彼ら、あなたを『愛という名の薪』にして、焚き火を楽しみたいそうですわよ?」
レナードはヒッと短い悲鳴を上げ、再び床に伏せました。
「……わ、わかった。併合でも何でもしてくれ! 命だけは……命だけは助けてくれ!」
「商談成立ですわね。……あ、シルヴィア様。あなたはどうなさるの? アステリア王国が消滅すれば、あなたの『次期王妃』という妄想のポートフォリオも完全に紙屑になりますけれど」
シルヴィアは、ピカピカになった床を見つめて、晴れやかな顔で答えました。
「私、掃除の才能に目覚めましたの! 数字は嫌いですけれど、汚れが落ちるスピードは計算しなくてもわかりますわ! このまま、ここの王宮で終身雇用を希望します!」
「……ある意味、彼女が一番の勝ち組かもしれませんわね。……さて、レナード。これからは私の部下として、一円の誤差も許さない厳しい日々が待っていますわよ。覚悟はよろしくて?」
ルビー・フォン・ベルシュタイン。
私の算盤が最後に弾き出したのは、かつての敵を「低賃金でこき使う」という、最高にコストパフォーマンスの良い結末でした。
話し合い、終了。
それは、アステリアという名の不良債権が、私の支配下でようやく「資源」へと生まれ変わる第一歩となったのです。
ヴァレンティーノ王宮の最高レベル会議室。
かつては第一王子としてふんぞり返っていたレナードが、今は床に額を擦り付け、見事な土下座を披露していました。
その横では、なぜか雑巾を持ったままのシルヴィアも、ついでとばかりに頭を下げています。
「あら、レナード殿下。そんなところで床の強度を頭蓋骨で測定してどうなさったの? あ、シルヴィア様はそのまま掃除を続けてくださって結構ですよ。そこ、少し汚れていますわ」
私は、カイル殿下の手を借りてゆったりと上座に座りました。
手元には、アステリア王国の全資産……もとい、全負債をまとめた最終報告書があります。
「……話し合い、でしたわね。殿下、まず大前提を確認しましょう。今のあなたの国に、国家としての『価値』は残っていますの? 算出して差し上げましたけれど、負債額が資産額を三百パーセント上回っていますわ」
「わ、わかっている! だから、お前のその恐ろしい計算能力で、帳尻を合わせてほしいんだ! お前なら、数字をこねくり回して『黒字』に見せかけることくらい、造作もないだろう!」
「失礼ね。私は粉飾決算(偽造)などいたしません。私は『事実』を最適化するだけです。……殿下、私があなたの国を救うメリットを、投資家的な視点で述べていただけますかしら?」
レナードは顔を上げ、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら叫びました。
「メ、メリット……!? 私という、高貴な王子の血筋が残ることだ! あと、お前への感謝の気持ちだ!」
「……セバス。今の言葉、我が国の通貨に換算したらいくらになるかしら?」
「左様でございますな。……市場での取引価格は零点零一セント未満。ゴミ箱に捨てる際の手数料の方が高くつきますな」
カイル殿下が、私の肩に手を置き、冷徹な笑みをレナードに向けました。
「レナード。我が婚約者の時間を、そんなガラクタのような理由で奪うな。……ルビー、私から提案していいか?」
「ええ、カイル殿下。あなたの冷酷な……いえ、合理的な提案をどうぞ」
「アステリア王国の『救済買収(M&A)』だ。王室を廃止し、国土を我が国の『特別経済特区』として併合する。レナード、君は王族の地位を放棄し、一介の事務員として、ルビーが作った『地獄の研修プログラム』を死ぬまで受けてもらう」
「お、王族を……廃止!? そんな、建国以来の歴史が……っ!」
「歴史ではパンは買えませんわよ、殿下。……それとも、今すぐ城の外で待機している怒れる国民三万人の前に、生身で放り出される方がよろしいかしら? 彼ら、あなたを『愛という名の薪』にして、焚き火を楽しみたいそうですわよ?」
レナードはヒッと短い悲鳴を上げ、再び床に伏せました。
「……わ、わかった。併合でも何でもしてくれ! 命だけは……命だけは助けてくれ!」
「商談成立ですわね。……あ、シルヴィア様。あなたはどうなさるの? アステリア王国が消滅すれば、あなたの『次期王妃』という妄想のポートフォリオも完全に紙屑になりますけれど」
シルヴィアは、ピカピカになった床を見つめて、晴れやかな顔で答えました。
「私、掃除の才能に目覚めましたの! 数字は嫌いですけれど、汚れが落ちるスピードは計算しなくてもわかりますわ! このまま、ここの王宮で終身雇用を希望します!」
「……ある意味、彼女が一番の勝ち組かもしれませんわね。……さて、レナード。これからは私の部下として、一円の誤差も許さない厳しい日々が待っていますわよ。覚悟はよろしくて?」
ルビー・フォン・ベルシュタイン。
私の算盤が最後に弾き出したのは、かつての敵を「低賃金でこき使う」という、最高にコストパフォーマンスの良い結末でした。
話し合い、終了。
それは、アステリアという名の不良債権が、私の支配下でようやく「資源」へと生まれ変わる第一歩となったのです。
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