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「お姉様! この泉質の分析結果が出ましたわ! 美肌効果、疲労回復、そして何より『王族のストレスを洗い流す』という、とんでもなく付加価値のつきそうな成分が含まれています!」
マリアが、試験管を掲げながら泥だらけの顔を輝かせた。
彼女は今や、リリアン直伝の「化学分析」の基礎を習得し、立派な主任研究員へと進化を遂げていた。
「素晴らしいわ、マリア様。……美肌効果。これこそ、王都の欲深い……いえ、美を愛する貴婦人たちの財布をこじ開ける最強の鍵ですわね。ターゲット層は明白。まずは社交界で発言力の強い公爵夫人たちを、無料招待という名の『サンプリング調査』で囲い込みますわよ」
リリアンは、泥の上に広げた巨大な羊皮紙に、目にも止まらぬ速さで宿の設計図を書き込んでいく。
「客室は全室個室。食事は領地で採れた『魔境の恵み・猪肉のグリル』をメインに据えます。そして、ここが肝心ですわ、ギルバート。露天風呂からは、あえてあなたの『開墾風景』が見えるように配置します。鍛え上げられた筋肉が働く姿を眺めながら入る温泉……。これは間違いなく、独身令嬢たちの宿泊リピート率を一五〇パーセントは底上げしますわ!」
「……お嬢様。俺、ついに見世物にされるんですか? 隣国の王子としての尊厳が、温泉の湯気と共に消えていく気がするのですが」
ギルバートが、上半身裸で丸太を運びながら遠い目をした。
だが、リリアンはその鍛え抜かれた大胸筋をチラリとも見ずに、冷徹な口調で言い放つ。
「尊厳で、領地の借金は返せませんわ。あなたの筋肉は、今やこの領地最大の『動く観光資源』なのです。自覚を持ちなさい、ギルバート」
「リ、リリアン……! いい加減にしろ! 一国の王子、それも同盟国のギルバート殿下を裸で働かせるなど、国際問題だぞ! 私が、私が王の名において、この暴挙を差し止めてくれる!」
放置されていたセドリックが、ついに怒髪天を突いて割り込んできた。
彼は、リリアンが描いている設計図を足で踏みつけようとしたが、その直前。
「殿下。その足を一ミリでも動かしたら、滞在費を三倍に跳ね上げますわよ」
リリアンの氷のような視線が、セドリックの足を射抜いた。
セドリックは、まるで蛇に睨まれた蛙のように硬直し、上げた足をそのままの形で止めた。
「……滞、滞在費だと? 私は王子だぞ? なぜ自分の領地(正確には父王の領地だが)を視察に来て、金を払わねばならんのだ!」
「当然ですわ。あなたの滞在によって、私の貴重なリサーチ時間が奪われ、ギルバートの労働能率が下がり、さらには馬車の轍で道が荒れた。これらの損失を補填(補填)するのは、原因を作った者の義務です。……マリア様、殿下への請求明細書を」
「はい、お姉様! 『王子様特別・お邪魔虫パック』として、一泊につき金貨十枚、さらに呼吸一回につき銀貨一目、計上しておりますわ!」
マリアが、淀みのない手つきで請求書を突き出す。
セドリックは、その桁違いの数字に目を丸くした。
「こ、金貨十枚!? 王都の最高級ホテルでもそんなにせんぞ!」
「ここは辺境ですもの、輸送コストがかかるのですわ。……お嫌でしたら、今すぐお帰りになって構いません。あ、帰りの燃料代……いえ、馬の餌代もきっちり請求させていただきますわね」
リリアンは、セドリックの抗議を羽虫を払うかのように無視し、再び設計図に没頭した。
「さて、温泉宿の名前ですが……『アシュクロフト・ロイヤル・スパ・リゾート』。これで決まりですわ。セドリック殿下、あなたには『広告塔』になっていただきます。殿下が絶賛した温泉となれば、箔がつきますもの」
「ふん! 私がそんな、泥だらけの女が作った宿など認めるものか! マリア、君からも言ってやれ! こんな非人道的な場所に、君はいちゃいけないんだ!」
セドリックがマリアの肩を掴もうとする。
だが、マリアはその手を素早く振り払い、冷たい笑みを浮かべた。
「殿下。私は今、この温泉宿の『収支シミュレーション』に忙しいのです。殿下の相手をしている暇があったら、一円でも安く建築資材を仕入れるルートを考えたい……。ああっ、お姉様! 見てください! この『混浴』というシステム! これを導入すれば、更衣室の建設コストを二分の一に削減できますわ!」
「マリア様、それはさすがに風紀の問題が発生しますわ。……ですが、貸切家族風呂という名目にすれば、客単価を二割上乗せできます。素晴らしい着眼点ですわね」
「ありがとうございます、お姉様!」
二人の令嬢は、セドリックを背景の石ころか何かのように扱いながら、さらなる「集金計画」に熱を上げていく。
セドリックは、自分の愛した可憐なマリアが、数字の鬼へと成り果てた姿を見て、膝から崩れ落ちた。
「……終わった。私の知っている世界が、粉々に砕けていく……」
「殿下、諦めが早いですね。俺なんか、もう『重機』としてのアイデンティティを確立しつつありますよ」
ギルバートが、肩に丸太を担ぎ直しながら、セドリックに同情的な視線を送った。
「ギルバート! お喋り(おしゃべり)をしている暇があるなら、その丸太をあと十本! 夕食の猪肉を増量して差し上げますから!」
「了解! お嬢様、俺の筋肉をフル稼働させてきます!」
ギルバートは、もはや自分が王子であることを忘れたかのような軽やかなステップで、森の中へと消えていった。
「ふふ、ふふふ……。豪華客船よりも高く、王宮よりも豪華な温泉宿。……見せてあげますわ、王都の皆様。悪役令嬢が作る、地獄の……いえ、至高の楽園を!」
立ち昇る湯気の中で、リリアンの笑い声が領地に響き渡る。
それは、婚約破棄された哀れな令嬢の叫びではなく、新たな時代の覇者を目指す、強欲な起業家の産声であった。
マリアが、試験管を掲げながら泥だらけの顔を輝かせた。
彼女は今や、リリアン直伝の「化学分析」の基礎を習得し、立派な主任研究員へと進化を遂げていた。
「素晴らしいわ、マリア様。……美肌効果。これこそ、王都の欲深い……いえ、美を愛する貴婦人たちの財布をこじ開ける最強の鍵ですわね。ターゲット層は明白。まずは社交界で発言力の強い公爵夫人たちを、無料招待という名の『サンプリング調査』で囲い込みますわよ」
リリアンは、泥の上に広げた巨大な羊皮紙に、目にも止まらぬ速さで宿の設計図を書き込んでいく。
「客室は全室個室。食事は領地で採れた『魔境の恵み・猪肉のグリル』をメインに据えます。そして、ここが肝心ですわ、ギルバート。露天風呂からは、あえてあなたの『開墾風景』が見えるように配置します。鍛え上げられた筋肉が働く姿を眺めながら入る温泉……。これは間違いなく、独身令嬢たちの宿泊リピート率を一五〇パーセントは底上げしますわ!」
「……お嬢様。俺、ついに見世物にされるんですか? 隣国の王子としての尊厳が、温泉の湯気と共に消えていく気がするのですが」
ギルバートが、上半身裸で丸太を運びながら遠い目をした。
だが、リリアンはその鍛え抜かれた大胸筋をチラリとも見ずに、冷徹な口調で言い放つ。
「尊厳で、領地の借金は返せませんわ。あなたの筋肉は、今やこの領地最大の『動く観光資源』なのです。自覚を持ちなさい、ギルバート」
「リ、リリアン……! いい加減にしろ! 一国の王子、それも同盟国のギルバート殿下を裸で働かせるなど、国際問題だぞ! 私が、私が王の名において、この暴挙を差し止めてくれる!」
放置されていたセドリックが、ついに怒髪天を突いて割り込んできた。
彼は、リリアンが描いている設計図を足で踏みつけようとしたが、その直前。
「殿下。その足を一ミリでも動かしたら、滞在費を三倍に跳ね上げますわよ」
リリアンの氷のような視線が、セドリックの足を射抜いた。
セドリックは、まるで蛇に睨まれた蛙のように硬直し、上げた足をそのままの形で止めた。
「……滞、滞在費だと? 私は王子だぞ? なぜ自分の領地(正確には父王の領地だが)を視察に来て、金を払わねばならんのだ!」
「当然ですわ。あなたの滞在によって、私の貴重なリサーチ時間が奪われ、ギルバートの労働能率が下がり、さらには馬車の轍で道が荒れた。これらの損失を補填(補填)するのは、原因を作った者の義務です。……マリア様、殿下への請求明細書を」
「はい、お姉様! 『王子様特別・お邪魔虫パック』として、一泊につき金貨十枚、さらに呼吸一回につき銀貨一目、計上しておりますわ!」
マリアが、淀みのない手つきで請求書を突き出す。
セドリックは、その桁違いの数字に目を丸くした。
「こ、金貨十枚!? 王都の最高級ホテルでもそんなにせんぞ!」
「ここは辺境ですもの、輸送コストがかかるのですわ。……お嫌でしたら、今すぐお帰りになって構いません。あ、帰りの燃料代……いえ、馬の餌代もきっちり請求させていただきますわね」
リリアンは、セドリックの抗議を羽虫を払うかのように無視し、再び設計図に没頭した。
「さて、温泉宿の名前ですが……『アシュクロフト・ロイヤル・スパ・リゾート』。これで決まりですわ。セドリック殿下、あなたには『広告塔』になっていただきます。殿下が絶賛した温泉となれば、箔がつきますもの」
「ふん! 私がそんな、泥だらけの女が作った宿など認めるものか! マリア、君からも言ってやれ! こんな非人道的な場所に、君はいちゃいけないんだ!」
セドリックがマリアの肩を掴もうとする。
だが、マリアはその手を素早く振り払い、冷たい笑みを浮かべた。
「殿下。私は今、この温泉宿の『収支シミュレーション』に忙しいのです。殿下の相手をしている暇があったら、一円でも安く建築資材を仕入れるルートを考えたい……。ああっ、お姉様! 見てください! この『混浴』というシステム! これを導入すれば、更衣室の建設コストを二分の一に削減できますわ!」
「マリア様、それはさすがに風紀の問題が発生しますわ。……ですが、貸切家族風呂という名目にすれば、客単価を二割上乗せできます。素晴らしい着眼点ですわね」
「ありがとうございます、お姉様!」
二人の令嬢は、セドリックを背景の石ころか何かのように扱いながら、さらなる「集金計画」に熱を上げていく。
セドリックは、自分の愛した可憐なマリアが、数字の鬼へと成り果てた姿を見て、膝から崩れ落ちた。
「……終わった。私の知っている世界が、粉々に砕けていく……」
「殿下、諦めが早いですね。俺なんか、もう『重機』としてのアイデンティティを確立しつつありますよ」
ギルバートが、肩に丸太を担ぎ直しながら、セドリックに同情的な視線を送った。
「ギルバート! お喋り(おしゃべり)をしている暇があるなら、その丸太をあと十本! 夕食の猪肉を増量して差し上げますから!」
「了解! お嬢様、俺の筋肉をフル稼働させてきます!」
ギルバートは、もはや自分が王子であることを忘れたかのような軽やかなステップで、森の中へと消えていった。
「ふふ、ふふふ……。豪華客船よりも高く、王宮よりも豪華な温泉宿。……見せてあげますわ、王都の皆様。悪役令嬢が作る、地獄の……いえ、至高の楽園を!」
立ち昇る湯気の中で、リリアンの笑い声が領地に響き渡る。
それは、婚約破棄された哀れな令嬢の叫びではなく、新たな時代の覇者を目指す、強欲な起業家の産声であった。
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