27 / 28
27
しおりを挟む
「……皆様、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございますわ。この素晴らしい会場、そして皆様の豪華な装い。……これら全てを維持するために、どれほどの維持費がかかっているか、考えただけで胸が熱くなりますわね」
ヴァレンティーノ王宮の大広間。
国を挙げての婚約式、そして旧アステリア領との「合併記念パーティー」の主役として、私は壇上に立っていました。
隣には、私の腰を抱き寄せ、誇らしげに微笑むカイル殿下の姿があります。
「ルビー、皆が君の愛の言葉を待っているぞ。……まあ、君のことだ。ただの『愛しています』で終わるとは思っていないがな」
「あら、カイル殿下。私の『愛』は、口先だけの言葉よりもずっと、具体的で実利的なものですわ。……皆様、静粛に!」
私が扇子をバサリと広げると、広間にいた各国の王族や大貴族たちが、固唾を呑んで私に注目しました。
誰もが、悪役令嬢と呼ばれた私が、隣国の王子にどんな甘い言葉を贈るのかと期待していたのでしょう。
「本日、私はカイル殿下との婚約を記念し、我がヴァレンティーノ王国、及び特別経済特区における『新時代の税制改革案』をここに宣言いたします!」
「……ぜ、ぜいせい……かいかく……?」
最前列でシャンパングラスを持っていた他国の公爵が、思わずグラスを落としそうになりました。
婚約式のスピーチで「税制」という単語が出るとは、誰も予想していなかったようです。
「まず第一に、贈与税の撤廃! その代わり、贅沢品の消費税を累進的に引き上げ、富の再分配を最適化しますわ! そして第二に、『独身税』……は導入しませんが、その代わりに『非効率な恋愛に対する特別賦課金』を検討しております!」
「ルビー様、それは一体どういう意味ですの……!?」
一人の令嬢が震える声で尋ねました。
私は、会場の隅で所在なさげに立っている、元婚約者のレナード(現在は三等事務員)を指差しました。
「例えば、愛に溺れて公務を投げ出したり、算数もできないのに宝石を買い漁ったりする行為のことですわ。そのような『非合理な感情の暴走』によって国家に損失を与えた場合、その損失額の三倍を納税していただきます!」
「ひっ……! そ、そんなの、僕の給料じゃ一生払いきれないよ!」
レナードが悲鳴を上げましたが、私はそれを無視して続けました。
「この改革により、我が国の税収は今後五年で十五パーセント向上。その余剰金は全て、新婚家庭への補助金と、次世代の教育……つまり、将来の納税者の育成に充当いたしますわ! これこそが、私からこの国への最大の『愛の形』です!」
静まり返る会場。
しかし、その沈黙を破ったのは、隣にいたカイル殿下の豪快な笑い声でした。
「ハハハ! 素晴らしい! 婚約式で全国民に節税と納税を迫るとは、流石は私のルビーだ! ……皆様、これが私の愛した女性です。この冷徹で、かつ合理的な美学に、私は一生をかけてついていく所存だ!」
カイル殿下が私の手を取り、跪いてその甲に深い接吻を落としました。
それを見た参列者たちは、最初は呆気に取られていましたが、やがて地鳴りのような拍手が沸き起こりました。
「……さすがは、呪いの地を黄金に変えた女だ!」
「彼女についていけば、我々の資産も増えるに違いない!」
「ルビー様、万歳! ヴァレンティーノ王国、万歳!」
拍手喝采の中、私はカイル殿下を見下ろし、小さく耳打ちしました。
「……カイル殿下。今の演説により、我が国の支持率がさらに三パーセント上昇、及び株価指数が過去最高値を更新しましたわよ。……ご褒美に、後でたっぷりと『家族経営の会議』にお付き合いしていただきますわ」
「ああ、望むところだ。……だが、今夜だけは数字の書かれていないシーツの中で、君の心拍数を直接数えさせてくれ」
「……っ。やはり殿下には、私の論理も敵いませんわね」
私は赤くなった顔を隠すように、カイル殿下の胸に飛び込みました。
甘い祝杯の味。そして、確かな利益の予感。
ルビー・フォン・ベルシュタイン。
私の婚約式は、世界で最も「実利に満ちた」最高のボーナスステージとなったのでした。
ヴァレンティーノ王宮の大広間。
国を挙げての婚約式、そして旧アステリア領との「合併記念パーティー」の主役として、私は壇上に立っていました。
隣には、私の腰を抱き寄せ、誇らしげに微笑むカイル殿下の姿があります。
「ルビー、皆が君の愛の言葉を待っているぞ。……まあ、君のことだ。ただの『愛しています』で終わるとは思っていないがな」
「あら、カイル殿下。私の『愛』は、口先だけの言葉よりもずっと、具体的で実利的なものですわ。……皆様、静粛に!」
私が扇子をバサリと広げると、広間にいた各国の王族や大貴族たちが、固唾を呑んで私に注目しました。
誰もが、悪役令嬢と呼ばれた私が、隣国の王子にどんな甘い言葉を贈るのかと期待していたのでしょう。
「本日、私はカイル殿下との婚約を記念し、我がヴァレンティーノ王国、及び特別経済特区における『新時代の税制改革案』をここに宣言いたします!」
「……ぜ、ぜいせい……かいかく……?」
最前列でシャンパングラスを持っていた他国の公爵が、思わずグラスを落としそうになりました。
婚約式のスピーチで「税制」という単語が出るとは、誰も予想していなかったようです。
「まず第一に、贈与税の撤廃! その代わり、贅沢品の消費税を累進的に引き上げ、富の再分配を最適化しますわ! そして第二に、『独身税』……は導入しませんが、その代わりに『非効率な恋愛に対する特別賦課金』を検討しております!」
「ルビー様、それは一体どういう意味ですの……!?」
一人の令嬢が震える声で尋ねました。
私は、会場の隅で所在なさげに立っている、元婚約者のレナード(現在は三等事務員)を指差しました。
「例えば、愛に溺れて公務を投げ出したり、算数もできないのに宝石を買い漁ったりする行為のことですわ。そのような『非合理な感情の暴走』によって国家に損失を与えた場合、その損失額の三倍を納税していただきます!」
