悪役令嬢として婚約破棄されましたが、異議はありません。

鏡おもち

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「……皆様、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございますわ。この素晴らしい会場、そして皆様の豪華な装い。……これら全てを維持するために、どれほどの維持費がかかっているか、考えただけで胸が熱くなりますわね」

 ヴァレンティーノ王宮の大広間。
 国を挙げての婚約式、そして旧アステリア領との「合併記念パーティー」の主役として、私は壇上に立っていました。
 隣には、私の腰を抱き寄せ、誇らしげに微笑むカイル殿下の姿があります。

「ルビー、皆が君の愛の言葉を待っているぞ。……まあ、君のことだ。ただの『愛しています』で終わるとは思っていないがな」

「あら、カイル殿下。私の『愛』は、口先だけの言葉よりもずっと、具体的で実利的なものですわ。……皆様、静粛に!」

 私が扇子をバサリと広げると、広間にいた各国の王族や大貴族たちが、固唾を呑んで私に注目しました。
 誰もが、悪役令嬢と呼ばれた私が、隣国の王子にどんな甘い言葉を贈るのかと期待していたのでしょう。

「本日、私はカイル殿下との婚約を記念し、我がヴァレンティーノ王国、及び特別経済特区における『新時代の税制改革案』をここに宣言いたします!」

「……ぜ、ぜいせい……かいかく……?」

 最前列でシャンパングラスを持っていた他国の公爵が、思わずグラスを落としそうになりました。
 婚約式のスピーチで「税制」という単語が出るとは、誰も予想していなかったようです。

「まず第一に、贈与税の撤廃! その代わり、贅沢品の消費税を累進的に引き上げ、富の再分配を最適化しますわ! そして第二に、『独身税』……は導入しませんが、その代わりに『非効率な恋愛に対する特別賦課金』を検討しております!」

「ルビー様、それは一体どういう意味ですの……!?」

 一人の令嬢が震える声で尋ねました。
 私は、会場の隅で所在なさげに立っている、元婚約者のレナード(現在は三等事務員)を指差しました。

「例えば、愛に溺れて公務を投げ出したり、算数もできないのに宝石を買い漁ったりする行為のことですわ。そのような『非合理な感情の暴走』によって国家に損失を与えた場合、その損失額の三倍を納税していただきます!」

「ひっ……! そ、そんなの、僕の給料じゃ一生払いきれないよ!」

 レナードが悲鳴を上げましたが、私はそれを無視して続けました。

「この改革により、我が国の税収は今後五年で十五パーセント向上。その余剰金は全て、新婚家庭への補助金と、次世代の教育……つまり、将来の納税者の育成に充当いたしますわ! これこそが、私からこの国への最大の『愛の形』です!」

 静まり返る会場。
 しかし、その沈黙を破ったのは、隣にいたカイル殿下の豪快な笑い声でした。

「ハハハ! 素晴らしい! 婚約式で全国民に節税と納税を迫るとは、流石は私のルビーだ! ……皆様、これが私の愛した女性です。この冷徹で、かつ合理的な美学に、私は一生をかけてついていく所存だ!」

 カイル殿下が私の手を取り、跪いてその甲に深い接吻を落としました。
 それを見た参列者たちは、最初は呆気に取られていましたが、やがて地鳴りのような拍手が沸き起こりました。

「……さすがは、呪いの地を黄金に変えた女だ!」

「彼女についていけば、我々の資産も増えるに違いない!」

「ルビー様、万歳! ヴァレンティーノ王国、万歳!」

 拍手喝采の中、私はカイル殿下を見下ろし、小さく耳打ちしました。

「……カイル殿下。今の演説により、我が国の支持率がさらに三パーセント上昇、及び株価指数が過去最高値を更新しましたわよ。……ご褒美に、後でたっぷりと『家族経営の会議』にお付き合いしていただきますわ」

「ああ、望むところだ。……だが、今夜だけは数字の書かれていないシーツの中で、君の心拍数を直接数えさせてくれ」

「……っ。やはり殿下には、私の論理も敵いませんわね」

 私は赤くなった顔を隠すように、カイル殿下の胸に飛び込みました。
 甘い祝杯の味。そして、確かな利益の予感。

 ルビー・フォン・ベルシュタイン。
 私の婚約式は、世界で最も「実利に満ちた」最高のボーナスステージとなったのでした。
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