温もりカフェで夢を見る

あや

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24.第二騎士団勢とはじめまして。

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 その人は突然やってきた。

「は…初めまして。第二騎士団所属、調査部長のフーリア・コーネルです。」
「同じく第二騎士団所属、副団長ランド・バートンだ。」

 お昼過ぎにロルフさんが初めましての人を連れて店にやってきた。

 一人はロルフさんより少し小さいくらいで、がっしりとした男性だ。年はグリージオさんぐらいだろうか?白髪混じりの茶髪を七三に撫でつけている。

もう一人は、少し小さめ、と言っても世間的には平均ぐらいだと思われる身長で、暗い青色の髪を束ねた細くて色白の青年だった。二人に隠れて小さな声で喋っている。

「初めまして。ここのオーナーをしているエレノア・ウィルソンです。こちらこそ調査終了までよろしくお願いいたします。」

 ひとまず、この前アマンダさんがしていたように丁寧に礼をしてみる。副団長さんはほお、と声を出した。顔を上げると横に一緒にいてくれているアマンダさんがウィンクしてくれた。大丈夫らしい。
 同じようにアマンダさんも自己紹介をした。

 対して、調査部長さんは時折ふふっと笑いながらキョロキョロとしている。え、なんだろう。ロルフさんとは違った意味の怖さがある。

「えっと…お食事ですか?カフェですか?今の時間帯ならどちらでも大丈夫ですけど。」
「では食事でお願いしたい。ランド殿、大丈夫か。」
「問題ない。休憩なしで歩き回っていたからな。少し休憩だ。」
「私…私は飲み物で…いや、やっぱり食事もいただきます。」

 食事のためにテーブルに移動する際も、ずっと調査部長さんはキョロキョロしていた。
 今はテーブルについて窓枠にあるレヒトがよくいる場所のランプを凝視している。

『なんか、居心地悪いや。』

 レヒトはそうやって小さく文句を言って別の場所に飛んでいってしまった。
 まあ、無自覚とはいえ、ずっと見られるのは居心地悪くなると思ったのだろう。シャジャラの方にいってしまった。

 メニュー表を小脇にかかえ、水の入ったトレーを持っていく。

 ロルフさんと副隊長さんは談話しているのに対し、調査部長さんはまたキョロキョロしている。
 もしかして、こういう店に来るのは初めてなのだろうか?

 調査部長さんは少し少なめのAランチ、後の二人はボリュームのあるBランチを選んだ。

 アマンダさんと二人で準備していると、大剣の付喪神さんが目の前を通り過ぎようとした。目が合うと、一度ペコリとお辞儀された。

『喋ることも可能ですよ。いらっしゃいませ、大剣の付喪神さん。』
『まあ!ほんとに見えるし喋れるのね!』
『お客様もアマンダさんもいるので少しだけですが。』
『それでも嬉しいわ。私はエペナ!』
『エペナ、よろしく、ゆっくりしていってね。』

 初めて大剣の付喪神さんとご挨拶ができてちょっと嬉しくなってそのままニコニコと準備を始める。
 アマンダさんいに教えてもらったローストビーフが上出来だったのでそれとコーンスープ。サラダはボリュームがあるように蒸し鶏とビーンズとあえてドレッシングをかける。今日はクロワッサンを添えた。

 それを席に持っていくと調査部長さん以外はスッと受け取って食事を始めたが、調査部長さんは食べ始めずに皿やプレートをペタペタと触ったりいろんな角度から見たりしていた。
 食べないのだろうか?

「ああ、これは放っといてくれ。さっき魔道具店にいった時もこんなふうに見たり叩いたりしてたんだ。魔道具を壊さないかヒヤヒヤした。」
「あれは確かにヒヤヒヤしましたね。魔道具がご入用じゃなかったんですか?」
「失礼な。ちゃんとそこら辺は弁えてますよ。壊したら弁償しますし。」
「いや、そうじゃないだろ。」

 とうとう副隊長さんが頭を抱えた。

「うーん、普通のお皿だなぁ。そして普通のプレート…。」

 調査部長さんは我かんせずでチェックした後、スープを一口口に含んだ。

「んー、美味しいです。」

 にっこりと味わうと今度は黙々と食べ始めた。

 残りの三人で顔を合わせてしまったが、テーブルにとどまるのもおかしいかなと思ってカウンターに下がろうとした。

  

 
「で、エレノアさん。騎士団のランチ用に使っている鍋と食器。どこで手に入れたの?」 

 

 
 !?

 動こうとした時不意に声をかけたれてびっくりした。
 心臓が跳ねて不自然に加速していく。

 調査部長さんはさも自然な様子で、綺麗な食べ方をしながらこちらに視線を注いでいる。
 ただ、その目が猫のようにスッと細まっていた。

「えっと、あの赤い鍋ですか?」
「そうあれ。後、銀食器。」
「どこですかね…すみません。この店を継いだ頃にはここにありました。きっと祖母のコレクションなんです。」
「祖母?エレノアさんのおばあさんはどちらに?」
「もう何年も前に亡くなっております。」
「そうなんだ。教えてくれてありがとう。」

 曖昧に笑うと、ごゆっくり、と声をかけてその場を離れる。

 心臓が鳴り止まないまま片付けをしていると、アマンダさんが覗き込んできた。

「どうしたの?」
「いや、ちょっと緊張です…」
「大丈夫ならいいんだけど、まぁ緊張するわよね。」

 そう言って二人で片付けをした。いつでも出せるように食後のコーヒーもいつでも準備できるように配置しておく。
 その合間にもチラチラとこちらを伺う視線に、少し居心地の悪さを感じた。

 片付けも落ち着いた頃、レヒトがそっと肩に乗ってきた。

『どうしたの?』
『あいつ、探知してる。』
『探知?』
『そう。魔法。』

 そう言って指を指す先には先程の調査部長がいる。不意にこちらを向いたのでバッと視線を逸らす。不自然だっただろうか。

『別に悪いことをしているわけじゃない。胸を張って。』
『うん…』

 そうはいうものの、突然できるようにはならないのできっとぎこちなさは出ているだろう。

 というものの、ここには魔法の探知で引っ掛かるようなものは何もないはずだ。

 
 平常心。
 平常心。
 あちらを見ていたのはコーヒーを出すタイミングを確認していただけ。

 そう自分に言い聞かせた。

 

 

「この前から始まったランチパックも美味しいですが、やはり出来立てを食べると美味しいですな。また寄らせてもらいます。」
「お口にあったのならよかったです。是非またいらっしゃってください。」

 そう朗らかに店の前で挨拶をする副団長さんの後ろで、こちらをじっと見ている調査部長さん。それを不思議な様子で見ているロルフさん。

「…私もまた、きます。」

 何故か嬉しそうに笑っていらっしゃるが、どうして笑っているかはわからなかった。そしてロルフさんはその様子に若干引いているようにも見えた。

「この人はいつもこんな感じなので、気にしないでもらえると助かります。」
「え、あ、はい。」

 居た堪れなくなったのか、副隊長さんが声をかけてくれた。どう返すのが正解かわからなくてひとまず肯定をしてしまったが、これは逆に肯定しない方が良かったのかもしれない。

「また、色々見せてください。ふふ。」
「い、色々…?」
「フーリアそろそろやめろ馬鹿。」

 とうとう拳骨が落ちた。

 そう言って皆さん帰っていった。

 帰る直前、ロルフさんが

「こないだから、なんかこの店の鍋をひどく興味深く見てたんだ。なんか私もよくわからないが、悪い奴ではないんだ。気を悪くしないでくれ。」

 こっそりと耳打ちすると、さっと先に行ってしまった二人について行ったが、後から考えて顔の近すぎた距離に照れてしまったことは自分と近くにいたリヒトとエペナだけの秘密だ。

 エペナはなんだか私とロルフさんを見比べて、あらあらあら???なんて言いながら笑顔でロルフさんを追いかけて行った。

 リヒトがため息をついている。
 私もちょっと疲れた。
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