「ひっ……! そ、そんなの、僕の給料じゃ一生払いきれないよ!」
レナードが悲鳴を上げましたが、私はそれを無視して続けました。
「この改革により、我が国の税収は今後五年で十五パーセント向上。その余剰金は全て、新婚家庭への補助金と、次世代の教育……つまり、将来の納税者の育成に充当いたしますわ! これこそが、私からこの国への最大の『愛の形』です!」
静まり返る会場。
しかし、その沈黙を破ったのは、隣にいたカイル殿下の豪快な笑い声でした。
「ハハハ! 素晴らしい! 婚約式で全国民に節税と納税を迫るとは、流石は私のルビーだ! ……皆様、これが私の愛した女性です。この冷徹で、かつ合理的な美学に、私は一生をかけてついていく所存だ!」
カイル殿下が私の手を取り、跪いてその甲に深い接吻を落としました。
それを見た参列者たちは、最初は呆気に取られていましたが、やがて地鳴りのような拍手が沸き起こりました。
「……さすがは、呪いの地を黄金に変えた女だ!」
「彼女についていけば、我々の資産も増えるに違いない!」
「ルビー様、万歳! ヴァレンティーノ王国、万歳!」
拍手喝采の中、私はカイル殿下を見下ろし、小さく耳打ちしました。
「……カイル殿下。今の演説により、我が国の支持率がさらに三パーセント上昇、及び株価指数が過去最高値を更新しましたわよ。……ご褒美に、後でたっぷりと『家族経営の会議』にお付き合いしていただきますわ」
「ああ、望むところだ。……だが、今夜だけは数字の書かれていないシーツの中で、君の心拍数を直接数えさせてくれ」
「……っ。やはり殿下には、私の論理も敵いませんわね」
私は赤くなった顔を隠すように、カイル殿下の胸に飛び込みました。
甘い祝杯の味。そして、確かな利益の予感。
ルビー・フォン・ベルシュタイン。
私の婚約式は、世界で最も「実利に満ちた」最高のボーナスステージとなったのでした。
0
あなたにおすすめの小説
働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』
鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。
だからこそ転生後に誓った――
「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。
気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。
「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」
――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。
なぜか気づけば、
・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変
・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功
・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす
・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末
「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」
自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、
“やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。
一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、
実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。
「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」
働かないつもりだった貴族夫人が、
自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。
これは、
何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
あの日々に戻りたくない!自称聖女の義妹に夫と娘を奪われた妃は、死に戻り聖女の力で復讐を果たす
青の雀
恋愛
公爵令嬢スカーレット・ロッテンマイヤーには、前世の記憶がある。
幼いときに政略で結ばれたジェミニ王国の第1王子ロベルトと20歳の時に結婚した。
スカーレットには、7歳年下の義妹リリアーヌがいるが、なぜかリリアーヌは、ロッテンマイヤー家に来た時から聖女様を名乗っている。
ロッテンマイヤーは、代々異能を輩出している家柄で、元は王族
物語は、前世、夫に殺されたところから始まる。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。
夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。
辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。
側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。
※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
厄介払いされてしまいました
たくわん
恋愛
侯爵家の次女エリアーナは、美人の姉ロザリンドと比べられ続け、十八年間冷遇されてきた。
十八歳の誕生日、父から告げられたのは「辺境の老伯爵に嫁げ」という厄介払いの命令。
しかし、絶望しながらも辺境へ向かったエリアーナを待っていたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる